まさかの一年前の記事を挙げ損ねてたのでついでだが挙げる。
こちらは2020年の丁度今頃の感想なのである。
大和文華館のリニューアルオープンから既に十年が経っていると知ってびっくりした。
そうか、そうか…
それで今回の展覧会は恒例の花をモチーフにしたもの。
梅と桜の美術。
梅と桜はどちらも日本人の美意識に深く生きる花。
どちらも尊い。
岡本綺堂「青蛙堂鬼談」の中の「
清水の井」に梅殿と桜殿という二人の美人が現れる。どらちも本名も正体も不明で、都から逃れてきてその地の領主のもとにかくまわれ、三人で楽しい暮らしを過ごすのだが、やがて悲劇が起こる。
この二人の美人はそれぞれの美しさから「梅殿」「桜殿」と呼ばれるのだが、それはどちらも素晴らしいからこその命名。
なお一文だけここに挙げる
(領主は)「梅と桜とを我がものにして、秘密の快楽にふけっていたのであろう」
どちらも手放せない美しい花なのだ。

大和文華館所蔵の梅と桜を描いた絵画と工芸品が集まるほかに、春日大社からもよいものが出てきていた。
このチラシの上部の絵がそれ。

白い桜は漆喰風に盛り上がり、金の雲も紺の川も緑の土坡もイキイキと描かれている。
赤く小さな躑躅もそこかしこに咲く。
左は八重山吹が咲き乱れる。春の勢いのある屏風。
チラシ下は雁金屋兄弟がこしらえたものを後に原羊遊斎が模造したもの。とても好き。
今回は蓋裏の文字の写真も出ていた。深省名義で何かかいてあり、更に羊遊斎が写したことも刻まれていた。
松梅佳処図 蘭坡景苣・天隠竜沢賛 室町時代の南禅寺界隈の二人。滝もあり、なかなかダイナミックな様子。
室町時代の画僧の仕事と言うものはなかなかよいなあ。そう思うようになったのも今世紀からか。
あとは建長寺の祥啓の墨梅図もある。
花鳥図屏風 雪村 これまたよろしい。ぐりーっと水が力強く流れ込む。その様子を鶯が眺める。白梅も椿も咲き、何故か秋の鳥の雁も来る。鶺鴒、鴛鴦もいてみんなで水の流れを追う。
左をみると、白鷺に白蓮、柳に燕、風が強い。右の水、左の風、いずれも勢いがある。
四君子図 山本梅逸 ああ久しぶり。調べたら
8年ぶりかも。

全て白さが際立つ。白梅、竹は線描の美。菊は色調の変化がいい。蘭は茎がたおやか。
鉄斎の梅の絵も二点。わたしは鉄斎がニガテだが梅の絵は別で、以前に扇面に描かれた梅の絵を見て以来、そうそうニガテではなくなった。
ここにあるのは1911年の二枚。
寒月照梅華図 満月に届くような真っ直ぐな梅の枝
梅華満開夜図 じいちゃんと孫らしき二人が梅見中。ちょっとほのぼの。
梅雀図六角筥 平福百穂 原画を百穂が描いた愛らしいボックス。
こちらは
三年ぶりかな。

最初にこのブログに登場したのは2008年頃かな。
彩漆絵梅文盆、梅秋草文盆 漆絵のお盆二枚。シックだな。
織部梅文皿 五点とも絵柄が違うが可愛い。白い織部で灰梅色と緑がとてもしっくりしている。
色絵梅文大壺 有田の名品。これですがな。

何度もここにご登場いただいておるのです。
琉球紅型衣裳 三点 花柄が可愛い。季節の決まりはない。

さて桜。
源氏図屏風、稲富流鉄砲伝書、岡田為恭の春秋鷹狩茸狩図の春の茸狩り図もある。
このあたりもレギュラー。何度見ても楽しい。
親鸞聖人剃髪図 田能村竹田 1833 ぼんやりした春の風情がある縦型の絵。異時同時図というより、その季節のその日のことだけを切り取った絵。
春の別れ。俗世から仏縁へ。
花卉図扇面 江戸前期 朱色と金雲と柳に桜、足元にはタンポポ。和やかな世界。
蒔絵桜桐文鏡巣 室町 チラシ。幾何学文に桜と桐。なかなかかっこいい。これが着物の柄になっても素敵だ。
枝垂桜の嵯峨棗が二つ・可愛いなあ。こういうのは好きだ。
古九谷様式の赤い桜が描かれた徳利もある。
桜へのときめきがそこにある。
そしてこちら

描かれた桜のうち、大和文華館の誉れ・寝覚物語絵巻の桜は金色に輝く。
花弁が舞い散るときもきっと金色の花びらが辺りに広がり、鏤められた金砂子のようになるだろう。
東山名所図屏風 個人蔵のもので初見。よい機会に巡り合えた。
若衆がうろうろ。江戸前期だろうが、ちょんまげもいる。もう茶筅髷はいない時代。
音羽の滝でしゃべる二人。世間話しながら滝に打たれるのもいい。
ツバキも咲いているが、それだとまだ寒いだろう。
ずっとその下には田畑と鶴。京に田舎ありというより、市街地を離れるとこうして田もあり九条ネギも植えられているだろう。
町中に戻ると、茶店や髪結いもある。人々の表情は穏やか。餅つきをする人もいる。川では布洗いもする。芝居小屋をのぞくともう野郎歌舞伎だった。そんな時代の東山。
南都八景図帖が二つ。
佐保川の桜、猿沢の池の月、春日野の鹿などなど。
どちらの絵もそれぞれの良さがある。
佳い心持で庭園を行く。一番の梅園はまだ花開いていなかったが、丘の梅の小径には梅がみられた。
他に白椿、そして橘の実がなっていた。
次回は梅が満開の頃か。それから三春の滝桜も楽しみだ。