美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **なお現在コメント欄を閉鎖中です。

岩佐又兵衛展 @福井県立美術館

昨日で終了したが、福井県立美術館の特別展「岩佐又兵衛」展は素晴らしいものだった。
わたしは土曜に出かけ、耽溺した。
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又兵衛の大きな展覧会と言えば2004年の秋に千葉市美術館で「伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛 人は彼を「うきよ又兵衛」と呼んだ-」展を見ている。
あの当時はまだブログもしていなかったので自分のノートに感想を書き連ねただけだった。
それからMOA美術館が近年になり所蔵する三大絵巻物の公開をした。
三の丸でも昨夏には「小栗」をかなり見せてくれた。
また2006年には映画「山中常盤」を見た感想も挙げている。

自画像か弟子の手に依るのか又兵衛の画像がある。おでこがめだつ。
そして岩佐家譜(馬淵亨安)をみる。わかりやすい書体である。
二歳で(数え)一家離散の憂き目に遭う又兵衛。
だからこそ貴種流離、母子の別れの物語に力が入るのだろう。

さてわたしがこの日を選んだ理由は旧金谷屏風をみるためでしたわ。
行方不明の2点をのぞいてのずらり10点。10/12ですな。全図同時はこの三日間のみ。
虎に始まり龍で締めるこの屏風、間には10の人間模様が描かれている。
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虎図(旧金谷屏風)東京国立博物館
源氏物語 野々宮図(旧金谷屏風)出光美術館
龐居士図(旧金谷屏風)福井県立美術館
老子出関図(旧金谷屏風)東京国立博物館
伊勢物語 鳥の子図(旧金谷屏風)東京国立博物館
伊勢物語 梓弓図(旧金谷屏風)文化庁
弄玉仙図(旧金谷屏風)摘水軒記念文化振興財団
羅浮仙図(旧金谷屏風)
官女観菊図(旧金谷屏風)山種美術館
雲龍図(旧金谷屏風)東京国立博物館

中でも野々宮図、官女観菊図などは以前から親しく眺めていたが、この並び・このくくりで見るとまた全く違う感興が呼び起こされてきた。
官女観菊図は源氏物語の六条御息所母娘の伊勢行きのワンシーンだったそうで、そうか対になっていたのかと初めて知った。
老子を乗せる牛の踏ん張り、伊勢絵の男女の情念、仙人たちの精神の自由さ。
そして個人的にスゴくウケのは虎。竹を巻いてにゃーす!の虎もいいが、実はその竹の根元にご注目。笑うてますな、この竹。
「一笑図」はわんこだが、箎という字もあるしね。それにしても外輪の立ち方が多いな。
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行方不明の二点「花宴図」と「唐人抓耳図」のついた再現もの・完全版・金谷屏風が展示されているのもいい。いちゃいちゃする男女の様子は又兵衛の他の作品でもよく見受けられる様子だし、高士が侍童に耳かきしてもろてるのも面白かった。
人間を描くことが第一義だというのがよくよく知れてくる。

いよいよ豪華絢爛な絵巻物の世界なのだが、そこへ行く前にわたしは「へうげもの」の原画をみた。
実はこのマンガを全く読んでいない。読むタイミングを逸してしまって無縁のまま。
上田宗箇の展覧会の時にも紹介されていたが、それでも読みそこなってきた。
今回は又兵衛と宗達の絵の話が紹介されていて、それで初めてじっくりと見た。

織部から群鶴などを絶賛される宗達、墨絵で軽妙洒脱な人物を描く又兵衛。
先に宗達が衝撃を受け、やがて蓮に鷺の墨絵が生まれたのを見て今度は又兵衛が打ちのめされる。
・・・ああ、やはり今からでも読むべきやなあ。
そしてこの紹介されている一連の流れの中で、やはり又兵衛は人間を描くことにしか関心が向かない、というのも伝わってくる。

ただ、その人の得意分野と見做されているものからちょっと離れて、違うたぐいの絵を描いた時、存外魅力的なものが生まれる、というのはよくあることだと思う。
たとえば上村松園さんは気高い婦人像を本分にしているが、実は崩れたような女がとても良かったりするし、松篁さんも花鳥画でなく、万葉人を描いた絵が非常に魅力的だったりする。(万葉の春、「額田女王」挿絵)
そんなことを思いながら原画を見ていた。

さて絵巻である。ただし全面表示ということが不可能なのは仕方ない。
ここにある、ということ自体に感謝しよう。

堀江物語絵巻(残欠本)1巻 京都国立博物館
以前に見た「堀江物語」の感想はこちら
物語の概要もかなり詳しく記している。

出ているのはラスト近く、養父から与えられた兵を率いて仇の国司の館を急襲する。
彼の妻子を殺す岩瀬太郎少年。絵は国司の妻を斬首するところが出ていた。
頸椎がのぞき、赤い肉が見える。室内には上流らしく琴や琵琶などもあり、金地の襖には桔梗や朝顔の絵がある。

更に都へ出て国司本人を左肩から腹にかけて一撃で斬り下げる。
憤りと怨恨からの容赦ない殺害である。
そばにいた女は恐怖に駆られ、慌てて逃げる。
花頭窓には金の瓶や本が積んである。

御所への奏上。家来たちは更に外で待つが、屋根の装飾か、獅子がアタマに箱を乗せている。
次のシーンでは帝から関八州を与えられる。外の家来たちは喜んでいるが、官吏でもある公家たちは皆一様に「凄いねー」「すごいね」といった顔つきである。

祝宴の支度。オス・メスきちんと並べた雁が14羽、大きなのもあるし、雉も8羽。みんな忙しくも嬉しそう。
ただ一人太郎だけは上畳に座りながら物思いにふけっている。
やがて元凶である祖父の原を連れて来いと家来に申し付ける。原がおびえた様子で出てきたところまでが展示。

小栗判官絵巻 岩佐又兵衛 第11巻(15巻のうち) 宮内庁三の丸尚蔵館
展示は地獄から蘇り(黄泉帰りだ、本当に)、餓鬼阿弥として街道を土車でゆくシーン。
小田原から箱根を越え、三島大社を行き、富士の裾野をこえる。
人々の同情と好奇などの眼に晒されながら行く。
見守る人々の中には猿回しらしき人もいるし、犬と一緒にいる人もいる。
物語の概要などについては去年三の丸で見たときの感想に詳しく記している。こちら

山中常盤物語絵巻 第4巻(12巻のうち)MOA美術館
わたしはMOAの展示に行き損ねた。しもたことをした。ただ、2006年に羽田監督の映画を見ている。
映画「山中常盤」の感想はこちら
今回は常盤主従が六人の盗賊に殺されるシーンが出ていた。クリックしてください。
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とにかくこの6人の盗賊の描写が憎い。いかにも憎そげ。石で刀を研ぐ男、水色地に撫子柄の着物を着るのもいれば、豹や虎の毛皮を腰に巻くのもいる。
宿で寝込んでいる常盤主従を急襲。戸を蹴破り二人の女から豪華な小袖を引き剥ぐ。
そして呪詛する常盤の声を聴き、取って返してその胸を貫き通し、侍女もバッサリ斬り殺す残酷な連中。
この一連の無惨な描写は将に酸鼻としかいいようがない。

ただ、もるさんがツイッター上で教えてくれたように、女二人の下ばきの布質の違いにわたしも注目した。
侍女は多分木綿、常盤は絹らしい。胡粉がかかっていて、その表現の違いがさすがに細かい。しかも主は室内、従は下で殺される。

物音に気づき飛んできた宿の主人がこの凄惨な殺人現場を目の当たりにして仰天する。
そこまでが出ていた。

この「山中常盤」と「堀江物語」は共に遺児による復讐譚なのだが、とにかく殺し場が凄い。前者は高貴な女人が着物を剥がされ奪われ、無惨な死を迎える。被虐と嗜虐の鬩ぎあいを目の当たりにすることで、いよいよこの絵巻へのときめきが増大する。

上瑠璃物語絵巻 岩佐又兵衛 第4巻(12巻のうち) MOA美術館
(表記はその時々の展覧会による)
MOAで見た「浄瑠璃物語絵巻」の感想はこちら
詞書の面白さにも心惹かれた。

ここでは御曹司が女房に導かれ、姫の閨へ向かう様子が出ていた。
まず、あまりに素晴らしく綺羅を飾る室内に呆然としながら見惚れて歩く御曹司。
姫の眠る様子を見て、にんまり「こんばんは」と言いそうな顔つき。
口説く、ただただ口説く。姫の様子が少しずつ変化する。
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細部に渡り丁寧を通り越した詳細な様子を美麗に描いた絵巻。とても好きだ。

いいキモチで次の展示を見ると、おやおや、大和文華館からあれが来ている。
稲富流鉄砲伝書 2帖(21帖のうち) 大和文華館  「綺麗に拵えられた」と見ているものが何故ここに?と思ったが、解説を読んで反省した。
この文章を書いた人の手が絵巻の詞書のそれと同じではないかと言うことだった。
これまで漫然と見ていたことを咎められた気がした。
なんということだ。やはりそこにある、という存在の意味をきちんと把握していなくてはならん。
これまで勿体ないことをしてきた。

岩松図屏風 岩佐派(推定) 6曲1双  工房のものなのかどうかしらないが、松が金地に浸食されていた。

伊勢物語 梓弓図(旧樽屋屏風)  金谷屏風のそれとはまた違う構図。女の姿もでていることで、両者の行き違いがよくわかる。
男の身勝手さに泣かされるのは女なのだ。そして悲劇が訪れる。その予測がつくような構図。

傘張り・虚無僧図(旧樽屋屏風)1幅 根津美術館   職人尽図の一種だとみなしていいのだろう。それにしてもまだ普化宗の虚無僧スタイルが完全には成立していない頃なので、笠もええ加減な形で、どちらかと言えば遊び人にしか見えない。
この様子を見て思い出すのが中上健次の路地の若者たち。
「歌舞音曲にうつつをぬかし、女を腰で落とし」と書かれた若者たちが遊びで虚無僧の様子をする。
のぞいた口元を見ながらやはり彼らも、と思った。とはいえ幼い兄弟が布施をしようとかけてくる。

本性房振力図 1幅 東京国立博物館   太平記から。大岩を落とすあれ。人々の表情がいいなあ。

このほかにも物語・故事からの絵が多い。
平家物語 通盛小宰相図  作中にはこのシーンはないが、ありえそうな雰囲気がある。
その意味でも「浮世絵」なのだと思う。

和漢故事説話図 岩佐又兵衛 12幅 福井県立美術館 半期6幅づつ  これは面白かった。
伊勢、源氏、平家などから恣意にシーンを選んで描いたのか、楽しく一枚一枚を見た。
浮舟、夕霧、佛御前の登場、怪異出現…

特定人物を描いた絵もよかった。それぞれ違った描きぶり。
維摩図、月見西行図 、柿本人麿・紀貫之図、三十六歌仙…
西行は自身の姿の様だとも言われている。妻子を置いて旅立つ又兵衛。

洛中洛外図屏風(舟木本)が東博から来ていた。大変うれしい。
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わたしはこの大仏殿にいる扉傍の青年が好きなのだった。

じっくり見てゆくと様々な発見があり、驚きもある。
坊さんと尼さんの密会などを描くところが又兵衛らしいし。負ぶわれた幼女が観客を見つめているのを初めて知った。
見れてよかった。
家にある舟木本の模本をまた愛でよう。

花見遊楽図屏風 4曲1隻  チラシの人々。赤裸々な動き・感情の発露、にぎやかでエネルギッシュな様子。
いいなあ。とてもいい。当時流行最先端の三味線を持つ人も少なくない。盲人だけでなく男も女も弾いている。
ちょっと数えても6人ほどが三味線を持っていた。
あちこちで宴会、とても楽しそう。そして左端では男同士がひっそりと仲良くしている。
こういうのを見つけ出すのがとても楽しい。

北野社頭遊楽図屏風 狩野孝信筆 6曲1隻  参考になったのでは、という作品。女たちの綺麗さに惹かれた。
特に双六をする眉を落とした女とおかっぱの女。幔幕を張り巡らせた中では男たちが調理中。
瓜実顔。そう、又兵衛キャラとは輪郭が違う。

美人風俗図屏風 岩佐派 2曲1隻 福井・西応寺 剥落が激しいからか、静謐なくせに妖艶だからか、シギリヤ・レディを想った。
完全なる横向きの女が特に好ましかった。
最後にこうした異様に艶めかしい女たちに会えてよかった。

たいへん見事な展覧会だった。
この充実ぶりには圧倒された。
素晴らしい。
今年のベストの上位に推されると思う。

多くの方々がツイッターでわたしに「行け行け行きなはれ」とすすめてくれたことに感謝する。

なお、ツイッターでお世話になっているConradさんのレポがまた見事なのでぜひご一読を。
こちら
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科學で樂しむ怪異考 妖怪古生物展

大阪大学総合学術博物館というところがある。
ご存知の方は「おお♪」となるが、知らない方は「あるんだ」と薄眼を開けるだけだろう。
無料の博物館である。
これまで開催された企画展はいずれも面白いものばかりで、これだけの内容で無料なのかと驚くことも少なくなかった。
また常設展のレベルの高さたるや「さすが懐徳堂の血脈」に始まり賛辞が次々浮かんでくる。そして「やっぱり手塚治虫の母校やなあ」とわたしなどは感慨にふけるのだ。
その「手塚と阪大」の関わりをクローズアップした展覧会が五年前にここで開催されている。当時の感想はこちら

今は夏季特集展覧会「科學で樂しむ怪異考 妖怪古生物展」が開催されていた。
まずこのチラシのロゴを見ていただきたい。
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オドロオドロな書体である。しかもご丁寧に旧漢字。それだけで古い紙の匂いがするようではないか。
そしてその文字からもモノノケハイがたちこめる。
とはいえここはさすがの大阪大学。
単なるオバケ・妖怪展ではない。
チラシの一つ目爺とダブルイメージにある骨、これが実はこの展示の中で重要な位置を占めているのだった。

サイトにある概要を以下に写す。
「この展覧会は、古典や伝承に登場する神や妖怪といった非日常的な存在と「古生物学」という学問を結びつけ、空想と科学の垣根を超えた科学の楽しさを提供します。近畿圏をはじめ日本や海外から集められた約100点の貴重な化石と骨格標本を公開し、最新の研究成果とともに展示します。また、浮世絵や絵巻物などに描かれた妖怪と見比べながら、実在した絶滅生物と空想生物の謎に迫ります。」

そぉなのかと安易なわたしは蝉しぐれの中、坂を上りここへ来た。
この辺りは待兼山の一部になるからか、蝉もミンミンゼミが鳴いていた。
同じ市内でもわたしのあたりはアブラゼミとクマゼミである。


モダンな近代建築の中に入ると、マチカネワニの実物大模型が壁に張り付いている。
これを見てから階上へ。

展覧会の見どころはこのように書かれている。
「本展の見どころは、まず龍に例えられたゾウやマチカネワニの化石です。豊中市蛍池から見つかった約40万年前のステゴドン象の牙、三重県津市から見つかった約350万年前のワニとシカ角など実物の化石を展示し、それぞれの化石がなぜ龍に例えられたのか解説します。また、一つ目巨人を連想させるアケボノゾウや、グリフォンと信じられていたプロトケラトプス(恐竜)の複製頭骨を目の前で見ることがでる貴重な機会です。さらに、双頭のウシの骨格標本や島根県松江市で見つかった約2000万年前のシカ類の化石など、最近の発見を研究論文とともに初公開します。」
やはり学術博物館なのである。

今回の展示には最新の研究成果をまとめたパンフレットがついており、どの論文もたいへん興味深い内容だった。

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第1章 古来の人々が目にした竜
大胆な仮説というか、わたしのアタマでは考えてこなかった内容がここにある。

ワニの化石と鹿の角、これがもし同時代に同時に発掘されたならば、というifの前提がある。もし発掘されたなら・・・2件を別個のものと考えるよりも、2つを結びつけた考えを示す方が多いのだ。
だからここでこんな数式が成り立つ。
ワニの化石+鹿の角=竜。
字面では「はぁ?」かもしれないが、ここにある骨の模型を見ていると、強い同意と納得がゆく。
肉がついた状態では「ワニの奴、なにを鹿の角、アタマに着けてんねん、おまえはせんとくんか」とツッコミを入れたくなるが、さてこれが骨になると途端に「あっ竜!!」になるのだ。
誰も本当には竜の姿を見ていないはずなのに、その姿のイメージを共有している。
だれかの絵から「!」となったのではなく、恐らく古代の頃からなにかしら共有するものがあったのだ。

竜には角があり、胴体は蛇体であるが、蛇体と書くとなにやらイメージがよくないのに、竜=王者という東アジアの公式認識があるので、だれも竜の胴体を蛇体だとは言わない。

ナウマンゾウの化石が野尻湖から出て来たり、明石ゾウの化石が明石の海岸べりからたくさん出土してきたことから、ゾウが日本にものしのしと足を延ばしていたことを知った。
現行のゾウと彼らやマンモスとはまた違うわけだが、こんな極東にまでご苦労なことだった。いや、当時は「極東」ではなかったのだ。
ゾウの化石を見ながら往時、道があったことを想う。

さてチラシの怖そうな骨はアケボノゾウの頭骨である。
そしてそのゾウの骨は漢方の生薬として使われていたらしい。
尤も日本ではそれを薬には使わなかったようだ。

ゾウの歯の化石もとても大きい。ゾウも種類によってはブタくらいのものもいたそうだが。
この歯の骨で思い出すのが古事記にも出るイチノベノオシハノミコの歯の事である。
古事記では市辺之忍歯王と表記するが、名に「歯」があり、巨大な歯の持ち主だったらしい。それが近江に埋められていた。
石川淳はそれも題材にして「狂風記」を描いた。

骨はまだある。
メガロドンの骨、これを「天狗の爪」として大事にしてきた人がいるそうだ。
木内石亭「雲根志」にその紹介がある。本が開かれていて、説明を少し読む。
木内は石マニアで、塾では木村兼葭堂と同門。更に江戸に出てからは平賀源内とも同門になったそうで、同時代にこんな人々が集まるとは面白い「偶然」が起こるものだと思った。
なお、源内の戯作「天狗髑髏鑑定縁起」ではイルカの骨をモデルにしていたそうだ。

第2章:伝承と古生物
ここでも両目が開かれるような内容が続く。

牛鬼の絵がある。見慣れた牛鬼は顔は牛+鬼で胴体は巨大なクモのようである。
「ガウル」という野牛によく似ているそうだ。わたしは知らない。
そのガウルはインドからマレー半島に生息している。
牛鬼の伝承は瀬戸内海が中心だという。そしてその界隈にはガウルに似た牛の角がよく出土していたそうだ。
何もないところから話が始まることは少ないが、何かあるところから話が始まるのは普遍的な状況だ。
わたしはなるほどそうなのかと納得する。

ヤギ、シカ、ガゼル、キョンの頭骨が並ぶ。ああ、角があるなと思う。ただしこれらが生前の肉付きを見知っているからこそ「ああ、偶蹄類・奇蹄類の奴らだな」と認識し、角があっても不思議にも何にも思わないのだが、この骨を見て古代人は「あっイメージが違う、こわいやん」と思った可能性が高い。だからこそ古代祭祀の場で骨を面として使った形跡があったりするのだろう。畏怖させるためには角が(異形の者への恐怖)が必要でもあったのだ。

拵えものだと思うが「鬼のような装飾品」というものが出ていた。
小さい頭蓋骨のサイドに角が付けられている。
なるほど鬼に見えなくもない。

ここで面白い提示がある。
偶蹄類・奇蹄類はみんな角があるが草食なのに、その角によく似たものをアタマにつけた鬼はイメージ的に肉食だ、ということ。
・・・そうやなあ、そのとおりやわ。鬼は人を喰うイメージが強い。
純正の鬼(!)の他に「吸血鬼」「人食い鬼」「殺人鬼」と鬼のつくのを並べたが、みんな人の死を招く存在だった。

面白い見出しがあった。
「いなばのナキウサギ」
大黒様が助けたったのは「因幡の白ウサギ」である。唱歌にもそう歌われている。
北斎の「新形三十六怪撰 大黒天と白ウサギ」のパネル展示もある。
12頭の鰐と泣いて訴える白ウサギと大黒様である。
ワニの描写、いいなあ。
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初期のナキウサギは絶滅し、次に奄美黒ウサギが現れ、やがて日本の白ウサギが登場するそうだ。
時代がもっと古いならナキウサギが更に泣きわめきながら大黒さんに訴えていたことだろう。
ナキウサギの方が古体というのも面白い。
わたしが知らないだけ、なのだろうが。

キメラについての考察があった。
鵺 ぬえ、である。
ここで非常に衝撃的な論文があった。
「頭が猿や猫、胴が虎、手足が狸、尻尾は蛇」というのが鵺だとされている。
これらは源平盛衰記の記述に拠るのだが、ここでびっくりしたのは、これらの特徴を見せる動物といえばレッサーパンダだ、と結論づけられていたことである。
荻野さんという方の考察なのだが、わたしはひっくり返りそうになった。
れれれ(レレレのおじさんでもレレレの娘でもないぞ)、レッサーパンダがぬーーーえーーー
頭が猿や猫、胴が虎、手足が狸、尻尾が蛇・・・
うーむうーむうーむ

これで思い出したが、むかし「あらいぐまラスカル」が放送されていた頃、上野動物園では本物のアライグマをモデルにしたものより、色の派手なレッサーパンダのぬいぐるみの方がよく売れたそうである。
新聞でそれを読んだとき、子供心にも納得したものだ。

そうか、レッサーパンダは鵺だったのかっっっ
しかも色々と調べると鮮新世(350万年前)ではアジアでヒトサイズのレッサーパンダがいたかもしれない、とか。
(実際にはバイカル湖から大型レッサーパンダの化石が出ているそうだ)
うーむうーむうーむ、なんだかすごいぞ。
これではササイなクマどころではないがな。
二本足で立つレッサーパンダの風太くんとその子孫を思い出すねえ。

浜松に三ヶ日町というところがある。
ここは池波正太郎の作中では日本駄右衛門のアジトの一つであり、ここをいち早く探索した徳之山五兵衛が一味を捕縛するきっかけを得た村である。

さてその三ヶ日町、ここにその名も「鵺代」という地がある。
そこからトラ、ヒョウ、ゾウ、タヌキ、キツネ、サルの化石が出土しているのだ。
そしてこれらを足したら・・・ぬーーーえーーー
スゴいな。

「鵺」の骨集めがあった。
虎は猫で代用している。小さめの動物だが、ぴったりである。びっくりしまんがな、頼政さん。

岡田玉山「絵本玉藻譚」が出ていた。
これは金毛九尾の狐が妲己にとりつくというか、とってかわるところから話が始まる。
そしてその章題がそのまま太田記念美術館でもみた絵にあったりもする。
当時人気の物語の一つである。

この九尾の狐、ヤマタノオロチなどは多胎のもつれのようで、ここで双頭の牛の骸骨と剥製が出てきた。
非常に怖かった。素直に怖い。
先般姫路で「くだんの剥製」をみたが、あれとは違う異質の怖さがある。
ケルベロス、ヤマタノオロチ、阿修羅までもがその仲間入り。

最後に描かれた妖怪たち

山野守嗣 猫大明神 探幽の写しらしいが本物を見てない。瓜の上にお猫様が烏帽子かぶって鎮座ましましており、その瓜を恭しく曳くネズミたち。

百鬼夜行の模本が二点出ていた。みんなやっぱり写したくなるのだ。

ヤマタノオロチで更に面白い考察があった。
浮世絵などに描かれているヤマタノオロチは洪水のイメージから来ているが、古事記の原文では火砕流イメージだという話だった。しかし長らく水のイメージがあった。
しかし今ではもう洪水ではなく火砕流イメージが強くなっている。
それについては寺田寅彦が1933年に刊行した「神話と地球物理学」が嚆矢だったそうだ。

たいへん面白い展覧会だった。
考えもしなかったことが次々とあらわれ、脳の薄皮が一枚剥がれたようである。
今日までの展覧会、間に合ってよかった…

ベルギー近代美術の精華展 @姫路市美術館

最近洋画を見た後になかなか感想が書けないという状況に陥っている。
ポンピドゥー展、カサット展、福岡までわざわざ見に行ったヴァルラフ=リヒャルツ美術館の印象派展、それからダリ版画展、姫路のベルギー美術展、とこのようにずらずらと居並ぶ。
デトロイト美術館展は撮影可能で、これは写真を挙げてうだうだ書けそうなのでまだそんなに心配していないが、本当に困ったものだ。
というわけで、25日で終了の姫路市美術館「ベルギー近代美術の精華」展の感想を簡素に挙げたいと思う。

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姫路市美術館といえばベルギー美術を裕福に所蔵し、国内ではここ以上にベルギー美術を持つ先はないのではなかろうか、と思われる。
理由はあるに違いないが、とりあえずベルギー美術といえば姫路市美術館、近代日本版画といえば和歌山近美か千葉市美、狩野派は板橋区美、などと言った風に認識が広まっている。

その姫路市美術館でこの展覧会である。
いそいそと出向いたが姫路市美術館の所蔵品だけでなく他からも出てきており、豪華な顔ぶれになっていた。

1. いま見えているこの世界 レアリスムから印象派

フェリシアン・ロップスの辛辣な絵がある。
古い物語 きれいにやつした女が手に美人面を持つ。色々言いたいことはわかるが、それにしてもこの女の顔も仮面も綺麗だ。
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サテュロスを抱く女(パンへの賛美) 夜、裸婦がサテュロス像を抱く。欲望を露わにして。その様子を蔭からクピドが見ている。彼女自身による欲情なのか、この小生意気なチビに仕向けられたのかはわからない。

エミール・クラウスの外光が眩しい絵が数点。いずれも農業地域を舞台にしている。光が眩しいのを感じる。

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2.幻想の世界 象徴派

個人的にはここが一番好きだ。
フェルナン・クノップフの優美で静謐な絵が並ぶ。

ヴァイオリニスト 赤チョークで描かれた優美な女。この瞬間以外は生きていない女。

女性習作 肩の獅子噛みの無骨さが彼女の横顔を一層うつくしく見せる。

ブリュージュにて 聖ヨハネ施療院  彼の作品の中で最も好きなもの。
「死都ブリュージュ」とこの絵とがわたしの中では区別できないほどになっている。
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ジェームズ・アンソールが実際に人々から非難されていたり対立しているというのを初めて知った。

キリストのブリュッセル入城 1889年のマルディ・グラの日(肥沃な火曜) ここでのキリストはアンソール自身。そうか、そんなにも周囲から…

オルガンに向かうアンソール 周囲のモブ。チラシは右が少し切れていて、右には赤ん坊がいる。アンソール以外は皆醜い。

ホップフロッグの復讐 これはポーの小説「ぴょんぴょんカエル」のクライマックスシーンを描いたもの。小人が宮廷で王や大臣たちに度を越えた苛められ方をし、ついに復讐を決意する。仮装舞踏会の日に王や大臣にゴリラなどの仮装をさせたところで全員をシャンデリアに吊り下げ、火をかけて焼き殺すのだった。

ジャン・デルヴィルの幻想的でうつくしい絵が現れた。

レテ河の水を飲むダンテ 百合の花をはじめ優美にして儚げな花に囲まれた空間で。物忘れをするレテの河の水を飲む。

デルヴィル夫人の肖像 ああ、相当に綺麗な人だな。

ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク 夜の中庭あるいは陰謀 この絵はとても好き。青黒い夜の中で三人がひそひそひそひそ…
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レオン・フレデリック 動物に説教する聖フランチェスコ ウサギに、牛に、羊に、聖フランチェスコは説教する。

レオン・フレデリック 春の寓意 花綱をもつ女や幼子たちの幸せそうな様子がいい。

3.あふれ出る思い 表現主義

アンソール 薔薇 ただの花の絵ではなく、その右奥には不思議な風景画が添えられている。そちらに視点を絞るとその中に取り込まれてしまいそうだ。ちょっとばかり乱歩「押絵と旅する男」を思い出した。

ジョルジュ・ミンヌ 聖遺物を担ぐ少年 大理石はきれいだな。
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レオン・スピリアールトもある。
オステンドの灯台 グレーと黒のパッキリ分かれたところがかっこいい。

磔刑のキリストと煉獄 舞台風な拵えに見える。群衆の様子がそう見せるのかもしれない。

4.現実を越えて シュルレアリスム
デルヴォーとマグリットの饗宴だった。

デルヴォーは1937年から1966年の作品が 7点ある。
有名な「海は近い」もあるし「乙女たちの行列」も見られる。
すべての女たちが美しく、神秘的なまなざしと微笑みを口元に浮かべている。
自分とは遠い存在であるにもかかわらず、どこか理解できるところもある。
そうした箇所に共感し、全体の美に感銘を受ける。

マグリットはリトグラフの連作「マグリットの孤児たち」のほかに妻の絵や不条理な情景の中の静謐さを描いたものが出ていた。
いずれもこちらが一歩進めばその中に入り込みはするものの、ふと振り向けばその情景から遠のいている、そんなイメージがある。
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面白かった。
なお2年前に名古屋のヤマザキマザック美術館にこれらの作品が大挙して出向いている。
その時の感想はこちら

8/25まで。


弥生美術館でみたもの―オサムグッズ、華宵と浅草オペラ、夢二とモダン都市東京

弥生美術館で三つの展覧会を楽しんだ。
・オサムグッズの原田治展 Osamu Goods® The 40th Anniversary
・華宵と浅草オペラ
・竹久夢二とモダン都市東京 展 ―夢二のいた街、描いた街―
(こちらは夢二美術館ではあるが)

オサムグッズは1980―90年代の女子中高生の人気グッズだった。
カバンからタオルからノートから小間物まで、とにかくあのシンプルで明るいオサムグッズと無縁でいた少女というのは、非常にまれだったのではなかろうか。
わたしのような者でもオサムグッズをなんだかんだと使っていたし、中には今も手元において使用中のものもある。
今回の展覧会で初めて知ったのだが、純正品のオサムグッズ(!)とライセンス契約だけのオサムグッズがあるようで、長らくミスドの景品として流通していたのは後者だそうだ。
わたしが持っているのは多分半々。
今も現役で使用中のタオルからして、ミスドでもらったものと友達がくれたものとあるので、可愛さだけでなく、品質も良いのだと思う。

展示室に所狭しと集まるオサムグッズが次々と当時の思い出を呼び起こし、面白かったこと・腹の立ったこと・楽しかったことなどなどが蘇る。
グッズは身近なものなので、折々のそのわたしの感情や出来事の随伴者あるいは目撃者でもあるのだ。

原画を見る。試行錯誤の痕はその線からは窺えない。原画を描く前段階でそれらは解消されているのだ。
作者の原田治さんの言葉がそこかしこにあり、読み通してゆくと、いくつかの新発見と納得がある。

原田さんのおじいさんは映画監督・二川文太郎だという。
バンツマ主演の無声映画「雄呂血」の監督である。びっくりした。1925年のチャンバラ映画で、これは殺陣が素晴らしく、当時の観客を熱狂させた。
タイトルが気になっていたので子供の頃から忘れずにいた映画で、近年になりこのようにつべで見ることが出来るようになったのはありがたい。
https://www.youtube.com/watch?v=shdvhdhc7e0

そして原田さんは自身のデザインへの意識などをこの祖父から伝えられたように思う、という意味のことを書かれている。
大正末期の素敵なロゴの「雄呂血」。
二川は他の仕事でもいいデザインのロゴなどを拵えていたそうだ。

自分が実際にリアルに使っていた・使っているグッズが目の前にある。
とても楽しかった。

原田さんの他の仕事の紹介があった。
お孫さんの幼稚園のために活躍しているだけでなく、こんなキャラも原田さんの仕事だった。とても納得。
・東急電車の「ドアに注意」のクマ坊や
・カルビーポテトチップスのポテト坊や
・崎陽軒の二代目ひょうちゃん

原田さんは「かわいい」を前面に押し出す仕事をした。
40周年の今も全く古びないのは「かわいい」からだと思う。
既に弥生美術館でのグッズ販売では色んなものが売り切れ、再入荷されたりという盛況である。気持ちはわかる。

ノスタルジーよりもカラッと明るい気持ちになり、楽しく見て回れた。




階段を上がり三階へ。
・華宵と浅草オペラ
打って変わってこちらは妖美で華やかな世界。
華宵が浅草オペラに熱中ししていたことは有名で、スケッチも少なくない。そこから作品も生まれる。それらが集まるのもいい。

紅バラ 田谷力蔵のコスチュームと同じものを身にまとう娘の絵 田谷のブロマイドもいい。

浅草オペラや活動写真から異国情緒あふれる世界に目が開かれた人も多い。
古代埃及をイメージした衣装の少女が睡蓮を眺める様子も素敵。こうした絵が当時の少女たちをときめかせたのもわかる。

「カフェーの夜」の歌は今でもつべで聴けるようだ。
三日月と☆とをつけた薄衣の娘、その周囲を跳ねるウサギたち。可愛い。

相良愛子 白孔雀 ああ、きれい。白塗でアタマにたくさんの孔雀の羽根の飾りをつける。
華宵の絵もエキゾチックでいい。
1682301.jpg

王女のバラ パールを全身に行き渡らせた女。絵だからこその美麗さ。腿がみえているのもいい。

埃及娘の横顔の絵は初見。蛇の冠をつけている。影も描かれていて綺麗。

高田雅夫のエジプトダンスというものを初めて知った。33歳で没したそうだ。
見てみたい動き。彼の活動はwikiにあり、惜しむ。
わたしはこの時代までに生まれている<新しいダンス>はとても好きなのですよ。

山田まがね という抒情画家がいたのを初めて知った。
多くの浅草オペラや歌謡曲の挿絵を描いていたようで、「ローレライの歌」などの絵がとても好ましい。
今回みたのは浅草オペラの「サロメ」で、ヨカナンの首を抱え、じっとみつめるサロメを描いている。
「スネークダンス」の絵もいい。

当時のブロマイドの魅力にも大いに揺れる。やっぱり1910-1930年代は本当にわたしの好きな時代だ。
ノイエタンツが素敵すぎる・・・前述の高田雅夫の奥さんで遺志を継いで踊り続ける高田せい子、かっこいい。

アンナ・パブロワの来日も大いに刺激となった時代。
華宵もスケッチを描いている。この公演は六代目菊五郎も見ているし、「ドグラマグラ」でも舞踏狂の少女の仇名がアンナ・パブロワだった。

当時のレコードが並ぶ。
おお、「茶目子の一日」。これは映画も見た。佐藤さとる「わんぱく天国」で知ったから、もう随分長いつきあいになる。
このことについてはこちらにも書いている。

レコジャケで面白いのがあった。大佛さんが聴きたがる図柄。
「恋は優し」のレコジャケもなかなかエキゾチックでいい。

石田雍の人気、若き藤原義江の美貌、浅草の全盛期がここにある。

大正10年3月、浅草金竜館でロシアからのアダメイト娘らによる西インドダンスの上演、そのかっこよさ。
手品師・天勝の妖艶な美貌、明石須磨子もモダンでいい、無国籍風な衣裳で踊る女たち。
昔の浅草オペラの衣裳は何と魅力がつよいことか。
澤モリノのダンス、孔雀の衣裳、嗚呼嗚呼嗚呼。

わたしの見たいものリストに浅草オペラが入った。バレエ・リュスのすぐあとくらいにクランクイン。

・竹久夢二とモダン都市東京 展 ―夢二のいた街、描いた街―
夢二は上京してから東京をよくハイカイした。

浅草、日本橋、本郷、早稲田、品川、向島、銀座。
都市生活者たちが歩いた東京各地。
女学生、モガ、モボ、ボヘミアン…
サラリーマンもBGも歩いた。
それぞれ面白いことをみつけだし、先端の都市を闊歩した。
描かれた街の魅力にときめいた。

須藤重、山名文夫、武井武雄、東郷青児らの描くモガたちの絵がある。
みんなそれぞれの特性が出ていて面白い。
芝居とキネマとバーとカフェと…
本当にカッコいい。
モダンな時代のモダンな都市の様子をここで見たように思う。

ああ、とてもかっこよかった。

立体妖怪図鑑 妖怪天国ニッポンpart2

姫路の兵庫県立歴史博物館の展覧会は、ハズレがない。
わたしが行った時たまたまそうだったのかもしれないが、どの時も必ず面白いので、これはもうここのレベルがとても高いということになるのではないか。
なにしろ1992年からの話である。
「風呂の聖と俗」、「洛中洛外のプリマドンナ」、「庶民の地獄絵」などの昔から近年の「博物館はおばけ屋敷」に至るまで、本当に面白いものばかりなのだ。

今回はこちら。
「立体妖怪図鑑 妖怪天国ニッポンpart2」
玄関前の幟の揺らぎが何ともよろしい。


第一部 描かれた妖怪
絵巻と浮世絵からおばけが集まっている。

百鬼夜行、百器夜行、とモノノケたちの行列が楽しい。
稲生物怪録、大ミミズクが可愛い兵六物語、といいのが続く。

国芳の三枚続の妖怪絵も、大どくろに土蜘蛛ら人気メンバー。
弟子たちの絵もありにぎやか。
芳艶の袴垂の幻術で大蛇とツキノワグマの戦いを見る人々、芳虎の加藤清正が退治するのは蝦蟇に蝙蝠に猫!

「西洋では蝙蝠と言えば吸血鬼の手下のように思われていますが、東洋では吉祥動物です」とさる学芸員さんが書かれていたが、この展覧会に出演する蝙蝠たちは到底吉祥動物ではなく「吸血鬼の手下」のクチですなw

芳年のバケモノ絵も色々。旧幕時代のは言えば無邪気な(!)オバケたちばかり。
「怖い浮世絵」でも見た絵が重複していて、その当時の人気ぶりがわかる。
虎ニンニンの西遊記・百鬼夜行図も来ている。玉園という絵師はほぼ知らないが、この虎が忍術の印を組んでいる虎ニンニンは可愛くて忘れられない。
そして北斎の百物語からは小平次。これは日本のオバケ絵の中でも特上の一品。

石燕の妖怪図鑑もある。
姑獲鳥、元興寺、玉藻の前、ぬらりひょん、長壁姫と蝙蝠。
それから石燕オリジナルのオバケ図鑑もある。創作オバケ、いいねえ。

草双紙もオバケものは人気で、わたしだって全部簡易に読みこなせたら、しつこく何度も読み返すよ、山東京伝あたりは特に好き。

双六もいい。地域特有のオバケも選ばれている。
芳員「中河内・雪女郎」というのをみつけて「エ?」となった。
中河内でもそんな雪積もったのか?
ここでサイコロを振り、3が出たら「山彦」のもとへゆく。

オバケの絵のおもちゃもとても楽しい。仕掛けモノがあるのがいい。
「幽霊・妖怪画大全集」展の時にオバケカルタを購入したわたしです。

第二部 立体妖怪の存在感
今回の展覧会のメインはこちらですな。

大阪市立美術館のカザール・コレクションから根付のオバケたちが出陣していた。
大阪市美で観るときより、こうした本性を発揮できる場で見ると、嬉しそうに見えるなあ。
道成寺の釣鐘、鬼、般若、白蔵主、狸のお坊さん、烏天狗、一角獣、人魚、風神雷神、髑髏、舌切り雀・・・
鬼も様々で鍾馗に捕まるもの、大津絵の鬼の念仏、鬼やらい、木魚ぽくぽくなど。
楽しいねえ。

淡路人形のカシラもある。天狗久や大江順の人形。九尾の狐本体もある。ただし金毛ではなく白狐。・・・これて尻尾の数を減らしたら葛の葉狐にもなれるな。
赤鬼、青鬼、黒鬼。
お岩さんの人形もある。江戸のお話だが人形浄瑠璃ではお岩さんの芝居がある。芝居にしやすいわな。
以前に入江泰吉先生が撮られた文楽の写真展の時、やはりお岩さんをみた。
非常に怖かったなあ、あれはモノクロだからこそ怖さが増幅していたのだ。

江戸時代のオバケ屋敷の紹介。
浮世絵の次に現役のオバケ人形師・中田市男さんの人形が登場する。
井戸の怨霊、三つ目入道、ベロだし、長壁姫の眷属、口裂け女、骨女。
骨女は顔の半面は美人、半面は髑髏でライトが当たると・・・
長壁姫の眷属の腰元は、江戸の判じ絵の馬顔の女「ウマニ」の姉妹の様だ。
そして今年の新作は河童と応挙の幽霊だった。
掛軸の向こうに美人で淋しい幽霊がゐる。
90歳の中田さん、これからも長生きして怖いオバケ人形を拵えてください。

見世物もある。
人魚の引き札は案外可愛いが、人魚のミイラは骨の唐揚げのようだった。下半身はオコゼのようだったな。
そしてこの人魚のミイラの物語を紙芝居で上演したようで、台詞なしの絵だけだが展示されているのもよかった。

カーテンで仕切られている空間へ入る。そこには「件 くだん」の剥製があった。
どうもぬいぐるみのようにも見えるが本当のところはわからない。
「くだんのはは」「五色の舟」を思い出す。

姫路の大切なお祭り「三ツ山大祭」の作り物がことしも出ていた。
前回の展覧会では入り口そばに井戸から飛び出すお菊さんだった。
今回はこの中で、やはり井戸から飛び出すお菊さんなのだが、蝶々の表現がとても綺麗で、しかもこのお菊さんは既に井戸を飛び出して宙に浮いていて、染付のお皿が9枚あちこちに浮いている。それを見て二人の武士がひっくり返っている。
香寺高校の生徒さんらの力作。
そういえばお菊さんの割ったお皿というのは、高麗青磁や明の青花など諸説ある。
いずれも大切なお皿ではある。

このお菊人形を見ていて谷山浩子の不思議な歌「まもるくん」の替え歌も可能だなと思った。
♪播州のお屋敷の井戸から飛び出すお菊さん 井戸から飛び出して斜めに飛んで笑ってる
・・・こわっ

イメージ (21)

第三部 郷土玩具と妖怪
意外と郷土玩具も古いものではないものが出ていた。

びっくりしたのは、洋画家・金山平三の河童人形。これ、遺愛の品とリストにはあるが、どうやらご本人が拵えたみたい。
金山は大石田の風景を愛して多くの絵を描いたが、楽しみとして芝居絵を大量に描いている。わたしなんぞは金山の仕事の中でもその芝居絵が特に好きで、兵庫県美の前身の兵庫近美のときに絵葉書をセットで購入して以来、今も喜んで時折眺めている。
金山、牛島憲之ら洋画家、清方、朝倉摂らの芝居絵を集めた展覧会をどこかで開催してくれないだろうかなあ。

さて郷土玩具。
伏見人形、今戸の土人形などの古いものもある一方で、昭和どころか平成になってから拵えられた張子ものもある。猩々や河童など。
そうそう伏見人形と言えば人形屋・鵤幸右衛門が始めたという伝承もあった。

黒い神戸人形もぞろりと並ぶ。
古いのは明治の三輪車のみであとはみんな昭和50年代のもの。
わたしは昭和50年代は大阪の小学生なので神戸人形は無縁でしたなあ。
スイカ喰い、木魚叩きと手妻(手品)、オバケ井戸、棺桶車、ロクロ首、鬼の舟遊び、オバケの館、月見の宴会(みんなでスイカ食べてるぞ)
可愛くてファンキー。この展覧会で初めて神戸人形もオバケの仲間だったことを知ったよ。

地方地方に伝承・伝説・民話があり、それをカタチにしたものが並ぶ。
昭和初期の朝鮮の将軍標。天下大将軍地下女将軍のあれね。ミニチュアだから可愛い。
これを最初に知ったのは夢野久作「犬神博士」に紹介されてたからだが、作中では「天下女将軍」となっていた。尤もそれは作中でのギャグなのかもしれない。
厚かましく強引な女とそれに拉がれている男を指しているので。
現物は天理参考館にある。みんぱくにはミニチュアがあったように思う。

鳥取張子人形が何種も出ている。
「島根は神の国、鳥取は妖怪の国だ!」とはわが社の島根出身者の弁。

河童のブームがあったそうだ。清水崑のマンガに始まったようで、その同時代の河童人形がいろいろ並ぶ。
福岡県で「海御前 あまごぜ」と呼ばれる人形があり、これは壇ノ浦に沈んだ平教経の北の方の後身だという。
侍たちは平家ガニになったが、女人はまた別らしい。

コロボックル、文福茶釜、天狗、なぜか静岡のヌエもの、山姥、化け狸、しばてん、キジムナーなども顔を見せていた。

チラシを飾る妖怪たちは荒井良氏の妖怪張り子もの。
京極夏彦さんのコレクションだというのも納得。
イメージ (20)
ウブメ、塗仏、五徳猫、豆腐小僧・・・
豆腐小僧をみて甲南大の田中貴子教授の愛猫きなこちゃんのコスプレを思い出した。

第四部 現代の妖怪造形
ウルトラマンの怪獣ソフビたちから現代のフィギュアまで、素晴らしい作品群が百点ばかりあった。
造形師の人々の才能・熱情にただただ感心するばかり。
いやもぉ本当に素晴らしい。海洋堂の名品だけでなく、地方で開催されたコンテストなどに出た作品群もずらり。
本当に細部まで丁寧に作り込まれていて、ただただ絶句。
いやースゴいわ、ニッポン。

妖怪の国に生まれ育ってよかった!!と思った展覧会でした。9/11まで。
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