以前に比べて本当に更新の頻度が遅い。
ブログは好きなんだが、何故か書けない。
それでとっくに終わってしまった展覧会の感想を、それも三分割にした最後の章をようよう書いているのだ。
だが、時間の流れがあまりに早いということは、「かつてあったもの」を思い出すことが出来なくさせる力を持っているので、わたしの書いたようなものですら、記録としてある程度の需要が出ているのだ。
なんという世界になったのだろうか。

3.町人たちのアートワールド 大坂画壇の可能性
関大図書館(関大LIBとわたしは表記)、大阪歴博、大英博物館と個人コレクション作品が主体だったところへ今度は大商大博物館からも作品が来た。
ここの学芸員になられた明尾さんは大商大でいつも素敵な展覧会を企画されている。

大岡春卜と吉村周山 龍虎図屏風 いやどう見ても虎猫ですがな。「かいらしわあ」と声が出たわ。
耳鳥斎の作品がいくつも並ぶのはいいね。
関羽、忠臣蔵の天河屋義平、仁王などなど。みんな可愛い。
大英博物館に入ってる忠臣蔵図巻からは道行の花嫁とか八段目など。
あと例の「別世界巻」は鬼と亡者の地獄シリーズだけど、歌舞伎役者が大根喰わされてたり。
あと初見で、染付のお皿の絵付けもあった。飲中八仙図八角皿。やはり戯画が楽しい。

墨江武禅 明州図 大阪歴博 これは所蔵品展でも見てないので初見なんだが、なんというか、不気味な街なんよね。この街が不気味なのか描いたのが武禅だからなのか。
そやそや、この人を知ったのは2015年の「唐画もん 武禅に閬苑、若冲も 」展からだな。
当時の感想は
こちら福原五岳 酔李白図 関大LIB 酔っぱらいの詩人に笑う美人。
わたしは飲まない人なのであまり考えたこともなかったが、この頃の中国の酒とはどんなんなんですかね。
西域からは葡萄酒も来てたしね。例の「葡萄美酒夜光盃…」からわかるように。
鼎春嶽 漁楽画帖(江湖臥遊) 関大LIB 働く坊やたちのシーンを見た。
林閬苑 金谷園図 濃いなあ。当たり前か。「唐絵師」を名乗り濃い絵を描いてた人だものなあ。
森蘭斎 西王母図 関大東西学研究所 こういう組織もあるのね。ちょっと疲れているように見える西王母。もしかすると、弼馬温から斉天大聖になったあの野郎が桃を食べつくした後の様子かもしれない。
忍頂寺静村 児童玩具図 関大LIB 金時になってから山に錦を飾ってクマや猿やウサギにドヤ顔見せてた絵を描いた人です。玩具図は可愛いし川崎巨泉のそれとはまたちょっと違うが、やはりよいなあと。
ところでこのペンネーム、わたしはてっきり茨木市の忍頂寺出身なんかと思っていたが、さにあらず淡路島らしい。
それについては国文学研究資料館のサイトで、
「忍頂寺文庫」「小野文庫」の方々が淡路島に調査に訪れた報告書があり、pdfで挙げられているので、ご参考まで。
猿が出てきたと思ったら、森派の登場。箕面も最近行ってないので猿の動向は知らん。
猿の祖先ならぬ狙仙の「雨中桜五匹猿図」が、兵庫県美所蔵の頴川コレクションということになっているのを見て、改めてもうあま甲東園の小さな美術館はないんだなあと淋しくなった。
あの小さい美術館で色んな作品を見たものなあ。
この絵は切手にもなってなかったかな。可愛いよね。
さて同じ森派でもこちらは「儲かる一方」の森一鳳。
赤鬼青鬼図 関大LIB おやおや坊主頭の鬼どもかい。ちょっとばかり武井武雄の作品を思い出したわ。

なんとなくロックな感じもあるね。
雨中藻刈舟之図 大阪歴博 これぞ「藻を刈る一鳳」=もおかるいっぽう。
吉兆画になりました。
森二鳳 稲荷狐図 関大LIB ずらーっと赤衣の狐たち。伏見稲荷のお狐さんかな。
長山孔寅・賛:篠崎小竹 麻姑図 中国の仙女ですね。その美人さんと鹿がいる。
鎌田巌松 三疋子犬図 関大LIB わんこども可愛い。
上田公長 奥の細道図襖 1848 関大LIB これは字面も蕪村風なので写したのかな。
そういえば五作目の蕪村の奥の細道が認定されて、京博で展示だな。
西山芳園 四季耕田稼穡図 1839 頴川コレクション これも美術館の時には見てない気がする。わんこだっこの坊やがいる。
穡の字は「穫り入れる」の意味だそう。今漢字辞典で調べた。
禾へんに吝嗇の嗇の字だけに、この字にもケチの意味が含まれているようだな。

7/2の夕刊にあったので採りいれた。
西山芳園 虫行列之図 大英博物館 こういう絵を集めているところが大英博物館で素晴らしいなあと思うのですよ。
西山完瑛 浪華風俗絵巻 大英博物館 ほのぼのする。やっぱり都市の楽しみとかそんなのが好きだわ。
浪華名所画帖 泉屋博古館 こちらは見てるかなあ?まあやっぱり昔の浪花の風情はいいものですよ。
佐藤魚大 閻魔王之図 …ちょっと目つきやらしいな。
佐藤保大 浪華下村店繁盛之図 これは江戸時代の大丸だ。大丸は1726年から心斎橋で商売してる。
佐藤魚大 大坂風俗画集 魚屋さんとかタコが目立ったりとか。
上田耕沖 箕面山真景図 逸翁美術館 あーこれは秋の綺麗な時期の箕面。真っ赤。紅葉ええなあ。
須磨対水 菖蒲図屏風 関大LIB この須磨対水などは絵描きとしての腕がええのに、中央画壇に向かうことなく、地元で機嫌よう暮らしながら、たのまれたのを描くというスタイルで通した。そしてそれで食っていけたのだ。
池田市立歴史民俗資料館で91年に回顧展があって本が出ているが、大阪ではこういう系統の人が案外多かった。
結果としてそれが世に問うほどの「大坂画壇」なるものを構成しないことになったわけですがな。
かれは呉春が池田にいてたから、と言う理由で池田に住まった。そして料亭「吉兆」の名付け親でもある。
庭山耕園 猟犬図 1929 賢そうな犬。かっこいいわ。
庭山耕園らの競作による淀川両岸帖 1940 この年の日本は本当に軍部暴走で庶民も浮かれてしまって、案外楽しい気分になってたらしいが、カラ元気と言うかなんというか、奇妙な楽しさまで実は流れてたのが、やっぱり今から思えば寒いよなあ。
この頃の淀川はなかなかきれいだったそうで、渡しも色々あった。
絵を見ながら物思いにふける。
最後に近代日本画、近代日本洋画のいいのが集まっていた。
菅楯彦 高津宮 1930 絵馬堂の下に集う人々。楽しそうな雰囲気がとてもいい。
高津宮は今もお祭りを工夫して集客もよいそうだけど、コロナ終結の頃にはわたしも行きたいと思う。
生田花朝 四天王寺精霊会図 1927 大阪城天守閣 円の中に綺麗に装った精霊会の人々が詰め込まれている。この絵も好きな絵で、師匠の菅楯彦のもあるがどちらも好き。

島成園 人形遣い 1917 一人遣いのもの。

北野恒富 鷺娘が二点あった。福富コレクションのと所蔵名ナシのと。
恒富は鷺娘が好きだったようで他にも見ているが、やはりよいな。
白い情炎とでもいうか、抑制が効いているが、やはり鷺娘らしい静かな地獄がある。
北野恒富 日照雨 1911 一つの傘に二人の女。綺麗だな。
ところでATOKしばいたろかな、この字はな「そばえ」と読むねん、それくらい一発で出ろ。
北野恒富 蓮池(朝) 1927 耕三寺博物館 嬉しいなー。この絵が来てた。しかも予定では後期には出ない筈が出てくれてた。いやいや、ありがたや。
やはり蓮池に蓮舟の女二人と言うのはよろしいものです。


上島鳳山 西施図 明治から大正 さすがに美人。柳に川に背景もよい。
泉屋博古館が鳳山のよいのをたくさん持っているが、これはまた別物。やはり唐美人よいな。
(くどいようだけど、時代は唐ではないけど、中国の美人は大体唐美人という代表的な言い方で通してます)
中村貞以 朝 1932 京都近美 朝顔がいっぱい咲いている。髪を上げたりと涼やかな風情がある。
小出楢重 Nara wo Sanpo Suru Seiyojin 1919 百年前の奈良を観光する西洋人。
小出楢重は若い頃に奈良の木辻遊郭の近くに下宿していたことがある。その時のキョーフ体験を読んだことがあるが、爆笑してしまった。
彼にとって奈良とは青春の地でもあり、ひぇぇぇぇな場所であり、そしてなんとなくやっぱり好きな土地なんだと思う。
小出もわざわざパリへ絵画修行に出て行ったのだが、本人は早よ日本へ帰りたいという気持ちが強かったようで、別に影響なんか受けてない、みたいなことを言うていたが、絵がよくなったのはやっぱり帰国後なので、本人は認めたくなくてもいいものを内に育てたと思う。

三期に展示替えのあった展覧会に閉幕寸前に行ってるわけだから、見損ねたものもとても多いが、かなり興味深い内容の展示で、本当に面白かった。
図録は凶器かと思う厚さで、今回はちょっとパスしたが、いい内容だった。
これまで本当にごく一部でしか大阪の絵を紹介する展覧会はなかったが、これが嚆矢となって研究も進み、どんどん展覧会があればと思う。
随分書き上げるのに手間がかかったが、この展覧会の感想もここまで。
読まれた方、お疲れさまでした。