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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」をみる その1

京博でついに佐竹本三十六歌仙絵を中心とした展覧会が開かれた。
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31人もの出席。これはもう大事件である。全体をいれると37枚、欠席数が少ない。
これは凄いことだ。
あと80年ばかり21世紀はあるが、これだけのラインナップで展示が出来るかどうか。まあ無理な気がする。
わたしも1990年頃から見ているが、もしかするとこれでほぼ全員見たか見ていないかというところに来ている。
今回の欠席は斎宮女御など数人だが、その斎宮女御は1990年の京博「やまと絵の美」展でみているから、数に入れる。
それにしても随分と集まったものだ。こんなことがあるとはなあ。
絵巻切断事件から丁度百年。
佐竹家から売り立てられてあまりに高価だということで断簡にすることになったのだが、やっぱりそこにわたしのような庶民は怨みを懐く。
そのままでいられないということでの切断で、先に当代きっての名手・田中親美による精密な模本が作られる。
実は田中自身も本当はこの分割会に仲間入りさせてもらえるという話だったが、それは反故にされ、田中は晩年まで憤っていたそうだ。
この辺りの経緯をまとめた面白い読み物がある。
「絵巻切断―佐竹本三十六歌仙の流転」1984年刊行で、今では随分な高値がついている。

さて真打登場までに同時代の美を堪能しよう。

第1章 国宝《三十六人家集》と平安の名筆
奈良時代の漢字の美からかなの美へ移行した平安時代。
三筆、三蹟などと能書が多く、流派も立ったのがこの時代。
字そのものもよいが、それを書く紙に工夫が凝らされ、贅の極みを見せもした。

国宝 手鑑「藻塩草」 一帖 奈良~室町時代 八~十六世紀 京都国立博物館  やはり良いものばかり集めた帖は見ごたえがある。

綺麗な色紙が集まる。
継色紙「いそのかみ」 伝小野道風筆 一幅 平安時代 十一世紀
升色紙「かみなゐの」 伝藤原行成筆 一幅 平安時代 十一世紀 東京 三井記念美術館
寸松庵色紙「ちはやふる」 伝紀貫之筆 一幅 平安時代 十一世紀 京都国立博物館
高野切(第三種)「貞観御時に」 一幅 平安時代 十一世紀
堺色紙「わたつみの」 伝藤原公任筆 一幅 平安時代 十二世紀 大阪 逸翁美術館
これらにはそれぞれ逸話があり、それに因んだ呼び名が与えられている。
字だけでなくそうしたところを踏まえて鑑賞するとなお面白い。

『和漢朗詠集』巻下断簡「帝王」 藤原定信筆 一幅 平安時代 十二世紀 京都国立博物館  これなどは表具がとてもいい。獅子がいて可愛い。更紗が使われているのもいい。
定家の字はアクが強くて読みにくすぎてはっきり言ってすごくニガテだ。
学生の時に彼が筆写した「更級日記」には非常にてこずった。あの怨みが今もある。
(同じように個性の強い蕪村の字は「いいよねー」と思うので、これはもう完全に授業が悪いのかもしれない)

やはり特別奇麗なのがこちら。
本願寺の三十六人家集 素性集 一帖 平安時代 十二世紀 京都 本願寺  わたしがみたのはこの分で、継紙がまことに優美。
他の歌人の分も素晴らしい。
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第2章 〝歌聖〞 柿本人麻呂
人麻呂尽くし。いろんな絵師による人麻呂絵。

漆器のいいのが集まる。
州浜鵜螺鈿硯箱 一合 平安時代 十二世紀  州浜の上に鵜。周囲に千鳥の群れを配す。手の込んだ構成。

菊慈童蒔絵硯箱 一合 室町時代 十五世紀  留守文様。菊と柄杓と観世水。

住吉蒔絵硯箱 一合 室町時代 十五~十六世紀 京都国立博物館  蓋の裏に太鼓橋があるそうな。だが横げたがなく橋げたのみ。珍しい。

つづく。
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聖域の美 中世社寺境内の風景

大和文華館の秋の特別展は中世の信仰の場を描いた絵図を集めていた。
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わたしは地図を見たり観光マップを見たり、鳥瞰図や参詣曼荼羅を見るのが好きだ。
社寺境内図も好きだが、寺院の場合これはきちんと配置に形式があるそうで、どこに何があるか謎ということはあり得ない。
四天王寺様式、法隆寺様式などがそれだ。どちらも聖徳太子建立の寺院。
だからか、四天王寺へ行くと大工の始祖として聖徳太子は崇められている。
金剛組という世界最古の会社も四天王寺建立のために組織された集団だった。
とはいえ、今回はそれは措いておく。

1. 聖域の静謐と荘厳

女神像 平安時代  檜材の一木造り。平安初期の信仰の形がここにある。女神像はもう木肌が露になり色はとどめていないが、まだ形は活きている。
片膝を立て、その左手には持仏を支えるのだが、その持仏の首も女神の手首から先も失われている。右手もない。
しかしそれで荘厳さが失われたわけではない。欠落は信仰心・畏怖心を失わせない。形が変わろうとも。
この像はどうやら宇佐神宮から流出したものらしい。全ての八幡神の始まりの社。
それにしてもこの像をここで見るのは初めて。

一字蓮台法華経 平安末期  この時代の法華経への熱く・篤い信仰心は殆ど熱狂的な潮流だと思う。だが、見返しの絵がなかなか笑える。
一室で法会の最中、数人の法師がいるが、みんなええ加減である。貴族の男は居眠りしているようで、傍らの女がそれを見ている。
「扇面法華経冊子」の下絵でもそうだが、みんなイキイキ好きなことをする。

笠置曼荼羅 鎌倉時代  この絵を見ると、かつての笠置の繁栄を思うのだ。わたしなどは今の笠置を見知っているから、それが笠置の摩崖仏であり、こんなにはっきりした絵があったというのがうそのようだ。南北朝のあの戦いで失われてしまったものは大きい。
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ここでは回廊などもあり、花壇もある。遠くから来たらしい女人もいる。
現代ではお寺はあるが、信仰の場所というより楽しいハイキングにちょうどいい所となっている。なお、後醍醐天皇行在所の碑がある。詳しくはこちら

柿本宮曼荼羅 鎌倉時代  檪本の和爾下神社(治道社)がそのあたりだという話。
早くに荒廃していたらしい。本地仏が浮かぶ。

日吉曼荼羅 鎌倉末期  十社殿ごとに金色の円相。神仏の影。
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春日曼陀羅 南北朝  上空に浮かぶ本地仏たち。月が丸い。

ここまではしばしば展示される大和文華館の仏画。
2014年の「社寺の風景 宮曼荼羅から祭礼図へ 」展にも出ていた。
当時の感想はこちら

比叡山東塔図 鎌倉時代 京博  剥落と劣化が著しいが、一方で小さく描かれた社殿それぞれには朱が鮮やかに残る。

高野山水屏風 鎌倉から南北朝 京博  これがとてもよかった。
チラシはその一部。
右隻 雪の残る奥の院から始まる。3扇までは緑、4扇には紅葉となり、鹿もいる。鹿、鹿、鹿。5扇にはかなりたくさんの鹿。くつろぐ鹿たち。途中の寺院の中庭には見返りの犬もいる。そして下部には半身だけのぞく猪が登場。6扇にはとにかくやたらと鹿が多い。高野山、鹿が多かったのだなあ。
左隻 白い狛犬が見える。稚児を連れた僧侶も歩く。春の花が咲く。牡丹など。旅人もいる。3扇には猟師二人も。柳の下には鹿。4扇は桜、桜、桜。5扇は池。カモやオシドリがいるから時間が進んだのか。そして6扇には嫌がる馬を引っ張って門内に入ろうとする武者。これが実は13世紀の事件をモチーフにした絵らしい。
何やら不穏だが、何があったのかわたしにはわからない。

園城寺境内古図 狩野派 桃山時代 京博  元は前期に出た鎌倉から南北朝の図。これ。
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それを数百年後に狩野派がカバー+いろいろ。
惣門、浴堂など。桜咲く境内。五大堂、勧学院、稲荷社、月輪門など。大寺院の様子。

出雲神社絵図 鎌倉時代 京都・出雲大神宮  亀岡の丹波一之宮の社。
そういえば現代の日本画家で諸国の一宮ばかりを描く作家がいる。西田眞人という人で、去年神戸ゆかりの美術館で展覧会があった。

2. 物語をはぐくむ場所―縁起と境内

伊勢曼荼羅 南北朝 正暦寺 内宮・外宮それぞれを描く。共通するのが四天王が四方の隅にいる表現。この状況を見ると山下和美「ランド」を思い出す。四神が住民を見張る。こちらは四天王が内宮・外宮を守護する。中には赤い色の顔があり、緑の顔はない。
大和姫(皇女)と出会う山神(猟師の姿)。なお倭姫ではない表記。
外宮にはぐるぐる道がある。

高野山曼荼羅 室町時代 東京藝大  目立つのは白い石塔、五輪塔と卒塔婆。それがぐるぐると続き、気づけば奥の院へという道のりなのである。ところどころに鹿がいたり、僧侶と参詣人などなど。高野聖もいるだろう。ずーっと続く道、生者より死者の方がずっと数が多いのだ。

東大寺縁起 室町時代 奈良博  色がいい。金ぴか―っ参詣人がたくさんいて賑やか。大仏殿どーん。たなびく雲には鋳物師と牛飼い少年とが仏になって乗っている。二月堂の前には良弁杉があるが、そこに金色の鷲がとまり、成人した良弁もいる。
聖人伝説としての鷲による人さらいなのだ。だから金色の鷲。

東大寺曼荼羅 室町時代 奈良博  こちらはこれまた色のはっきりした上に形もきちんとしていて、まるで山口晃画伯描く都市風景図のようだった。←修復済み。
手向山、三月堂、大仏殿、その大仏殿の配置がまたトリッキーで面白い。良弁杉にはやっぱり金鷲と幼子と。参詣人はあっちこっちに…
なお、奈良博は収蔵品データベースを公開しているので、そちらで画像を見ることが可能。

かるかや 室町時代 サントリー美術館  素朴絵。荒々しい筆致の背景と素朴なキャラとの対比。
自然風景、定規で描いたような建物、キャラ…みんな違う。
場面は石童丸が高野山に入り、父と知らず道心と出会うところ。納骨と卒塔婆とで荒涼としている。
わたしは善光寺手前の西光寺でだいこくさんの語られる絵解きを二度ばかり見たが、わかっているのにやはり泣いてしまった。

3.境内の記憶と再興

東山泉涌律寺図 室町前期 泉涌寺  応仁の乱以前の寺院のありようを描く。素朴な絵柄ながら唐風と和風の建物の混在を描く。

慧日寺絵図 室町時代  福島・恵日寺  9世紀初頭、興福寺の徳一の創建で明治初頭に廃寺。会津磐梯山のふもとにあるそう。今のお寺は明治37年に復興され、その時に今の名に変わる。30年後の復興が早いのかどうかはわからないが、そんな由緒のある寺も飛んだ災難を受けたのだ。 
絵では右上に会津磐梯山が見える。桜や柳が描かれている。
どうでもいいが、ツイッターで「会津磐梯山」ならぬ「会津パンダ遺産」と言うのを見て笑ったなあ。

松尾神社絵図 室町時代 松尾大社  稚拙な絵柄ながらリアルらしい。室町時代の境内。
わたしは平成時代の松尾大社しか知らない。

雪舟細川荘絵図 室町時代 16世紀半ば 池田氏歴民  おお、久安寺。多田荘平野湯…ここがあれよ、三矢サイダーの発祥の。もともとこの辺りから宝塚、有馬には鉱泉があるから炭酸せんべいもサイダーもあるのよ。
大道法師足跡というのもあり、なんやと思ったらダイダラボッチでした。この辺りにもそんな巨人伝説があったのだね。
今の高槻市藤の里というところに碑が立っているそうな。
絵の下方に猪名川が長く流れる。

三上古跡図 室町時代 滋賀・御上神社  いわゆる近江富士の三上山、俵の藤太のムカデ退治の話がある。
草深い中に家々がある。薄水色の山々。意外なほど多くの寺社があった。

報恩律寺七堂図 1568 兵庫・報恩寺  1505年に焼失したのでこの境内図を拵えて勧進して回った。

4.にぎわう境内

釈迦堂春景図屏風 狩野松栄 室町 京博  実に楽しそうな人々が行き来する。お店も長屋の井戸も活気がある。
洗濯する人々、舞う少年、鷹狩、猿回し、みんな楽しそう。

洛中洛外図帖 狩野派 室町 奈良県立美術館  宇治、金閣、大徳寺、北野、相国寺、この辺りが出ている。
金雲。賑わう宇治、石の舞台に松が集まる相国寺など、どこもかしこもいかにも。

吉野花見図 狩野派 桃山 細見美術館  太閤の花見だけでなく庶民の愉しむ様子も活写。説経語りもいれば物売りも色々。左へ向かうほどに桜も増す。太閤は唐風な輿に乗って鳥居をくぐる。

京奈名所図扇面冊子 江戸 60冊のうちから12点。前掲の展覧会の時にもたくさん出ていた。久しぶりの再会。
今回は日吉山王、石山、竹生島、白髯神社といった滋賀の名所も。離宮八幡、石清水八幡、宇治、奈良は東大寺、春日大社、三輪大社、龍田川…細密描写なのでとても緻密でいい。

竹生島祭礼図 江戸  たくさんの船が島の廻りに。

高野山図屏風 江戸 堺市博物館  町石道と不動坂の道、たくさんの寺院が見える。白い五輪塔や墓が並び、ところどころに石仏も。

浅草寺境内図屏風 蹄斎北馬 江戸 福井市立郷土歴史博物館  12/17,18の年の市の様子。とにかく賑やか。それも小さく描かれた人々がひしめきあうのなんの。冬で寒いからかほっかむりが多い多い。

野々宮図 富田渓仙 昭和  これは初見。渓仙はこの界隈に住まったのでお散歩コース。小さいお社が3つ並ぶ様子を小ぢんまりと描く。和やか。キャプション曰く「和菓子のように甘く落ち着いた色調」…小豆色や薄い抹茶色が載るね。
ほのぼのとよい絵。

出かけたくなるところが多かった。
11/17まで。


文字を語る 白鶴コレクションにみる漢字造形の変遷

東灘アートマンスの始まっている最中、白鶴美術館へ登った。
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古代の文物に刻まれた文字から、日本の中世までに描かれた仏画や絵巻の文字をピックアップした展覧会だった。

青銅器に刻まれた文字をみる。
とはいえこちらはその古代の亀甲文字も中国語も読めないので、研究・解読された言葉を見るばかりだ。
今回は殷のは一つだけであとは西周のばかり。奉納ものが多く、そうした需要での制作ということを知る。
他にもこれを所蔵する理由と言うのも知る。

象文卣(ぞうもんゆう)案外ゾウさんがどこにいるかかわかりにくくもある。
この当時既にゾウさんは中国大陸にも来ていたようで、出光美術館の青銅器にもゾウさんがのしのし。
ゾウ使いも一緒というのがある。

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賢愚経甲巻 本当なのかと思うほどに白く綺麗な紙にいい字が載る。これはマユミの和紙。
和紙はやはりつよい。保たせ方にもよるだろうが、今の紙ではこんなに長くは保たないそうだ。

わたしの大好きな白石蓮台も出ていた。以前のツイートから。

ところでこの白石蓮台、ここにも文字があり、呂景により「国の繁栄と儲宮(皇太子)の幸を祈る」という意味のことが書かれているのだった。
セルロイドのフィギュアぽいのが可愛いが、これもまたこうした意図を込めて作られたものだった。

高野大師行状記 四巻分が出ていた。全面ではないが、なかなか見れないので嬉しい。
巻数ごとに執筆陣が違うことが記されている。仁和寺関連の人々。絵は金岡有康。
・波間に龍が出現 ・恵果和尚 ・虚空に文字を書く大師 ・川越しに書いた字が寺の扁額になる

敦煌の莫高窟から出たものがあった。
映画「敦煌」で莫高窟の仏画を描き続ける柄本明の演技が怖すぎて、いまだに莫高窟の仏画を見ると「こわ…」となる。
薬師如来画像 929  昔は本当に痛切にすがっていたから信仰が広かったと思う。  
千手千眼観音菩薩図  やたらカラフルだが、やはり怖いのだった。

文殊菩薩図 伝・珍海 鎌倉時代  これは文殊少年で五髷。髪をかなり引っ張っているのがよくわかる図。

お経色々。
・法華経 巻第八(色紙経) 平安時代 金峯山伝来  明治に流出だろうな。色々と素晴らしいお経で、やはり平安時代のは派手で華やか。
・中尊寺経 平安時代 中尊寺伝来  銀文字。とても綺麗。
・二月堂焼経 奈良時代 東大寺伝来  入法界本である。善財童子の旅。銀文字の美。焼けたことで色が留められた。
素晴らしい美。
「法身遊行 十方見諸 如来菩薩」という文言が目に残る。

青磁日月花生 元から明代  さすが濃い色。胴に八卦が。中国のこの時代の青磁の濃さ、好きだ。

三彩詩文枕 金代  これも以前から何度も見ていて詩文を写していたと思ったが、見当たらなかった。
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月明
池四面垂楊柳涙
濕衣襟離情感𦾔人
人記得同携手口
従来早是不廊溜悶
酒児渲得人来痩睡
裏相逢連忙先走只
和夢裏厮馳逗

常記共伊初相見対
枕前説了深又願到得
而今煩悩無限情人
観着如天遠■
好事間祖離愁怨似
梢得一口珠珎米飯嚼
却交別人嚥

中呂宮 七娘子


文字入りのやきものは他にも。
文字天目茶碗 南宋  「福寿」などと字が入る。

文字への深い執着があった。

続いて新館の絨毯。
こちらはイスラーム世界のものを主に集めていた。
様々な意味などがあるのだろうがやはりよくわからない。

チューリップだけでなく他の花も文様化されている。
わたしの好きな故事を描いた絨毯も出ていた。
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下から上へ物語は推移する。

12/8まで。
絵などは展示替えがある。

「西洋近代美術に見る神話の世界」をみる その2

続き。

マックス・クリンガー 『オヴィディウスの「変身譚」の犠牲者の 救済』 1879年 高知県立美術館 エッチング、アクアチント
シリアスな絵柄で壮大なパロディ。ギャグになってしまったのがこちら。
・ピュラモスとティスベ  起承転結になっているのかいないのか、アララな展開に。
鼠柄の柱、リュカオンの来訪、けがで寝込んだり…なんやかんやとシリアスな絵で「犠牲者の救済」を謳いながらも全然そうなってないところがミソ。
・アポロンとダフネ  こちらもそう。出会いの後、逃げて月桂樹になるはずの女が、案外乗り気になったところへ牛登場。そのままアポロンは牛に連れていかれてしまう。
まあいろいろあるわね。

フランツ・フォン・シュトゥック 《ミュンヘン造形美術家協会(分離派) 国際美術展》 1898-1900年頃 リトグラフ・紙 77.7 × 37.3 cm サントリーポスターコレクション (大阪中之島美術館寄託)
ミュンヘンのゼセッシォン。宛名の横顔を描く。シュトゥックは妖艶なサロメも描いているが、これはシンプルな横顔。
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サントリーポスターコレクションといえば1990年にグランヴィレ・コレクションを入手したサントリーが当時存在していた大阪府立文化情報センターで展覧会をしたのが最初だった。
その後に天保山のサントリーミュージアムで所蔵保管していたが、閉館後は大阪府が寄託されていた。


第Ⅱ章 伝統から幻想へ

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《ユピテルとテティス》 1807-25年頃 油彩・カンヴァス 82.0 × 65.0 cm 東京富士美術館
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色のはっきりくっきりした作品。巨大なユピテルと細いテティス。ほぼ同じような構図の作品がモローにもあるが、あちらは「ユピテルとセメレー」。
ただしこのテティスはユピテルに誘惑されたのではなく、逆に自分の息子アキレウスの為にユピテルを懐柔しようとする様子。

ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《愛の秘密》 1855-56年 油彩・カンヴァス 33.0 × 61.0 cm ユニマットグループ
寝そべる裸婦の傍らのキューピッドが何かをささやく。女の手は川に少しばかり浸かっている。
コローの数年前「美人画」ばかり集めた展覧会が西洋美術館と神戸市博物館で開催され、多くのお客さんを集めたが、わたしもコローは森林の風景描写より美人画の方が好きだ。
風景画をメインにした人の人物画というのはとても魅力的なことが多い。コローの美人画も英国のターナーの春画もよかったことを忘れない。

ナルシス=ヴィルジル・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ 《クピドから矢をとりあげるヴィーナス》1855年 油彩・カンヴァス 67.5 × 39.0 cm ユニマットグループ
この人の絵にも会えるのは嬉しい。アルマ・タデマ同様、いつかまとめてじっくりと見たい画家のひとり。
ちびこから「こらっ」。でもすぐに元の木阿弥。

オノレ・ドーミエ 『古代史』 1841-43年 リトグラフ・紙 伊丹市立美術館
例によっていかにもな展開の絵。
・アリアドネの糸  その糸を巻いてゆく男
・美しきナルシス  どう見てもおっさん。
・ピュグマリオン  「割れ鍋に綴じ蓋」というのが西洋にもあると思う。

ジャン=フランソワ・ミレー《眠れるニンフとサテュロス》1846-47年 油彩・カンヴァス 38.1 × 30.3 cm ユニマットグループ
背を向けて眠る女。闇に紛れて入り込もうとするサテュロス。
ユニマット美術館があった頃にもっと見に行けばよかったなあ。

テオドール・シャセリオー 《アポロンとダフネ(『アルティスト』誌より)》 1844年 リトグラフ・紙 22.7 × 15.9 cm 町田市立国際版画美術館
男の目がじっ とみてくる。

アレクサンドル・カバネル 《狩の女神ディアナ》 1882年 油彩・カンヴァス 106.5 × 75.5 cm 栃木県立美術館
今回のチラシ。頭上に下弦の月の飾りをつける。(黒目に「上弦」とか「下弦」とか入るわけではない)
手に弓矢を持ちつつ休息中の様子。何か物思いにふけっているらしい。
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ジャン=ジャック・エンネル 《横たわる裸婦》 1861年 油彩・カンヴァス 69.5 × 93.5 cm ユニマットグループ
こちらを見ている。青い布が少しばかり身を隠す。池のほとりでこんな女がいるだけでも古代的なのかもしれない。

ジャン=ジャック・エンネル 《アンドロメダ》 1880年頃 油彩・カンヴァス 182.0 × 108.0 cm 株式会社フジ・メディア・ホールディングス
ほぼ実物大椎図のアンドロメダ。縛られた両の手首には血がにじむ。白い肌に美しい髪。

エマニュエル・ベンネル 《森の中の裸婦》 1880年 油彩・カンヴァス 182.0 × 91.0 cm ユニマットグループ
二人の少女。立つ少女は髪をまとめようとし、座る少女はその腿をみる。
つくづくユニマットのコレクションはロマンティックなものが多くて素敵だ。

アンリ・ファンタン=ラトゥール 《オンディーヌ》 1880年頃 油彩・カンヴァス 37.0 × 45.0 cm ユニマットグループ
岩の上でちょっとばかり艶めかしい姿態を見せる水の精。顔まではわからない。

オディロン・ルドン 《アポロンの二輪馬車》1907年 油彩・カンヴァス 65.3 × 81.1 cm ポーラ美術館
ロングで捉える。ひっくり返りそうな勢いで駆ける馬車、これを見るとそりゃプロでもこれだから素人の息子が御せるはずもなく、パエトーンは死ぬわなと納得。
ルドンのフルカラーは好きだ。黒のルドンより。

オディロン・ルドン 《ペガサスにのるミューズ》 1907-10年 油彩・カンヴァス 73.5 × 54.4 cm 群馬県立近代美術館
こちらは一人乗り。決して困らない速度。

ラファエル・コラン 《田園恋愛詩》 1910年頃 油彩・カンヴァス 65.3 × 46.3 cm 府中市美術館
ダフニスとクロエの純朴さ。 ほのぼのとした幸せ、牧歌的な喜び。
わたしには全く無縁なものだけに何も思わずただただ楽しむ。

エミール=アントワーヌ・ブールデル 《横たわるセレーネ》 1917年 ブロンズ 84.0 × 74.2 × 26.4 cm 姫路市立美術館
腕の線がとても綺麗。ブールデルはいつも腕の構造の良さを感じる。
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第Ⅲ章 楽園の記憶

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《泉(横たわる裸婦)》1905年 油彩・カンヴァス 50.2 × 117.6 cm ユニマットグループ
ふっくらゆったり。もう晩年の作とはいえ、この優しさがいい。

こちらはバリバリ描いていた頃
《水のなかの裸婦》 1888年 油彩・カンヴァス 81.3 × 65.4 cm ポーラ美術館
肌が真珠母貝のようなきらめきを見せる。水面の青のグラデーションに暖色がまじることで水の奥行きがみえてくる。
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コンスタンティン・ブランクーシ 《ミューズ》 1917年 ブロンズ 43.5 × 24.0 × 20.0 cm 姫路市立美術館
かっこいいなあ。姫路で見たときより、こうしたコンセプトの展示で見る方が興味を惹かれる。

ラウル・デュフィ  アポリネール『動物詩集あるいは オルフェウスのお供たち』 Guillaume Apollinaire, Bestiary or the Parade of Orpheus 1911年刊行 木版・紙 群馬県立館林美術館
ひれは五年ぶりの再会。「デュフィ展をみる」のブログで感想を挙げている
・オルフェウス・亀・アイビス
三点出ていたが、これは楽しくて好きだ。線が多く、可愛くはないのだが、楽しい。
そういえば今汐留でデュフィ展が開催していたが、これも出ているかな。

ラウル・デュフィ 《アンフィトリテ(海の女神)》1936年 油彩・カンヴァス 188.0 × 160.0 cm 伊丹市立美術館
手に貝を持つ。1936年当時の最新のかっこよさ、そんなのを感じる。

ラウル・デュフィ  《ヴィーナスの誕生》 1937年 油彩・板 16.0 × 41.0 cm 宇都宮美術館
こちらもそう。その時代の最先端なヴィーナス。別にモードがそうだというのではないが、 なにかカッコいいのだよな。

ラウル・デュフィ 《オルフェウスの行進》 1939年 油彩・カンヴァス 61.0 × 176.0 cm 宇都宮美術館
こちらは28年後。ゾウも虎も飛ぶトラ猫も…

ラウル・デュフィ 《アンピトリテ》 1945年 油彩・板 16.8 × 50.3 cm 宇都宮美術館  先のと同じAmphitriteなのにこちらはピ表記。
嵐の中の美誕。そしてやはり1945年風なムードがある。海岸がそうなのか、なんなのか。いつもその時代の最先端にいる。そしていつも古びない。

マリー・ローランサン 《三美神》 1921年 油彩・カンヴァス 81.0 × 65.0 cm マリー・ローランサン美術館
トリコロール美人。青・白・ピンク。 仲が悪いわけでも張り合ってるわけでもなさそうなところがローランサン。

マリー・ローランサン 《レダと白鳥(Ⅰ)》 1925年頃 油彩・カンヴァス 54.0 × 44.0 cm マリー・ローランサン美術館
白鳥の下心がな…

マリー・ローランサン 『サッフォー詩集』 1950年刊行 エッチング・紙 21.5 × 13.5 cm マリー・ローランサン美術館
作品から三点さし絵がでている。
ギターを持つ女、スワンと。妖女。いずれも深いところまではわからぬながらも惹かれる。

第Ⅳ章 象徴と精神世界

パブロ・ピカソ  『ヴォラールのための連作集』 1930-37年(1950年刊行) エッチング・紙 北九州市立美術館
このミノタウロスのシリーズは好きだ。
・剣でさされたミノタウロス  相手はなかなかの美男。
・カーテンの後ろのミノタウロスと女  こちらの女も綺麗で肉感的。
とはいうものの、醜いはずのミノタウロスだが、わたしはどうしてか彼を焼いて食ってしまいたくなる。

ポール・デルヴォー 《水のニンフ(セイレン)》 1937年 油彩・カンヴァス 103.0 × 120.0 cm 姫路市立美術館
夜、神殿のようなどこかのステーションの中のような、プールのようなところで女達。
いつも、不思議。

ほかにも神話的な風貌を見せる作品、わたしでは理解できない作品がある。
とても面白い内容だった。
11/17まで。

「西洋近代美術に見る神話の世界」をみる その1

美術館「えき」で「西洋近代美術にみる 神話の世界」展が開催中。
こうしたコンセプトの展覧会は大好きで、これまでにもいくつか見ている。
今回の展示もとても良かった。
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序章
古 いにしえ なるものへの憧れ Longing for Ancient Times
いい英訳だな…

ジョヴァンニ=バッティスタ・ピラネージ 『ローマの古代遺跡』1756年刊行 エッチング・紙 町田市立国際版画美術館
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・アントニヌス記念柱 ・アントニヌス神殿の遺構 ・パンテオンの入り口の景観・パンテオン内部の景観・大きな大理石棺  
いずれもピラネージの妄想炸裂でとても魅力的。建築物の確かさはさすがだし、そこに生きた人を配置してもどこかうそ寒く、廃墟感があり、不思議な空虚さが満ちている。
大きな大理石棺 これはローマの夫婦のためのらしく、蓋の上に生前の夫婦の像があり、棺の彫刻も手が込んでいる。蓋には狩猟文の連続、本体にはローマ神話の英雄や神々が刻まれている。
 
『古代の壺、燭台、石碑、石棺、三脚台、 ランプそして古代の装飾』1778年刊行 エッチング・紙 町田市立国際版画美術館
・古代の骨壺・古代の大理石骨壺  きわめて抑制的に描かれているが、それがまたこちらを煽る煽る。
スフィンクスの像がついているのにときめくわけですよ。

さてこちらは本物の古代の遺物。
《赤絵手人物文ピュクシス》 前5-前4世紀(ギリシャ、アッティカ地方) 陶器 高さ14.5 × 胴径31.5 cm 東京富士美術館
舞楽の胡蝶そっくりな羽の生えた人がいるが、胸のふくらみはあっても下半身には別な性が生きている。両性具有の美。

《奉納物を持つ女性像》前20-20年頃(ポンペイ) フレスコ、テンペラ 26.2 × 65.8 cm 岡崎市美術博物館
Woman with an Offering と訳すのか。こうして一つ覚える。
左側に女性が立っていて、手に角盆を持つ。その上には果物らしきものがある。右側へ進もうとしているよう。しかしその右は今のところ虚無で、端にだけ白でレースを思わせるような文様が描かれている。

リュシッポスの作品による 《ヘラクレス・エピトラペジオス(卓上の ヘラクレス)》 1-2世紀(ローマ時代) 大理石 53.0 × 21.3 × 26.8 cm 東京富士美術館
後世の模造品。既にこの時代にこうした模造品が作られ、人気があったのだ。力強い造形。膝のところでパーツが分かれている。


第Ⅰ章 甘美なる夢の古代
ここでも近世の作品が現れる。

ジョン・フラクスマンの端正な線描による版画。
全てローマ神話の図像学に基づくと思われる。

『ホメロスの「イリアス」』1793年(1795年刊行) ラインエングレーヴィング・紙 郡山市立美術館
・パリスをたしなめるヘクトル  末弟が災いの女を連れてきたことについて長子は色々というが、女の色香に溺れるパリスは聞こうとさえしない。その傍らの災いをもたらす女は手にあの林檎をもって素知らぬ顔で座るだけ。
・不和の飛来  「不和」という概念も擬人化される。この場合は神格化されるというべきか。数多くのガレー船がゆく海上のその中空に、松明を手にした「不和」の女神が飛んで来る。

『ホメロスの「オデュッセイア」』 1793年(1805年刊行) ラインエングレーヴィング・紙 郡山市立美術館
・オデュッセウスを救うレウコテア  へたってる彼を救うのは大抵女なので、ここでも船乗りを海難事故から救う救い手としてのレウコテアが来た。
・弓矢を放つアポロンとアルテミス  中空からきょうだい並んでシャッと勢いよく射る。

『神統紀、仕事と日々とヘシオドスの 生きた時代』 1817年刊行 スティップル・ラインエングレーヴィング・紙 郡山市立美術館
・服を着せられるパンドラ  足元にあるのは既に開かれてしまった箱。そこにはネックレスがある。何人もの手で検分されるように衣服を。
・ヘシオドスとムーサたち  和やかな雰囲気。月桂樹の枝を渡される。

フラクスマンは18世紀末に活躍したが、この線描は色彩を載せると1920年代の作品にも見える。
そんなシャープな良さがあった。

フレデリック・レイトン 《月桂冠を編む》1872年 油彩・カンヴァス リヴァプール国立美術館 ウォーカー・アート・ ギャラリー
イメージ (2341)
正面顔の綺麗な女。レイトンは1989年の「ヴィクトリア朝の絵画」展で知ったが、あの時もこの端正で美麗な絵に強く惹かれた。
かれはラファエル前派とは違いアカデミックの長なのだが、神話をモチーフにする辺りは彼らと近いように思われる。
英国絵画の最も耀いていた時代の画家。

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ  『フラワー・ブック』 1882-98年(1905年刊行) リトグラフ(一部手彩色)群馬県立館林美術館/郡山市立美術館
丸い画面に描かれた連作もの。タッシェンから美本も出ている。
・ヴィーナスの鏡
イメージ (2344)
月がヴィーナスの鏡。とても綺麗。足元の鳥達はヴィーナスだから鳩。鳩の群れが水にすれすれのところで飛ぶ。
・天国の薔薇 こちらのヴィーナスは中空の道を鳩の群れと共に行く。
・ヘレンの涙 炎上する城外、トロイのヘレネーなのだ。何を泣くことがあるのだ、彼女が。
どうしても山岸凉子「黒のヘレネー」のイメージが常にあるのでわたしも彼女にあたりが強い。
そしてこのヘレネーの衣裳は裾が青く光るけれど、全体が黒なのだ。

ローレンス・アルマ=タデマ   《お気に入りの詩人》 1888年 油彩・パネル 38.6 × 51.5 cm リヴァプール国立美術館 レディ・リーヴァー・アート・ ギャラリー
この人の絵を見ると嬉しくなる。いつか展覧会があればと常々思っている。
イメージ (2342)
大理石の床のリアルな触感が絵から浮かぶ。絹の柔らかさもまた。
詩人の言葉をよむ。とても長い長い巻物。甘美なる無為を味わう背後の女と壁画とがまたとてもいい。

エドワード・ジョン・ポインター 《世界の若かりし頃》 1891年 油彩・カンヴァス 76.2 × 120.6 cm 愛知県美術館
額縁もとてもいい。イオニア柱がついたもので、その中の絵はまるで宮殿の奥の様子に見える。
花の彫刻をまといつかせた柱。タイルも素敵。プールには花弁が散る。蛇の噴水から水が。
窓の向こうには夕暮れつつある山が見える。窓にもたれて眠る女。
その手前では二人の女が動物の骨を使ったサイコロ占いをしている。一人がサイコロを持ち、一人が何か笑いながら指差す。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 《フローラ》 1914年頃 油彩・カンヴァス 102.5 × 69.4 cm 郡山市立美術館
久しぶりの再会。花を摘む美しい女。その首筋がとてもいい。

チャールズ・リケッツ   オスカー・ワイルド『スフィンクス』 1894年刊行 木口木版・紙(本)町田市立国際版画美術館
セピア色の装幀。惹かれる。


続く。
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