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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

南蛮の夢 紅毛のまぼろし

府中市美術館の展覧会には、いつもときめきがある。
『南蛮の夢 紅毛のまぼろし』
タイトルを見ただけでときめきが生まれるのに、okiさんからチケットをいただいたのだ。
ときめき大増幅で、府中へ向かった。
副題『安土桃山から夢二まで』ますますわたしの好みではないか。
大阪の中津に『南蛮文化館』という5月と11月にしか開館しない南蛮文化専門美術館があり、以前出かけたことがある。そこの所蔵品や京博のそれらを思いながら会場に入る。

今回のコンセプトは、前述の南蛮紅毛人の闊歩した時代を想う『夢 まぼろし』を集めたものなので、同時代の遺物はそんなには出ていない。美術館のねらいはこうだ。
このたびの展覧会は、南蛮や紅毛の世界に触発され、思いを馳せた画家たちの作品を展望する、初の試みとなります。また、近代の人々のロマンティシズムをかき立てた、安土桃山・江戸時代の南蛮・紅毛に関わる遺品も併せてご覧いただきます。近代びとたちが過ぎ去った時代に見た夢やまぼろしを、追体験してみたいと思います。」
ではその通り追体験の旅に出よう。
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<政宗と常長―歴史画の中の南蛮>
仙台市博物館所蔵の国宝・慶長遣欧使節関係資料品がいくつかある。
十字架と聖母子像のあるメダイヨン、鞍などのほか、支倉常長の肖像画など。その模本を児島虎次郎が描いているが、それもたいへん巧いと思った。
そういえば‘85大河ドラマ『独眼竜政宗』ではその悲劇の人を『青葉城恋歌』のさとう宗幸が演じていた。

慶長遣欧使節と言えば、山種所蔵の守屋多々志の、早大の前田青邨の、少年像が思い浮かぶ。それから古いことを言うけれど北村寿夫『紅孔雀』もまたこの使節ゆかりの物語なのだった。枢機卿から鍵を渡されて、そこから波乱万丈の物語が始まる・・・
わたしはラジオドラマではなく、人形劇で見た世代。フィルムライブラリーでは映画も見たが。(東千代之介があんまり美麗でドキドキした)

日本画家たちによる肖像画がいくつも出ていた。
今村紫紅『伊達政宗』はハマ美にあるから何度か見ているが、福田恵一という画家は初見。
ロマンを感じさせる歴史画が多いので、なかなか私の好み。
『信長上洛』 付き従う少年も鬣をきちんきちんと分け結ばれた黒馬も、みんなきれい。
『淀殿』 凄まじく派手な打掛は辻が花ではないように思う。大きな絵だが、これは大坂城天守閣所蔵なのに、記憶がない。

<蘭学の風景>
亜欧堂の版画などで、腑分け図や地図、ネーデルラントの独立図などがある。
司馬江漢『皮工図』鞣す様子も描かれ、その『江漢工房』を描いたのは野田九甫だった。
野田は『阪神名所図』などに名作が多いが、忘れられた画家なのかもしれない。

<南蛮・紅毛の追憶>
桃山から江戸時代の作品は長崎歴史文化博物館から出ているが、ここは少し前に大評判になった『BIOMBO』展にも名品を出した博物館なのだった。
『南蛮人来朝の図』 南蛮船と、そこから降りて街中を行く一行。数珠屋がへんに目立った。船にはやはりナゾな部屋がいくつかある。
『螺鈿蒔絵四季彩洋櫃』 これは今まで見てきた螺鈿蒔絵洋櫃の中でもベストだと思う。
すばらしい美しさに満ちていた。花鳥図なのだが、楽園をそのまま工芸にしたかのような構図だった。本当に見事だと思う。
『阿蘭陀人食事の図』 テーブルには大皿に牛の頭が、フォークが可愛く描かれている。
木版画なのだが、なんとなく面白い。
ガラス絵もいくつかあり、長崎文化の楽しさが感じられる。いいなぁ、こういうの。

中村岳陵『南蛮人渡来図』 七人の南蛮人がいる。(数えたのだ)へんな黒犬が可愛いし、鸚鵡やトラと言った「南蛮」そのもののような生きものがいるのがいい。商人もいれば、出迎えるパーデレもいる。

川上澄生と竹久夢二ほど<南蛮紅毛>ものを多く描いた画家はいないのではないか。
エキゾティックさにときめいた、と言う以上に本当に好きなのだと感心するばかりだ。
画像はこちらで見れる。
色んな木版彩色画を見たが、どれもこれも本当にこの展覧会タイトル『南蛮の夢 紅毛のまぼろし』そのものだと思う。
むろん描いた川上を始め、この展覧会を見る我々は誰一人としてその頃の南蛮の夢も紅毛のまぼろしも実際には見ず、ただ追体験しているのに過ぎないが、それにしても川上のこの作品群の魅力はどうだろう。
我々のイメージする「日本に来た南蛮文化」そのものを、川上はまるで現地に出かけて実際に楽しんだように、描いている。この展覧会の中核として、川上の作品は活きている。

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<夢想する人々>
福富コレクションから清方や輝方の名品が来ていた。
鏑木清方『化粧』 昭和戦前のパーマネントをかけた髪に着物の若い女がいる。その背景には南蛮船と鸚鵡がある。このパーマネントを見て思い出すのが祖母の若い頃の写真。
昭和初期のご大典の提灯行列のときの姿などが、丁度こんな感じだった。

池田輝方『ぎやまんの酒』 久しぶりに見たが、以前から大好きな作品。背景の壁のカラフルなグリッドが素敵だ。ぎやまんに入れた洋酒を味わい、うっとり頬を染める・・・
『ぎやまんの鐘』なら仮面の忍者赤影か。

川上『万字人物』 卍に人の姿をハメたものでウィットに富んでいて面白い。ちょっと武井武雄的諧謔のようだった。

牛田ケイ村 『蟹港二題 藁街の夕(中華街)』 「これ、見てるわ」と嬉しくなった。つまり牛田の作品とは知らず、偶然手に入れたチラシの絵なのだ。あのちょっと妖しいムードのある宵の街角・・・鴉片の悪夢に満ちたような。

金森観陽『琴棋書画』 遊興に溺れ、だらけた笑い顔を見せている若い奴ら、歌舞音曲に囲碁・・・楽しい遊び。そして書画の方は武家の座敷での風景。母上はきちんと端座され、その前で前髪立ちの兄上は幼い妹の書をみてやっている。・・・だらけた顔はそのままだが、ここでは優しさにしか見えない。母上の絞りの着物は豪華で、白梅の柄も素敵だった。

ウンスンカルタの実物を久しぶりに見た。これは長崎歴博所蔵品。わたしは以前芦屋の滴翠美術館で見たことがある。このカルタで遊ぶ若衆を描いたのは清方だが、今回はその絵はない。(ハマ美所蔵)

夢二の一連の南蛮ものは、艶かしい匂いが伴う。
『邪宗渡来』 パーデレが手に持つ桃は何の暗喩なのか。それともただの捧げものなのか。
すぐそばの遊女の着物の柄と無縁ではないようにも見える。
白秋の『邪宗門』が読みたくなってきた。または木下杢太郎『南蛮寺門前』が。

<信仰、禁教>
中村大三郎『花を持てる聖者』 聖堂の中、百合を抱え込む聖者がいる。テンクルと光輪とが金色だった。これは’90年に『近代日本画の誕生と歩み 京都藝大所蔵品展』で見た作品なので、実に18年ぶりの再会だった。

川崎小虎『聖書を持てる少女』 小虎はかなり好きな画家なのだが、描く題材によっては全く別な技法で描く画家だと思う。きれい系と可愛い系。これは可愛い系。
両目の感じが少しちぐはぐな感がある少女。
まじめそうな少女はまっすぐにこちらをみつめている。

小虎『教会堂の夜』

この絵もたいへん好きなのだが、これも前述のそれと同じパターンに分類される<可愛い系>の作品。夜の絵が好きなので、この絵を見ると嬉しくなる。

勝田哲『天草四郎』 '29と’65の二枚の作品。先のはきりっとしているが、後のは美少年だと言うことが意識に残る。勝田の絵と言えば、祇園を歩く女などのイメージがあるので、こうした美少年を見るのもいいものだ。

清方『ためさるる日』 右幅が来ていた。大正期の清方の絵は何もかもが艶かしく、深い魅力に満ちている。どうにもならないくらい好きな作品が多い。これもそう。この遊女のまなざし、重たそうな櫛笄簪と、髪の生え際・・・それを見るだけでゾクゾクする。

松本華羊『伴天連お春』 これも福富コレクションで何度か見ている。処刑前にせめて桜を見てから死にたい、と願った女の姿。はかなく、そして艶かしさも哀しみに変わる美。
着物の襟の十字が目に付く。白い手首の鎖が痛々しい。
ここにはないが、小林古径にも十字架を縫い取った着物を着た娘たちが手毬遊びをする絵があった。彼女らも皆、こうして処刑される運命にあったのだろうか・・・
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川上『楽園追放B』 アダムとイブの楽園追放と言うより、道行にしか見えない艶かしさがある。現に女は泣きもせず、どことなく嬉しそうでもある。行く先がどこであれ、この男と一緒ならあたしはいいの・・・そんな声が聞こえてきそうな顔つきだった。
なんとなくこれは版画と言うより、染付けにして皿に欲しいような作品である。

守屋多々志『キオストロの少年使節』 修道院中庭に面した廻廊(キオストロ)に佇む少年たち。白い庭には井戸があり、鳩の姿もある。釣瓶はあるが水汲みは出来そうにない。
尼僧たちと修道士との遭遇。
守屋の歴史画群は、「日本画の最後の歴史画名品」という趣がある。

会期の都合で見れなかったのが青邨『切支丹と佛徒』と三露千鈴『殉教者の娘』。共にチラシ掲載。
先のは東博で見ているが、どちらも絵を背景にしている。
後のは、’02『木谷千種 その生涯と作品』展でも見ている。彼女は千種の弟子で、その生涯については上記展覧会図録にやや詳しく書かれている。以前、白澤庵コレクションでも見たが、近代大阪の女流画壇の展覧会をもっともっと見たいと思う。

どうも近代日本では、版画家と日本画家しか『南蛮の夢 紅毛のまぼろし』を見なかったようだ。
洋画家は南蛮紅毛ではなく、フランスやイタリーの夢まぼろし、あるいは現実を味わい、それを描いていたからだろう。
この展覧会は、本当にわたしには楽しいものだった。
子供向けワークシート『南蛮探検隊』にも参加して、満点を貰ったのも嬉しい。
(ハガキも貰った♪)
府中市美術館での展覧会、わたしは常に深い満足を覚えている。展覧会は明日まで。

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コメント
赤影
こんばんは。
赤影でしたねー。僕もとても気に入った展覧会です。今思い出しても夢とまぼろしに浸れます。
>近代日本では、版画家と日本画家しか『南蛮の夢 紅毛のまぼろし』を見なかったようだ。
不思議といえば不思議ですね。
『淀殿』が大阪城天守閣所蔵とあったので、てっきりご存知かと思っていましたよ。
2008/05/10(土) 23:10 | URL | キリル #ZgLpcwNk[ 編集]
キラリと光る涼しい目
キリルさん こんぱんは
大阪城や堺所蔵の作品が多い割りに、どうしてか見せてもらってない~と気づいたところです。
こういう展覧会を企画できるところに府中市美術館の眼力と行動力を感じますね。
でも出来たら巡回してほしいです。
素晴らしい内容なのに、あんまり宣伝もなかったようです。
2008/05/10(土) 23:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんんちは
この展覧会は「安土桃山の名宝から夢二まで」と言う副題がついていたのですね。素敵でした。夢二もよかったし、川上澄生も、そして川崎小虎のああいう絵はじめてみました、「教会堂の夜」大好き。私もワークシートでエハガキもらってきました。
2008/05/11(日) 12:07 | URL | すぴか #-[ 編集]
すぴかさん こんにちは
ロマンティックな夢に満ちた展覧会でしたね。
思えばわたしが子どもの頃は、外国人を見かけると、
「ガイジンや、ガイジンや~~」
とドキドキしたものです。
あの感覚が蘇ってました。
2008/05/11(日) 15:37 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
そう言えば、かの人々にとって「南蛮の夢 紅毛のまぼろし」だった世界を、先日実際に見て帰って来たのでした。 ザビエルの襟のフリフリは現地語では「レタスちゃん」という意味だとか…

渡来した人や品物や土産話から、色々に夢想した世界を表現しても、その中に感じた美を選び出した時点で、何とも和風となってしまう。

いやそれが悪いのではなく、そこがいい。
日本人だからこそ描けた「南蛮の夢 紅毛のまぼろし」だから。
2008/05/13(火) 17:35 | URL | 山桜 #-[ 編集]
山桜さん こんばんは
結局それぞれの文化の違いが「夢まぼろし」を見せてくれるんでしょうね。
明治初に来日した欧米人の見た夢の国ニッポン。
浮世絵への憧れから生じるジャポニズム。
思えば同じですね。

わけのわかんない勘違いも思い込みもあるけれど、それが却って素敵だと思います。
2008/05/13(火) 18:42 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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