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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

美術の中の遊びと装い 四条河原遊楽図屏風修理完成記念展

静嘉堂文庫には色々な名品があり、国宝と重文だけ集めた展覧会まで行なったことがある。
だから『四条河原遊楽図屏風』修理完成記念と銘打った『美術の中の遊びと装い』展が開催されることに何の不思議もない。
チラシを一目見ただけで、行くのは必然だと脳が命じる。
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チラシの下半分はその修理なった屏風。上部分にはピックアップされた人々がいる。
壁のパネル展示で修理前後を見せている。いちいちふむふむと頷きながらも、実物を見るときには忘れているのだが。

四条河原遊楽図屏風  改めて凝視、なめるように眺め、密着するようにみつめる。
右隻・・・舞台では虎や豹柄の毛皮を敷いた椅子に座り、三味線の演奏が続いている。
かぶりつきには、山伏や僧侶らしき姿もある。
隣はヤマアラシの見世物。なかなか可愛い顔をしている。お向かいはまず大女の見世物、犬芸、茶碗回し、風流笠をかぶるものたちによる音曲。
通りを行き交う駕籠たち。店ごとに半被の柄も違う。チラシにあるように駕籠の内から既に人形を楽しむ子と母がいる。駕籠の木目や簾の竹の組み方までよくわかる。
駕籠かきの中には赤い下帯が緩んで肉の露出した者もいる。
だらだら歩く若い奴ら、今とちっとも変わらない情景がそこにある。
犬の芸人は南蛮人のようなナリをしている。煙管か何かを咥えて輪潜りをする犬、着物に烏帽子の犬は後立ちして口に扇子を咥える。
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この右隻を見ていると、近藤ようこ氏の『せめて言葉をうらやかに』『月は東に 昴は西に』(『夕顔』所収)を思いだす。何度も読み返し、その度せつなくなる。

左隻・・・鴨川を渡る人々。デンデン太鼓売りの少年、「かまわぬ」のとんがり少年、川べりで子におしっこさせる母親、足萎えさんもいる。
今の話だが、四条大橋も三条大橋もあまりに車も人も多すぎて、歩行困難になっている。しかし間に架橋するのもナンですしねぇ・・・
女歌舞伎も人気で、こちらの客席ではもめごとも始まっている。観客も派手華美な衣装が目立ち、手提げ袋も可愛いし、根付に印籠もどう使われているのか、確かめた。
そのお向かいは狂言か何かしているようで、こちらはパネルの指摘をうけて眺めると、天目台が見えた。染付けの茶碗もある。
ああ、わたしもこの風景のどこかに入り込んだ気がする。

ところで解説の中で『露殿物語』が寛永年間の作で、というのがあり、その『露殿』は逸翁美術館のものだが、あれも今度新しい美術館がオープンすれば、展示されることがあるのだろうか。’90年代に一度だけ全巻見たきりだ・・・。
mir652-1.jpg クリックしてください。

歌舞伎図屏風  こちらは解説によると「漢画系絵師」の手によるものらしい。太鼓を打つ少女が見るからに闊達で、鼓うちは若い男たちだが、少女の元気さが目を惹く。笛吹きだけは月代をそっている。どうもそんなことが気にかかったりする。

十二か月風俗絵巻 菱川師宣筆 二巻
巻き替えがあるが、わたしが見たのは1.2.3.7.8.9の六ヶ月。どちらも左半分なのだろう。
1.万歳が屋敷の庭で言祝ぐ、2.初午、3.雛祭りの日に陸尺が雛人形を武家屋敷にお嫁入りの態で運び込む、7.外では盆踊りの人々、うちでは拝む人あり、8.床で観月の宴。舟遊びもある。9.秋野に遊ぶ・・・

雪月花三美人図 鈴木其一筆三幅対   これは古画を元に描いたものらしい。女と短冊のセットで、短冊の文字は師匠の抱一上人。左から写す。
花・・・なかれなる身に似わしき花筏(長門)
月・・・猪に抱かれて萩の一夜かな(高尾)
雪・・・初雪や誰か誠もひとつ・・ (薄雲)
いちばん好ましいのは黒地の着物の薄雲太夫だが、その句の最後二文字が思い出せない。
ま、えてしてこんなもんですか。

江口君図 円山応挙筆寛政6年(1794)  以前から好きな絵で、色んな江口君の中でも殊にいい。ゾウさんも静かに座っている。猫などと同じように手を懐にしまう座り方。
耳の小さいアジアゾウで、目も優しい。応挙美人はたいてい静かなように思う。幽霊から町の人からホトケサマまで。

雪中遊行図 礒田湖龍斎筆  「いちゃいちゃ」と言う言葉も今では死語だが、湖龍斎や春信の絵では活きている。相合傘の二人、男は半合羽、女は長合羽。ところでこのタイトルは「せっちゅう・ゆうこうず」と読む。なんとなく「うっふっふ」な感じがある。

白鼠を愛でる遊女と禿図  ハムスターと思えば可愛い白鼠 という感じかな、現代では。先の薄雲太夫はたいへんな猫好きで、猫の恩返しもあったくらいだが、中にはネズミをペットにするひともいるだろう。かむろたちもお世話を焼いて嬉しそうだ。

松下美人図 礫川亭一指筆  バラも咲く。薄物が透けてバラと同じ色合いになる美人。
これは完全に初見で、作者も知らない。顔はなかなか個性的だった。

雪見舟図 歌川国芳筆   国芳の肉筆画では女も活きる。すだれをぐっと開けて顔を出す女。
白に斑の椿柄の着物が素敵。半襟は白地に黒蝶。ああ、こういうセンス好きだな。
舟の中には海老の押し寿司がのぞいている。ちょっと食べたくなってきた。

芸妓図 渡辺崋山筆天保9年(1838)  賛がやたら長いな、と思えばこれは自賛で、この女は自分の愛妓だ云々と書いているらしい。「我が妓は質素ながら雨後の蓮の莟のよう」まぁ天保の改革もあるから「質素」てのは大事なポイントですわな。ねえさん、団扇の縁噛んではりまっせ。・・・弟子にこの絵を贈ったそうだ。

美人図巻 月僊筆  遊女の日常シーンを描いている。鉄漿、鬼灯を口に含んで笛を作ろうとしたり、三味線爪弾いたり、煙管をふかしたり、飲み食いしたり、中には怪談するののもいる。(わたしみたいな女やな)手をちゃんと幽霊手にしているのが楽しい。
月僊は画僧だったはずだが、こんなところまで見ていると言うことは、巻のままの向うにはどんな絵が隠されていることやら・・・変に期待してしまう。
ロートレック的視線か、國貞的視線か・・・。

住吉物語絵巻 鎌倉時代  大変綺麗な彩色。十二単も見事。嵯峨野での子の日遊び。小松引き。(重盛の説話を思い出す)それを垣間見た少将が早速コマメにラブレターを書く。邸内で仲良くお話する二人・・・継子いじめシーンは見なかった。

絵は大体こんな感じで楽しみ、工芸品もいいのがたいへん多かったのが嬉しい。
印籠は大阪市立美術館の一大コレクションで色んな名品を見ているが、やはり名品はいっぱいあるものだ。遊楽に使われた道具類を眺めるだけで、想像が広がる。

楽器蒔絵印籠・・・琵琶、笙、篳篥。小さいだけに巧妙精緻なのが目立つ。
袋に鼠蒔絵螺鈿印籠・木彫根付 鼠「平安齋」銘・・・白と黒のネズミ。銀かな。金の袋の中身にはカネが入っているのだろうか。そもそも大黒の袋の中には何があるのか。
猫に傘・紅葉散蒔絵印籠「奥仙 宮城住 清房工」銘・・・飼い猫のシマシマちゃんが転がる傘で雨宿り。可愛い。やっぱりネズミより猫だ。
山水蒔絵印籠「松林齋」銘・・・山水を表現するのに「肉合研出蒔絵」という技法を使っている。
奥行きを感じる。シシアイトギダシ。こんな小さな空間で色んな技法が活きているのだ。

南天蒔絵提重・・・梨地に赤い実。南繚の酒入れには桐などの柄が色々入っていて、綺麗。
藤蒔絵床几・・・随分小さいが、これは身分の高い女児用らしい。牡丹に燕柄の繻珍が張ってある。
おっちんするのに嬉しいような柄だ。
海松丸蒔絵鞘合口拵・・・ミル柄に合わせたか、柄は白鮫皮。
栗蒔絵小鼓胴・蒲公英蒔絵小鼓胴・・・とても可愛い。これは去年の今頃にも出ていた。 
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猩々梅蒔絵盃(三口)・・・後姿の猩々、注連縄、梅。全て緋色地の盃。
松竹梅蒔絵旅櫛箱・・・化粧ボックスと中身一式。これを持ってツアー参加はしんどいだろうな。
むろん自分で持たないだろうが・・・。わたしには無理そう。
琴棋書画蒔絵硯箱・・・琴柱が散らばるのがいい。こういう構図に惹かれる。ああ、なんとも言えずよいものだ。
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陶磁もいいのが出ていたが、面白いものだけ挙げる。
五彩桜花酒宴図大皿 景徳鎮窯清時代(18世紀)・・・康熙帝の時代に生まれたもので、康熙伊万里と呼ばれるもの。図柄は日本の花見宴会シーン。「えっメイド・イン・チャイナ?」と思わず声が出る。
ディズニーランドそっくりさんのテーマパークを作ったお国柄だ、と言ってはイケナイ。しかしまぁそれにしても・・・これは実物を見なければ、伝わらない面白さがある。

染付十二ヶ月盃 男山焼(十二枚)江戸?明治時代(19世紀)・・・夷講、夏越、餅つき、端午の節句、母衣舞などの月節句を染付で描く小皿。今、男山辺りには窯は残らないから、こうした焼き物があったことも、初めて知った。

色絵山水図水注 京焼  色絵牡丹文瓜形水注 薩摩焼・・・二つとも、紅茶ポットのような感じがある。外国人が喜んだろう。幕末の薩摩焼はどことなくオシャレで優雅だ。

長々と書いたが、この展覧会は本当に楽しかった。大雨の中でかけた甲斐のある、いい展覧会。
古美術がお好きな方には、強くお勧めしたい。
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コメント
こんにちは
私も先日この静嘉堂へ行ってまいりました。遊行さんの記事を拝見して再度展示品を前にしている気分になりました。思い出す部分と新たに発見する部分と。
それにしても過密スケジュールの中でこれほど丁寧にご覧になっていて、またそれを記事に起こされるとは! ただただ驚きです。
薄雲の句、最後の2文字「よし」ではなかったでしょうか?・・・ あやふやな記憶なのでちがうかもしれません。
2008/05/12(月) 09:49 | URL | チト #-[ 編集]
チトさん こんばんは
>薄雲の句、最後の2文字「よし」ではなかったでしょうか
ありがとうございます。
昨日気になって静嘉堂に電話したのですが、講演会準備だから忙しいと言うことでわからないままだったんです。
わたしのメモには象形文字しかありません(恥)。

こういう展覧会がまた好きで好きで仕方ないんです。好きなものしか見ない・書かない、わがままなのでまだなんとかやっていってます。
2008/05/12(月) 21:07 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
良さそうですね。
こんばんは。
いつ、行こうか迷っていましたが
この記事で今度の土曜日行くことに
決めました。
崋山がお目当てですが、他にも
みどころ満載のようですね。
楽しみです。
2008/05/14(水) 20:14 | URL | meme #z8Ev11P6[ 編集]
memeさん こんばんは
これはいい展覧会でしたよ~~
じっくりご覧になってくださいね。
絵も工芸も本当に楽しめます。

バス乗り場がちょっと変わりましたから、気をつけてくださいね。
あと、五島美術館もいい展覧会のようなので、同じコースに組み込まれたらいかがですか。同じ東急の沿線ですから行きやすいですよ。
2008/05/14(水) 21:58 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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