細川家の至宝を拝みに東博へ行った。
朝イチに行くと入館前でも並んでいたので、なかなか人気やな、と実感。
2部制。「武家の伝統と細川家の歴史と美術」「美へのまなざし 護立コレクションを中心に」と分かれている。
先に2部から見よとmemeさんからありがたいご指南が届いておったので、素直な七恵さんはエスカレーターを上がって、迷わず「美へのまなざし 護立コレクション」を見に行った。先客も相客もいないんで、存分に楽しませてもらえた。

最初は江戸時代。
白隠禅師の墨絵がずらずら並んでいる。
どちらかといえば白隠や仙の絵はニガテだったが、近年は楽しく見るようになった。
それはきっと、それまで「綺麗な絵」にしか関心が向かなかったのが、色んなものを見ることで、だんだん目が養われてきたからだと思う。
白隠にしろ仙にしろ大阪弁でいう「けったい」な絵を描く。
面白く思った作品をちょっと集めてみる。
まず白隠。
達磨図 やたら大きな眼がどう見ても宝珠風。それで賛には老眼鏡なしで描けたゾとジマンしてるが、それでこんな眼の描き方なのかも。
虚堂智愚像 赤袈裟に払子持ちにんまり。髯の剃り跡の濃い坊さん。
乞食大燈像 水木しげる的キャラに見えた。
十界図 閻魔さんでなく観音さんがいる。白隠オリジナルなのか。
白隠慧鶴墨蹟 関山慧玄偈 なんでも立ったまま往生を遂げたヒトらしい。凄いな。
鼠師槌子図 如来な大黒さんと手下のネズミたち。
次に仙。仙といえば出光コレクションばかり思い浮かぶが、細川家(今では永青文庫)にも多く所蔵されていたのですね。
人形売 なにやら気さくそうな感じ。
騎獅文殊図 獅子が妙に可愛い。歯がむき出しなのはともかく、やたら歯並びが可愛い。その背中の文殊菩薩は、わが愛する阪神タイガースの関本選手によく似ているのだった。
花見図 墨絵で宴会を描く。楽しそうな様子。ハメを外すヒトはいないらしい。
絵の次には刀装品にいいものをいくつか見た。
桜に破扇図鐔 伝林又七作 これはモティーフそのものが面白い。なぜ破れ扇なのかがわからないが、見た目がたいへん面白い。
桜九曜紋透鐔 銘 又七 林又七作 細川家は九曜の紋で、櫻が九つ繋がりしてるのが可愛い。こういう意匠はやはり魅力的。
他にも別な作者の田ごとの月図、透かし唐草、武蔵野図をデザインした鐔があった。
さていよいよ近代日本画と近代洋画。
黒き猫 菱田春草 子供の頃からこの絵は知ってたが、なかなか実物にお目にかかる機会がなかった。数年前の東京美術倶楽部で、この猫が木から下りる絵を見たとき仰天したが、それもこの絵を知っていればこその驚きだったわけだ。
やっぱりこの焼き芋屋さんの黒にゃーは、可愛い。指先がたまらんぜ。
耳が立っていて、灰色の眼を一点に向けているのは、描く春草をみつめているためか。
この黒にゃーのクッション、幹のタピストリーつきで販売してたけど、ちょっと欲しい気がした。

(画像は猫のみ)
焚火 横山大観 寒山拾得が黒い道士風な衣を着ているのが、他では見ないところ。
大観の寒山拾得は他に、上野の大観記念館の美少年図があるが、なかなか好きな感じ。
豫譲 平福百穂 ’97年に奈良そごうで平福百穂の回顧展があり、そのときに見た。
中国の豫譲という男の復讐譚を描いている。目的のためには手段を選ばない男で、絵にも彼の力強さがあふれかえっている。
霊泉由来 川端龍子 西洋のトリプティックのような3面構造の絵。右に白鹿、左に藍色の髪の女、中には滝水。どことなく鏡花の「高野聖」を思わせる構図。
山に閉じこもる女は霊泉により若さを保ち、言い寄る男たちを弄んだ果てに小動物に変える・・・・・
花鳥(李・柏) 真道黎明 赤いスモモに青い尾の鳥、そして冬柏。色の美しさを堪能。
髪 小林古径

これは以前から好きな作品だが、前期展だけの展示だそうで、見れてよかった。昭和初期、薄緑色の腰巻。きれい。髪をとく女の着物はその当時の流行ぽいだけでなく、画面を引き締めている。二人を繋ぐ長い髪がまた魅力的。
孔雀 小林古径 緑色の鮮やかな孔雀。こちらに押し寄せてきそうな迫力があった。
縞ジャケット アンリ・マティス ブリヂストンのレギュラーさん。実は私の年長の友人に、この絵の人とよく似た奥さんがいる。私は勝手に彼女の名をつけて、この絵に呼びかけている。
支那の踊り 久米民十郎

この絵が出てきてくれているのが嬉しい。去年初めて見た作品。女の身体のくねり具合がなんとも言えず艶かしく、そしてどういうわけか、微かな悲哀さえ感じもする。ついったーで久米のことが話題に出て、それで少しずつ彼の生涯などを知ることが出来て、嬉しいと思う。
去年の永青文庫の展覧会のチラシ。
承徳の喇嘛廟 安井曾太郎 他にも数点同じ建物が描かれているのを見たが、永青のが一番堂々としている。実物の写真も見ているが、絵の力強いピンク色は実物を圧倒していた。
紫禁城 梅原龍三郎 日中史のややこしい時代に描かれた作品。しかしピンクの雲の下に広がる巨大な城郭の美は、まさに「大きい」。
絵を見て機嫌よくなったところへ、今度は中国を中心にした東洋美術の名品を眺める。
金銀玻璃象嵌大壺 中国河南省洛陽金村出土 1口 中国 戦国時代・前5?前3世紀
ガラス象嵌と金のポコポコ。よそで見たことのない意匠。みごと。
金銀錯狩猟文鏡 中国河南省洛陽金村出土 1面 中国 戦国時代・前4?前3世紀
チラシの下半分を占める鏡。豹vsヒト。細川ミラーとして世界的に有名な一枚。
金の残り具合が素晴らしい。豹とヒトの文様も細かい。たいへん見事な作品で、やはり国宝と言うものは凄いな、と改めて感心した。
金銅獅子鈕獣面文三脚香炉 1口 中国 明?清時代・17世紀
蓋のチョボが獅子・・・犬みたいなのが天に向かって口を開けている。
ちょっと谷岡ヤスジのド忠犬ハジ公を思い出した。
三彩女子 1躯 中国 唐時代・7?8世紀 武則天の時代前後の流行のスタイルをした女子像。髪型も衣装もなかなか。唐代はファッショナブルで遺宝も素晴らしいものが多い。
三彩馬が一対来ている。白馬は緑がたらり。鬣も一房たらり。茶色い馬は鬣を全て左にまとめて流している。どちらも勇壮で華麗。
三彩宝相華文三足盤 1口 中国 唐時代・7?8世紀
こんなに細密で絢爛な三彩は滅多に見ない。本当にすばらしい。愛玩の一品。
白釉黒掻落牡丹文瓶 磁州窯 1口 中国 北宋時代・11?12世紀
こちらは白鶴美術館の龍文瓶と対しているらしい。白鶴の龍文瓶がアタマに蘇る。爪の開き具合が可愛かったな?。(美術館のリーフレットにご登場の龍ちゃん)
月白釉紅斑文盤 鈞窯 1枚 中国 金時代・12?13世紀
水色の地に紅が舞う。そんな風情の盤だった。金代のこうした作例には本当に美貌のものが多いと思う。
五彩仙姑図花盆 景徳鎮窯 2口 中国 清時代・17?18世紀
仙女たちが色々と楽しげに。鶴に乗ったり、紅蝙蝠が飛ぶのを眺めたり、笑いさざめいたり。こういうのを見るのがまた好きなのよ。
他にもイランの12?13世紀の素敵なやきものが、東博ほまれの昔のガラスケース内に納められていた。嬉しくなるなぁ、そういうことも。
ターラー菩薩立像 1躯 インド パーラ時代・10?11世紀
こちらは私は初見。女尊。観音。救済。霊をも救う。美麗な女菩薩。
第二部の美術品を存分に堪能してから、第一部へ向かう。
細川家の鎧とか軍扇とか陣羽織などあるけれど、あんまり関心が湧かない。
書状に肖像画、お城の図などなど。
以前に熊本へ行ったとき、細川家のご城下ではあるが、「清正公のお城」をヒトビトが尊ぶのが見えたのを思い出す。
「武家の嗜み 能・若・茶」のところでは、以前に見たものが色々あり、嬉しく思った。
まだ奈良そごう美術館があった頃、よく細川家伝来のそれら能楽関係・茶道具などが展示されていたのだ。あの頃は本当に奈良そごうでよく学ばせてもらった。
その意味では師匠でありお手本は細川家のお宝なのでした。
宇佐神宮所蔵の能面にいいものが多かった。
能は実際に見る根性がないが、謡曲も能面も衣裳もたいへん好きなのだ。
実演を見るのは歌舞伎と文楽だけだが、お道具類は能楽が好き、というのはちょっとわたしもコマッタちゃんですな。
小喝食がなかなか可愛い。やっぱり美少年を見るのは嬉しい。
どこかで喝食だけ集めた展覧会でもないかなぁ。←フジョシの妄想。
茶道具も実に素晴らしい。
油滴天目が特にわたしの好み。
やはりこれくらいの名家でなければ集まらないものというのはあるものだ。
本当に素晴らしい。
展示替えがあるので(現在はその替わったものが出ている)来月アタマにまた向かいます。
それで東博を出てから少し他を回り、その後に永青文庫へ行った。
「細川家の明治・大正」をみる。
以前にも細川家の歴代の当主と夫人たちの展覧会があったが、今回は東博の展覧会とリンクして、コレクションを集めた人々ゆかりの展示となった。

明治半ばの洋館写真がある。コンドル風というよりむしろ片山東熊風な邸宅。
家族写真もあった。護立氏ご一家。チラシのオモテにある。

先に工芸品について書く。
金彩針描人物文蓋付ゴブレット とても綺麗。18世紀末から19世紀の頃に生まれた。
青色文字彫双耳瓶 清朝に生まれた青い瓶。画像ではあの青が再現できていないのが悔やまれるが、まことに美しい青い瓶。
花蝶文香合 高野松山 綺麗!これは欲しいわ!本当に素敵。縁周りが金と黒の市松文様と言うのがまたいい感じ。
ああ、このレプリカでもいいから欲しいものよの。
他に蓮香合、波香合、牡丹香合、菊文香合などがあるが、作者自身の素敵なセンスにもときめいた。
もう一点美麗なものがある。
加彩舞妓俑 衣装の花柄も良く残っている。藍色のベストも。
花蝶文香合共々チラシに掲載されているのが嬉しい。
細川護立氏は若いうちから学校仲間の白樺関係者のために自ら「金庫番」となった。卒業後には前にも増してせっせと芸術家を庇護した。
全くえらい人である。
それで自分のお膝元の熊本出身の画家・堅山南風も応援したそうだ。
南風 秋草図 桔梗や女郎花が咲き乱れている。綺麗な情景である。ところで目黒雅叙園には「南風の間」があり、南風の作品がその部屋を美しく飾っている。
全く関係ないがその雅叙園の創立者は偶然にも「細川」さんである。お風呂屋さん出身の。南風は二人の「細川」さんから愛されたのだった。
下村観山 春日の朝 仲良しな鹿が寄り添っている奈良の朝。朝のもやもやした空気がそこにあった。
百年前の奈良の様子については、護立氏と仲良しだった志賀直哉・木下利玄・里見の三人が奈良ツアーをしたその顛末を残していて、絵を見ながらその本を思い出すと、楽しい臨場感が湧いてくる。
他にも多くの名品があるが、やはり細川家は凄い。来月初めには再び東博へ行くが、たのしみで仕方ない。