夏休みに向けて、ミュージアムも楽しい企画を立てることが多い。
オバケかどうぶつ園か。そういうのが出てくると、わたしなんぞは大喜びでホクホクしながら出かける。
静嘉堂文庫も今回は「せいかどう動物園」と銘打って、所蔵品の内からどうぶつを象ったもの・描いたものなどを集めて、総合動物園の体を成している。

こうやって眺めると、水族館も昆虫館もあるので、見て回るのも半日がかりになる。
疲れたら休憩コーナーがあるのは、上野でも王子でも天王寺でもズーラシアでも同じなのだった。
十年前、たばこと塩の博物館が「たばこと塩の動物園」として館蔵の工芸品などから動物を選り抜いたものを展示し、大いに楽しませてくれた。
あれからこうした企画が増えているように思う。
大いに楽しみましょう~~
展示室の入り口すぐに前田青邨の獅子。
金銀の奴ら。ガオーーッとフンッッッの阿吽な二頭。太い足がかわいい。まだお子ちゃまなくせに勢いだけはある獅子たち。ナマイキ~~ww
さて園内マップです。
左右ちょっと切れるので二段に分かれますが。

まず鳥。
わたしのニガテなトコヨノナガナキトリはパスして、鶉に鵞鳥に鴨に雁を見る。
鶉は備前焼の香炉で見返る姿が可愛い。
銀の鵞鳥もやはり香炉だが、これは清朝に生まれたもの。
鴨はその千年前の唐代の三彩で、毛づくろい中。背中の穴が妖気の…いえ、容器の所以。
雁は二種ある。
備前焼の香炉はカリガネ(お茶ではない)で、毛並みがリアルに描かれ、サガツラガンの方は三彩で唐代の生まれ。こちらも千年の違いがあるけど、先輩後輩共に可愛い、
鴛鴦と言えばやっぱり京都のそれがベストでしょう。ここにいるのも当然京焼。出演してないが、大和文華館の鴛鴦は野々村仁清ので、あちらは郵政省で昔働いていたのだった。
ハト派タカ派という言葉がある。政治の話だけど。
鳥の世界に派閥があるのかどうかは知らんけど、ここにいる鳩と鷹はどちらも同時代の備前焼で、妙に似ている。もしかして同じ親(職人)から生まれた別卵生の兄弟?
枯れ木に泊まる鳩と岩に泊まる鷹と。
親(作家、職人、工房)のはっきりした鳥たち。
鷺がいる。コサギらしい。出ました仁清。首を長く伸ばして天を見るコサギ。可愛いね。
真孔雀は名古屋の安藤七宝店で生まれた奴。一対の瓶で、黄釉地に綺麗な羽を広げている。
千鳥は日本人が非常に好きな小禽で、連続して飛ぶところに日本人の習性を見出しているのかと思ったりする。
釜山焼の御本筒茶碗には千鳥が群なして飛んでいる。これは日本からの受注品。
平戸焼の千鳥文の染付の手付花入はちょっとコウモリぽいけれど。
明から飛来したのが鳳凰。濃い色の青花に住まう。鳥の王様か。そういえば「荘子」だったか巨大な鳥の鵬の話がある。この魚版が鯤(コン)。
フクロウは人気者で、福郎や不苦労に通じるから特に日本では愛されている。
フクロウ型のやきものは現在も人気。ここにいるのは耳の立ったミミズク。
中でもこれはコノハズクというやつで、尾戸焼とかいうやきもの。灰釉木菟香炉。
これがもう可愛くて可愛くて。狸面したミミズクがほんに可愛い。
木菟はミミズクという意味らしく、木の上のウサギ…という所だろう。
だから昔の作家の三上於菟吉は名前にミミズクが入っているのだった。
いや、菟はやっぱりウサギか。若いツバメだった彼はミミズクとウサギ、どっちがいいかしら。
明治生まれのエラそうなクマタカ像もある。フンッエヘンッという感じ。
明治初にはこういうのが流行ったのだ。
欧州では昔の強国は獅子を自分らのアイコンにしたが、新興国はワシをアイコンにした。
日本の場合、将軍家の御鷹狩ということもあり、鷹をかっこよく作るのはお手のものだったろう。
動物園で鳥と言えばバードドームにつながれるが、ここではこうしてガラスケースで飼われている。
最近の動物園はもともとの住環境に近い状況での飼育と言うものが流行っている。
高村光太郎が「ぼろぼろな駝鳥」という詩を書いているが、今はもう少しましになっている。とはいえ、まだまだどうぶつの鬱屈する環境は完全によくはなっていないが。
そうしたことから考えると、この「せいかどう動物園」はいい環境なのだった。
唐代に生まれた動物オンパレード。
馬が二頭いる。三彩馬は本当にかっこいい。大体唐代のどうぶつやきものはみんなとてもかっこいいし、青銅や金銀交じりの金物に彫刻された動植物に鳥類がこれまた素敵なのだった。
思えば唐よりはるか昔の前漢の武帝なんかも、国外のいい馬を手に入れようと大変だったのだ。
8世紀あたりの唐は確かに世界の中心だった。
世界中の色んなものがここへ集まり続けた。
普通に立つ馬もかっこいいが、わざわざ前足を噛む姿を捉えられた馬もいる。左の前足を噛む。別に身喰らい馬ではなく、かゆいから噛んでるだけらしい。
馬の前にはラクダもいる。ちょっと上を向いて昂然と立つ。
そして馬にもラクダにも飼育員がいて、彼らもガラスケースの向こうでポーズをとっている。なかなか働き者だと静嘉堂でもお墨付き。
避邪たる幻獣が二頭立つ。鬼ヘンに其の字で<魌>頭というのが一対で、右の奴は小島よしおに似ていた。
三彩獅子がいる。仲良し二匹だが、なんと彼らは別々な時期にここへ来たそうな。時期が外れてても一緒がいいねということで来たのか、それとも本当は全く別なもの同士だったかは不明。
可愛いしぐさで、ファンも多い。カユイカユイと噛む奴とカユイカユイと掻く奴と。

三彩は明るくていいなあ~
虎は金代の磁州窯の枕。立派な尻尾の虎でおおっと言う感じ。
この枕だとどんな夢を見るのやら。
中国で虎は人喰いの怖いモノで、トラに喰われた人は倀鬼(にんべんに長の字でチョウ。それにオニでチョウキ)になり、トラの使役者になる。トラが人を喰いたいときにそのお手伝いをするそうだ。
さて今度は唐獅子オンパレード。
平戸焼の染付は「んがっっ!」、明清の青銅は玉取しつつ「ガオーーッ」、備前焼でも先ほどの鳩に鷹同様「青備前」とやらの獅子はじゃれあい、噛みつき合って楽しそう。
日本のゾウはいなかった。
明の古銅ゾウ香炉はちょっとアタマ小さすぎる。
乾隆帝の粉彩の瓶にいるゾウは実は瓶の耳で、本体には楽しそうな鵲と梅花の図がある。ゾウはその楽しそうな情景に関与していない。
ニホンジカは一頭のみ。旧幕から明治の野村正直という人の手による銅色絵香炉とか。
くつろぐ鹿。鹿をモティーフにした工芸品と言えば奈良の一刀彫を思い出すが、ここにはない。
可愛い狸もいる。このあたりは檻の中に入ってふれあいOKのどうぶつたちだが、やっぱりガラスケースの向こう。
讃岐の銹釉の置物の狸は、弘法大師空海に化けようとしているところ。なんでも四国は空海のおひざ元でその空海のお墨付きにより、狐はだめだが狸は住めるらしい。
そういうわけでか、阿波の狸合戦という伝説もある。
金長狸の話。きぬた姫の悲恋。映画にも芝居にもなって大人気だった。
こういうマタタビものの話、わたしも大好き。
もう一匹の狸は美濃焼の黄瀬戸香炉で、どうやら自分で香炉に化けようとしたそうな。
まぁこの手の変化(ヘンゲですよ)は群馬の館林の茂林寺の文福茶釜がスターですか。
とはいえ、茂林寺だけでなく別な寺にも茶釜に化けた狸の話があり、そちらは「分福」と福を分けるの狸なのでした。
ネコ、ネコの登場です。しかし猫だけで大きな展覧会が開けるのですぜ。
なのに静嘉堂さんには二匹の猫しかいないのか。
そういえばここからそう遠くない上野毛の五島美術館には昔々、のた~~と寝ていた猫がいた。新装オープン後その猫を見ていないので、もしかすると命が尽きたのかもしれない。
・・・・・・・
備前焼の香炉は俵の上で目を光らす猫で、これは働き者。茶色い猫で目がきりっ!
平戸焼の白磁の猫は気持ちよさそうに寝てる白さん。
ああ、8月の東京都写真美術館の岩合光昭さんの「ネコライオン」展がとても楽しみだ。
イヌ あれ、こいつ見たことがある…染付狗子香炉。二匹わんこ。可愛すぎる。もしかして、ほかの兄弟は東博にいるのでは?
こいつね。

イヌの兄弟で巡り合いと言えば「エニシの深い八犬士」。
仁義礼智忠信孝悌の八つの珠。「我こそは玉梓が怨霊~」にもめげません。
ああ、人形劇「新八犬伝」が見たい…!!!
猿はいずれも日本産。でも中国のエテもまざっている。
京焼の猿はニホンザル、平戸焼のは中国猿で、それぞれしぐさが面白い。
猿猴月獲。実際には不可能なことにえんえんと(猿猿と?)がんばるエテ。
サルカニ合戦を描いた印籠もある。螺鈿蒔絵に珊瑚象嵌という代物。すごいな。
ただしこれは三猿で手をつなぎ合っている。
猿に絵馬蒔絵の印籠もある。これはあれか、意馬心猿というやつですかね。
猿と蛇の組み合わせは鵺みたい。
豚もいる。これは明器で後漢のもの。死後も豚肉を食べようということ。
やっぱり今戸焼の豚の蚊取り線香置物がないのは淋しい~~っ
ロバは朝鮮の金銅製。高士が乗る像。ロバは働き者。
牛もいるが、これも平戸焼の染付で十牛図のかな。
キリンは麒麟です。ジラフのキリンはないわねえ。

昆虫館へ。関東の施設は知らんが、関西だと箕面・池田・橿原に大きな昆虫館があり、蝶々が放たれていて、とても楽しい。
目貫、小柄の類に昆虫生息中。チョウ、トンボ、スズムシ、セミ、バッタ、クモ。ハチ、ムカデなどなど。
カマキリやチョウは香合になったり盆の絵柄になったり、蝉は蝉で値付けに採用されたり。
びっくりしたのは兜です。甲冑の兜ね。あれにどーんとトンボがついていた。
理由と言うか由来と言うか、色々あるんだろうけど、知りたくないなあ。
次は水族館。海遊館もリニューアルしてから行ってないな。行かなくては。
そういえばカエルとヒキガエルとは区別されているな。
日本でカエルの図柄といえば柳にカエルで「みなよろし」かな。小野道風先生も蛙飛びで発奮。ちょっとちがう。
平戸焼のカエルは二匹ががんばって上ってる。
清朝のヒキガエルの文鎮。月に上った女はヒキガエルになったという中国の説話がある。
清朝では蟹も文房具によく登場。これはワタリガニかな。そういえば美味で有名な上海が二はワタリガニの一種だった。藻屑かに?ちょっと忘れたが。
わたしは日本の松葉ガニがいちばん好きだ。食べるのでは。
景徳鎮窯の青花海老文貝形皿。これは手長海老なのだがもしや現在出光美術館の「古染付と祥瑞」に出ている皿の仲間ではないかな。どうもそんな気がする。
朝鮮の魚介類を見る。
螺鈿藻魚文盆は魚と亀の池。すごく綺麗。なんとこれお裁縫道具入れらしい。
粉青象嵌魚文瓶は三島ではあるが妙に凄い。波に魚跳ねてますがな。
亀の池で思い出した。
四天王寺の亀の池、あれも見応えがある。
芝山細工のような魚尽くし蒔絵螺鈿印籠がある。アマダイにフグに…おいしそうなんて言うと叱られそう。
貝もある。法螺貝は仁清の香炉、栄螺は大西浄玄の蓋置。
釜師の大西浄玄の栄螺か。
水辺の生き物ということで、龍も登場。西洋ではドラゴンで悪者だが、東洋就中極東周辺ではまことに瑞獣。皇帝の印。龍の掌の肉球を気づかせてくれたのは、白鶴美術館だった。
「龍の肉球、獅子の睫毛」。面白すぎる。
さてさてミニチュアのどうぶつたちを集めた場へ向かう。
香合ばかり20種ほどのどうぶつたちがいて、それぞれとても可愛い!
三彩鳥型笛は雀。すごく可愛い。
明の青磁鶴香合もあれば、有田焼の雉香合もある。
永樂保全の雁香合なんてちょっと笑かしてくれるし、丹波焼のミミズクも可愛い。
揃えたのか、明の漳州窯出身の交趾香合が3つばかり。
狸、水牛、鹿。面白い取り合わせ。
樂惺入の干支香合が集まっていた!
これは樂美術館でも見ているが、本当に可愛くて可愛くて大好きなシリーズ。
わんこはブチ、イノシシはブヒッ、ネズミはシーン、牛はぐーぐー、トラはムンッ!、ウサギは可愛い~~というシリーズ。いや、ほんまによろしいなあ。
蛇もいてます。あら、アルビノだと分類されてるよ。宝珠の上にノタクルから宝珠香合の名前がついておる。
文房具がまたすごーーーい!!刀装具もすごすぎーーーっ
いやまた凄いラインナップで、こっちの目がくらんだわ。@@ですね。
これまでいなかったどうぶつを挙げると、リスの水滴、シャチの鈕印は朝鮮生まれで、鯉の鈕印は清朝。鷺と鴉のセットもいて、この辺りからお江戸でござる。
ホトトギスまでいますがな。目貫になってここにいる。
かなり疲れてきたところで江戸時代の印籠と根付特集。
鵲七夕星蒔絵印籠にはわんこに太鼓の根付。
ホオジロと桜の蒔絵には蜃気楼つまりハマグリの大きなやつ。
リスにブドウはよくあるが、芝山細工で予譲報仇(馬がいる)にゾウの取り合わせは珍しい。
笑ったのが、蒙古襲来蒔絵印籠に蛸壺の根付。海に沈んだ蒙古の敵兵は蛸壺につかまったのか。
鴉天狗もまさかのもしかで動物園入り。狼に野晒のセットはなんだか荒涼殺伐だな。
河童がいてこれで終わり。
最後にこれは記念スタンプ。

いやーーええ展覧会、いえ、動物園でした♪
7/15までの期間限定の動物園なのでお早めに。