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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

小林かいちに魅せられて

弥生美術館で高畠華宵の特集と、小林かいちの回顧展が開かれている。
初めて小林かいちの作品を見たのは随分以前だ。
世に多く出たのはボストンのローダー・コレクション展、それから去年の田中翼コレクションあたりか。それ以前は弥生美術館で多くの他の画家たちと共に並べられるか、個人コレクション展でもチラリと姿を見せるか、そんな程度だった。
わたしが最初に認識したのは、奈良そごうで見た絵はがき展覧会だったように思う。
'93奈良そごうで『絵葉書芸術の楽しみ』という展覧会があった。
フィリップ・バロス・コレクション。
それは松涛美術館からの巡回で、松涛でのチラシはあまり面白いものではなかったが、そごうのチラシはよかった。
つまり「チラシに呼ばれた」状況で、喜んで北摂から奈良へ飛んで行ったのだ。
これはその図録。右一番下にかいち。mir487.jpg

そこで小林かいちの作品を見た。
多くの中の一つだったが、たいへん惹かれる作品で、イメージだけは鮮烈に意識に残った。
明治以来絵葉書がブームになったこともあり、実に膨大な絵葉書がこの世に送られたが、やはり何の世界にもマニアがいるもので、お店側や彼らが大切に保存してくれたりしたおかげで、今も世に残った。
わたしも実は絵葉書コレクターで、数だけで言うと6000余枚あるが、あまり希少価値なものは持っていない。
中右コレクションの中にもかいちの作品があったように思う。

小林かいちの作品は女の顔がなく、あっても口元だけという個性的なものが多い。
「二號街の女」などは目鼻立ちがはっきり描かれているが、しかしその表情に惹かれることはない。却って何もない顔の方に深い情緒や感情が籠められている。

今回こうして多くの作品を眺めてみても、レトロモダンでシャープな叙情性がそこにある。
決して楽しい内容ではなく、そこには「せつなさ」が常にある。
セット販売されたものの多くは小さなシリーズ作品であり、個としてみても十分楽しめるが、4枚1セットとして眺めると、思いがけなく小さな物語を見出すことになる。
起承転結のある物語。それが顔のない女によって綴られる。
「目は口ほどにものを言い」と言うものの、目鼻立ちのない女の仕種一つでその心模様がこちらに伝わる。
細身の女の全身から漂う遣る瀬無さ、哀しみ、そして。
それらと共に背景にも深い魅力がある。
墓地、夜の街角、一人の部屋。
mir485-1.jpg

わたしが夜の絵が好きだと言うこともあり、いよいよ深くかいちの作品に惹かれてゆくのは必然か。
背景は別にリアルな描写ではなく、ややねじれたような空間である。
つまり'20年代にドイツで流行した表現主義の影響も見受けられる。
それは夢二の作品にも姿を見せている。
現に夢二は表現主義の傑作『カリガリ博士』の映像を、自分の絵で再現してもいる。
またセノオ楽譜の表紙絵にもそんな作品がいくつかある。
夢二と同時代人のかいちも表現主義の不思議な空間に惹かれたか、リアルさから離れることで彼の描く「夜の夢」が開いたようだった。

『青い鳥』のチルチルとミチルの兄妹は幸せの青い鳥を求めていろんな国に旅をする。
彼らは誤ってかいちの世界に迷い込んだようである。
かいちの世界に入った二人は、そこでは子供本来の溌溂さをなくし、静かにその世界を立ち去ろうとするかもしれない。
mir486.jpg

かいちの正体はわからない。
京都の着物関係の職人の中に名を連ねているが、それが彼の生存証明にはなっても、かれの芸術の生きた証にはならない。
何十年も昔の画家の仕事が、今になって世に出てきた。
深みに溺れようにも底がしれない。浅いのかも知れず外海に通じているのかも知れず。
しかしこうして回顧展が開かれたことと、一冊の労作が生まれたことで、「自分の手の中に」かいち作品の一部を納めることが出来た。
これはめでたいことだ。
これがきっかけになり、またどこかからかかいち作品が現れたり、すっかり世から忘れ去られた素敵な画家が蘇るかもしれない。
そのことを期待して、この場を去ろう。mir485.jpg

今回弥生美術館(竹久夢二美術館はここの併設なのだ)では高畠華宵の回顧展も開いている。
常に三階で小企画展も開催されているので「ひさしぶり」と言う感じがない。
しかしまとまって眺めるとやはりとても嬉しい。
実は十代後半頃のわたしは華宵描く少女の目つきに憧れていた。
シャーロット・ランプリングか華宵の少女のような目つきが好きだった。
しかし訓練は実を結ばず、二十代後半にやっと華宵の少女のような目つきになったと思ったら、「・・・大丈夫か?」と心配されていた。
・・・とにかく、華宵の少女も少年もとても好きなのは事実だ。
エキゾチックな衣裳の少女たちだけでなく、'20年代の服飾の少女たちもいい。
久しぶりにサロメ、胡蝶、埃及、波斯、そんな彼女たちを見た。
そして『南蛮小僧』に再会する。
『死中の活』の巻。いちばん艶かしい南蛮小僧に。
かつてわたしはこの南蛮小僧にときめくあまり、飛行機に乗り損ねるという経験があった。
そのショックは大きかったが、それでも南蛮小僧を憎むこともない。
今回、彼らに会うことが出来、本当に嬉しかった。
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コメント
こんな素敵な作家さんがいたとは全く知りませんでした!!
版画でしょうか?
スッキリと洗練されたモダンなデザイン、余分な色使いのない仕上がりは、現代でも全然違和感なく受け入れられそうですね。
寂しげなモチーフが多そうですが、だからこそ心打たれるのかもしれませんね。
長襦袢のデザインに使ってみたいな~と思っちゃいました♪
小林かいちさん、覚えておきますね。(^^)v

高畠華宵は、亡くなった祖母が好きだったそうです。
彼の作品を見ていると、乙女の世界に浸れますよね♪

2008/01/17(木) 23:21 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
好きですねえ、こういうイラスト。
小林かいちという名前はおかっぱの女の子の絵とペアになっていたのですが、どうやら(今更驚かない・・)全くの記憶違いだったようです。
かいちじゃなかったのかあ。
「赤い鳥」とかの表紙の女の子。
って、この子供雑誌も表紙の絵のことも全部うろ覚え。
濃い霧の中の話。失礼しました。
でも、マニアには感謝。
そして管理人さんのおっしゃるようにまだ埋もれている作家が
これからも世に出るといいな、と思います。
2008/01/18(金) 01:56 | URL | OZ #-[ 編集]
☆tanukiさん こんばんは
そうです、版画です。
それも新京極のさくら井屋というお店が版元。
形態は変わっているけれど今もこのお店は続いているそうです。
淋しげなムードに惹かれますよね。静かでせつなくて。
>長襦袢のデザインに使ってみたいな
ああ、納得です。おもての柄より中にそっと忍ばせてみたい・・・
スイですね、素敵です。

華宵はやはりファンが多いです。この美術館に行くと必ず、かつての少女たちに会います。
その人たちは皆さん、目がきらきらしてました。


☆OZさん こんばんは
>「赤い鳥」とかの表紙の女の子。
ああ、あれは岡本帰一、きいち ですね。
童画のヒト。大好きですよ。
きいちはきいちでも、ぬりえの「きいちのぬりえ」の作家さんはまた別人です。

わたし童画大好きですよ。『赤い鳥』『金の船』『コドモノクニ』『幼年倶楽部』などなど、80年前の子供雑誌の素晴らしさに惹かれてます。何であんなに魅力的なのか。
世に埋もれているものがこれからもどんどん顕れますように・・・
2008/01/18(金) 23:42 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんにちは。
ありがとうございます。
そうか、きいちね。雰囲気が随分違うとは思いましたが(苦笑)
・・・・・でもって、ぬりえのきいちは別の作家さんなんですね。
そうかぁ。勉強になりました。
雰囲気という話ですが、蕗谷虹児も夢二系のイラストレーターですが、彼の作品で、モノトーンのグラフィックアート(20年代のパリがモチーフ)をみたことがあり、ほとんど蕗谷とはわからないと
思うので、同じパターンもありかな、と考えたわけです。
因みに蕗谷の作品はとーっても素敵でした。
女の子もかわいいけど(笑)
2008/01/19(土) 00:04 | URL | OZ #-[ 編集]
こんにちは。
チラシの中の、糸きりハサミ、いいです。
ちょっとしたお茶目スパイスが効いています。

妄想とファンタジーは心の姿が違うんだなぁと
無邪気な心根に、うっとりします。
可憐で、瞳に星が映るようなことをしなければ。

友人のお母さんはキイチ塗り絵にはまって
キラキラしているようです。

私には未知のジャンルですが
遊行さんの画像やら、記事で、楽しませてもらっています。

神保町、某書店で、武雄の本が本箱と一緒にあって、
小さなギャラリー状態で、しびれるのです。
2008/01/19(土) 10:28 | URL | あべまつ #-[ 編集]
☆OZさん こんにちは
蕗谷虹児、かなり好きです。
>彼の作品で、モノトーンのグラフィックアート(20年代のパリがモチーフ)をみたことがあり

こちらの記事にその頃の作品をあげています。http://yugyofromhere.blog8.fc2.com/blog-entry-815.html
他にもよいのがありますよね。
わたしは抒情画家が好きなので、東京の弥生美術館の会員でいることが、とても嬉しいんです♪



☆あべまつさん こんばんは
きいち塗り絵の記事はこちらです。
http://yugyofromhere.blog8.fc2.com/blog-entry-662.html
ほんと、かわいいです。

>チラシの中の、糸きりハサミ、いいです
これは滑稽新聞社のです。それで今日その展覧会を見てきたところなので、いずれ記事に挙げます。宮武外骨の記事。
多分月末ですが。←先の話やなー

武井の同志・初山滋の記事は数日内に挙げる予定です。←宣伝。
2008/01/19(土) 21:34 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは。
またこちらに、カキ子です。
キイチは、きいち、って書かなくっちゃイカンでした。
友達のお母さんがきいち塗り絵にはまっていると書きましたが、
私秘蔵の、かわいい「きいちタオルハンカチ」を
プレゼントすることにしました。
着せ替え人形がプリントされているのだ、なのです。

どこかで、塗り絵ギャラリーがあったような・・・
以前の記事、楽しませてもらいました。
武井武雄記事も期待してます~~
弥生にも出かけてみます。

2008/01/20(日) 22:05 | URL | あべまつ #-[ 編集]
あべまつさん こんばんは
地下鉄だったか、きいちのぬりえを使ったCMが良く流れてましたよ。
早稲田会とかいうゼミの宣伝かしら・・・
それにしても素敵なプレゼントですね。
きっと喜ばれますよ♪

それにしても楽しみの種って尽きないものですね。
次々色んな楽しいことが現れるのは、やっぱり幸せです。
2008/01/20(日) 23:11 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行七恵さん、こんばんは
昨日、小林かいちの画集を買ったのですが、今日ネットをさまよっていたら偶然、小林かいちの遺族が見つかったというニュースに出くわしました。あまりにもグッドタイミングだったので驚いてしまいました。もっとも2月9日付けのニュースなので、タイムラグがある所など何とも僕らしいと思いました。(笑)
それにしても、小林かいちは、本当に魅力的な画家ですね。
2008/02/12(火) 23:31 | URL | lapis #e8.b9ePc[ 編集]
lapisさん こんばんは
お昼にブログをみて「ほほー」でした。
しかし京都精華大学の展覧会は惜しいことをしました。
尤も弥生で見る内容とあまり変わりがないようです。
と言いつつ、みたかったわ~~
2008/02/13(水) 23:01 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
小林かいち 大好きです。はじまりは去年、友人が貸してくれた
「小林かいちの世界」もうびっくりして、私もすぐ本をもとめ、
飽かずながめています。その友人のお母さんが集めていたと言う
さくら井屋の絵封筒を見せていただき、竹久夢二美術館へ行き、
その友人他5人で生田誠さんのお話を聞きました。
2008/02/14(木) 09:56 | URL | すぴか #-[ 編集]
すぴかさん こんばんは
お友達のお母様、大ヒットですね!三塁打で走者一掃ですね!
あの本は良くできていると思います。
センスのいい造りでした。
今のさくら井屋さんはフツーのみやげ物屋さんで、往時を思うと残念です。
わたしは弥生美術館の会員してます~♪
2008/02/16(土) 21:30 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
No title
こんばんは~
リンク貼らせて頂きました。

かいちの魅力に
やっと触れること出来ました。
2009/07/16(木) 23:24 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
☆Takさん こんばんは
かいち展、楽しみなんですよ♪
Takさんの記事がきっかけで皆さんが
かいちファンになればなーと思います~
2009/07/16(木) 23:51 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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