美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **なお現在コメント欄を閉鎖中です。

「川端康成と東山魁夷」

京都文化博物館に『川端康成と東山魁夷』展が巡回してきた。
待った甲斐のある、良い展覧会だった。
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川端は大阪府茨木市出身で、生家はなくなっているが図書館に記念館が開設している。
そこは毎年六月に川端の誕生日を祝って、川端と交流の深かった芸術家たちの展覧会を開いてきた。
わたしが見た限りでは、1996安田靫彦、1997古賀春江、1998東山魁夷、2001小磯良平「古都」
と展覧会があった。
だから彼らとの交流についてはそこで少しだけ学んでいる。

日本人初のノーベル文学賞の栄誉を受けた作家ということはわかっているが、実はわたしはこれまでほんの数編しかその著作を読んでいない。
教科書に掲載されている『掌の小説』の小品少しと、『雪国』冒頭文だけ。
後に小磯良平の展覧会があったとき、彼が挿絵を描いた『古都』は、新聞小説の切抜きが置かれていたのを幸いに読みきった。しかしこれだけである。
あの有名な『伊豆の踊り子』も知らない。モモエちゃんの映画を観ただけ。
読まなかった理由はある。
うちの親は川端と乱歩と谷崎と三島を禁止していたのだ。

四人の作家のうち、後の三人は禁令が出る前から既に読んでいた。(厭な子供だ)
谷崎>乱歩>三島――――――・・・川端という状況が今も続いている。
『末期の眼』か何かを読もうとしたが、やっぱりどうもいやになった。
親はと言うと川端の自殺を扱った臼井吉見『事故の顛末』を読んでいる。
母親は先に挙げた四人が大嫌いだとはっきり言う。
わたしは谷崎は全集が欲しいくらい好きなのだが、家に入れるなと言う。
ある意味、健全な倫理観と言うものが読み取れる話ではある。

昨年、弥生美術館で少女小説の挿絵を見る中に川端の『乙女の港』があった。挿絵は中原淳一。当時大変な人気があったそうだ。わたしは大正から昭和初期の少年少女向け文学が大好きで、手に入れれる限りはそれらの資料を集めるようにしているが、『乙女の港』はタイトルしか知らず、展覧会で初めて本文にも触れた。

昨年『日曜美術館30周年記念展』が開催されだが、それはTVで紹介された作品と、その作品あるいは作者に対する思い入れを持つ各界著名人のエッセーをも併せた展示だった。
例えば関根正二と今東光、武満徹とルドンなどである。
あの展覧会は幸福なコラボレートだったが、この『川端と東山』にもまた同じ幸があった。

川端と東山と旅をした井上靖の随想がある。
井上の眼から見た二人が描かれる。画家と作家の楽しそうな会話。
和やかな空気が届くような空間だと思った。

川端と東山の交流は一言で言うと「美しい日本の心」とでも言うべきもので、東山の絵を欲しいと思った川端は丁寧な文章でその想いを便りにする。
東山は川端の序文で自分の画集を飾りたいと願うとき、その想いを言葉にする。
購入であれ贈答であれ、そこには好意がある。
この好意と言うものが二人の関係に深く活きている。
見ていてとても心地よい。

東山が北欧の美を画布に写すようになったのは、岳父・川崎小虎に見せられた北欧の風景写真を心に刻み、それから十年後に旅立ってからだそうだが、ここにも好意が発生している。同じ美の道を行く娘婿への好意、そして愛妻と共に北欧を旅し、それを作品として世界を新たに展いた東山。
去年その展覧会を見て、東山への好意がこちらも上昇していた。

東山の静かな情景を眺める。
魂まで清くなるような風景たち。mir533-1.jpg

わたしは特に森の中に佇む白い馬が好きなのだが、京の町の雪の夜を描いた『年暮る』の良さは、深く心に染み透る。

一方、東山魁夷だけでなく川端はそれ以前、既に美の狩猟者であった。あの巨大な眼に映ることを許された作品は、後に国宝になったものも含まれる。
池大雅と蕪村のコラボ作品『十便十宜図』、浦上玉堂『凍雲篩雪図』などがそうだ。
童子姿の太子像もある。
大観と蕪村のそれは見るからに心が和む。
mir533.jpg 深遠な意味より楽しい気分。
古賀春江の作品もあった。わたしは’97年の展覧会で古賀の『孔雀』に随分惹かれたが、あの絵がどこの所蔵かわからないままだ。もう一度見たいと常々思い続けている。

ひどく楽しめた展覧会だった。
しかしながら絵に満足する一方、文学者・川端康成に対して申し訳ないような気分もある。
親が禁止したのは『眠れる美女』『片腕』などのあやうさに満ちた官能的な作品を意識してのことだったろうが、考えれば『浅草紅團』にしろ『千羽鶴』にしろ、実は私の好みに沿う作品ではないか。
いつか機会があれば読んでみようと、今のところ秘かに考えている。

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コメント
実に素敵な展覧会。こういうのに是非行きたいんですけどねえ。
ハァ・・・・ため息です。
川端は特に好きな小説家ではありませんが、文章の美しさは
ぬきんでていますね。特に「雪国」冒頭だけでなく、先に
進んでください。イメージの美、それを言葉で表現する力に
ひれ伏しました。
魁夷好きです。私もこの「年暮る」、大好きっ!
2008/02/16(土) 18:46 | URL | OZ #-[ 編集]
OZさん 小んばんは
井上ひさしの文章読本ぽい本にこんなのがありました。
「雪国」冒頭文を他の作家の文体で再現しようと。
・・・抱腹絶倒でしたよ、めっちゃ面白かったです。
あれはしかし元ネタの「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」が活きているからこそ出来るパロディでした。

>魁夷いいですね~四季それぞれに深い味わいのある作品が多くて、みる度に心が清くなるような気がします。
2008/02/16(土) 21:51 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行さん、東京から御帰りになられたかな。
さてこの展覧会、僕も注目してまして東京に巡回しないかなと。
川端の絵画趣味の展覧会は赤坂見附時代のサントリーでありましたが実によかった!
川端が美の心を大切に持ち合わせていることがよくわかりましたね。
東山魁夷はもうすぐ近代美術館で回顧展ですね。
2008/02/16(土) 23:35 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんにちは
>赤坂見附時代のサントリーでありましたが
六年前ですね。そのときもこの京都文化博物館で開催されてました。
ところでこの展覧会、既に東京で開催されてたような気がしたのですが、勘違いかなぁ・・・ちょっと自信がないんです。

okiさんのおかげで熊谷などたいへん楽しめました。
2008/02/17(日) 16:51 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
乱歩も…川端・谷崎・三島禁止も禁止でしたか~分ります(笑)
ウチでは本棚に並んでいたものの、まさか私が読んでいるとは
思ってなかったかな? 又は、子供はそうやって大人になる…と
ばかりに、目に付くように仕組まれていたのかもしれません。
2008/02/22(金) 22:01 | URL | 山桜 #-[ 編集]
山桜さん わかっていただけますか(笑)。
わたしの子供の頃の愛読書は時代小説なんですよ~それも幕末限定。少しだけ戦国時代。
これは父親のたくらみと見ています(笑)
2008/02/22(金) 22:20 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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