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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

横山大観 新たなる伝説へ

横山大観の展覧会に出かける。
今回国立新美術館のチケットをいただいたが、実は池之端の大観記念館にも行く気だった。
しかしそれをやめたのでゆとりが生まれ、六本木に出た。
平日の昼間なのに大変な人出で、苦しいと言うことはないが、混んでいる。
『横山大観 新たなる伝説へ』
展覧会のチラシはわたしが知るところ二種あり、内一枚は表に『秋色』という大正の作品が選ばれている。


仲良しさんな鹿が実を食べたりくつろいだりしつつ、ちょっとこちらを気にしている。
この絵は知らない。しかし大観の中の愛らしさが、こうした絵に見出されたりする。

もう一枚の表は『或る日の太平洋』 墨絵に淡彩でファンキーな顔の龍が小さく描かれている。
正直言うと太平洋シリーズも富士シリーズもあまり関心がない。
mir542.jpg しかしながら、この龍の可愛らしさには惹かれた。

‘88年から展覧会をハイカイしているが、横山大観がメインの展覧会をいくつ見たか考える。
・・・調べると毎年なにかしら見ている。と言うより、総花的な日本画の展覧会に行くと七割くらいの打率で、大観の作品があるのだ。大観だけの作品展だけでも多く見ている。
あまりに膨大なので、展示順に好きな作品だけの感想を書く。

『村童観猿翁』 これは’97年の藝大卒制展で見た。なんとなく可愛いような可愛くないような子供らと牛と、芸を持つ猿と。115年前か…不思議な感慨まで生まれてくる。

『菊慈童』mir545-2.jpg

初見。大観の盟友・春草の菊慈童は幾種も見てきたが、こちらとは初対面。少し太子孝養図を思わせるような面立ちの美少年で、中国的な要素は少ない。この菊慈童は白菊を抱き寄せて、その香を味わっている。なんとも艶かしくもあり、無邪気にも見える様相を見せている。

『屈原』 中国の故事を絵画化したものが多い中、この『屈原』と、最後に現れる『風蕭々兮易水寒』は、ぐっと歯を食いしばって風に立ち向かうような様相を呈している。
会場では実はこの作品を入り口すぐに展示し、『風蕭々兮易水寒』を出口間際にしている。
なにかしらの意図があるのだろうが、そこまで読み取ることをわたしはしない。

『阿やめ』 mir545-1.jpg

大観の美人画と言ってもいいと思う。’89年に初めて大観記念館に行ったとき、これと『迷児』の絵はがきを手に入れた。そのとき他に寒山拾得を描いた絵はがきも手に入れたが、こちらは嘘のような美少年二人の立ち姿だ立った。
さて『阿やめ』 これは夢幻的な作品で、巨大な白菖蒲咲く水のほとりに佇む武家の女人を描いている。先の『菊慈童』から四年後の作だが、どちらも眼は切れ長である。
二人はまるで異邦の姉と弟のようにも見える。

『迷児』 迷子の迷子の・・・仔猫ちゃんでなくとも、犬のおまわりさんでなくとも、迷子とその周辺は戸惑うものだ。
釈迦、老子、キリストなどがいる。なかなか面白い意図を感じもする。

『金魚図』 ボストンから里帰りの作で、なるほどアメリカに行くだけの構図である。花弁チラチラ水面に浮かび、中には赤い奴らがいる・・・

『杜鵑』 つい先日、西宮大谷美術館でも同題で同じような構図の作品を見ている。ただしこちらは今しも森に降り立ちそうな速さがあった。

『流燈』 mir545-3.jpg別版mir543.jpg

すべての印度美人の中、この三人と村上華岳の『裸婦』は格別なのだった。
こちらは茨城の分だが、同年に描かれた別バージョンの彼女たちもとても好きだ。なんという良さか。飽かず眺める。百年前の天竺美人。

『水國の夜』 これはなんとも言えず楽しくなる。享楽的で明るく、そしてざわめきの絶えない情景。栖鳳、関雪、大観、中国の風景をよく写していると思う。これは絵が巧い・上手というのとは無関係に、なんだか浮かれてくるのだった。
mir546-2.jpg


『若葉』 リスのいる森。実は大観の絵はこうした森の中での小動物を描いたものなどに、とても良さを感じるのだった。大倉喜七郎との交流の中での作品なども、そうしたものが多く、小品にこそ深い味わいがあるように思う。

『洛中洛外雨十題』 堅田・・・浮御堂が雨にぼやけている。水鳥が飛び、松は水を多く含み、なんとも言えぬ墨の濃淡のよさがあった。
辰巳橋・・・嬌声、笑いさざめく声、三味線の音色・・・そんな音が聞こえるような情景。女たちは皆二階家にいる。三条大橋・・・何かの講中の人々がいる。大八車も行く。向こうに火の見櫓が見える。これは今も三条から見える。90年前と同じくその火の見櫓は活きている。
宇治川・・・金色の光が走り、八幡・・・竹林のために緑の雨なのだった。

小さく月が富士を照らす絵がとても好きだ。
これは去年か何かで手に入れ、とても気に入っている。
mir546.jpg

霊峰と言っても仰々しいものは好まないが、こうした幻想性のある作品は好きだ。

『胡蝶花』 イタチかテンらしき動物がこちらを見ている。どことなく琳派風な作品。
たぶんイタチだと思うが、とても可愛い。きょとんとしている。緑の草草と青い花がいい。
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『生々流転』 この絵が最初に上野の博物館に出た日に関東大震災が起こったのだった。
清方の『続こしかたの記』にその様子が記されている。清方と弟子たちはこの絵の前で地震に遭遇したのだった。
わたしの好きな俳優でエッセイストの殿山泰司は招集される恐れを懐いていた頃、この絵を見て色々と物思いに耽っていたそうだ。

昨年、足立美術館の名品展があり、そこでみたいくつかが出ていた。
『海に因む十題』のうち、冬の絵が一番良かった。なんとなく「凄い」絵である。

その足立で見たのと同じ作品『南溟の夜』東京国立近代美術館バージョンを見る。
mir546-1.jpg

こちらは足立版。img883.jpg

足立で見たのは墨絵に淡彩という趣だが、こちらは着色されている。共にガ島の情景。
明治の書生ッポ気質・水戸っぽの心根が生涯抜けず、「国家」を信じきっていた大観にしても、日本の戦局がどうにもならないことを感じていたのだろう。
どちらの絵も胸を衝くのだった。

『風蕭々兮易水寒』 秦の始皇帝を暗殺せしめんがために燕の太子・丹は、荊軻を刺客として送り込む。荊軻はそのときに詠うのだった。
「風蕭々兮易水寒 壮士一去兮不復還」
わたしがこの詩を知ったのは’79年だった。小学生の頃に知り、そこから漢詩が好きになった。そして大学の頃、今度はこの詩を和風に書き換えた千種有功の『易水送別』を読んだ。
いまも時折漢詩・唐詩が口をついて出るから、やはり深く好きなのだと思う。
絵は重く暗い。
ここには犬のような動物がいる。犬かどうかはわからない。柳は風に揺れている。風の強さを感じる。胸に堪える絵だと思う。
これを晩年の大観が何故描いたか。しかも戦後十年を経てからの作である。
色々なことを考えるが、答えはないままなのだった。

大観の評伝でいちばん面白いのは戸板康二『ぜいたく列伝』だと思う。
大酒のみで昔のままのヒトで、どことなく可愛い。大観の風貌は他の画家にとって「描いてみたい」欲望を抱かせたようで、細川護立氏の支援などで大観先生写生会が開かれるだけでなく、他にもそんな会があったようだ。
大観は死ぬまで老眼と無縁だったそうだが、あの巨大な黒目を見るとなんとなく納得できる。
展覧会自体はいいのかどうなのかよくわからないが、それでも見たい絵も出ていたし、初見の絵もあり、わたしにはいい内容だった。激しく混んだまま3/3まで開催されるだろう。
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コメント
いろいろとあるようです、問題が。

3月からの東山魁夷はどうでしょうね。
2008/02/22(金) 21:24 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
Takさん こんばんは
いろいろありますか、問題が。
なんだかなーですね。

そういえば国立新美術館のコンセプトってなんなんだっけ・・・
2008/02/22(金) 22:15 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
七恵さん、こんにちは!
私もこれ見てきました。
でもまだ記事にはしていませんが、書いたらTBさせていただきます。

お茶目でひょうきんな笑い声をあげてそうな龍がいろいろといて、なんだか楽しくなってしまったのを思い出しました。

七恵さん、'88年から美術めぐりをされているのですか!
すごいキャリアですね~!!
尊敬してしまいます!

2008/02/23(土) 15:19 | URL | はな #-[ 編集]
はなさん こんばんは
けっこう大観のオチャメさんな部分がこういうときに出ているようですね。かわいい・・・
なんか男性方にはこの展覧会がどうも不評ぽい感じだったようですが、わたしはけっこうよかったです。

この二十年、いかにたわけた人生を送っていたかの証明のようなもんです、ハイ。
2008/02/23(土) 21:18 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
すてきなレポート、かなりうなずきながら、愉しくよみました。
私はほとんど言葉にならないもので、うーん、なんとかの
手習いでもはじめましょうか、と思ってます。
2008/02/24(日) 16:09 | URL | すぴか #-[ 編集]
すぴかさん こんばんは
同感していただいたようで嬉しいです。
しかし前後期入れ替えをご覧になられたとは、うらやましいです。
いつ行ってもお客さんいっぱいなようですね。
まだまだ人気ありそうです。
2008/02/24(日) 21:41 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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