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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

山本武夫 美人画と舞台芸術

山本武夫の展覧会と聞いても、知らない人なので危うく行き損ねるところだった。
目黒区美術館で初の回顧展ということなので出かけると、なんとわたしの偏愛する小村雪岱のお弟子さんで、しかも名前に覚えはなくともその仕事に心当たりの多い人だった。
これだからきちんと情報を得ないといけない。私にとって行き当たりバッタリは敵だ。
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このチラシ絵タイトルは「シダル幻想」。ロセッティの「シダル」なのである。ただしこの女性は元禄頃から宝暦頃の髪形の日本美人である。
下の絵は舞台装置『蝶の道行』の原画。そうと知ったとき、鼓動が高まった。

一枚絵から展示が始まる。
ちょっと不思議な静けさを湛えた女たちがいる。
顔の中の陰影のつき方がその不思議さを醸し出しているのか。
総体的に師風をよく継いだように思う。女の髪の生え方や目つきにそうしたことが窺える。
しかしそれだけでなく、何か別な要素もある。・・・明治の石版画の人物像に似ているように思う。・・・見れば見るほどそう思う。
「のれん」mir558-1.jpg

のれんから半身を出す娘。黄八丈を着ているので芝居の「白木屋おくま」かと見当をつける。すると娘の視線の先には手代の忠七がいるのかもしれない。

他の一枚絵の女たちを眺める。
着やせする身体の上に短い首でつながるやや大きな顔。飛鳥時代の仏像のようなプロポーションだと思う。だからいやなことはない。
そんな体形の女たちがあるときは紫陽花をみつめ、あるときは桔梗を眺め、あるときは白拍子として舞を舞っている。

挿絵や口絵が大量に並ぶ。常々挿絵専門美術館の弥生美術館に出かけ、日本の挿絵の歴史にものめりこんでいるはずが、この画家を知らなかったのは、なんともナサケナイ。
しかも絵を見れば知る画家なのだ。
村上元三『牡丹亭お遊』表紙原画。五色の糸を掴んで舞う女。
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他にも吉川英治『女来也』の原画もあれば、戸板康二『団蔵入水』まである。
『団蔵入水』は実際に入水した役者の生涯を描いた短編だが、この本の表紙絵などをわたしは覚えていた。松並木と海と・・・
’80年代半ば-’90年代半ばをわたしは時代小説と歌舞伎とで暮らしていたのだ。色々な口絵などを見ると嬉しくて仕方なくなってきた。
『合の山』お杉お玉の二人の女芸人がいる。この『合の山』のお杉お玉のことも時代小説から教わった。『大菩薩峠』にも登場する。

挿絵も多く展示されている。
『次郎吉娘』こちらも師匠の衣鉢をついで白と黒のときめきがある。
『江島生島』の艶かしさ・・・牢内に押し込められた貴婦人が打掛も剥がされ、縛られている姿は凄艶だった。
『切られお富』 これも読んでいる。村上の作。挿絵を見るとまた本文が読みたくなってきた・・・
挿絵にはその力がある。

書籍・雑誌装幀も実に多く、そして見知ったものもいくつもある。
すべてシンプルでシャープで<和の美>の横溢したつくりとなっている。
下母澤寛の作品が多い。師匠の雪岱も下母澤寛と組んで名作を多く残している。
(『突っかけ侍』などその最たるものだ)
『花の兄弟』『喧嘩街道』『弥太郎笠』『浮名行燈』・・・ああ、江戸の美意識が生きている!
長谷川伸や白井喬二だけでなく、邦枝完二とも組んでいる。こちらも先の下母澤寛同様師匠には名作『おせん』『お傳地獄』がある。
そして城昌幸『若さま侍』シリーズ。このシリーズを全て手がけている。
どれを見ても素晴らしくいいセンスだ。

舞踊会プログラムの表紙絵にも名品が揃っている。流派を超えて、品の良い絵を送り出し続けた。
美人画だけでなく、風景や静物の美しい絵も多い。
日本画の美意識を心ゆくまで味わえるのだ。
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そして舞台美術。道具帳がこれも実に多く出ていて、それも今日まで使われている作品も多かった。
冒頭に挙げた『蝶の道行』、『お吟さま』、『滝口入道の恋』、『姐巳』などなど枚挙に暇がないとはこのことを言うのか、と思うほどに多い。
そのうち『お吟さま』を見て思い出したのは、八世三津五郎がこの芝居でお吟さまの父・千利休を演じている間に、フグで中毒死したこと。『姐巳』はたぶん中村雀右衛門が演じたあれでは・・・ということなどなど。
他にも『恐怖時代』がある。ああ、わたしは谷崎の戯曲で最愛なのがこの『恐怖時代』なのだ。
タイトルを知ったのは横溝正史『蔵の中』での愁嘆から、舞台化を一部見たのは蜷川の芝居のみ。
・・・ぜひとも歌舞伎で見せてもらいたい・・・!
mir558-2.jpg

他にも舞台衣装のデザインなどが並び、会場いちめんが花の開いたようにみえた。

師匠の雪岱の『おせん』などもいくつか展示されている。今は埼玉近代美術館で特集展示もあり、本当に嬉しい。その雪岱から世話を受けて資生堂にも作品を残している。
コールドクリームのポスター。mir558.jpg

和風香水『禅』シリーズなどの仕事。
ただただときめくばかりだ。

こういう内容が好きな人には堪えられない面白い内容なのだが、多くの人に向くかどうかはわからない。わたしにはとても良かった展覧会である。4/6まで。



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コメント
山本武夫展
TB安着してますよ。ありがとうございました。
雪岱ー武夫というラインを現代に甦らせた好企画でしたね。
こちらからもTB試みますが、念のため・・・。
http://cardiac.exblog.jp/8042358/
2008/03/02(日) 13:05 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
とらさん こんにちは
こちらもTB大丈夫でした♪
こういう企画をどんどん生み出してほしいです。
いい展覧会でした。
2008/03/02(日) 16:27 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
七恵さん、こんにちは。
私も行ってまいりました!
実は所蔵作品の藤田嗣治見たさに行ってきたのですが
こちらも美しいものぞろいで、大変に満足しました!
時代小説をたくさん読まれていたら、さぞ楽しまれただろうな~と
ちょっと羨ましく記事を拝見してました。
私はあんまり本を読まない子で…><
それでもあの挿絵を見ているだけで本を手に取りたいって思わせる力があるっていうのにはとっても同感です!
2008/03/02(日) 22:04 | URL | はな #-[ 編集]
はなさん こんばんは
よかったですよね~この展覧会。
挿絵ってはなさんの仰るとおりの力があると思います。
だって会場をハイカイしながら「うう~うう~」とサイレンのようなウメキをあげてましたよ。
物語と絵との幸福なコラボレーション・・・それが好きです♪
2008/03/02(日) 22:15 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
資生堂から、こちらへ。
へぇ~という連鎖にどっきりです。
山本武夫描く美人は、私感ですが、英山から、弟子の渓斎英泉にシフトしたようなニュアンスが感じられ、
うおぉっと思いました。チラシは資生堂でゲット、しました。
舞台芸術、に惹かれますね。
掛川の資生堂ミュージアムもなかなかよいものお持ちだし、
連鎖は水の輪のように広がります。
目黒も、埼玉もいかねばと思いますが、
卒業、春休み前に予定を入れ込めるかどうか?
しかし、楽しみは無限大、です。
ウキウキ情報、ありがとうございます。
2008/03/05(水) 22:06 | URL | あべまつ #-[ 編集]
あべまつさん こんばんは
>英山から、弟子の渓斎英泉にシフトしたようなニュアンスが
ああ~なるほど。よい師弟ですね。
道具帳みるだけで、そのお芝居を思い出しますよね。
掛川は遠くてちょっと私にはムリそうですが、資生堂もこうして去年辺りからちょこちょこ展覧会があるのが嬉しいです。

ほんとう、もう卒業式が目の前ですね・・・
2008/03/05(水) 23:05 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは。
目黒川のお花見を兼ねて行ってきましたが、だめだ僕の心には響かない。
カタログで久保田万太郎との関係について触れているのが面白かったな。
所蔵品の藤田嗣治はやはりいいですね。
しかしこの美術館はだめですね。
アンケートでよい広報の仕方を教えてくださいなんて訊いている、もう会期末なのに次の展覧会チラシ作らないでこんなこと来館者に聞く神経がわからない。

それはそうと遊行さんには釈迦に説法ですが最新号の「東京人」は「東京建築ガイドブック」ですよ、思わず購入。

http://www.toshishuppan.co.jp/

この雑誌、東京だけでなく全国で売られているのですね。


2008/04/03(木) 21:34 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんばんは
まぁこの展覧会は、言えば歌舞伎や時代劇、時代小説が好きなもんでないと、あきませんわね。
こればっかりは趣味の問題なんで仕方ない。
でもそれでも図録買ったんですか。
雪岱と久保万とは九九九会の会員で、共に鏡花宗の信者さん♪それを思うだけでこのお弟子さんのこしかたが見えるようで、いい感じです。
2008/04/03(木) 23:48 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
遊行さんは展覧会や美術館のよくないところがあっても決してそれを文章に出しませんよね。
おそらく頭に来ることもあると想像しますが、どんな展覧会にも新しい発見やときめきを見つけて、それを文章になさるーうん、見習わないと。
図録はほんとに久しぶりー半年ぶりかなーの目黒だし「ぐるっとパス」で無料の入場だからまあいいかなと、かさばるものではなかったし。
2008/04/04(金) 23:16 | URL | oki #-[ 編集]
okiさん こんばんは
年中無休で激怒しているわたしです(笑)。
よくないことを書くと、そのときはスッキリしても後で読むと見苦しいし、怒りが復活するんで、書かないだけなんです。
怖いですよ、何十年も前の腹立ちが不意に沸きあがってくるのは。我ながらビックリです。

>どんな展覧会にも新しい発見やときめきを見つけて
それが楽しみで行くようなもんです、ハイ。
2008/04/04(金) 23:33 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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