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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

辻村寿三郎 平成アールデコ

わたしは現存の作家の中で、辻村寿三郎師をいちばん偏愛している。
それは『新八犬伝』に始まり、現在に至るまで変わることがない。
『辻村寿三郎 新作人形展 ?平成アールデコ?』展は24日まで京都高島屋で開催した。
わたしは二度ばかり味わいに出かけた。
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入ると『雨月物語』の『白峰』に想を得たシリーズが出迎えてくれた。
人形と書がそこにある。寿三郎師は『新八犬伝』放映直後、新聞小説『まどう』の挿絵を始められたが、それらは般若心経一文字一文字に裸体の人間が絡むというもので、当時かなり衝撃を受けたことを覚えている。
専門の書家ではないことが、却って書に独特の味わいを持たせたか、書く内容より字の躰そのものに不思議な魅力があった。

白河院 青坊主の院は煌く目を持ち、指先に朱をにじませ、綸子を召している。
この方は色好みなだけでなく政治にも色々な業を見せたそうだが、ここでは崇徳天皇と平清盛の実父ではないか、と紹介されている。

その隣には後白河院がある。 銀色頭の院は派手好みだけに明るい柿色の法衣をまとい、顔だけはにやけたような造りである。政治的態度と今様狂いとが、その悪評を今に伝えているからか、どことなく<厭な>ツラツキをしている。

西行法師 筵のようなものを頭上に広げ、空をのぞく法師は、袖中にされこうべを収めている。誰のされこうべか。これが西行でなく文覚なら想像もつくのだが。
麻の着物がいい色合いに染まっていた。

祇園女御 金色の唇をした、美しい女が朱袴のまま立っている。
白河院の子を身籠ったまま平忠盛に下賜された、という伝承がある。その一方清盛は彼女の子ではなく、その妹の子だとも言われているそうだが、こちらの出典は知らない。
わたしには祇園女御のイメージは、吉川英治『新平家物語』での、勝気で尼になってから却って好き放題に楽しく活きる女、というのがある。
しかし師はここに彼女のための歌を捧げている。
捨てられて なみだ後ひく さみだれの月 
さみだれに 涙かれて くちがさけても

顕仁親王と虎寿丸 二人の少年。顕仁親王は古風なみずらに髪を結い、ぼんやりした風情で相手を見ている。いや、見ているかどうかわからぬ茫洋とした眼差しである。
そのうつろな少年に比べ、対手の虎寿丸は名に虎の字を受けただけに、蓬髪をかきあげて結んだような髪に、きつい顔立ちの意思的な少年に見える。袴の裾模様は大きな虎が二匹縫い取られている。
この二人の少年が実は異腹兄弟だと言うおそれがある、ということに面白さを感じる。
二人の、自分の運命に対する立ち向かい方は対照的だ。
虎寿丸は平清盛となり、顕仁親王は崇徳院となる。
道なき道を切り開く清盛、帝位を追われ保元の乱を起こす崇徳院。
清盛は死後に道はない、と生あるうちに疾駆し、崇徳院は死後に魔王となって、亡者・天狗の群の上に君臨する。その軌跡をこの二人の少年から見抜くことは出来なかったが。

近衛天皇 病鉢巻を巻いた黒髪が痛々しいほどに艶やかだった。17歳で崩御する少年帝。眼病からの死のために、この人形の眼も閉ざされている。
彼は明るい柿色の綸子をまとうている。しかしそれは重たげに見えた。

鳥羽帝と美福門院 雛のように並ぶ二人。その背景には師の絵がある。決して金屏風ではなく、そこには雨曝しにされた数限りないされこうべが描かれている。野ざらしの髑髏には何が宿ると言うのだろうか。

「白峰」から「さみだれ短歌」を師は連歌する。
薄墨で書かれた文字の連なり。言葉は音声を持たない人形たちの心の声となる。

北面の武士・佐藤義清の人形がある。弓矢を持って立つ彼の裾模様は、彼の後身が詠んだ歌にちなみ、舞い散る花びらである。

待賢門院璋子 いくら平安朝の色の始まりが早かったとは言え、この姫はあまりに早熟ではないか。十歳で密通を始めたとは後世恐るべし少女なのだった。
しかも彼女は澄ましたおもてをあげて慎ましく座っている。

崇徳院、狂乱。 病鉢巻を締めた院は物狂いのように胸をはだけ、紫の打掛、海老茶の袴を忘れたように、どこかへ行こうとしている。ここではないどこか。讃岐に流され、死後に初めて強大な力を得たという院の、無慚な佇まいがそこにある。

鎮西八郎為朝 本朝随一の武人は強弓を手にして立っている。片手には兜が掴まれている。大きな紫の数珠を肩からその手に掛け渡している。
強さを感じさせる人形、その顔には見覚えがあった。まだ鬚を残していた頃の小笠原道大、彼に似ていると思った。

ここで世界が変わる。
大蛇がいた。オロチ即ちスサノオでもある神がそこにいる。
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初めてこの人形に会ったのは、もう16年も前か。松屋の人形展のチラシで見たのだ。
実物にはその少し後。舌先もチロチロと伸びている。二つに分かれた舌。そして猛々しい大蛇もまた大きく口を開け、チロチロと二つ分かれの舌を出している。
彼が何故この場にいるのかを考える。
スサノオは根の堅洲国の王となり、地上を去った。その物語がこの会場で彼を道祖神のようにしたのか。

新八犬伝。 全てのTVドラマで最も深い愛を懐くもの。わたしが見始めたのは物語も後半の、道節が仇敵・鰐崎悪四郎猛虎の姦計に陥り、水牢に落ちたシーンからだった。
あれからどれくらいの歳月が経ようとも、この番組に優る愛を注ぐものはないと思う。
馬琴の原作も読み、専門書も読んだが、やはりこの「新八犬伝」が一番好きで好きで仕方ない。

その好きな新八犬伝の人形たちが並んでいる。後に新たに作られた額もの・当時の写真(モノクロ)・当時動いていた者たち・・・
何度見ても・いつ見ても胸が震える。
額ものは小物、たとえば巾着袋を髪に見立てたりしての造形で、発想が面白い。
額蔵、役の行者、小文吾、道節。
人形は左母次郎、八房、玉梓、伏姫、義実、おかつ。
写真は信乃、角太郎、毛野、義実、水入りする道節、小文吾、現八。
彼らに誘われて、壁に仕切られた一隅に入ると、「芳流閣」が始まった。
ああ、嬉しい・・・。45分間の夢の時間。
実はこのDVD三年前の展覧会で購入しているのだが、いまだに開けていないのだ。
NHK人形劇クロニクルシリーズVol.4 辻村ジュサブローの世界~新八犬伝~NHK人形劇クロニクルシリーズVol.4 辻村ジュサブローの世界~新八犬伝~
(2003/01/24)
坂本九、辻村ジュサブロー 他


こちらは1話20話最終話のDVD。
愛が深すぎると、往々にしてそういう現象が起きてしまう。
だから今こうして見ることが出来て、本当に嬉しかった。
うっとりしながら席を立つと、新八犬伝の人形たちが出迎えてくれた。
金碗大助、小文吾、現八、女田楽あさけの(実は毛野)、額蔵が。

意識が変わり、今度は小さな貝人形があった。蜆か浅蜊かを使った、とぼけた味わいのある人形たち。貝の表面に縮緬を張り込んで顔が生まれる。着物を着る前に皮膚として縮緬を着る人形たち・・・。それは貝であっても変わることがない。
ここにいるのは女房やおいらん、糸巻きを持つお三輪、橘姫。

また小さい人形のシリーズがある。こちらは「たけくらべ」。この人形たちはある特徴を具えている。小村雪岱描く女たちが三次元化すると、この人形たちになる。
ジュサブロー著書の中にこんなことが書かれていた。
「鏡花の小説の女たちを人形にしようとすると、・・・になってしまう」
伏字にした文字を眼にしたとき、自分の頭の中にそれが浮かんだ。

源氏物語縁起。’01年とその翌年にも見ている。
小さな人形たち。顔立ちも小さく墨や朱を置かれたもので、本当に小さく愛らしい。
その源氏物語の世界を鳥瞰するのが一際大きな人形・紫式部なのだった。
寿三郎人形の特徴を具えた美しい顔立ちの人形は、この「源氏物語」の世界の創造主であり、ときにはこうしてデウス・エクス・マキーナとしてこの場に立っている。
各場面が散りばめられた台。嘆く桐壺、物狂いとなり肌を曝して庭を逍遥する桐壺、雨夜の品定め、光君と葵上との婚姻、言葉巧みに若紫を連れ去る(かどわかす)光君、薄衣を残して消える空蝉、そして人知れず夕顔の遺骸を運ぶ惟光。生きているときはか細く頼りなかった肉が、死んだことで重量感を増している。髪は広がり広がり、手足も大きく広がり、女郎蜘蛛のように男の背を覆い尽くす。
女に死なれ、茫然と佇む光君。巨大な擬宝珠によりかかる主人を尻目に働く惟光はほっかむりをしていた。

人形佛大日縁起。源氏物語縁起の対面にほとけたちがいる。白縮緬ではなくやや濃い色の縮緬で肌を覆われた仏たち。石川淳風に言えば「死なない料簡の佛だち」。
空海になる前の、讃岐にいた少年・佐伯真魚が仏の前から真っ逆さまに墜落する。
どこかの廃寺からのものなのか、今出来のものなのか、獅子や象の木彫が仏たちの体重を支えていた。

角を曲がると、芭蕉の葉を持った男がいた。壮年の松尾芭蕉。そこには写真が飾られていて、森の緑の中、小さな鳥居があり、その前にウサギ人形がいた。また、苔むした石燈篭の前にもウサギ人形はいた。

歪んだ美はバロックかもしれないが、恋に歪ませた建物写真はバロックではなく、そこにいる「平成の娘たち」人形は、わたしには遠い存在だった。

十二星座の人形たちが壁にかけられている。
アリエス、タウラス、ジェミニ、キャンサー、レオ、ヴァルゴ、ライブラ、スコーピオ、サジタリウス、カプリコーン、アクエリアス、ピスケス。
それぞれの特性は小物で示されている。
最初にこの十二星座の人形たちに会ったのは、’96年の深川江戸資料館だった。
当時のチラシ。mir595.jpg

帰る間際にそれを知り、タクシーを飛ばしたことが懐かしい。

目玉座が出開帳している。パリ風ショータイムの始まり。平成アールデコ。SILKDOLLと名づけられた新作人形たちは、やや大きな造りだった。
チラシ左の彼女は座を見つつ、別な塔の上でくるくる回転を続けている。

阿蘭陀異聞 三年ぶりの再会。モルガンお雪、シーボルトの娘いね、マダム蝶々、唐人お吉、マダム貞奴。
南北五人女 小糸、三囲の土手での桜姫、団扇を持つお糸、お岩さん、お染。
西鶴五人女 雪ウサギを持つおせん、おさん、おまん、お七、お夏。
・・・時折、自分がこの中の誰かに似ているような気がする。
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吉原 何種類かあるうちの一つ。やや大きな人形たちで、遊女、かむろ、太夫、振袖新造、おかみらがいた。

VTRはここにも流れている。
『押絵と旅する男』 その映像が流れる前で、舞台と同じ装いがここに広げられている。
娘、鳥打帽をかぶる兄、お七人形。

最後に葛の葉と童子丸と狐がいた。
『元禄港歌』で繰演された悲しい母子の人形。「恋しくば たずね来てみよ 和泉なる
 信太の森の うらみ葛の葉」
わたしは説経節の原典「信太妻」も好きで、秋元松代の原作戯曲も好きで、平幹二郎の台詞回しもとても好きなのだった。

二度が二度とも夢見心地で、どちらも閉店までその場に執着し続けた。
久しぶりに人形町のアトリエに行きたい、と思った。
しかしながらときめきが大きい分、絶望に近い焦燥感と胸のきやきやは深まるばかりでもある。
完璧に観る、ということが出来ないそのもどかしさのせいかもしれなかった。
もっと奥へもっと深奥へ・・・希求は募るばかりなのだった。
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コメント
新八犬伝,あれは名作でした。
辻村ジュサブローさんの人形を初めて知って衝撃を受けました。
坂本九さんのナレーション、玉梓のおどろおどろしさもインパクトがあって、毎日夕方が来るのが楽しみでした。
楽しいばかりじゃない、古典芸能の匂い満載の番組でしたね。
2008/03/26(水) 14:09 | URL | 紫 #-[ 編集]
こんばんは。
ジュサブロー展、悩殺です!!
彼の物語と人形が合体してますよね。
私も人形作家の中では彼がダントツ!
小物や、布使いに一々しびれます。
人形町、行きたくなりますね。
これは東京に来るのでしょうか?
この遊行さんの記事で、クラッと来てしまいました。
2008/03/26(水) 22:37 | URL | あべまつ #-[ 編集]
ジュサブローさんの人形は昔から大好きなのですが、個展を見たのは本当に最近になってからです。
以前、滋賀で展覧会があったので行ったのですが、京都にも来ていたのですね!!知らなかったので残念なことをしました。(^^ゞ
妖艶でありながら気品も備えている・・・いつまでも眺めていたくなりますね。
着物が好きな私にとって、衣裳の緻密さがすごく魅力です♪
ウサギさんの人形は、そばに置いておきたいと思ってしまいます。(^^)
2008/03/26(水) 23:26 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
紫さん こんばんは
私は当時小学校に入ったばかりで、たぶん『新八犬伝』を楽しんだ最後にして最年少の世代だと思います。
あれから幾星霜・・・本当にあれを越える存在がないです。

「わーれーこーそーはー玉梓が怨~霊~~ッ」
今回玉梓の着物の裏まで見えました。
荒磯文様というより、昔の東映の、波ドドーンッでした。
いまだに太棹が好きなのも、ここからきていると思います。
2008/03/26(水) 23:28 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
あべまつさん こんばんは
これは名古屋と京都だけの企画かもしれません。
うう~む。
人形町のアトリエに行くと、わたしは腰が立たなくなるほどシビレ、自分のヨダレの海に溺れます。
今回アトリエから目玉座が出張してきて、レビューを見せてくれました。どきどきしましたよ。
やっぱりよいものはよいです!ぜひ人形町へおでかけください。
(ミュゼ浜口、すきやきマン、甘酒横丁・・・)
2008/03/26(水) 23:34 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
tanukiさん こんばんは
展覧会場のショップで、tanukiさんに似合いそうな薄紫灰色の綺麗な半襟をみました。
ウサギが白く抜かれていて、素敵でした。

ウサギさんは師の向かい干支(自分の干支の真正面の干支のグッズを集めると良い)なので、多くの作品を作られてます。
可愛いですよ~~半被に下帯のいなせなウサギもいますし。
こういうこだわりも好きなところです。
2008/03/26(水) 23:40 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
まるでジュサブローの人形たちを目の前にしているような気持ちになりました。
人形町にギャラリーがあるのですね。
ぜひ行ってみたいです。
2008/03/27(木) 07:47 | URL | チト #-[ 編集]
チトさん こんばんは
その名も人形町。江戸の情緒の残る下町の、素敵な町です。
アトリエの中で誰かの視線を感じることがあるんです。
振り向くと、人形がこちらをじっとみつめている・・・
物言わぬ人形たちの方が、物言うヒトよりずっと真摯なものを届けて遣す・・・
ここにいると、自分が人間なのが残念な気がするほどです。
2008/03/28(金) 00:00 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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