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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

松園と美人画の世界



大丸元町店で『松園と美人画の世界展』を見た。
基本的に日本画の中でも美人画を殊に偏愛している。
しかもラインナップを見ると、特に好きな作家が多い。
企画された会社と、それを開催する大丸に感謝するばかりだ。

主な作家は以下に名を挙げる。
上村松園/伊藤小坡/鏑木清方/菊池契月/北野恒富/池田輝方/竹久夢二/池田蕉園/土田麦僊/三木翠山/島城園/寺島紫明/谷角日沙春/岡本神草/甲斐庄楠音/木谷千種/小倉遊亀/梶原緋佐子/山川秀峰/中村大三郎/伊東深水/中村貞以/広田多津/三谷十糸子/橋本明治/北沢映月/守屋多々志/森田曠平/石本正

松園さんの美人画に最初に出会ったのは高校生の頃だから随分昔だ。その分、多くを見ている。
しかしそれでも初見の作品はこうして次々現れ出る。嬉しい驚きがある。
その一方でなじみの美人もいて、「あら、こんにちは」の気持ちで絵に対することもある。
尤も松園さんの美人は容姿だけでなく、精神性の高さが外見よりむしろ際立つので、「あらこんにちは」な挨拶では相手にしてもらえないかもしれない。

わたしなどのような、ちょっと頽廃的なものが好きな者には少し物足りぬ感もあるが、しかし対するだけで心が気高くなるのは、稀有なことだ。
福富コレクションの松園美人には微笑みを見せ、初見の美人たちにはちょっとしつこい目を向け、延々と眺める。
光記念館という博物館は初耳。飛騨高山にあるようだ。サイトを見ると名品も多い。
そこから多くの名品が来ている。なかなか行くことの出来ないミュージアムの名品を、こうした場で見れるのは幸せだ。
30点ばかり展示されていたその中でも、謡曲を愛した松園さんの得意な『汐汲み図』が二枚ばかり出ていた。セキ美術館と水野美術館と。わたしは他に野間記念館のを見ているから、これで何種類見た事になるだろうか。

珍しく松園さんの裸婦を見た。『化粧』鏡の前で湯上りの身体に乳液か何かを使おうとしているのか。その体つきを見ていて、「昔の日本人の女」だとしみじみ実感した。今の女とは全く別人種になってしまった。そんなことを思いながら、眺めた。
谷崎『瘋癲老人日記』にもそんな描写があった。老人は亡母の小さい足を想う。そして息子の嫁の、すんなり伸びた足にときめきつつも、嘆息する。

『夕べ』mir626-1.jpg

蛍狩りをしたあと、その蛍を放とうとしているのか。こうした風情の美はもう完全に失われてしまっていてる。


恒富の女は『浪花の悪魔派』と謳われただけに、何ともいえない艶かしさがある。それもさらっとしたものでなく、ねっとりした味わいの、昔のネクターのような濃さ。
畳までなんとなく湿っているような、生温かさがある。
『鏡の前』 これは恒富の作品の中でも殊に好ましい絵だ。

ここで東京(というより江戸)に移る。
08042201.jpg 08042202.jpg


わたしのいちばん好きな美人画家は清方だ。絵も好きだが文も好きで、随筆集も多く集めている。出来るならば、彼の描いた全ての絵に逢いたいものだと常々夢想する。
『二人美人図』 これも光記念蔵。遊郭のなかで馴染みあう若い男と女と。大正から昭和初期にかけての清方の画業は、艶かしさとあやうさがあり、なんとも言えず素晴らしい。
清方の描く男性は、現代ものはともかく時代物だと、春信のそれを思い出す。
性差のない男と女・・・髪型だけでのジェンダー。風俗から言えば江戸中期なのだが、初期の頃の「生き過ぎたりや」とうそぶく、遊ぶ以外することのない放埓なわかものにも、一脈通じるような感じがある。遊冶郎という言葉が思い浮かんだ。

清方は竹内栖鳳同様、素晴らしい師匠でもあった。
深水、紫明、秀峰らを始め、錚々たる門下がいる。
深水『晴日』 この二人の女を見て同門の紫明『姉妹』を思い出す。『姉妹』は谷崎の『細雪』での二人なのだが、寄り添い方・距離感の感じから、親しさを感じるのだ。

そう思っていたら、紫明『姉妹』もまた展示されていた。
嬉しくなった。この展覧会の企画者は本当に素敵な取り合わせを見せてくれる。

紫明の『舞妓』は大関からの出張だが、この三人舞妓図を見ると、いつも群鶴図を想う。
愛らしいが、凛とした風情。その魅力は深いものだった。

秀峰 『春雨の宵/時雨降る日』 二枚の絵のうち、春雨は娘を描き、時雨は女盛りの芸者を描いている。個人的なことを言うと、以前は娘の美に惹かれたが、今はやや年増に惹かれる。文楽でたとえると、蓑助さんの扱う娘より、文雀さんの年増の人形の方が好きだということかもしれない。

輝方・蕉園の作品は福富コレクションから来ていた。いずれも好きな作品ばかり。
しかしこの夭折夫婦は、ときめくような作品が多いのに、どうしてか展覧会がない。
いつか回顧展がひらかれればいい、と願っている。
『幕間』『お夏狂乱』『宴の暇』・・・どちらかと言えば輝方の女の顔がわたしには好ましい。
大正ロマンの美人画には、深い魅力がある。

大正ロマンを体現した一人に夢二がいる。
夢二の絵は四半期ごとに『弥生美術館』で堪能させてもらうが、それでもこうして違う場で逢うと、嬉しい気持ちになる。

同じ大正ロマンでも成園のねっとりした凄艶さは、やはりもう一つの大正時代と言うべきものだと思う。
松園さんの『焔』に立ち向かう絵は、この『おんな』を措いて他にはない。
『焔』は生霊となる女の壮絶さが仄見えるが、こちらのナマナマしさは凄艶だとしか言いようがない。血を垂らして見せても穢くない、怖くないのよ、と意識の向うで声がする。そんな絵だと思う。

契月の『朱唇』の女と、日沙春の『寵人』の女とは、やはり似ているように思う。師弟の作だからかもしれぬが、先は少女、あとは上なのだが、どちらもどこか共通する表情を持っている。朱唇の少女は手の置き方などが、やはり若い感じがするが、どことなく危ういようなものを漂わせている。「十八歳でわたしは年老いた」と言ったのはデュラスだが、そんな匂いをわたしは勝手に感じている。

神草『口紅』に楠音『舞ふ』も展示されている。頽廃の極みのに立つ女たち。
その一方で、大三郎『女人像』や貞以『待つ宵』のような近代性あふれる明るく健全な女性たちも並んでいる。

いいものが次々と現れる。
千種『をんごく』多津『おしろい』と好きな作品を眺めた後に、最後に石本正の『のれん』があった。
のれんをかき分けて現れる舞妓。少女の美と共に深いエロティシズムが漂っている。

展覧会は今、茨城に出ているそうだ。他の巡回は知らない。
いいものを楽しませてもらい、ますます大丸が好きになった。
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コメント
こんにちは!
すごいなあ~美人画でこんなにたくさんの作家から出ているなんて。
相当見ごたえあったと思います。
松園はほんと女の鏡って感じがしますもんね。
大丸いろいろまわってくれないかしら?
2008/04/23(水) 07:17 | URL | はな #-[ 編集]
うわー!うわー!松園さんだっっ♪←はしゃぎすぎてスミマセン(笑)
松園さんのほかにも、私の好きな画家の作品がたくさん出ていて非常に興味深いです。
京都店では巡回しないようで残念です。。。
松園さんと清方さんの絵を比べると、まさに西と東、同じ「粋」という字でも江戸の「いき」と京の「すい」だな~、というのがわかります。
現代女性も、美人画の女性たちの身のこなしを見習ってほしいですね(笑)

伊藤小坡さんは私と同郷なので、より一層親しみの気持ちが湧きます。(^^)
作品も、日常を生きる女性の描写を見事にとらえていると思います。
2008/04/23(水) 09:58 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
巡回先は茨城のみだそうです
☆はなさん こんばんは
はなさんが京都別邸に滞在される直前の展覧会でした。
次々多くの美人に逢えて嬉しかったですよ♪
顔立ち・姿、外見だけでなく、仕種美人にときめきました。
いや~楽しかったです。
それにしてもこうした展覧会こそ全国巡回すればよいのですが。


☆tanukiさん こんばんは
>同じ「粋」という字でも江戸の「いき」と京の「すい」だな~
それそれ、それです。その違いを同時に味わえて心地よかったですよ。
小坡さんは今回一枚のみでしたが、名古屋の美術館には彼女の作品が沢山収蔵されているので、なかなか楽しいです。
2008/04/23(水) 18:30 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
恒富と神草
これは凄いですね。昨年暮れ、高崎で見た「三都の女」の図録とこちらの情報を照合してみました。
北野恒富の《鏡の前》は高崎では見られませんでした。対の《暖か》が高崎に来たのに、とても残念でした。それから、岡本神草の《口紅》も、図録の表紙になっていながら、高崎には来ませんでした。
という次第で、なんとか茨城へ!!!です。
2008/04/23(水) 22:47 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
とらさん こんばんは
茨城に行く価値は高いと思いますよ。
初見が色々ありました。
またそれらは全てレベルが高いんです。本当に近年久しぶりの『美人画名品展』だと思います。

わたしは恒富の『暖か』とても好きなのです。
2008/04/23(水) 22:59 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
先日はありがとうございました
遊行さん、こんばんは。
先日は我が家のBlogにコメント頂き、ありがとうございました。こちらに私ごときがコメントするのも大変恐縮なのですが、一言お礼をと思って書いています。
我が家もこちらの展覧会に行きました。オットが松園の絵が好きなのでこの展覧会はずっと楽しみにしていたものです。美しい女性達を拝見できて、とても幸せな時間でした。
私は時々展覧会の事を書くものの、殆んど自分の覚書のような状態です。遊行さんの記事はどれも細かく丁寧で、ただただ感心しています。これからも参考にさせて頂きたいと思っています。
2008/04/25(金) 00:05 | URL | katokyo #k9wxRJZ2[ 編集]
katokyoさん こんばんは
なかなか同じ関西の方のブログを訪ねる機会がなく、探してみたらそちら様にヒットしまして、記事を楽しませていただきました。

わたしは美人画が好きなので楽しかったです。夫君も楽しまれたようでよかったですね♪

まだまだ関西もよい展覧会が多いのでこれからもあちこち出歩きたいですね。
2008/04/25(金) 21:00 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
五浦の美人画
遠征してきました。天気にも恵まれ素晴らしい美術散歩でした。なにせ絶景と美人のお出迎えがあったのですから。http://cardiac.exblog.jp/8477370/
2008/04/26(土) 22:50 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
とらさん こんにちは
今読ませてもらいました。
絶景と美人とは、これまた二重の喜びですね~でも都内から3時間もかかるんですか・・・は・は・は・・・遠いですね。

茨城のその美術館にも行きたいと常々思っていますが、根性なしのわたしです。
2008/04/27(日) 14:55 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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