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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

山川惣治 少年ケニヤ

四半期ごとに展覧会のある弥生美術館の会員になってから、もう随分経つ。
伊藤彦造や内藤ルネの回顧展など複数回行われた展覧会もあるが、山川惣治は初めて。
(’04年の南洋一郎ら冒険小説の世界展のときに少しだけ出ていたが)
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わたしの母やオジの世代はそれこそリアルタイムに『少年ケニヤ』『少年王者』に親しんでいたが、わたしは’83年の角川による『少年ケニヤ』まで、実物を見たことがなかった。
その当時わたしと同世代の人で元ネタを知るのは、あんまりいなかったのではないか。
当時キリンレモンがノベルティとしてグラスをプレゼントし、わたしは使うことなく今も手元に残している。
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晩年になってから再びスポットライトが当たる、と言うのはなかなか面白いことだと思う。
新作発表の機会が与えられ(しんどいだろうけど)、過去の栄光が復活する。
角川は最初にその手法で横溝正史をライトアップし、一大ブームを巻き起こした。
わたしもいまだに金田一さんが好きだ。今見てもとても面白いし、原作もとても面白い。
さて今回は山川惣治なのだが、角川が気合入れて売り出したとき、新しい雑誌も創刊してそこに山川の新作も掲載した。武田泰淳原作の『十三妹』(シーサンメイ)。
当時すでに中国文学が好きなわたしは「やたっ」とか思って何度か読んだが、最後まではその雑誌を読めなかった。今回久しぶりに単行本や原画を見て嬉しい気持ちになった。
とは言えこれは山川晩年の作品。やはり少年ケニヤや少年王者でないとあきませんな。

絵がきれいと言うことに改めて気づかされる。
けなげで真っ直ぐな心根の、逞しくもやさしい少年。心の美しさ・強さがその風貌にも顕れる。みつめるわたしは絵の中の少女のようにどきどきする。
『少年ケニヤ』は戦前の日本少年ワタルがお父さんと一緒にアフリカに渡り、そこで生き別れになることから話が始まる。
マサイの誇り高い戦士ゼガという賢く強い老人と共に旅をする中で、赤ん坊の頃に攫われて生神扱いされて生きる孤独な少女ケイトを知る。紆余曲折の果て、三人は旅をすることになるが、タダの旅ではなく古代恐竜が現れたり強敵が出たりで、波乱万丈なんてものではないのだ。
メモを取りながらこの絵物語を眺めているが、ドキドキする。
次から次か。絵物語だからマンガではないのだが、小説とマンガとの橋渡し的存在なのだということに、改めて気づかされる。

わたしの好きな絵は、ワタル少年とケイトが同時に海面に顔を出すところ。
この絵がとても綺麗だと思った。ゼッゼッと荒い息を吐くのまで感じる。
こういうのにときめくんだよな。もう本当に見どころが多い。

『少年王者』はターザンの話のような感じで、ゴリラのお母さんに育てられた日本少年が従妹のすい子さんに出会うことから、文明に還るか否かで色々悩む。
人間である自覚を持った以上は、どうしようもないかもしれない。しかしその一方で、帰ったところで適応できるのかどうか、ということに色々とわたしなんかは考え込んでしまうな。社会不適応者としていたたまれなさをかんじるのではないか、ということ。
昔、『グレイストーク』という映画があった。これはターザンがイギリス貴族グレイストーク家に戻ったものの自分が何者かアイデンティティに悩む話だった。
故郷である密林を懐かしむけれど、そこへ戻る道は最早鎖されている。戻ったとしてもかつての黄金の日々は二度と戻らない。
一度全く違う世界に足を踏み入れた者は、どこへも帰属できないのだ、ということを色々と考えさせられた。
しかしここではそんなことは考えてはいけない。
このジャングルの少年には敵もいるが味方もいる。
ところがこの味方の一人にめちゃくちゃなのがいる。
顔から上半身が崩れたらしく、常にミイラもびっくりファラオも驚く、みたいなナリの正義の人がいるのだ。しかもそんなのくせに、なにやらオーパーツを持ってたり、ありえない科学兵器を駆使するのだ。
しかもその正体はナゾ。う~~む。アメンホテップさんはヘルメットのような装甲車で現れてましたわ。

しかしそれにしても話は破天荒だけど、絵の綺麗さ・迫力に押されて、グイグイ読まされるなぁ。
戦前の紙芝居もいい。『勇犬・軍人号』ていう働く犬の話とか、ニーベルンゲンの指輪とか。
『虎の人』にはかなりウケた。タイガーマスクみたいなのがいるな、と思ったらマスクやのーて、顔が虎の虎人間なのでした。
ちなみにわたしも『虎の人』ただしそれは阪神タイガースファン・虎党ということで。
だから話の中でインドの奥地にある虎神教・・・というのを見て、「大阪にもあるゾ」と呟いてしまった。(関係ないが、高村薫さんが新聞に「阪神ファンは負けようが勝とうが阪神タイガースを決して見離すことはない。なぜなら彼らにとって阪神は神なのだ。現に名前の中に<神>がいる。かれらは阪神タイガースの信者なのだ」・・・というようなことを書かれていて、すごく大納得したことがある)
ところで、この虎の人は口が聞けず、猫類らしく「ゴロゴロ」とのどを鳴らす。それを豆虎というちょっとトリックスターめいた怪人が翻訳するのだった。むろんこの豆虎も虎人間。
話は案外暗いのだが、キャラに不思議なおかしみがあるので、それがいい感じ。

それから『ノックアウトQ』 これは自伝でもあり、友人の物語でもある。同じ印刷所で働く友人の一人がアメリカに渡り、ボクサーとして大活躍する。ついた呼び名がノックアウトQ。しかし昭和11年28歳で急死する。その物語を山川は愛惜と誇りとをこめて描く。
この『ノックアウトQ』に感動して梶原一騎は『あしたのジョー』を生みだしたそうだ。

ところでわたしが子どもの頃、日曜の朝には繰り返し再放送されたアニメがあった。
世界名作もの(ハイジやフランダースの犬、ラスカルなど)と、そして『いなかっぺ大将』または『荒野の少年イサム』だった。
あとの二つは川崎のぼるの原作だが、数年前カラオケで『イサム』の原作が山川だと知って驚いた。
『イサム』は西部劇の話で、お父さんが日本の武士だったのだ。1シーンだけそんな記憶がある。
歌はアカペラで歌えるが、話の細かいことは忘れている。
しかしジャンプコミックスのそれが並ぶのを見て、ちょっと泣けてしまった。

惜しいのは、前述の展覧会で見た『少年タイガー』がなかったこと。あれはなかなかよかったので残念。そのとき買った絵葉書だけあげておきます。
mir661.jpg  ときめくなぁ。

最後の方に一つだけ途轍もなく怖いものがあった。『骨ノ兵隊』。二、三枚しか絵がないのでよくわからないが、それでも怖い。何かついてくるものを感じる少年。それを父に言うと、父も何か憑いて来たな、と答える。灯りをつけると、父と自分との間に骨の兵隊さんが座っている・・・ こわ・・・。

かなりドキドキ度の高い展覧会だった。
お客さんも今回は昔の少女だけでなく、昔の少年も多かった。

楽しんだ後、三階の高畠華宵コーナーに行く。今回は『花』にまつわる作品を並べている。
特に良かったのは、エジプトの姫君がプールの水蓮を眺めるもの。わたしは熱国の姫君が睡蓮を愛でる絵と言うものが、とても好きなのだ。
併設の夢二美術館では『夢二の七つの顔』(多羅尾判内か)展が開かれていて、抒情画・童画・日本画・装幀・楽譜・紀行などが集まっていた。
わたしの大好きなパラダイス双六もある。img610.jpg 
とても嬉しい。
どちらの展覧会も六月末まで。大いに楽しんでください。
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コメント
こんばんは。
少年ケニヤ時代の人々が羨ましかったです。ターザン映画がもてはやされた頃を思い出しました。
少年ケニヤをずらっと、並べて読みふけりたいと思いました。
あの時代、空想の世界がときめき、美しかったのでしょう。

遊行さんはお好きなものの物持ちが良いですね!ケニヤコップ、よくぞご無事で。
私は引っ越し人生、スッカラカンです。バービーも、アトムもそして誰もいなくなった・・・です。
山川惣治の挿絵は何か事件がありそう~でドキドキします。
2008/05/17(土) 21:46 | URL | あべまつ #-[ 編集]
あべまつさん こんばんは
いや、要するにわたしは分類すると
「片付けられない女」なんです、はい。
執着が深いので、モノにも記憶にも固執するんですよ。ヨクドオシイだけ。

次から次へ事件が起きるお話が多いので、いつもドキドキハラハラですね。
しかし少年の美しさ・凛々しさにときめきました、本当に!
久しぶりにショタ魂全開です!
(いばって言うことか~)
2008/05/17(土) 23:46 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
No title
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
2013/06/02(日) 10:49 | URL | 株式税金 #-[ 編集]
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