美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

誌上のユートピア

誌上のユートピア−近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915
この展覧会、葉山から浦和に来て、名古屋に行くと言う。
展覧会の詳細はとらさんTakさんに詳しいから、そちらをごらんください。(お名前にリンク)


うらわ美術館は「本の美術」をこれまで標榜してきたので、この展覧会はまったくぴったりだ。
とは言え装幀がメインと言うのではなく(「本」と一くくりにするが)そこから生まれる美を、商業芸術もからめて、美々しく展示している。
ユートピア。本当にそう。夜間開館に行ったわたしの貸し切り。
わたしひとりの眼に、これら美麗な世界が映し出される。
何がどうと言うのは書きようがない。だって、好きなものばかり集まってるから。
それをわたしは享受した。
実に深く愉しませてもらった。
ところがあまりに愉しみ過ぎて、書きようがなくなった。
たまにはこんなこともあるのだなぁ。我ながらちょっとびっくりした。

そもそも昨年末、葉山展のチラシを手に入れてときめき、行けそうにないことで熱が出た。
しかしうらわに来るなら別だ。雌伏しよう。
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武二の『婦人と朝顔』は昨夏、小磯記念館で『武二と小磯展』で見た。

こちらはうらわ美術館のチラシ。同じく武二の『造花』
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どちらも絵の周囲に美しい植物の絵が絡んでいる。
わたしの好みでいえば葉山のそれの方に惹かれる。あくまで濃い色彩への嗜好があるから。

黒田清輝『野辺』 これは今やポーラの二枚看板美女の一人。以前も書いたが、川口松太郎と岩田専太郎の2ショット写真の背景にこの絵があった。それがどこの場かは知らないが。

青木繁『温泉』 青木の短い晩年の中、深いときめきがある作品。背後に有るカサブランカのような百合。タイル、壷・・・最後の輝きがここにある。
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橋口五葉の装幀した本たち。明治の頃、五葉は煌くような仕事をした。
洋画も版画もポスターも装幀も、なにもかも見事な出来栄えだった。
漱石『草合』、             鏡花『相合傘』
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こうした美麗な装幀に惹かれて、本を手に入れたくなるのだ。

日本の本だけでなく、イギリス、ドイツの美本が並ぶ。
イギリスにはイェローブックがある。ここには13冊展示されている。
いずれも心惹かれる表紙絵たち。
ビアズリーのサロメ、全シーンがある。初めてこの絵を知ったのは、小学生の頃だった。
手塚治虫『MW』でゲイの二人がそれぞれサロメとヨカナ―ンとして描かれていた。
それをみつめながら背徳的な造形にときめいていた幼いわたし。
高校の頃に『サロメ』と『アーサー王の死』の画像を手に入れることが出来て、随分嬉しく思った。
今、目の前にある全画を眺めながらあの頃を想う。
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ドイツは昔々から美本を造るお国柄で、毎年印刷博物館がその展覧会をしている。
『ユーゲント』誌を見ていてドイツロマン主義に今更にときめく。この雑誌から『ユーゲント・シュティール』が生まれるのだが、しかしそれ以前のロマン主義にも惹かれるのだ。
「一番新しいのは、一番最初に古くなったものなのだ」その言葉を思い出す。
ルートヴィヒ・ホフマン描く森の中の美女、ケラー、ロートリンゲンという字を見るだけでときめきが増幅する。沼の女が梳る姿。

『ヴェル・サクルム誌』 オッテンフェルトの線描は、船上の勇者を描く。
不思議な絵を見た。
唐獅子の寝る床とソファの女など。

外国の美本やすばらしい挿絵もさることながら、やはり日本の作品が好きだ。

南薫造「夫の無事の帰還を願うブリュターニュのドリゲン」  バーン=ジョーンズの模写。こうした作品をみると、明治の青春が真っ直ぐに伝わってくる。

青木繁『真善美』 以前からこの三枚の絵は好きだが、ここでこうして再会すると嬉しいし、ときめきが大きくなる。鉛筆を走らせるだけでこんな美が生まれるのか。

『逝く春』img789.jpg

府中市美術館所蔵の名品だが、福田たねの元絵はどれほど残っているのだろう。構図にしろ背景の道具にしろ、みな青木の好みのものばかり。

『群舞』も来ていた。この絵は『輪廻』と似ているが、タイトルが変わるだけでイメージも大きく変化する。

天平美人は青木や武二だけのものではない。萬鉄五郎までも描いていたのか。
そして三越のポスターとしての天平美人は杉浦非水が描いている。

雑誌・国華への憧れも深い。この展覧会に作品はなかったが、小村雪岱はこの雑誌に勤めていた。

色々な口絵は見るだけでも楽しい。mir671.jpg


非水『エレクトラ』、中沢弘光、浅井忠・・・洋の東西を問わぬ、物語性の強い絵がそこにある。特に浅井忠の『狂女』は目を惹いた。
中世の狂女の姿は定められている。烏帽子をつけ、必ず笹を持たねばならない。
笹は福を齎し呼び込む植物であると同時に、狂人のアイテムなのだった。

水島爾保布の絵もあった。シャカが初めて悟りを開く情景。押すな押すなの大繁盛。木の重要性をここで思い出す。

戸部隆吉『枇杷と蕗の薹』 ナビ派の絵かと思った。地に蕗の薹がモコモコモコモコモコモコ生えだしている。執拗な繰り返し。子どもたちはこの蕗の薹を踏み躙るのだろうか。

木村荘八『パンの会』 この絵は随分以前から文学史の一枚、という立場で眺められてきたように思う。絵としてどうの、というよりパンの会のメンバーがどのような<感じ>だったかを如実に知らしめてくれるような,絵だからだ。

まだ洋画家だった頃の小杉未睡えがく『婦人立像』 白木蓮の傍らに立つ絣のひと。
放庵を名乗り日本画に転じてからは洒脱さを感じさせる作品が多いが、洋画には「明治の青春」を髣髴とさせてくれる力がある。

織田一磨の版画シリーズはどれを見てもいい。町田で見たときも、吉祥寺で見たときも、共にときめきが巨大化するばかりだった。
都市の肖像への憧れを教えてくれたのは、織田と川瀬巴水だった。

戸張孤雁のサーカスもある。名古屋で見てからもう随分経つ。サーカスの曲芸。白と黒の版画が曲馬団への郷愁を誘う。

神坂雪佳も『百々世草』からわんこや花のいい作品が選ばれている。
他に誰の作か忘れたが、海を渡る蝶を描いたいい絵があった。黄色と朱色の蝶たちが。

書くことが追いつかない。想いが空転する。
好きなものばかりがあると、却って書けないものだと実感した。
最後に一枚。
橋本邦助『笛吹く少女』mir671-1.jpg

これはたまたま細見でみつけていた絵はがき。
邦助の作品だとは、この展覧会まで知らなかった。書いてなかったから、ここで知って嬉しい。

年に一度はうろたえるほどときめく展覧会に当たることがあるのだった。



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コメント
ユートピア
ユートピアではすべてが素晴らしいのですね。3部にわたる記事を書いてしまいましたが、まだ書き足りない気がしています。
2008/05/20(火) 20:22 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
こんばんは。

上品で上質な展覧会でした。
葉山で見逃し浦和でなんとか
見ることでき大満足です。

珍しく図録買ってしまいました。
2008/05/20(火) 20:45 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
☆とらさん こんばんは
今回図録を買わずに帰った私ですが、後悔しつつも、「とらさんの記事があるさ」と己に言い聞かせております。


☆Takさん こんばんは
葉山に行くのも一興でしょうが、やっぱり遠くて。浦和、ありがとうと言う気持ちです。あの本はいい本ですね!
2008/05/20(火) 21:38 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
もの凄くソソラレマス。
浦和が遠いなんて言ったらバチが当たるんでしょうね…。
2008/05/21(水) 11:40 | URL | 山桜 #-[ 編集]
☆山桜さん こんばんは
これは本当に見応えありましたよ~
>バチが当たるんでしょうね
当たりすぎて中毒しそうです。
ううーん、本当によかったです。
2008/05/21(水) 22:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんにちは
やっと行ってきました、なんで前期も行かなかったのだろうと、後悔しきりです。家からは東京へ出るのと変わらない時間だったのでびっくり。
サロメの対訳の文庫本で、はじめて知ったビアズレーの絵、あれはいつ頃のことだったかしら、遠い記憶です。
2008/05/28(水) 11:01 | URL | すぴか #-[ 編集]
こんばんは。
GWに葉山に行って、ここでやっていたのかと、ドッキリでしたが、今日うらわに行ってきました。
うんもぅ凄い濃い展覧会で、上半期ベストにはいるかも?と思います。
浦和からずっと図録に涎落とさないように、見入っております。

「方寸」があまりにも格好良すぎて、驚きました。
また、浅井忠と神坂雪佳の関係が素敵で、琳派のデザインにうっとり。
シンプルな版画の魅力、ますます虜になります。
その時代のこともよくわかる展覧でした。三越、頑張ってましたね~
前期・後期通えば良かった~と後悔しきりです。いやぁ、良かったです!!
2008/05/28(水) 18:22 | URL | あべまつ #-[ 編集]
前後期行きたい展覧会
☆すぴかさん こんばんは
わたしは前期のみですが、本当に楽しめましたね~
サロメ、モローの絵を知るまではわたしにとってサロメはビアズリーのそれでした。ワイルドの描いた話の悪意そのものが、うまく出ているようにも思います。


☆あべまつさん こんばんは
大正時代の三越の活躍、素敵ですよね。以前三越の資料を見る機会がありハマりましたよ。この時代の版画の良さはもう、言葉に出来ない!
ああ、この展覧会は思い出すだけでわくわくしてきます。
2008/05/28(水) 19:06 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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