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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

竹本伊達大夫追悼

竹本伊達大夫が亡くなった。今朝、新聞で知った。
わたしは伊達大夫の独特の語りが大好きだったので、悲しい。
言うたら、オヤジ度の高い大夫だった。
『夏祭』義平次が絶品だと言うだけで、どんな大夫か想像がつくかもしれない。
わたしは伊達大夫の義平次が聞きたさに人形も見んと、盆ばっかりに神経を向けていた。
そりゃもうあのにくそさ、ほんまに絶品でした。
「言うたらなんじゃい、言うたらなんじゃい」と、忠義と恩のために苦衷の中にある娘婿・団七九郎兵衛を苛め抜く、そのにくそい物の言い方。
巧かったなぁ、ほんまに巧くて、にくそくて、そしてよかった。
わたしが聞いたのは’93夏だったか。

同年の11月には『布引滝』の『松浪琵琶』を聞きに行った。
これは源平物で、多田蔵人が検校に身をやつしているところへ、その正体を暴こうと彼の娘でまだほんの子供の小桜を拷問する芝居だった。
これは苛める側が良かったのでも、苦悩に耐える多田蔵人が良かったのでもなく、ぶちのめされる幼い娘が非常によかったのだ。
シャガレた声の伊達大夫の語りがなんとも言えず哀れで、ぶちのめされる幼い娘が「アア、づつない、づつない」とそこにいる父を庇おうとするその健気さを、伊達大夫はなんとも言えず可憐に演じた。
悪声が少女の苦しみをより露わにするようで、聞けば聞くほど哀れで哀れで、泣いてしまった。
わたしは文楽の三業のうち、実は浄瑠璃が一番好きで、ときどき素浄瑠璃の会に出掛けたいと思うことがある。(時間の都合で行けないが)
私の持つ音源は豊竹山城少掾のものなので、また全然違うのだが、聞いているとやはりしみじみいいものだと思う。
しかしこの伊達大夫は山城少掾の門下とは違う唯一の大夫だったそうで、そこらがまたわたしには面白くも思えた。

わたしの文楽の手引き本は、このブログでもしばしば名を出している八世三津五郎と武智鐵二の対談集『芸十夜』なのだが、そこでいやと言うほど山城少掾の良さを教え込まされ、テープで聞いて「これが近代の大名人の語りか・・・」と学ばせてもらった。
しかしシュミはやっぱり別で、わたしは伊達大夫の独特の発声、言い回しに愛着があった。

‘94春の『妹背山』では『鱶七上使』を語っていたが、豪放でこれまたとてもよかった。
わたしは妹背山のここらの芝居は、歌舞伎よりも文楽で味わう方が好きだ。
今の歌舞伎役者では鱶七がどうも面白くないのだ。

‘97夏の『夏祭』では『内本町道具屋の段』の奥を語っていたが、腹に響くよい語りだった。
なにより生活感がある。
つまり団七九郎兵衛という男が、大坂では何をして生計を立てているのか、よくわかるような語りだったのだ。
同じ場でも住大夫の語りは、団七九郎兵衛が女房とどのようにして出会い、縁を結んだかが伝わるような感じがあり、その実感の違いがひどく面白かった。

・・・他にも色々好きな演目も多いが、耳に残るのはやはり義平次と娘・小桜なのだった。
体調が良くないことは聞いていたが、それでもやはり寂しい。
もう文楽劇場の上映会でしか、伊達大夫のあの語りを聞くことは出来ないのかと思うと、ますます文楽劇場から足が遠のいてしまう・・・。
今年の夏は久しぶりに行こうと思っているのだが。
ありがとう、伊達大夫。ご冥福をお祈りいたします。
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コメント
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2008/05/29(木) 00:30 | | #[ 編集]
はじめまして
――さん こんばんは
ありがとうございます。よいお話を教わり、嬉しいです。
いずれまたお願いしたいと思います。

最近劇場に足を運んでなかったのが後悔のタネです。
しかし自分の頭に残る伊達大夫師の語る声を何度も再生しては、しみじみよかったなーと新たな感銘を覚えています。
またよろしくお願いいたします。
2008/05/29(木) 23:05 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
追憶
こんにちは遊行七重さん。伊達路太夫さんの死は残念です。私は朝日座最後の頃から文楽劇場オープン頃まで集中して見ていましたが、太夫では、津太夫さん呂太夫さんそして伊達路太夫さんを注目してみていました。悪役やいじめ役が最高でした。・・・みなさん亡くなってしまいました。最近見ていないのですみません。
2008/05/29(木) 23:45 | URL | kazupon #-[ 編集]
kazuponさん こんばんは
'80年代の頃を楽しまれたのですね。
私はその頃は学校の鑑賞会で見に行くばかりで、語りより人形に夢中でした。
挙げられた大夫の皆さん方、芸談などでしかその芸を知ることは出来ませんが、国が上演記録を保管してくれているのが、まだ救いのような感じです。

文楽の人々も本当に少なくなりました・・・
2008/05/30(金) 00:09 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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