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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

アジャンタ・シーギリア壁画模写を見る

先日、法隆寺金堂展で見た壁画模写には感銘を受けた。
あの壁画を模写した画家の一人は、インド美術との関連を口にしたそうだが、確かにそんな趣が感じられる。
実際、明治末から戦前の一時期、インド仏教美術への憧れが世間にあったそうだ。
そしてその最たるものを、京都で見た。
『杉本哲郎 アジャンタ・シーギリア壁画模写 70年目の衝撃』
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京博の新館での企画展示。京都の日本画家だった杉本哲郎が、インドやスリランカに渡り、その地の遺跡壁画を模写してきたものを、1938年に発表してから、今年で70年目なのだった。京博は言う。
「考えてもみてください。海外渡航など夢のまた夢、カラー写真・印刷技術も未熟だった時代、原寸大の天然色で異国の壁画が目の前に立ち現れたのです。しかも、杉本は、中年以降、苦心して学んだ美術史の素養を活かし、キャンパスや絵の具にも工夫をこらし、写真ではできない質感表現を達成しています。日中戦争の暗雲たれこめる中、これを見た人の胸に去来した感懐はいかばかりであったでしょうか。」
実のところ、わたしはインドにもスリランカにも無縁で、この先も行く予定はないだろうから、写真で見るか映像で見るしかないのだが、それとても縁は薄い。
つまり1938年当時の人々と同じ衝撃と感銘を受ける可能性があった。
6/25-7/27までの展示、わたしは6/28に出かけ、そして7/26に再訪する予定がある。

シーギリア・レディースには前々から関心があったが、とても行けそうにないので旅行社のパンフレットで一部分を眺めるのみだった。
アジャンタ壁画は聞いたことはあるが、どんな絵なのかさえ知らなかった。
だからこの展覧会が始まるのをずっと待ち続けていた。
チラシは薄紫の摺りだが、佛の背後にその当時の新聞記事が使われていて、ますますそそられた。こんな見出しを見れば、それだけでときめくものだ。
『生命を代償に 貴重な二大壁畫を齎して 杉本哲郎畫伯歸る』
『印度壁畫の模寫に氣を吐く畫伯』
『猛獣と死闘の彩管』
・・・かっこいいよな、なんとなく。

アジャンタ遺跡から始まる。7世紀初頭の絵画。
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パドマパーニ(蓮華手菩薩)像 <アジャンタ第一窟壁画模写>部分
展示物はもっと大きなものだが、チラシではこの部位しか見れない。
このとき画家は『上げ写し』と言う技法で模写したそうだ。技法としてはよりリアルなものだということで、’37年当時そのままの彩色なのだった。
それで解説プレートを読むと、現在は実物は下手な修復のせいで、なんとニス塗られてしまって、今の色彩はメチャクチャになってしまっているそうな。
それでは往時を偲ぶことなと到底できるわけがない。
だからこの杉本の模写だけが今や世界唯一の存在になったそうだ、本物の彩色を偲ばせることが出来る存在として。

とは言えリアルな分だけ怖いのだが。
左上の楽器を持つ足がトリで首のないのは、次の画像ではその全身を現してくれる。
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ミトゥナ(男女抱擁)像〈アジャンタ第一窟壁画模写〉
尻尾の長い猿がいっぱい描かれているが、実際これらハヌマンは現在の遺跡にも姿を見せるらしい。(猿の王)もまたどこかにいるのだろうか。

ところでここの模写は杉本が日本人初ではなく、荒井寛方も大正六年にしていたそうだ。
寛方は印度や埃及を題材にした作品が多いから、修行として模写したのかもしれない。
現にインドに絵画教師として招かれただけでなく、戦前の金堂壁画模写もしている。
(清方の相弟子だが、方向性は異なる)
そういえばこの絵で思い出したが映画の方の『インドへの道』では、ミトゥナ像へのある種の強迫感からヒロインが事件の発端を作ったのではなかったか。
デヴィッド・リーン監督、最後の作品だった。

次の一室はシーギリヤ・レディースで占められている。こちらは5世紀のもので、シーギリヤ・ロックの壁画として残っているが、当初500体だった妖艶な天女たちは、時代の過ぎ行く中でどんどん失われ、ついには1967年の政治的混乱の最中に多く剥ぎ取られ、今では11体しか残っていないそうだ。
もったいない話。
残された天女たちは皆、手に手に蓮の花などを持っている。
失われなければ、凄まじいばかりに壮大であったろう。
尤も、狂気の王の生んだ空間だということを考えれば、その凄まじい数の天女たちに囲まれているのも、少し怖いような気がする。
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アプサラス(天女)像〈シーギリヤ壁画模写〉
胸も露わな方が身分が高く、そばにいるのは侍女らしい。
艶かしく豊麗な天女たち。どんな物語がここに残るかも知らないのだが、ときめきは拡大化するばかりだ。

指先で花を摘まむ美女もなんとも艶かしい。mir741-1.jpg

こちらはアジャンタとは違い、スケッチしてからの模写らしい。
皆で11体の美女がいる。
誰も彼もが実に艶かしく微笑んでいる。

実物写真はこちらのサイトさんのが綺麗だった。
そして京博のサイトの収蔵品コーナーには、他の絵も置かれている。
08071301.jpg色々あるうちから。

壁画を模写するにあたり、現地政府との折衝の難しさなども解説プレートに書かれていたが、どんな困難も乗り越えて、こんなに素晴らしい模写作品を後世に残せたのは、奇跡的なことだと思う。

見に来た甲斐のある展覧会だった。



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