江戸時代の仏教・神道版画を見る
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奈良県立美術館で『志水文庫・江戸時代の仏教・神道版画』という展覧会が開催中。
これも見応えのある内容だった。
200点ほどの展示物は、全て庶民のための信仰の道しるべ。
個人コレクションとして蒐集されたのを一枚一枚見て歩くと、ただもうその膨大さに感心するばかりだった。
江戸時代だから当然ながら神仏習合、庶民の信仰の流行り廃りもあり、殆どなんでもあり的な様相を見せている。
しかも、どこそこの国のナントカ山カントカ寺、と名前もきっちり入っていたりする。
・・・急に思い出した。私が好きなのは『南無山四尊寺』なむさん、しそんじ とか『属佛寺』ゾクブツ寺 こういう類なのだった。(出典:石森章太郎『さんだらぼっち』、諸星大二郎『西遊妖猿伝』)
チラシは当麻曼荼羅。元の版木は三条の檀王法林寺。それを摺って彩色したもの。
当麻曼荼羅は賑やかで、フルオーケストラのようだとかねがね思っていたが、これもまた期待を裏切らない。曼荼羅は余白の美とは対極の地にあるから、とにかく描き込む。込むと言うより混む、くらいの感覚。描き混む。佛口密度が高い。
大津絵の来迎図も面白い。いつもの絵柄より、こういう信仰関係の版画の方が面白い作品が多い。キッチュでポップな、という形容詞が合う。可愛いから欲しくなる感じ。
天保年間の兜率天曼荼羅、これはフルカラー彩色で、バックが濃い水色と言う明るいもの。元々弥勒菩薩の待機する兜率天は、言ってみたら未来の国なのだからこの手の色合いもOKなのだろう。宮殿の内外を描いている。
通行人とか機嫌よくオシャベリする人々も見受けられた。賑やかでけっこうなことだ。
なんとなくメーテルリンク『青い鳥』での『未来の国』のイメージがある。
合羽摺りの版画もかなり多く、安価に庶民が手に入れられて、家のアチコチに貼って、毎朝拝んだりしたのがよくわかる。
祖母の台所には荒神さんが祀られていたが、そこにはやっぱりお札みたいなのが貼ってあった。清荒神は参道が楽しいので、小さい頃はよく連れられて行った。
最近ご無沙汰だが、たまには出かけよう。頂上には鐡斎美術館もあるし。
鬼が手にしてるのは五趣生死輪図。これはフルカラー、モノクロ、と何種かあり、パターニングは決まっている。そこには地獄・畜生・餓鬼・人・天の有り様が描かれていて、鬼は言えばサンドイッチマンとして地獄の広告を持っているのだった。
チベット仏教の同種のもあり、そちらは修羅道も入っての六趣。この手の絵はアジャンター遺跡にもあるそうだ。先日京都で見た杉本哲郎の模写した部分には、これはなかった。
この種の絵については芥川の『地獄変』(第七章)にも少し記述がある。
久しぶりに読むとやっぱり気持ちの悪い話だ、面白いけれど。
往生要集の天和、元禄、天保、嘉永年間の版本が並んでいた。
時代が少しずつ違うので絵の描きようも異なる。鬼たちはどれも可愛い。幕末の本に至っては劇画調だった。
天橋山文殊菩薩像
白衣の菩薩が獅子に乗る。これは京都の仏師が描いたもので、古びがついて、版画と言うより肉筆風にも見えた。
佛傳図も色々あるが、やはり生誕と涅槃が人気らしく、それが多かった。
生誕図では、こんなのがよかった。
ルンビニーの無憂樹のそばで「天上天下唯我独尊」する釈迦を祝って、門外にはゾウや牛のファミリーが集っている。インドではなく風俗は中華風。
涅槃図に至っては色んなパロディや二次創作も出ている。
若冲は野菜で涅槃図を拵えたが、鯨の涅槃図には魚類が集結していた。
追善絵もそんなのがあり、浮世絵も色々工夫を凝らしているが、笑ったのは西南戦争での西郷の最期を涅槃図にしたものだった。なんでもしてええんか?という感じ。
幕末の人気細工師・一田庄七の籠細工の涅槃図を浮世絵にしたものもあり、こういうのはとにかく大好きなので、喜んで眺めた。
浅草奥山では見世物として上方くだりの細工見世物が大流行し、國貞も国芳もこぞって描いた。それらの展覧会をこれまで楽しんできたが、今度国立演芸場の資料室で久しぶりに展覧会があるので、とても楽しみだ。
全身を種字でまとめた不動図もよかった。なかなか先鋭的なファッションだった。
神道の図は物語風ではなく、神の肖像を真正面から捉えたものが多かった。
八幡神だと騎乗し、背に矢を負うている。姫神たちも真正面。
近代に入るまで真正面の鼻の描き方には苦心した日本の絵師たちだが、やはり平面的な構造になっている。しかし威光は衰えるわけでもない。
色んな神様が集合した図も多く、やはり正面向き。神との対峙になる。
象頭山神像 これは実は祟徳院の姿を描いたものだと言う。御霊信仰のうちでも一番恐ろしいような・・・
同じように祟りなした天神様の図も多かった。それでも天神様は学問の神様になったのだが。
西宮のえべっさんの図もあった。えべっさんの行事は1/9、10、11日の三日間だ。
関西はえべっさんで盛り上がる。わたしは近所のえべっさんで気合が入る。
関東にはえべっさん信仰がないのに、なぜ恵比寿があるのかよく知らない。単にビール会社がそこにあったからなのか。
この手の展覧会は普段余り興味を持たないのだが、どうしてか観たかった。
ちょっと我ながら不思議。しかし面白い内容だったので、観てよかった。7/27まで。
- [2008/07/22 21:03]
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