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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

小袖 江戸のオートクチュール

サントリー美術館では『小袖 松坂屋染織参考館の名品』展が開催されている。
小袖は桃山以降、江戸時代末の400年ほどの間に様々な図柄を生み出した。
個人的嗜好から言えば、寛文小袖と元禄小袖がいちばん好ましい。
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松坂屋の染織参考館は祇園祭の山鉾町にある。
だから宵宵宵山の屏風祭の日などに誰が袖屏風や鎧などを見せてくれる。
普段は「松坂屋京都配送センター」の看板が掛かった町家で、いかにも京都らしい感じがする。
そこにこんなに凄いコレクションがあるとは本当に知らなかった。
考えたらわかることなのに、考えもしなかった。
だから今、このコレクションに出会えて嬉しくて仕方ない。

季節や着用の場面に合わせて選ばれた小袖の意匠には、花や草木、風景の表現が多く見られ、自然の情緒を大切にする日本人の季節感が豊かに表出されています。また、身辺を飾る多彩な調度や器物を斬新な意匠へと昇華させるとともに、和歌や物語などの古典文芸を思い起こされる意匠を表すなど、小袖における独創的な表現からは背景となる日本の文化がうかがえます。
そう、昔の日本人には本当に和の心があった。無茶はしない、自然とともにある。

300点もあるので、一枚くらい自分が欲しくて仕方ないもの・着たいもの・似あいそうなものもみつかるだろう。
そんな欲望の目で見るのも一興だと思う。

これまで観て来た主な「小袖」展のことを思い出す。
1994小袖屏風 京都文化博物館 
1995小袖名品 カネボウ繊維美術館
1999江戸モード・小袖文様に見る美の系譜  歴博
1999花洛のモード 着物の美 京都国立博物館
2005千総コレクション 京の優雅 ?小袖と屏風? 京都文化博物館
2007丸紅コレクション 小袖・能衣裳・裂  京都文化博物館
この他にも高島屋史料館などで色々見せてもらっている。
そこへこのサントリーでの展覧会が加わる。

どの展覧会も本当によかった。
傷みやすい昔の着物をよく守り、本当に見事な展示を見せてくれる。
好きな一点がすぐに思い浮かぶ。

今回の展示換えリストも立派だった。
名称・地質・地色も書いてくれているから、実物と比較しながら見て回れる。
しかしそれでも小袖につけられた名前は便宜上のものに過ぎず、実際のところ名前を書いても実物を想像できるかどうか、定かではない。
漢字の連なりを見たら堅苦しそうなイメージが湧くのだが、実際には煌びやかな雅さがあったり、洒脱だったりする。

これまで見て来た小袖の中で「これが好き!」というものは大体決まっている。
自分の嗜好はよくわかっている。
派手な柄で肩の辺りに大きな文様が入るのがいい。しかも黒地でぱーーーっとしたのがいい。出来たら揚羽柄なんか最高ですね。絞りが入るとなおいい。

チラシに使われた二点もたいへん良い。特に左上のはいい。東博や京博にもよいのがあるが、大体がこういうパターンのものに惹かれる。
うちの親は若い頃から江戸小紋が好きだと言うが、わたしは友禅も好きだし、絹より絖(ぬめ)にときめいたり。銘仙も母は好きらしいが、わたしは違うな。

そんなことを思いながら延々と眺めて廻る。楽しくて仕方ない。
絹の海に溺れそうだ。
自分が着ること・誰かが着ていたことを思いながら見て回る。
小袖が花ならわたしは蝶か蜂のようなものだ。ああ、引き寄せられる。
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辻が花を見るのもいいが、辻が花で面白いのは、小袖が変形して敷物になったり、掛け軸に使われたりしているのを見たりするときでもある。
桃山の辻が花は高貴な階級の男女に好まれた分、お寺への寄進にも使われて、本来の形から変わってゆく。
丸紅が所蔵する中で、淀殿着用という伝承を持つ小袖も、打ち敷きに変えられていた。それを復元したのは凄い技術だと感心する。
ここにも元の小袖と、それと同じ染めであるが残欠になったものが展示されていて、なかなか興味深かった。
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辻が花の技法は一旦途切れて、近代になってから復活したと聞くが、そのあたりのエピソードも面白い。
今回、蝶をあしらった辻が花を見つけた。かわいいなぁ?♪
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以前友人が辻が花の工房に行き、そこで自分の見聞したことを教えてくれたが、やっぱり手仕事と言うのは大変やなーと思うばかりだった。
無論辻が花だけではなく、全ての手仕事は大変なのだ。
そんな苦労を土台にして生まれてきた美しい小袖を機嫌よく見て回れるのは、やっぱり幸せですね。
あれがどう・これがあれや、というのは自分の心の内に留め置いて、ただただ楽しんだ。

わたしは始めに書いたように、寛文小袖や元禄頃の小袖が好きだ。
こういう感じのが最高。mir779-1.jpg
だから個人的嗜好だが、江戸も半ばに入り絵柄が全体に調和するように入り込み始めると、少し面白味が薄れるように思う。
しかしながら、江戸の粋(イキ)も上方の粋(スイ)も、一部が目立つ派手さを好まなくなっていた。
時代に沿った小袖しか生まれなくなってくるのは、仕方がない。
面白いのは流水に花散らしなどだが、そこに金糸で古歌が縫い取られていたりするのが、楽しい。
百花繚乱も均等な花の配置になる。そのくせ肩辺りに鶴が飛んでたり。

総絞りと言う贅沢なものもある。
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紫に菱文菊模様が松坂屋、松に敷き瓦文様が京博。どちらも似たパターンなので、同時代で同じ工房の作品かもしれない。

尾形兄弟の家業は雁金屋という屋号の呉服屋さんだったから、着物の図案帖であるひいな形を残している。
それは大阪市立美術館に所蔵されているので、これまでにも見ているが、改めて実物と図案との違いなどを知ることが出来、興味がつきない。
実際何枚か光琳デザインの小袖も見ているが、ステキだった。
光琳は空間プロデューサーとしても敏腕だったようで、プロデュースを頼まれた婦人のために、衝撃的なデザインをしたそうだ。
そんなことを思いながら見て回るのも本当に楽しい。

この菊柄は歴博にも同じものがあった。mir776-2.jpg
そういう発見をするのも楽しくて仕方ない。

近世風俗画と浮世絵を、衣服の差異から見て行くのも結構好きで、色んなことを考える。
大体において、近世風俗画に現れる人物たちの小袖は大方が好ましく、浮世絵の着物ではやっぱり幕末の絵師のそれがいい。
国貞ゑがく女の衣服など、わくわくする。現実にそれを着ていたかどうかは、別としても。

チラシのもう一枚の着物、燕柄もかわいい。他でも燕柄を見ているから、やはり嗜好はどこも似ているのだろう。mir779.jpgツバメも飛び交うものだけではなく、濡れ燕という趣向がある。それは歌舞伎『鞘当』で名古屋山三郎の着ていたもので、そこから町方に広まったりした。
役者はファッションリーダーだったのだ、今も昔も。

展覧会の一角に岡田三郎助のコーナーがあった。
彼のファンたるわたしは喜んでその前に出る。
三郎助の描く女は、多くがいい感じの着物を着ているが、これは想像の産物ではなく、実際の着物コレクションからの選択だったのだ。
現代の中山忠彦がクラシックドレスをコレクションし、奥さんがそれを身につけてモデルとなるのと同じに、三郎助も気に入った着物を、美人と誉れ高い八千代夫人に着せて、それを描くこともあったのだ。
三郎助と八千代夫人の徒然話は鏡花も書いているが、どれもこれも面白い。個性の強そうな夫人では着物がしばしば負けることもあるだろう。
今、目の前にある絵画でもそんな雰囲気がある。


小袖は人を必要とするのか。
そんなことまで考えるほど、ここにある小袖たちの独立した美に感銘を受けている。
着られずとも優美な存在であり続ける・・・。
着るものと言う本来の存在の意味から逸脱してしまっているか。

観て歩くと目も肥えてくる。技法の多様さにも目が向く。
これは本当にいい展覧会だ。
明るい嬉しさがこみ上げてくる。

売店は会場内に特設されていて、いつものショップでは販売されていない商品が多い。
絵葉書を数葉買うと、松坂屋のロゴのある小さな紙袋に包まれていた。
なんとなくそのことも面白かった。
展示換えは三期にわたるようなので、全部ご覧になる方は、お気をつけください。
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コメント
さすが
松阪屋さん、京都に着物の仕入れ部門を持って力を入れてきた様子が見て取れますね。
祇園祭の屏風祭りで見せてもらったことのある小袖も展示されていたのかな?
あの町家の風情いっぱいの雰囲気も外灯に入れられた松阪屋の文字も私は大好きなんです。
2008/08/16(土) 23:56 | URL | 紫 #-[ 編集]
これは名古屋市立美術館で見てきました。私も寛文小袖が一番好きです。
過不足なくバランスの取れたデザインで、現代人の感覚に合うと思います。
三郎助のコレクションにはびっくり。本物を着せていたんですね。

なぜ名古屋に行ったかというと、同じ時期に徳川美術館で相応寺屏風や
豊国祭礼図屏風が特別公開されたからです。
相応寺屏風が描かれたのは寛永年間?とかいわれてますが、着物は寛文小袖
らしいデザインですね。ファッションの変わりめだったんでしょうか。
2008/08/17(日) 11:01 | URL | ひろすけ #-[ 編集]
☆紫さん こんにちは
あの松坂屋のお店の佇まい、いかにも山鉾町らしくて好きです。
今回何しろ300枚が三期にわたって入れ替わるので、特定は難しいですね。
なんしか思い出すと絹の花畑~という感じです♪
でも見て回ると、「あらこんにちは」がいくつもありました。嬉しいです。

松坂屋は名古屋が発祥の地なので、京都にはどうなのかと思ってましたが、すばらしかったです。
町の方のも一般公開してほしいですね。
この展覧会、関西にも帰ってきて欲しいです。


☆ひろすけさん こんにちは
尾張徳川家の治外法権的な賑やかさ・江戸文化の高さが好きです。
三郎助のコレクションは知らなかったので、「本物か~」と私もびっくりです。「あやめの衣」も「萩」もみんなステキな着物でしたが、実物があるとは・・・

寛永年間って実にいろんなことがありますよね。御前試合も将軍家だけでなく、忠長公のめちゃくちゃなのもありましたし、島原の乱もありますし。政治とファッションの関係って面白いです。語源も含めて。
・・・とここまで書いて寛永の後が明暦の大火で次が慶安の正雪の乱でそれから寛文か、と改めて思い出しました。
2008/08/17(日) 13:17 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
鉄壁
こんにちは。

サントリーと松坂屋が組めば
鉄壁ですよね。それにしても
松坂屋さんいいもの集めていらっしゃる。

ちょくちょく公開してくれれば
尚よろしいのですが難しいのかな。
2008/08/19(火) 10:39 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
☆Takさん こんばんは
近代になると鉄道会社がデパートを始めましたが(小林一三の阪急)、それ以前は呉服屋さんがデパートになりましたから、やっぱり松坂屋の目の高さと言うのはえらいものですね。
それにサントリーは赤坂時代から「常民の使うもの・愛したもの」を集めてきましたから、やっぱり目が凄いです。本当によかったです。
2008/08/19(火) 22:13 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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