FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

明治の七宝

泉屋分館では京都の清水三年坂美術館のコレクションをメインにした、京都七宝の展覧会を開いている。
並河靖之の作品がずらずらと並んでいる。
明治初期の帝室技芸員。彼の七宝は有線七宝で、それを自在に使って美しい作品群を作り上げた。並河の家は現在では記念美術館になり、一般公開されている。庭は植治こと小川治兵衛。一見以上の価値がある。

さて泉屋博古館の本館は京都の鹿ケ谷にある。鹿ケ谷と言うのは源平の昔、俊寛らが平家打倒の密談をしていた場所・鹿ケ谷カボチャの原産地、等々・・・
東京で京都のこうした美術品の展覧会は珍しいが、そういうことを思えば納得の展覧会である。
mir791.jpg

明治初期の七宝焼きは大きな壷などにその技芸を顕わにした。
元は何もない銅素地を壷に成形して、七宝焼きと言う綺羅を飾る。
高温で焼成され、出てきたときには耀くエナメルとしてそこに姿を見せる。
全くもって美しく、技巧に技巧を重ねたような存在、それが七宝焼きである。

わたしは中学生のとき、陶芸部で主に七宝焼きを学んだ。無線七宝を教わったが、先生は有線七宝をされていた。有線七宝は技巧が難しく、中学生ではなかなか出来そうになかったが、出来栄えはやはりたいへんに美しかった。
七宝焼きの釉薬は主に透明系と不透明系に分かれていて、どちらも巧く併用すると、面白い効果が出た。銅版に金箔を置き、その上に釉薬を載せて焼成する。
・・・・・・・今でもときどき七宝焼きを再開したいと思うくらいだから、やはりその頃から七宝焼きの美に惹かれていたのだろう。

無論ここに展示されている作品たちは、そんな中学生の技能とは比べ物にならぬほどの高みにあるものばかりだし、技法も異なるが、なんとなく親しいような心持で、作品群を眺めた。

梶常吉という作家が近代七宝の祖だというが、それについてはこちらの安藤七宝店のサイトに詳しい。
何しろ梶が七宝の秘密を知り、それを作り上げるまでの苦難の物語は、名古屋辺りの教科書にも掲載されているそうだ。
どんな技術も始祖はたいへんな労苦をする。近代の西陣織では、初代龍村平蔵の艱難辛苦は言葉にならぬほどだった。

さて展示品を眺めると、やはりこれらは清水三年坂美術館でいつか見たような作品が多く、関西人のわたしは「出開帳、お疲れ様です」とそっと声をかけて歩く。

尾張七宝の祖・林小伝治の作品は、大和絵の花鳥画の伝統を受け継いでいるのを感じる。
華やかな構図は、海外向けと言うことを考慮してのものだと思うが、色様々な蝶が戯れるかと思えば、百花繚乱の中を飛び交う小禽たちの姿もある。
キラキラしく、褪色する恐れのない花鳥画が、そこに繰り広げられている。
mir792-1.jpg
尾張七宝の作家たちの作品群を眺めると、黒地に華やかな絵柄というパターンが多いことに気づく。闇に煌く花火のような美、または黒地の小袖に咲き誇る花々、それらを思い起こさせる。

無論それだけではなく、乳白色の地に彩色が広がる作品もある。
竹内忠兵衛の竹に雀・柳に燕の対になった花瓶は深く目に残った。
mir792.jpg
雀も燕も大和絵だけでなく、浮世絵でも愛されている小禽の代表だが、本当に愛らしかった。
そしてこの絵柄を見ると、名古屋の幕末の絵師・中村竹洞の絵を思い出す。
竹洞の作品は春に頴川美術館で見ている。
シカゴ・コロンブス万国博に出品されたそうだが、ジャポニズムの美を観客たちは堪能したろうと思う。

ところで黒色釉薬はお雇い外国人ワグネルの指導により、手に入れた技術だった。
それ以前は黒色釉薬もなく、それを使う技巧もなかった。
並河靖之はその黒色釉薬を開発し、七宝の世界を更に広げたのだった。

並河の作品は大きいものより小さいものに、より美しさと技巧の深さとを感じる。
繊細優美な作品にため息ばかりだ。
しかしこの桜花図花瓶などは土台が大きいからこそ、美が際立ちもしている。
桜の花びらの色が少しずつ変化している、グラデーションの美。
絵画よりも絵画的な絵柄と彩色。
本当に美しく、凝視しても凝視しても、美は視界から拡がるばかりだった。

「美しいものをみつめ続けると麻痺してしまう」確かにそうかもしれない。しかしそれでも尚、みつめ続けずにはいられないような美がそこにはある。

一方、東京の涛川惣助、もう一人の「ナミカワ」は無線七宝の技巧を駆使した。
風景の図で、遠景を無線・近景を有線にすることで、絵柄にリズムを生み出し、まるで絵をそのまま転写したかのようにも見えた。
並河とはガレとドーム兄弟のような違いを、この二人には感じる。
実際涛川の作品は、ドーム兄弟のそれに共通するような柔らかさを感じる。
地も薄紫がかった灰色などが多い。
それぞれの違いをこうして楽しめるのはよいことだ。

面白い作品があった。
七宝貼込屏風 鳥獣戯画と白衣観音などを貼り込んでいる。こういうのも面白い。

他に象嵌七宝などの技術で作られた七宝もあり、それらは鉄に七宝をつけたように見えるもので、江戸時代までの建造物で見かける、引き手や釘隠しなどがその仲間。
本当に楽しい気持ちで眺めて廻った。
泉屋分館が六本木一丁目にあって、本当によかったと思う。
この美術館が東京にあることで、関西の美と技がこちらにも広まるのは、嬉しいことだから。

展覧会は9/15まで。どうか楽しんでほしいと思います。
関連記事
スポンサーサイト
コメント
以前、私もブログで少し記事にしましたが、並河靖之さんの繊細な作品は、東山にある美術館で見てからすごく気に入ってます。(^^)
泉屋分館、私は鹿ケ谷の本館を訪れた時にハシゴしようと思っていたら、なんとそちらは東京にあることをパンフレットを見た時点で初めて知り、すぐに行けない距離なのを残念がっておりました(笑)いつかぜひ行ってみたいです。
遊行さんは七宝を習われていたのですね!素敵です♪ぜひ、いつか作品を見せていただきたいです。
私も教えてもらおうかしら~~♪
2008/08/25(月) 20:15 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
☆tanukiさん こんばんは
並河邸の秋の公開にぜひご一緒したいと思っています。
綺麗な七宝を見て、お庭を見て・・・という楽しみを味わいたいですね。

泉屋の本館はなんと言っても青銅器のコレクションがすばらしいです。
いい空間ですしね。

わたしの七宝焼きは今から見ればやっぱり中学生の手によるものなんですが、楽しい記憶が詰まっているので、それがいいとこかなーと自賛してます。
五条にある七宝焼き教室に通いたいけれど、ちょっと難しいです。
2008/08/25(月) 23:13 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
こんばんは。
ようやく、今日行ってきました。
七宝をこれだけ見るのは初めてでしたので、
とても興味深く楽しんでみてきました。
超絶技術に目が点になりました。
いかにも七宝らしいデザインから、
意外なデザインや、下絵、貼込屏風なども
面白かったでした。
七宝を手がけたことがある遊行さんならではの
この記事もフムフムでした。
2008/09/03(水) 22:12 | URL | あべまつ #-[ 編集]
☆あべまつさん こんばんは
実際「明治の華」という感じがしますよね。
わたしは関西人なので、見る機会は他の方よりは恵まれていますが、それでも「おお~~♪」でした。
技巧に技巧を重ねたような工芸品が好きなので、面白かったです。

鼻煙壷も、七宝で飾られたものがあるんです。
中国の七宝もすてきですよ。
2008/09/03(水) 22:48 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア