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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

清方の芝居絵

清方の本当の佳さは本人が名づける処の『卓上芸術』にあると思う。
タブローの美は確かに素晴らしいが、挿絵や口絵の魅力の大きさも、決して忘れられない。
『清方の芝居絵』の最終日12/7に出かけて、その悦びを深く味わった。
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清方は子供の頃から芝居好きで、自伝『こしかたの記』にもしばしばそのことを繰り返し述べている。清方が絵を描き始めた最初期、父親の主催するやまと新聞に劇評が載ると、清方はコマ絵を描いたりしていた。
それは仕事だからと言うだけでなく、やはり嬉しくて楽しくて描いたようである。

チラシの三枚は上から『江戸桜』(=助六)、『お嬢吉三』(=三人吉三)、『独鈷の駄六』である。上二つは歌舞伎好きなら一目で何の芝居かわかるが、下の絵はわからない。『小野道風』の芝居のキャラらしいが、わたしはこの芝居を見たこともないし、資料を読んだこともない。これらは『芝居絵十二題』という連作ものの三枚で、ほかには以下の作品がある。
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9点左上から『矢口渡』『鳴神』『鈴ケ森』中左から『土蜘』『野分姫』『関の扉』下左から『源氏店』『お祭佐七』『辰五郎』。
この中で題を見るまでわからなかったのは『野分姫』と『辰五郎』くらいで、あとはわかった。わかって「ああ、あのシーンか」と思い当たると、今度はそこらのセリフを口ずさんでしまう。そうした点が芝居絵の楽しさである。
大正15年の作だから無論団菊は亡くなり、次世代の羽左、梅幸、歌右衛門、幸四郎、宗十郎、そして菊吉らが活躍していた時代の芝居を描いている。
清方には絵の弟子として、役者の市川鬼丸もいたから、いよいよ親しんだろう。
絵を見るだけでなく、清方の随筆を色々思い起こすと、臨場感が湧いてくる。

わたしはこれらの芝居の中でも特に『三人吉三』が好きなので、清方のお嬢吉三の絵を見て、嬉しくてしょうがない。絵を見ただけで「月も朧に白魚の」で始まる名セリフが蘇る。
このお嬢は羽左だろうか。なんとも魅力的な立ち姿。弁天小僧よりお嬢吉三の方がわたしは好きなのだ。昔の録音を復刻させたCDで聴いた羽左衛門の口跡が脳内再生する。

『土蜘』の妖かしの僧のこのポーズも好きだ。大体『土蜘』にはいいシーンが多い。数珠を口に当てて裂けたように見せるところなど、ドキドキする。
近年ではやはりニザリーが一番素敵だった。

『寺子屋』画帖を見る。丁度松王丸が首実験をするところ。
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ああせつない・・・!筋も展開も全部わかっているが、それでも何度も同じ芝居を繰り返し見て、その都度泣いている。「痴呆の芸術」と言うのが実感としてわかるなぁ。

雑誌の口絵として制作した芝居絵も多くあり、抽斗を引いてそれらを眺める。
こういう楽しみこそが卓上芸術の一番の力なのだ。

大正六年『額の小さん』にシビレた。これは大坂の湯女だが、一度だけ関わった男を忘れかね、他の男を撥ね続けた女。凄艶な美貌。清方の大正半ばの女たちは、タブローも口絵も屏風絵も、誰も彼もが凄まじいほどに艶かしい。
眉の流れ、黒目がちの眼、楊子を銜えた口許、後れ毛・・・何もかもに惹かれる。

八犬伝の『対牛楼の旦開野』もよかった。女装の美少年だと言うことを感じさせず、女田楽の艶やかな舞姿を見せている。原作ではこの後に本性を表し、敵の一族を殲滅した挙句、壁に「鏖(皆殺しの意)」などと恐ろしい宣言を書き連ねるのだが。

『お夏清十郎』『朝顔日記』の下絵もあった。神奈川近美と静岡県美にそれぞれの絵巻が収蔵されている。

『時代美人風俗双六』もあった。ちょっと見ただけでも、初花、おその、照手姫、中将姫、梅川、葛の葉、地獄大夫らがいた。初花の出る『箱根霊験▲仇討』など、今の世では上演できないのだろうな・・・残念。
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本当に楽しめた展覧会だった。こんな企画、嬉しくて仕方ない。
それで12/11から12/21まで挿絵展もしているが、この十日間だけの展覧会、近ければ是非にでも行きたいところだった。

最後にオマケ。先日初めて三の丸尚蔵館に行った際に買った絵葉書の中に小村雪岱の芝居絵があった。清方は雪岱を高く評価していたから、丁度よい感じ。
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『道成寺』ものは大正から人気が出たそうだ。
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コメント
遊行七恵さん、こんにちは。
清方の「芝居絵」、とてもいいですね。
『寺子屋』も絵を観ているだけで舞台が目に浮かんできます。
来春の歌舞伎座2月公演では「菅原伝授手習鑑」や「娘道成寺」がかかるようですけど、さよなら公演でチケットが高くなりますし、確保も大変そうですね。
2008/12/21(日) 00:54 | URL | sekisindho #-[ 編集]
記事を拝見していて、鏑木清方記念美術館に行きたくなりました。
やはり清方は良いですね!
>雑誌の口絵として制作した芝居絵も多くあり、抽斗を引いてそれらを眺める。
>こういう楽しみこそが卓上芸術の一番の力なのだ。
あの抽斗は良いですね。何となく楽しくなります。
>近ければ是非にでも行きたいところだった。
まったくもって、同感です。インドア派の僕にとっては、東京でさえ、遠いですから。(苦笑)
小村雪岱の絵も素敵ですね!
2008/12/21(日) 10:21 | URL | lapis #-[ 編集]
☆sekisindhoさん こんにちは
芝居絵はそれだけで嬉しく楽しいものですが、清方の絵だとますます喜べますね。
ここ数年、なかなか歌舞伎座のチケットが取れなくなっていて、ちょっと諦めていますが、やっぱり建物そのものへの愛着も深いので、なんとかして二月に行きたいところですが・・・
ムツカシイです。
寺子屋は今だと三津五郎の源蔵が一番良いのではないかと思います。


☆lapisさん こんにちは
九時開館に間に合うように出かけまして、しみじみ清方記念館を味わいましたよ。
本当に素敵です。
あの抽斗は宝箱のようなもので、開くと何がしかお宝が拝めるという感じです。
前回は『註文帖』でした。
雪岱は六代目の芝居の大道具などもよく拵えたので、この白拍子花子、もしかすると六代目かもしれませんね、細面ですが。
2008/12/21(日) 11:04 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
こんばんは~♪
私も挿絵系、大好きです(^^)
絵具のぼかし方に、清方さんの技術の素晴らしさを感じます。
舞台見なくてもこの絵があればいいや、的な気持ちになりそうです(笑)
2008/12/21(日) 20:43 | URL | tanuki #s.Y3apRk[ 編集]
☆tanukiさん こんばんは
>舞台見なくてもこの絵があればいいや、的な気持ちになりそうです

そうなんです!(笑)。それでついつい怠けるわたし。
でもtanukiさんも挿絵系がお好きでよかった。清方の芸術の出発と終焉はそこに尽きるなぁと思います。

2008/12/21(日) 23:32 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
ニザリー
こんにちは。
ニザリーに反応して参りました。
素敵な展覧会ですね。
歌舞伎や芝居の勉強、もっとしなければと思います。
最近やっと浮世絵の「假名手本忠臣蔵」を見て楽しめるようになった、若葉マークのogawamaです。
2008/12/24(水) 09:58 | URL | ogawama #-[ 編集]
☆ogawamaさん こんばんは
ニザリーに反応くださりありがとうございます(笑)。
こういう展覧会が年に何度かあればますます喜んでコロコンデという状態になるんですが。
わたしは昔の劇評読んだり芸談調べたりするの好きなんで、なんかその辺りで勝手に学んだような(どんなんや)。
忠臣蔵の芝居絵はたくさんあるので、見応え大ですね。
2008/12/25(木) 00:02 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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