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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

帝展期の東京画壇

野間記念館はわたしにとって定番の美術館。美術館が出来る以前は「幻の」と冠のつく野間コレクション特別展が、時々デパートで開催されていた。
だから今、こうしてタイトルごとに所蔵品を展覧してくれるのが、嬉しくて仕方ない。
このコレクションを始めた野間清治氏の美意識と趣味は、わたしにはありがたいものだ。
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帝展期の東京画壇。
思えば今回のハイカイはほぼ日本画だけを見て回ったものなのだった。

チラシは山川秀峰「蛍」。野間コレクションの白眉の一つ。
秀峰には美人の奥さんがいて、その妻をモデルに美人画の名品を数多く制作している。
今回は出ていないが、九条武子を描いたものに惹かれ、艶かしい女の横顔に吸い寄せられて、予定も立てていなかったのに急遽東京へ出てきたことがある。
それほどに秀峰の描く女は魅力的なのだった。
この「蛍」も構図は浮世絵の伝統に則ったものなのだが、三美女のこうした図はギリシャの三美神のようにも思われる。

今回の展覧会は2007年の同時期の「清方と仲間たち」展によく似ている。
所蔵品を展示する美術館なので、当然ながら何度も見る作品が多いが、それでも対峙するたびに新しい発見がある。

松岡映丘「池田の宿」 太平記のエピソードを採った。
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この池田の宿から出ようとする俊基朝臣からは哀れさを誘われる。
どうも映丘の描く人物の多くは、誰もがどことなく哀れさをそそられるようなところがある。尤も歴史上の人物や物語の人物には、ある種の悲劇性が具わっていなければ、魅力とならないのかもしれないが。

鏑木清方「夏の旅」 これは出来たらその季節に見たい清涼さがある。イメージとしては「冬の旅」を愛しているが、実際には夏の快さを愛するからそう思うのかもしれないが。
とはいえ、清方は8/31生まれなので、私と同じ夏の人なのだった。

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「五月雨」 傘を差し、緑の風景の中にいる女の素足の美しさ。風景の点描としての人物、それを目指していた頃だと言うが、個性の強くない優しい美しさは、心に残るものなのだ。
ここがどこなのか、どういうところなのかまるで知らないが、緑の雨に溶け込みそうな気がしている。

小室翠雲「青緑武陵桃源図」 ロバに乗る人の姿が小さく見える。桃源郷ユートピアに異物は入り込めず、ここに行きたいと思ってもかなうことはない。
南画風な絵だと思った。賛を入れれば鐡斎を思い、人物がもう少し大きければ関雪を思うだろう。

池上秀畝「残月杜鵑」 以前この絵を野間でみたとき、「誌上の光彩」シリーズでたまたま伊藤彦造の「杜鵑一声」が出ていた。姿のない杜鵑が、彦造の絵から真っ直ぐに秀畝の絵に入ったかのように思えた。

吉川霊華「箜篌」img760-2.jpg
好きな絵に再会できるのは嬉しい限りだ。常々思うことがある。いつかこんなコスプレがしてみたい、ということだった。

広島晃甫「百合」 あわあわした美しさがある。百合の花の美しさにはちょっと手の届かない憧れがある。しかしこの百合にはそんな隔たりは感じにくいのだった。
この画家の作品はあまり表に出ない。以前から見ているのは「青衣の女」。
タイトルだけなら、時期も今の「お水取り」の過去帳に見える謎の女人のようだが、そうではない。青いチャイナ服の女。この絵は帝展に出て、清方がそれに対してなかなか興味深い意見を述べている。
「新しい帝展でなかつたら恐らく見過ごされて了つたらうと思はれる」
この展覧会にふさわしい画家なのだった。

野田九甫「夕顔」 夕顔よりも糸瓜が目立つ棚の下の夕涼みの夫婦。乳飲み子のいる女。
この構図は久隅守景の夕顔棚納涼図屏風が元ネタのように思う。 
野田には「阪神名所図会」という楽しいシリーズがある。数年前見て、随分面白く思った。
また彼には吉祥寺美術館に常設コーナーもある。しかしそんなに知られた画家ではない。
野間では、こうした忘れられた画家の作品を多く見ることが出来るのだ。


荒木十畝「黄昏」 cam096.jpg
この青い花が紫苑とは知らなかった。そもそも花の名前を知らなさすぎる。
「紫苑はものをおぼえさせる草、いつまでも忘れさせぬ草じゃ」
石川淳の描いた「紫苑物語」の世界に浸りながらも、その花を知らず、実物を見ず。
その「ものをおぼえさせる草」の下を身を低くしてゆく白猫は、まだ若い猫のように見えた。

野間の色紙コレクションを見るのもいつもの楽しみ。
今回は秀峰、清方、映丘らの作品がある。
総じて名品揃いなのだが、時々そのうちの一枚乃至二枚にとびきりの作がある。
元から煌くものと、その時々の煌きと分かれるが、やはり深く目を惹き心に刻まれる絵なのだ。
そういうのを見たくて、何度でも野間記念館に通うのだ。
今回は秀峰の「三月、雪姫」に惹かれた。艶かしい雪姫。芝居の三大赤姫の一人。


ああ、毎回本当にありがとう、野間。ずっと続けて見に来るつもりだ。
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コメント
No title
「蛍」は野間コレクションの白眉なのですね。
山川秀峰という画家は知らなかったのですが、
一発で魅せられました。
こんな美人の奥さんがいた画家に嫉妬しました~
2009/03/08(日) 06:31 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
No title
手前の青い紫苑は、黄昏た光を背にして影に飲み込まれる寸前でしょうか。
周りの紫苑姐さんたちが消えていく光を集め、ひとり白猫を照らす為に
降り注いでいるかのようです。
2009/03/08(日) 16:00 | URL | 山桜 #-[ 編集]
☆一村雨さん こんばんは
>秀峰は知らずとも、彼の息子の小説は恐らく知ってはりますよ~~
「夏の葬列」山川方夫です。
中学のときからずっと胸が痛いままです。

>美人の奥さん
あああ・・・一村雨さんの背後になにやらキョーフの影が・・・


☆山桜さん こんばんは
紫苑は丈高く育つ植物なのですね。
猫は何故こんなところを歩くのでしょう、他にも道はあるはずなのに。
光を残す花と、光を失った花と。面白い対比です。
青い花の美しさを感じますね。
2009/03/08(日) 20:52 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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