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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

小村雪岱展

川越市立美術館に田中屋コレクションを見に行った。
「小村雪岱と岩崎勝平 ひとを極める」展。岩崎のことは知らず、ただただ雪岱の絵が見たくて出かけたのだが。
cam102-2.jpg蛍 団扇絵。実物も展示されていた。

雪岱の仕事として、本の装丁と挿絵などがある。舞台装置についても大きな足跡を残している。
田中屋コレクションはその装丁と挿絵や版画を多く集めていた。

雪岱は鏡花、邦枝完二、下母澤寛らと特によい仕事をしていた。
だから必然的にそれらが多く残っている。

雪岱の随筆「日本橋檜物町」によると、鏡花の趣味はたいへん好いもので、しかしながら濃い色などを嫌う難しさもあり、装丁の絵柄・構成・色調などにも色々苦心した様が偲ばれる。
とはいえ、雪岱は鏡花本人に出会う以前からの鏡花宗の熱心な信徒なので、その仕事はとても遣り甲斐のあるものだったろう。

ここに並ぶのは『日本橋』、大正四年の『鏡花選集』などのほか、その鏡花との縁が元で仲良くなった鏑木清方の随筆集『銀砂子』といった見事な装丁である。
cam102-1.jpg
清方が雪岱を高く評価していたのは、彼の他の随筆にも多く出ている。
酒を飲まない清方はあまり会には顔を出さなかったようだが、九九九会のメンバーとして、月一回の鏡花を囲む親睦会についても、素敵な随筆を残している。

昭和に入ってからの雪岱の仕事の一つに「演芸画報」表紙絵がある。舞台装置の大家でもある雪岱にはぴったりの仕事だと、嬉しい気持ちで眺める。
写真が雑誌の表紙になる以前は、多くの雑誌はすばらしい表紙絵を送り出していた。
実際ジャケ買いも多かったようだ。
ここにあるのを見るだけでも、ときめくものがある。
座敷からぼんやり眺める空には、細い二日月が浮かんでいる。
三日月ではなく、なお細い二日月。そんな月が似合う女を雪岱は描く。
また、辰巳芸者らしき婀娜な女が蔵と蔵の隙間を通る姿のよさ、両国橋にもたれる女をロングで捉えた構図、大川をぽつんと行く小舟から、そっと首を出す女・・・
こんな表紙絵を見れば、中身を問わずに買いそうになる。


挿絵の仕事を眺める。
大抵わたしも見て来たように思っていたが、白井喬二「盤嶽の一生」も雪岱の仕事とは知らなかった。・・・本当に挿絵界は奥が深いものだ・・・

邦枝の「お傳地獄」を見る。
ご一緒した近藤ようこさんが仰る。
「川の中から白い足が一本出ている図・・・あれが」
印象深いその絵。
わたしも最初に見たとき胸を衝かれた。今も背筋に粟立ちがある。
作家・星川清司もこの絵に衝撃を受けた、ということを何かに書いていた。
やはりその図と、お傳が背中に刺青を入れる情景(お傳はそのとき目を開いているのだ!)
そして、殺人シーン。これらがなんとも言えず魅力的だ。

邦枝「江戸役者」は幕末の人気役者・八世団十郎の生涯を描いたものだった。彼を主役にした小説は他に杉本苑子「傾く滝」があるが、若くして悲劇的な最期を自ら選ぶ美男には深い興趣がそそられる。絵にもその頃の芝居の内幕を示すような雰囲気がある。火鉢をはさんで向き合う女形と女、縁側でくつろぐ男…

やがてこの翌年には邦枝とのもう一つの名品「おせん」が生まれる。お傳に比べ物語そのものに隠惨さもないだけに、一コマの情景に雅さまで感じられる。ハスの花に囲まれた図など、仇英の官女図を思い出した。

下母澤「突っかけ侍」の挿絵下絵を見れて私はとても嬉しかった。この原作本は父の蔵書にあり、長らく読まずに来たのだが、数年前「サライ」で雪岱特集があった時に、わりに多くのページを「突っかけ侍」が占めたので、そこから小説を読みだしたのだ。
先日の小林でもそうだが、優れた挿絵は物語の続きを追わずにいられなくする力を持っている。
一旦読了してからは再三読み返し、今では私の愛読書になり、エピソードを思い出せば雪岱ゑがくキャラたちが蘇る。だからこうして絵を前にすると、キャラたちの声まで聞こえてくるようだ。

珍しいのは唐津くんちの絵。鯛車が通る絵。去年の今頃、わたしは唐津に遊んだ。
実際に見た鯛車は大きかった・・・そのことを思い出す。

湯島夜景cam102.jpg
これは一見したところ小倉柳村の版画かと思った。共通する雰囲気がある。
わたしは夜を描いた作品が好きなので、うっとりと眺めるばかりだった・・・

去年の今頃は埼玉近代美術館で雪岱の展覧会を見たが、一年経ってまた展覧会に行けるとは、なんと幸せなことだろう。本当に嬉しかった。
そしてここに挙げた画像は、実はすべてプレゼントされたものなのだった。
本当にありがとうございました・・・。



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コメント
また、あるらしい...
埼玉県立近代美術館で、また、あるらしいですぜ。
12月15日(火)~2010年2月14日(日) 「小村雪袋とその時代」

美術の窓 2月号をぺらぺら見ていたら、今年必見の展覧会BEST200の最後に出てました。

11/18~1/11 清方/Kiyokataノスタルジア(仮) サントリー美術館
10/31~1/17 安井曾太郎の肖像画 ブリヂストン美術館
なんていうのもあるそうだ。
2009/03/09(月) 23:39 | URL | 鼎 #PgtEBqSc[ 編集]
挿絵の美
 鏡花の世界を見事に描いてみせた雪岱の展覧会
楽しみです。
 山口晃氏×山下裕二トークで挿絵の芸術性言及。
商業芸術でもある挿絵が今後高く評価される時代と
コメントしていたおり、非常に興味ある画家です。
2009/03/10(火) 12:19 | URL | panda #62/4nzbo[ 編集]
☆鼎さん こんばんは
年末から年初にかけての楽しい目標が出来ましたよ♪
清方展と一緒に見て回ろうかと計画中。
安井の安倍君とか、ついつい・・・


☆pandaさん こんばんは
同時代の画家と誰とも似通ったところがないのが、凄いです。
「昭和の春信」とも謳われましたが、この個性はやはり素晴らしいです。
商業芸術にはたいへん関心があるので、もっとでてほしいものです。
2009/03/10(火) 21:29 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
素晴らしいですね!
こんばんは
遊行さんの興奮が伝わってくるような記事ですね!
>優れた挿絵は物語の続きを追わずにいられなくする
全く持って、同感です。小説が良い挿絵と出会うと、相乗効果が生まれると思います。
鏡花と雪岱、鏡花と清方という出会いは、滅多にない最良の出会いだったと思います。
2009/03/11(水) 00:57 | URL | lapis #e8.b9ePc[ 編集]
嬉しかったんですよ~
☆lapisさん こんにちは
ありがとうございます。
本当に挿絵と物語との相性と言うのは、合えば絶大なものがあるなぁとつくづく実感です。
鼎さんからのご案内にもあるように、清方と雪岱の展覧会の重なる期間がありますから、もしお会いできたら嬉しいなと思ったりしています。
2009/03/11(水) 12:39 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
No title
小村雪袋の追っかけは楽しいですね。舞台芸術や挿絵の良さもすこしずつ分かってきました。
2009/03/13(金) 21:20 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
No title
☆とらさん こんにちは
わたしはもともと挿絵や舞台芸術が好きな人なので、嬉しくて嬉しくて・・・
挿絵関係はお任せください~
今度是非、弥生美術館にでもご一緒しましょう。
2009/03/16(月) 12:48 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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