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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

林忠彦の世界

林忠彦写真展が守口の京阪百貨店で開催された。喜んで出かける。(3/31で終了)
「誘いの手紙は抽斗に紛れあなたを忘れて生きようとした・・・」というようなこともなく、招待状のハガキを渡したら、下欄だけ切って返してくれた。
だから太宰治の写真はわたしの手元にある。
cam139.jpg

この太宰だけでなく、坂口安吾が書き損じのごみ屑の中、机に向かう写真、あれも林のカメラワークだった。モノクロで多くの文士たち、敗戦後の日本の風景を撮っている。
林忠彦の名を知らずとも、いくつかの作品は誰もが必ず「見たことある」一枚だろう。
展示は周南市美術博物館からの借り出し物で、時系列に並んでいた。

カストリの時代カストリの時代
(2007/04)
林 忠彦


「カストリ時代」 この時代は当然生まれていないので、こうした資料やヒトの話を聞くだけでしか、知りようがない。
戦災孤児の姿や進駐軍兵士の腕に掴まるおねえさんとか、ショボクレたおじさんとか、そんな風景が続く。
何しろ負けたらこうなるのだ、という典型的な情景がここにある。
死ぬのも悲しいが、生きているのも哀しい。
それでもここに映し出された子どもは元気そうに見える。

「三宅坂」と言えば最高裁とか国立劇場などのある場所なのだが、60年ほど前はこんな焼け野原だったのだ。
子どもがいて、痩せた犬をおんぶしている。食べるのか可愛がっているのか、判別がつかない。

和光がPXとして活用され、銀座がGIMZAだった時代。チャップリンめいた格好の人物と、長い長い配給待ち行列の人々。
しかもそのくせ、空はカラッと晴れ渡っている。
多分こんなとき、ラジオからは「東京の花売り娘」「リンゴの唄」などが流れてくるのだろう。
泣きたくなるなぁ。

額縁ショーを写したものもあった。なかなかキョーミ深い絵ではある。
09040301.jpg
またジャン・ギャバン主演ジャンルノワール監督作品「獣人」の絵看板の下で靴磨きにいそしむ人の姿もある。きっとここのBGMは「東京シューシャインボーイ」なのだろうな・・・

日本橋の装飾怪獣を俯瞰構図で撮った作品が面白かった。これだけ見ていれば日本なのかパリなのかわからない。この時代の作品群で、唯一ある種の劣等感を感じない写真だった。

日本の写真家 (25) 林忠彦日本の写真家 (25) 林忠彦
(1998/01)
長野 重一


「文士の時代」 昔は確かに文士と呼ぶべきヒトビトがいた。チラシの太宰や安吾だけでなく、ここには実に多くの文士の風貌が写し取られている。
静かに微笑む志賀直哉、谷崎潤一郎(松子夫人と共にいる。背後には自著「春琴抄」が見える)、家具の隣に佇む佐藤春夫、仏と女の絵の屏風のある茶室にいる大仏次郎、機嫌のよい吉川英治、殆どアップの川端康成、井上靖、有吉佐和子、着流しで笑う吉行淳之介、野坂昭如、道端で銃を構える大江健三郎、ロココ調の自邸に<いる>三島由紀夫、築地塀の前に佇む着流しの柴田錬三郎・・・
名前を列挙するだけでときめいてくる。

「日本の役者」 素敵なブロマイド、肖像画、そんな雰囲気ではない写真たち。
スタジオでにやりと笑う三國連太郎・・・わたしはこの人が小学生の頃から好きで好きで仕方ない。特に50代半ば過ぎからの風貌に強く惹かれているのだが、この写真はまだどう見ても30代初めまでの若僧で、そのくせなんとも強い個性に満ちている。
写真の三國さんと目が合っただけで背筋がゾワゾワした。
「炎の人ゴッホ」の扮装に掛かる滝沢修、その滝沢と共にいる若き日の宇野重吉・・・
古賀と近江俊郎、力道山などなど・・・

こうしたシリーズものは本当に面白い。

「日本の画家」 ここからカラー作品に変わった。
東郷青児、上村松篁、片岡球子、岡本太郎、梅原龍三郎、東山魁夷、加山又造・・・
良かったのは小磯良平。カラー写真でモノクロを演出している。北欧の家具のように素敵だった。

「日本の家元」 色んな家元がいるものだとつくづく感心した。
舞う井上八千代、縁側に立つ千宗室(共に先代)、勅使河原蒼風、池坊専永、庖丁の生間流家元などなど・・・見たときに、不思議な緊張感が走った。

晩年の東海道シリーズもよかったが、それより何より一番胸を衝かれたものがある。
外国風景のシリーズ。
オーストラリア  海と高層ビルとを背景にして、五頭のキリンがいる風景。首が交差しあう空間に、キリンの穏やかな顔がある。
これは見ているな、と思ったとき、次の作品で「アッ」となった。

イタリア  煉瓦を重ねた上を白く塗った民家が並ぶ一隅、家と家の角を曲がりかかる女。黒いフードを着た女の表情はわからない。
この写真、めちゃくちゃ好きな一枚なのだ。24年前にカレンダーとして入手したもので、あんまりこの外国風景シリーズが素敵だったので、コピーをまとめて本にしたものの表紙に使ったのだ。

キリンも女も他の写真もみんな、今も手元にある。あるがしかし、これらの作品が林の仕事だとは今の今まで知らなかった。
うわーという感じ、本当に「うわー」だ。
最後の最後でアッパーカットを喰らい、リングの外どころが窓を割ってホールの外へ飛ばされたようなものだ。
くらくらしながら会場を出た。人間、どこで何を見るか・何を知るか、わかったものではない。
ちょっとコーフンしすぎて、苦しいくらいの内容だった。

こんな感じに使ってしまった・・・
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コメント
No title
遊行さんのおっしゃるとおり、名前を知らなくても知ってる写真があるものです。
ワタクシの場合は太宰。
ルパンとかいう文壇バーでのショットでしたっけ?
絵になるなあ、と思った記憶があります。

なんとも多彩な写真家さんだったんですね。
2009/04/04(土) 04:32 | URL | OZ #-[ 編集]
☆OZさん こんばんは

> ルパンとかいう文壇バーでのショットでしたっけ?
なんでも周南美術館には、バー・ルパンの再現があるそうです。
うーむ、そこまでせずともと思いつつ・・・

> なんとも多彩な写真家さんだったんですね。
本当にビックリでした。女性を写したものより、男性が被写体のものの方が印象深かったです。
タイミングを待って撮影と言うのではなく、スナップでも何でもいいからその瞬間を撮る、そのナマナマしいリアルさが、こうした記憶に残る写真になるのでしょうね。
2009/04/04(土) 22:51 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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