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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

セザンヌから梅原・安井まで 細川コレクションの近代洋画

永青文庫の所蔵品のうちから、「近代洋画、セザンヌから梅原・安井まで」として、ステキな洋画がお蔵出しされてきた。
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昔のことを思えば、近年の永青文庫は本当に積極的だ。
大倉集古館と双璧の変わりよう。そしてどちらも大成功だと思う。
世界的なコレクタ ーであった細川家16代・護立(1883?1970)は、梅原龍三郎や安井曾太郎ら近代洋画家たちのパトロンとしても知られています。・・・細川護立と親交の深かった近代洋画家の絵画や、護立との間で取り交わされた書簡類を展示し、細川護立が近代絵画の育成に果した役割を検証します。」
とのことだが、この護立氏は本当の意味での「貴族」だとしばしば感じる。
つまり「貴族が芸術家を庇護するのは当然です」(グローリア伯爵)という言葉を納得させられるからだ。
自ら「白樺派の金庫番」を任じた若き日の行状などを、その周辺の人々の随筆などから読むと、ますます感心する。
わたしはそういう人をちょっとばかり尊敬している。

ポール・セザンヌ「登り道」1867年
チラシ一番上の作品。今なら永青文庫のサイトで額縁入りの作品が見れる。
そうそう派手でもないが、いい感じの額縁の中に、セザンヌ先生の「登り道」が納まっている。水彩の特性がステキなタッチ。道を行くのは先生ご本人のようにも見えた。
これはプレートによると、1926年に児島喜久雄と共にギャラリーで購入したそうだ。
21739.13円。昭和初期の22000円が現在のいかほどかは、わたしにはわからない。
この絵は5/6まで実物展示、その後は高見沢の複製木版画が展示されるそうだ。

梅原龍三郎「紫禁城」 1940年
チラシ真ん中。梅原はこの時代に紫禁城を多く描いている。この絵では緑色の空に広がる雲が印象的だが、なんとなく「・・・黄砂のひどい版?」と思ってしまうのは、現代人の目で見るからかもしれない。

梅原と安井のパレットがそれぞれ展示されている。梅原のは赤、青、緑が目立ち、安井のは白、緑、少しの赤と黄色。
これを見て思い出したが、女優の高峰秀子は梅原と仲良しさんで、梅原からパレットを貰っていたが、梅原の死後は自宅に「自分用・梅原仏壇」として、そのパレットを飾っているそうだ。以前、高峰さんのエッセーの中で読み、その写真も見ている。

梅原龍三郎「薔薇図」 1940年
紫禁城と同年の作。万暦の花瓶に白バラがわんさか放り込まれている。赤や青の線がそれを引き立てていて、豪華な一枚。

梅原龍三郎「唐美人図」 1950年 cam228-2.jpg
これは俑を描いたもので、その実物も展示されていた。7世紀の唐代初期のもので、舞妓俑だが、やっぱり梅原が描くと梅原の絵になっている。
先日、安田靭彦の描いた俑美人たちを見たが、あちらもやっぱり靭彦の絵になっていたことを思い出す。

梅原龍三郎「貴妃」 1941年
楊貴妃だと思う。ちょっと色っぽいポーズを取っている。言燕珠という女優がモデル。京劇だと梅蘭芳が楊貴妃の酔態を演じる「貴妃酔酒」という名品があり、梅原はそれを見ていたらしい。なにしろ「梅原龍(メイ・グァンロン)としてデビューしようか」と戯言を吐いたそうだから。

安井曾太郎「承徳の喇嘛廟」 1937年
チラシ一番下。安井は承徳の喇嘛廟を色々描いているが。この絵は真正面からのもの。わたしは以前に違う角度からのものを見ている。
ピンク色の壁、翡翠色の入り口、ハッとなるような色彩の作品。
現在の写真もあわせて展示されているが、案外変わったりもしない。この時代だと、この承徳の喇嘛廟には馬賊の人々が修行に来ていたのではないか。
そんなことを思いながら眺めるのも楽しい。

安井曾太郎「連雲の町(一)」 1944年
ああ・・・なんとも言えず安井らしい絵。手前の木々がよく、向うの民家の屋根がいい。
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安井曾太郎「朝鮮婦人」1936年
体操座りする妓生を描いている。妓生は土田麦僊が専売のように描いていたが、ここにもいる。

安井から護立氏への絵葉書があった。四人の妓生が踊る図。銅鑼も見えている。
他にも昆明池に浮かぶ邸宅の着いた船(動かず)を描いたものもあった。

藤島武二「裸婦像」 明治時代後期-昭和初期
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武二は素描に淡彩を施すような作品も多く残しているし、それらはアールヌーヴォーな美人画が多いと思う。
この裸婦もそう。髪のうねり、背景のうねり。
女の表情がちょっと面白い。いつの時代の作品か判別がつかない、ということは長い作家歴のの只中、こうした絵も多く描き続けたと言う証左でもある。

久米民十郎「支那の踊り」 1920年頃
これが今回の驚きの一枚。カンヌ映画祭で言うなら「ある視点」に出品されるような一作。
女の顔が見えない分、いよいよそそられる。
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服装から見て、リアルタイムの時代の女だとわかるが、後は何も知らされない。
「踊り」とタイトルは入っているが、伝統的な京劇や崑劇という風でもなく、むしろ新しい踊りのようにも見える。
ただ女の前にある屏風らしきものは、漢代から唐代あたりの様相を描いたものにも見え、それと女のいる場所の円形の絵が古代風で、それがとても魅力的でもある。
女の腕のたわみ、指先の反り方、足の曲がり具合、のけぞる首・・・何もかもが艶かしい。
そして黒い上衣の内側に濃い赤が潜むのがのぞいて、それがいよいよ魅力的なのだった。


この時代、メールは無論、電話もそんなには普及していなかったから、直接会うて話すか、もしくは手紙を書くかしかなかった。
しかし白樺派界隈の人々は「友達耽溺」していたから、のべつ幕なし・ひっきりなしに手紙を書き続け、送り倒している。
そのことについては、以前にも書いている
だからこの書簡類も礼状だけでなく、近況報告や心持などを書いているものもある。

斉藤与里の1944年の絵はがきには、防空不動尊なるものが描かれていた。
時代を感じるねぇ。しかし不動尊は焔を背ビラにした佛なので、果たして効くのか・・・

他に細川家特製の手ぬぐいがあった。
これは関わりのある画家たちに下絵を描かせて拵えるもので、日本画家はともかく、洋画家たちは勝手が違うので戸惑うものも多かったらしい。
梅原のは遠目に見ると、昔風の栓抜きが並ぶパターニングだったが、近づくと裸婦の連続紋様である。
先に挙げたミネコさんと梅原夫人、安井夫人がモデルとなった「栓抜き裸婦手ぬぐい」がここにある。

正宗得三郎「中国服を着た女」 
これも先の「金蓉」正宗バージョンである。青色のチャイナ服というのも同じだが、こちらの彼女は膝に黒猫のおもちゃを置いている。可愛いにゃんこ。目の丸い猫のおもちゃ。

須田国太郎「能舞台」
須田は戦争中、大いに能狂言のスケッチを続けた。それらは現在大阪大学に寄贈されているが、数年前、伊丹市美術館でその展覧会が開かれた。
わたしは須田の油彩画より先にこちらのスケッチにひどく惹かれた。
描かれているのは桜間弓川の「誓願寺」らしい。後姿が二体。他者ではなく、動きを描いたもの。江戸時代、桜間家は細川の殿様のお抱えの能役者の家柄だったそうだ。
しばしばこのブログで参照にあげている「芸十話」の中にも、須田が熱心にスケッチを取るエピソードが描かれている。

山田隆憲「朝鮮」 1930
朝鮮のどこかの田舎の旧跡に、白衣の女がいる。石段に坐す女。白色は朝鮮民族の好む色彩だと聞いているが、その好きな色の衣裳でのんびりそこにいる、と言うのもいいものだ。

田中良「鏡山図」 1918
歌舞伎の鏡山の1シーンを油彩で描いている。姫の前で、お初が主人・尾上に代わって、岩藤と闘う。「お初と尾上はSで演じます」という口伝を思い出す。

それにしても本当に興味深い作品が多かった。
今の時代、どうにもならないほど不況で、企業のメセナどころか個人がパトロンになることも苦しいだろうが、昔はこんなヒトもいたのだ。
旧きよき時代の遺産をこうして楽しめて、幸せだ。
展覧会は6/21まで。もう一度見に行きたい、と思っている。
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コメント
No title
こんんちは。
思い出してなつかしい、なんて4月3日に行ったのでした。
サクラが咲いてて、うきうきと見てしまって、あまりよくみてないなあ、と反省してます。まだ 6月まであるのですね。
あのあたり実は小学生の頃住んでいて、なつかしくて時々行ってます。
2009/05/20(水) 18:07 | URL | すぴか #-[ 編集]
☆すぴかさん こんばんは

あの界隈はステキですね。
>小学生の頃
その頃は閑静な町でしたろうね。今も静かですが。
わたしはここと野間とをセットで組みます。
新目白通りを下ればセキグチパンへ、胸突き坂の階段を下りれば早稲田へ。
どちらも楽しいコースだと思います。

2009/05/20(水) 21:20 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
No title
この展覧会はたまたま初日に観たのですが、霊媒派 久米民十郎の《支那の踊り》には魂消ました。今もしっかりと目に焼きついてますが、この画については専門家のギャラリー・トークを聞きたいところです。もし専門家がおられればの話ですが・・・。
2009/05/21(木) 08:55 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
☆とらさん こんにちは
とらさんと一村雨さんの記事を読んで、これは早く行かねばならぬと思っていたのです。
久米など、初めて知った画家ですが、それがこんな凄い絵を残している・・・
そもそも霊媒派とはなんなんでしょうね。めちゃくちゃ興味がかき立てられるのですが、謎なままです。
2009/05/21(木) 12:47 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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