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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

小林清親と土屋光逸展

礫川浮世絵美術館では今日まで、土井コレクションによる「小林清親と土屋光逸」展が開催されていた。
もっと早く記事を挙げたかったが、珍しく体調を崩していたので、手遅れになった。
わたしが出かけた日、土井さんがおられた。とらさんやはろるどさんが既に親しくお話を伺っていて、わたしもその余波をうけて、楽しい時間をすごさせていただいた。

光逸は清親の最後の弟子で、大正の新版画運動には遅れたものの、昭和初期にはステキな作品を送り出している。
代表作「東京風景」シリーズについて書く。
構図、赤色の使い方、青色の味わいなどは、師匠よりもむしろ川瀬巴水に通じるものがあるが、それはあくまでも「同時代」という背景が活きているからに過ぎない。
光逸には光逸の個性がある。
そこを見つけ出すことがなんとも楽しかった。

日比谷の月  雪の日比谷公園の池を描いている。月も雪も等しい白で表現されている。雪は既に降り止み、月の光は皓々と地を照らし出す。鶴を模した噴水は寒さに凍ることなく、静かな水を吐き出し続ける。それもまた月光に照らし出されて、針のようなきらめきを見せる。
どことなくロマン派風な表現も見受けられるのは、雪の表情かも知れない。

弁慶橋  青い夜は水面もまた青暗く映す。欄干が通る先に灯りがともる。春の夜、櫻は満開の季を迎えている。
しかしここには酔客はなく、そぞろ歩く人の姿もない。灯りは間違いなく昭和のものだが、その風景は江戸の夜のものに見えた。
櫻も松も堀の水も、六十年前の夜を忘れはしていないだろう。

高輪泉岳寺  雨の夜、暗い境内に本堂の灯りがひろがる。ほっと安堵できるのは、今そこへ小僧さんのような小さな丸い影が中に声をかけ、上がりこもうとしているからだ。
そしてその向こうには、母子連れが提灯を手にして歩いてくる。二人も本堂へ行くのだろう。

これらの作品を眺めるうちに気づいたことがある。光逸の作品は「東京風景」ではあるが、江戸の匂いがひどく濃い風景なのだった。
このシリーズは昭和八年ごろを中心としたものだが、どことなく江戸の空気が活きているように感じられた。
それこそが小林清親の名残なのかもしれない。

隅田川水神の森  雪が降り続く夜、大きな木の前へ来た女がある。向こうには大川を渡る帆船がみえる。そしてそのもっと向こうにはビルディングの影がある。
しかし女の佇まいは江戸のものである。明治の女でも昭和の女でもない、江戸の名残を知る女、そんな女がそこにいる。

柳橋  その地名を聞けば山本周五郎の小説を思い出す。しかし今の地にはその名残はどこにもなく、地名ですらも活きているのかどうか。
ただ光逸の「柳橋」には嬌声がある、花街の楽しさがある。ぐるりを走る小舟にも、三味の音色が届いている。この小舟はそんな楽しい昔を全て乗せて、河口へ下ってゆくのかもしれない。この舟が戻ることはないのを、ただただみつめている。

根津神社  またここも境内にやさしい灯りがある。その灯りの温かさに励まされて雪の道を行く。ぼうっとした灯り、それがどんなに優しいものかをこの一枚で深く知る。
清親の教えが活きている、そんな風にわたしは感じた。

銀座の雨  これまでの江戸情緒の漂う作品とは趣を異にし、こちらは昭和八年の秋雨の夜の銀座が描かれている。服部時計店の時計は10:20を示している。ガス灯もネオンも静かに夜を彩っている。銀座名物の柳も雨を深く含んで、重い色を見せている。
その下を行くモガは服についたハネを気にしているのかもしれない。
市電の線路が光り、停められている黒い車がなんともおしゃれだった。

ところで’97?’08の12年間に亙って千葉市美術館などで開催され続けたシリーズ「日本の版画」展の第四章「1931?1940」(’04開催)には光逸の作品が二つばかり出ていた。
「銀座の雨」と「品川沖」である。
先般がすミュージアムで回顧展があったばかりのノエル・ヌエットの東京風景と共に並んでいる。 

会場では他に「牛込神楽坂」が目に付いた。大きな提灯に「藤井」とある版と「土井」とある版で、そのことを土井さんから楽しく伺った。
わたしは神楽坂が好きなので、今度この描かれた地に絵の名残を求めて、フラフラとハイカイしようと思う。

清親の「提灯と猫」も見れて、機嫌よく礫川を後にした。
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コメント
No title
こんばんは。
新版画には確かに江戸の風情が残ってますね。
清親が「光線画家」ならば光逸は「陰影画家」のように感じました。
また、巴水を「夕暮れ巴水」というならば、光逸は「夕闇光逸」と呼べるのではないかとも思いました。
2009/10/26(月) 21:10 | URL | とら #8WYMted2[ 編集]
☆とらさん こんばんは

> また、巴水を「夕暮れ巴水」というならば、光逸は「夕闇光逸」と呼べるのではないか

いいネーミングですね。字面がまたいい・・・
光を逸らし夕闇へ そんな感じがしますね。
それにしても近年本当にいい新版画を見ることが出来て、嬉しいです。
2009/10/26(月) 23:23 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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