FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「神話 日本美術の想像力」1

奈良県立美術館で12/24まで「神話 -日本美術の想像力-」展が開かれている。
前後期ともに出かけて、大いに楽しんだ。

この展覧会はそもそも来年2010年が平城遷都1300年ということでのお祭の一環に当たるもので、フライングなのは露払いのようなものかもしれない。

‘93秋に兵庫県立近代美術館で「描かれた歴史 神話と伝説」展があったが、今回の展示品もそれに重複するものがいくつも見られる。
16年前に見た展覧会の衝撃と感動は今も胸底に沈んでいるが、この展覧会ではそこまでの感銘は受けず、しかし楽しい心持で眺めて回ることが出来た。
09121602.jpg 芳翠「浦島図」

1.「神話」の始まり 絵画と神話
ここでは芳年、暁斎に始まり菊池容斎、松本楓湖、小堀鞆音、富岡鉄斎らが、「古事記」上つ巻に顕われた「神話」に材をとった作品が集められている。

暁斎 日本神話シリーズ  明治11年に外人からの依頼を受けて描いたもので、現在では「島々の誕生」「神々の誕生」「須佐之男命の追放」「天孫降臨」「海幸山幸」の五枚が残されている。
どの絵を見ても浮世絵から離れた「明治の日本画」という風があり、特に「神々の誕生」での赤色の光輪に包まれた童女(天照大神)の姿がいい。

天岩戸も二種類出ていたが、このうちの一枚はコンドル旧蔵、もう一枚は暁斎の娘・暁翠の手によるもの。暗黒に鎖された世界に、再び太陽が現れる。そのためにはこんなにもエネルギーが必要なのだ、ということを感じる。

芳年 大日本名将鑑シリーズ  こちらも偶然ながら明治11年作の浮世絵版画。まず日本武尊があり、神功皇后と武内宿彌がある。前者は赤色が目立ち、後者は青が目に残る。
明治期の芳年の作品は劇画風で、物語性が強いので一目でここに何らかの物語がある、と言うことを感じさせる。
しかし後者の「神功皇后・武内宿彌」ではちょっと意外な構図が広がっている。
普通、この二人だと「松のそばに立つ皇后と、そばに控えながら赤子を抱く老人」という決まったパターンがあるが、ここでは神功皇后は機嫌よく釣りをしている。
青空、青い海、緑の岩。出征前に筑前で鮎を釣る図ということだった。
まだ皇后は身ごもったままだが、絵からそれは伺えない。

容斎 前賢故実  これは後世の絵師たちの粉本になったもので、歴史上の人々のキャラ設定集。そこから構図を採ることが大体普通に行われていたそうだ。

御神像 神功皇后像・胎中天皇御影  これが前述の皇后と老人と赤子のパターン。ここら辺りの神話は大変に面白い。神功皇后の物語に関しては、記より紀の方が面白い。
男装の皇后の凛々しさと、わが子を省みる優しい眼差しがいい。背景はなし。

鞆音 神功皇后  こちらは松が描かれている。この三者は昔の節句人形にもなった。

神武天皇  金鵄に導かれるシーン。馬具も立派な黄金仕立て。

楓湖 日本武尊  女装し、熊襲を討とうとする後姿。背景はなし。これは「前賢故実」から採られた構図。双子の兄の手足をへし折って殺す荒々しさと、なよやかな美少女に容易に見せかけられる美貌と。わたしは小学生の頃からヤマトタケルのファンなのだ。

天照大神と須佐之男命  海上の岩に立つ弟と、男装してその弟を厳しくみつめる姉と。
日本での「姉と弟」の近さはこんな頃から始まっていた。

鉄斎 天窟神楽図  まだ扉が少しばかり開いただけ。緑の中での楽しい神楽。どことなくアイヌのイヨマンテを思い出した。

鈴木松年 八岐の大蛇退治図  これは1871年の作だが、他に連作スサノオ・ヤマトタケル(1889)があり、どちらもスサノオはオロチ退治に勤しんでいる。しかしこの金色の目のオロチたちは妙に可愛くて、憎めないツラツキをしている。
スサノオを威嚇する・噛み殺すために口を開けているのではなく、「ごはん??ゴハン??」とねだるペットのドラゴンたちに見えて仕方がない。

2.「神話」の隆盛
明治初期の「油絵師」たちによる無国籍風な作品が現れる。

本多錦吉郎 羽衣天女  兵庫県美にあるので馴染みがあるが、この場で見る方がずっとイキイキして見える。鞨鼓を腹に持つ天女には、キリスト教の天使のような立派な羽根がある。なにやら孔雀羽根のようなものもついている。天空高く舞い上がる彼女はそのまま二度と戻らぬ地上を眺めているのか。
表情は最早「ヒトの妻」ではなく、神界の存在のそれである。

原田直次郎 八岐大蛇退治画稿  これは前述の「描かれた歴史」の中でも衝撃的な作品の一つだった。ただいま修羅場中の英雄を描きながら、唐突にキャンバスが破れて、犬が首出してます?図だからだ。しかしこんな構図になったことには諸説あり、以前にその一つを読んで、なんとなく納得してしまった・・・

山本芳翠 浦島図  これこそ私の「衝撃を受けた図」の一枚で、この絵を直に見るまでの時間、ずっとずっと焦がされ続けたものだった。
先般、大阪市立美術館での「道教展」では大阪だけこの絵が特別出展されていて、久しぶりに大いに喜んで眺めた。今回も嬉しく眺めた。複製画をもう15年くらい自室に飾っているから細かいところも見ているはずが、それでも新発見があったりするし、喜びも更新される。今回の図録ではなかなかはっきりと映し出されているので、それもうれしい。
実はこの絵を見るたび、わたしのアタマの中ではドビュッシー「沈める寺」が流れ出すのだった。

裸婦  女の膚の白さは尋常ではない。暗い野に薄いシーツを敷いた上で寝そべりながら女かみつめるものは何か。蜘蛛だと知って、少し不思議な感覚が生まれた。

3.神話の展開
厳密な線引きはないが、「初期洋画家」の作品が並ぶ。青木繁の習作が集まっているのも楽しみだった。

小林千古 誘惑  これは昨秋、厳島神社宝物館で見て印象深く眺めた作品。目隠しをした日本少女を誘い出す怪しい目つきの男と、空からそれを止めようと飛んでくる天女と。
男の背後には亡霊たちの姿や白い墓場が見える。
わかりやすい比喩がそこにある。

中村不折 八重の潮路  府中市美術館で最初に見たとき、何の絵かわからなかった。
タイトルを見てしばらく考えてから、やっとわかった。男は岩によりながらワニに座り、そのアタマを撫でている。眠っているのか瞑想中なのかわからない男。
そう、彼はトヨタマヒメと婚姻した山幸彦なのだ。
姫は出産の際に決して産屋をのぞくなと夫に厳命したが、妻が心配になった夫は約束を破り、産屋をのぞく。その状況については、古事記の文を抜書きする。
「八尋鰐になりて、匍匐ひもこよひき」
つまり巨大鰐になって這い回っていた、と言うのだ。
そのことを思い出しながら絵を眺めると、この鰐が何者であるかを・・・・・

青木繁 黄泉比良坂  青木は高校の頃に知って以来、途轍もなく好きになった画家で、特に「流浪」前の作品は何を見ても、どれを見ても、好きで好きで仕方ないし、好意が勝手にあふれてくる。あんまり好き過ぎて、欠点が見えなくなっているというのも、まぁご愛嬌と言うことで。
美しい青色の世界。女たちの怨嗟の声に耳を塞いで逃げる男。
なぜその当時、青木の美の世界は評価されなかったのだろう・・・・・・・・

日本武尊  弟橘姫を悼い、「吾妻はや」と声に出した情景。傍らに座す目ばかり白い男はもしかすると、若き日の武内宿彌ではないか、と私は勝手に推測している。

わだつみのいろこの宮下絵  本絵もいいが、下絵を見ることも楽しくて仕方ない。
本絵は数年前にブリヂストンで見たが、そのときすばらしい展示の仕方だった。
アーチ型出入り口の左右に、二枚の絵がかけられていて、向かって左に青木の「わだつみのいろこの宮」、右に藤島武二「天平の面影」が飾られていたのだ。
あのときの感動は今も決して忘れない。

中沢弘光 おもいで  これはまた不思議な情景で、寺院前の池に佇む若き尼僧の傍らに金色に輝く佛が顕われる。
解説によると、光明皇后の伝説に思いを馳せる尼僧ということだが、するとここは法華寺と言うことになる。・・・・・・会社のヒトに法華寺前の住民がいて、そのことを思い出した途端、神々しさが薄れてしまった。関西の一損ということか。
中沢の煌びやかな描写はとても好ましいが、彼の展覧会と言うのは神保町の古書会館で見たきりなので、どこかで開催して欲しいと思う。

長原孝太郎 風神  宗達、光琳、抱一らの風神ではなく、目つきの鋭い男が大きな風の袋を持ってビュービューしている図。百年前、へんな風神が世に現われたのだった。

寺松国太郎 乙女散華の図  これは府中や京都市美術館で開催された「浅井忠と関西美術院」展でも人気の高かった一枚。
わたしもこの乙女の胸の美しさにときめいた一人。三年前に見たときと同じ感想ばかりが浮かんでくる。

鹿子木孟郎 豊後風連洞の古話  物語として伝わったものを描いたのではなく「ありそう」な情景を描いた一枚。観世音菩薩らしき美しい方が微笑みながらそこに立つ。
鍾乳洞の白さを見せる洞の中には木彫りに命が吹き込まれたような龍が気を吐きながら、そこに蟠っている。
鹿子木には時々こうした不思議な作品がある。そこがなんとも言えず魅力的なのだった。

長くなりすぎたので、一旦ここで終える。



関連記事
スポンサーサイト
コメント
No title
遊行さんの解説、ドキドキしながら読んでました。
浦島図、「沈める寺」って今度聴いてみます。
浦島太郎のあの恍惚とした感じ、いいですね。
諸星作品の登場人物を思い起こします。
鈴木松年って、初めて知りましたが、カッコいいですね。
2009/12/17(木) 06:14 | URL | 一村雨 #-[ 編集]
諸星
☆一村雨さん こんにちは

> 諸星作品の登場人物を思い起こします。

ああっなんだか納得です。それで元の浦島よりずっと怖い運命が待ち受けてそうですね。

> 鈴木松年って、初めて知りましたが、カッコいいですね。

親子で画家でした。あのオロチたちいいですよね。
こういう展覧会は本当に楽しいです。
2009/12/17(木) 12:55 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア