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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

糸あやつりの万華鏡 結城座 375年の人形芝居展

INAXギャラリー東京では「糸あやつりの万華鏡 結城座 375年の人形芝居展 」が開催されている。
大阪にも来るから待てばいいようなものだが、待てなかった。
では私はそこまでファンなのかと訊かれれば、答えに窮してしまう。
わたしは好きなものをあからさまに好きだと言えることが出来る環境と、そうでない状態のものを二つながら心に抱えているのだった。

「結城座は、徳川家光の治世、1635年(寛永12年)に、初代結城孫三郎が日本橋で旗揚げした江戸糸あやつり人形一座です。幕府公認の五座(歌舞伎三座の市村座・中村座・河原崎座、薩摩座、結城座)の一つでしたが、いまではその活動を存続する唯一の座となり、国や都の無形文化財にも指定されています。現在は十二代目結城孫三郎を座長とし、伝統を継承する古典から、シェークスピアなどの海外作品や時代性を帯びた新作まで幅広いレパートリーで芝居を繰り広げています。世界各国にあやつり人形はありますが、そのどれとも異なる独特の世界をつくり出す結城座の人形芝居。375年もの年月をかけて培われてきたその多彩な魅力を紹介します。」
サイトにはこのように紹介されている。

子供の頃から人形が好きだった。
リカちゃん人形とそのフレンズ、新八犬伝、サンダーバード・・・
少し大きくなると文楽に奔った。
丁度文楽劇場が開場した頃だったか、とにかくよく見た。
見た、というのは正確ではない。
わたしは義太夫を聴きに行ったのだ。

やがてあるとき結城座を知った。
深い衝撃を受けた。
わたしが見たのは山口小夜子と人形が共に一つの舞台で一つの枠の中で動く世界だった。
山口小夜子の異様な美貌と共に、人形たちの不可思議な存在感に強く惹かれた。
それはわたしが偏愛する世界観に基づいていたからだ。

しかしのめりこむことは出来なかった。
何故か。
人形も、物語の枠も、その紡ぎだす様相も、何もかもがいとしいのに。
その理由を知りたいキモチもあって展覧会を時間をかけて眺めた。

結城座の人形のカシラが雛壇に飾られる。たまに文楽人形のカシラに似たものがあることがかえって他の人形たちの個性を際だたせる。
額にほくろ ではないが、そこから糸がつながっている。なぜそこに操り糸がつながるのか。神経回路の現れなのか。

カシラの中に、頭の半分が削られたものがあった。血がべっとりと顔についていた。
鉈か斧かで削られた頭、血だけでなく脳漿も流れているかもしれない。
右半分が焼けただれた顔もある。
その中にめでたくそして尊い存在たる三番叟の翁の顔があった。しかしこの翁は「笑っている」ように見せかけているだけに見えた。
山口小夜子のデザインした源氏物語の人形の顔は、どことなく彼女の美貌を宿しているように思えた。それは男性の人形について言えることだった。

映像コーナーでは近年の結城座の演目が数分ずつ放映され続けていた。
幻灯もまた結城座にとっては大事なアイテムだという。
乱歩の「芋虫」をモティーフにした舞台では、宇野亜喜良の描いたものがそこに浮かび上がった。人形と幻灯とヒトの織り成す煌びやかな悪夢がそこに開く。

黒子ではなく操演者たるヒトの姿も演出のうちに計算され、発声も彼らのものだった。
しかし人形を操るヒトよりも、彼らの手によって動かしてもらっているはずの人形の方が、主導権を握っているように見えた。
つまり「動きたい」という意思を持つ人形が、ヒトを使って動いているのではないか、という疑念が湧いているのだ。
たぶん、それは私の妄想ではないはずだ。

作品によってはいかがわしさを感じるものがある。それは確信犯的な視線によって生み出されたものだ。
そしてそれこそが本来私の好む異端そのものなのだが。

映像を見るうち、やがてわたしは自分がどうしてこの世界にのめり込まずにいるのかが、なんとなくわかってきた。
ヒトの発声、そのエロキューションが体質にあわないのだった。
他の舞台でもそうだが、その発声にときめく役者は若くない人が多い。
若くても修行を積んだ発声はいいのだが、リアルな発声がどうもニガテだ。
蜷川の芝居でもそうだった。
わたしはセリフ回しに苛立つことが多い。
結局それだけの問題なのかもしれないが、それは譲れない一線だった。

にもかかわらず、結城座の世界には受け入れ難さと同時に、闇の底へ引き込まれるような魔力を感じる。
わたしがもし文楽の国に生まれていなければ、なんのためらいもなく結城座の世界に入り込んでいたろう。

毒を飲んだような気がする。
強い毒のくせに序々にしか効力を見せない恐ろしい毒を。
表面にはまだ現れない爛れが少しずつ内部に広がって行く。毒を飲んだことに気づいたときにはもう舌の先は溶けた後だろう。
わたしの舌は溶けているか?解毒剤は内部にあるか?

この先も溶けた(あるいは蕩けた)舌を隠しながら、わたしはそっと結城座の世界を遠くからみつめるだろう。
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コメント
人形遣い
 実は結城座の人形遣いの技は聞いたことあるけど、観た事ありませんでした。最近文楽にデビュー。
 それで文楽と結城座が大違いなのにビックリ。有名な作家さんや俳優さんと組んで公演をするのも驚きました。
常に時代を追い越す結城座と、時代を守り抜く文楽。
好みはありますが、日本の人形劇って本当大人向けねえ。
2010/01/22(金) 01:01 | URL | panda #62/4nzbo[ 編集]
No title
こんにちは。
結城座、興味ありますね。以前「破れ傘長庵」のチラシをもらってから気になっていましたが、結局見に行かなかった経緯があります。こういう劇団はなくならないで欲しいものです。
私の好きな映画監督・キェシロフスキの『二人のベロニカ』という作品に幻想的な人間芝居のシーンがあります。監督はこのシーンのために、TVで見かけたシュワーツという人形師を探しますが、シュワーツは人形芝居では食べて行けず、監督が電話した時にはペンキ屋をしていたそうです。
「私たちの住む世界はどうしてこうも愚かになってしまったのか?」
キェシロフスキがこう嘆いていたのがいまでも印象に残っています。(『キェシロフスキの世界』河出書房新社より)
2010/01/22(金) 02:32 | URL | みき♂ #ItrO44Mg[ 編集]
☆pandaさん こんにちは
結城座の人形芝居はそれこそ「傀儡くぐつ」という感じがします。
江戸時代に生まれたのに、それ以前の中世の闇を引きずっているかのような。
そこが魅力であり、恐怖の影でもあるように思います。
文楽の魅力は歌舞伎の魅力と通ずると思うのですね。
歌舞伎のように子々孫々に型を伝える、というのではなく師弟間の伝承ですが。

>日本の人形劇って本当大人向けねえ
フランスにはグランギニョールというものがあり、これはこれであるイミ「オトナ向け」です♪
ちょっとニュアンスは違うのですが、ポール・ギャリコの名作「七つの人形の恋物語」がとても好きなんですが、お読みになられましたか。


☆みきさん こんばんは
「長庵」の人形や映像も出てました。この芝居は元々黙阿弥が左団次のために書き下ろしたもので、愛嬌の欠片もない冷酷なピカレスクの物語です。
串田さんが演じてましたが、かっこよかったです。
わたしも見に行きはしなかったのですが、映像で見ました。

>映画監督・キェシロフスキの『二人のベロニカ』という作品に幻想的な人間芝居のシーンがあります
この映画は見てませんが、タイトルだけは知っています。
ベルイマン「ファニーとアレクサンドラ」にも少し人形芝居のシーンがありますが、映画の中の人形芝居はなぜあんなにも魅力的なのでしょう。
本来の筋から離れていても、少しのシーンでもいつまでも心に残りますね。

人形の芝居はときとして人の演じるそれよりずっと深い印象が残ると思います。
2010/01/22(金) 12:40 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
人形愛
遊行さんも人形、お好きですね~。
私も好きなので、こういう話題が出るとワクワクします。
文楽人形は様式化された演技が美しくていいですね。
人形は生まれた時から与えられた役を永遠に演技
し続けているので、長く使われている人形は、意思を
持って動いているように感じられますね。そこが人間
の俳優とは違う人形独特の演技の奥深さなのでしょう。
小夜子さんデザインの人形も展示されているのですね。
観てみたい!!ぜひ、行かなきゃ!
2010/01/22(金) 19:28 | URL | えび #-[ 編集]
酷愛の軌跡
☆えびさん こんばんは
そうなんです、本当に好きで好きで。
創作人形も御所人形も等しく好きなんです。

> 人形は生まれた時から与えられた役を永遠に演技し続けているので、長く使われている人形は、意思を持って動いているように感じられますね。

それで思い出しましたが、バレエ「ペトルーシュカ」では操り人形ペトルーシュカを演じたニジンスキーの演技と踊りが人間離れを通り越して、操り人形そのものだったそうです。しかもラストで憐れなペトルーシュカはキレる。そして糸も切れてしまう・・・

> 小夜子さんデザインの人形も展示されているのですね。

すごく綺麗な男たちでした。これはもうぜひご覧下さい。
月下に立つような美しさでした。
2010/01/22(金) 23:16 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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