みんなが見たい優品展パート7 中村不折コレクションから
わたし、中村不折の洋画と俳画や戯画は好きだけど、書を見るのが案外ニガテでしてね。
書で一番好きなのは正倉院に納められている経本類。あれくらいの楷書が好き。
楷書がとにかく好きで、行書も草書もニガテ。
(小中学生の頃、書道塾でも楷書だけは気合入れて練習したなぁ。仮名や行書に関心が湧かないのはその頃からか)
でも、ニガテでも見てるうちにはナレも生まれ、ナジミもできるものさ。
九時半開館なのはわかっていたけど3分前に門前にいた。開くかな、と触ったところへ係員の人が飛んで来て「どうぞどうぞ」と招じられた。
すみません、早に来まして。
チラシは不折の俳画「病床の子規」
最近はドラマ「坂の上の雲」の香川照之の熱演のおかげでか、子規の顔を思おうとすると香川照之が思い浮かぶのですな。尤も現在彼はばっちぃヤタローか。
とりあえず先に青銅器や古代中国の文物が置かれている展示室へ向かった。
ここには仏像も色々置かれている。
とにかく仏像の側面には銘文があるから、それも「書」として採集されているわけです。
それは造像碑(ゾウゾウヒ)というものだそうだが、大抵仏像の頭上に双頭の蛇や唐草文様がレリーフされている。
特に綺麗なのはAD545(東魏・武定3年)の功起君等造像碑で、裏に回っても鑑賞した。
あちこちに「お手を触れないで下さい」の注意書きがあるが、そこまでしつこく挙げるほど触る人が多いのかしら、と思いながら見歩くうちに阿弥陀坐像の前に来た。
「
触ってもご利益はありません」
爆笑したよ、マジで。
笑ってるところへお掃除の人が来て、他にお客もいないからなんだかんだとお喋りした。
この界隈はやっぱり猫が多いのでどーのこーのという話。
クリックすると拡大します。
さて青銅器や古代のナゴリとか色々見る。
殷(今は商と言うか)代の甲骨文がある。これが最古の漢字の姿らしい。
西周(殷の次の世。関係ないがこの文字を出すのにセイシュウと打つよりニシアマネと打つ方が一発変換することを発見)時代の金文などもある。
それで泰山刻石というものが出てきた。
泰山というと始皇帝やなと思ったら、やっぱりそれ。あちこち出向いて山上に自分の業績とか正当性を書き記した碑を建て続けていた始皇帝。そのツアー中に頓死してるのだから、困ったものよ。
ここにあるのは丞相の李斯(り・し)の手蹟。書体は小篆(ショウテン)。
なんでもこの時期に天下統一だけでなく書体までも統一させたそうな。
チャン・イーモォかチェン・カイコーの映画の中で、襲撃されながら色んな書体を練習し続ける人々の姿が描かれていたな。
時代の流れでは篆書の次から隷書へ向かってゆくそうな。
解説にはそんなことが書かれていた。
そう言えば玉璧が展示されていたが、名札には「璧」ではなく「壁」が書かれていた。
これはよくあるミスですが、やっぱり直したほうがええと思いました。
「璧ヲ完ウシテ趙ニ帰ル」が壁では、壁塗り直しの物語になるからねえ。藺相如が左官屋さんになるがな。
さきほど「綺麗」と思った「功起君等造像碑」の出来た前年に作られた弥勒佛石像がまたとても綺麗だった。弥勒だから頬に指を当てているが優美な仕草に見えた。
足元の台には二頭の獅子がいるがこちらは可愛い。
明代の牌があった。一枚一枚に文字が刻まれている。
士、兵、将、砲、卒という文字を見るだけではどんなゲームだったかはわからないものの、なんとなく将棋に似た感じもある。わたしはゲームをしないヒトなんで弱いんですよ、こういうのが何に当たるのかわからない。
しかしビックリしたのが「俥」の文字。クルマですね。
この文字は人力車を意味して、明治の日本で生まれたものだと思い込んでいた。
(この記事を書くに当たり、「俥」の文字の来歴を調べたところ、象棋=中国将棋の駒に「俥」の文字があり、国字のものとは別な文字で活きていたことを知った)
う-んやっぱり漢字は奥が深い、深すぎる・・・!!
昭和三年、今の東京藝大で売り立てがあり、不折が購入した瓦が出ていた。
文字入りのものや春秋戦国時代(なのに)の饕餮文の瓦もあったが、後漢の「長楽未央」瓦はマンホール状だった。
わたしはマンホールにはちょっとウルサイぞ。
青銅鏡では「王莽十二支鏡」があった。Wang Mangと英語表記がある。「秦の趙高、漢の王莽、唐の禄山」のアノ国家転覆の王莽ですな。
他に空海の風信帖、王義之の楽毅論(明代のコレクターで書画商人・呉廷が蒐集し「余清斎帖」に収録と説明がある)、虞世南、欧陽詢らの拓本などがあった。
さてそこから不折自身の書画を見に行く。
今回油絵(洋画と言うより不折には油絵、という表現が合うと思う)作品はなし。
水彩画、スケッチ、俳画、挿絵などなど。
浅井忠ぽい絵があると思ったら、不折は浅井忠の影響も受けていて、まずなにより正岡子規に紹介してくれたのも浅井だったそうだ。
不折は子規と共に日清戦争に従軍記者として中国へ渡り、スケッチを残している。
この書道博物館も根岸の子規庵のお向かいだから、仲良しさんなのは当然だったか。
白衣大士図 日本画で描いた白衣観音だが、なかなか色っぽくてちょっと弁天さんを思う。他に子規の横顔を描いたものもある。
十二支の干支動物に因んだコマ絵シリーズ、百人一首系のカルタ、世界一周双六など明るく楽しい作品があった。
世界一周双六は地名表記がみんな漢字なのがかっこいい。ルビつき。横濱、敦賀、貝湖(バイカル)、莫斯科(モスコー・・・夢野久作ぽいな。そう、昔はモスクワではなくモスコーと言うたのだ)、伯林、羅馬、維納、瑞典(スウェーデン)、巴里、倫敦、華盛頓(ワシントン)、桑港、布哇、そしてゴールがなぜか地球儀そのものだったのはご愛嬌か。
他に子規関係の色々な資料があった。
確かにこれは「みんなが見たい優品展」だった。だから7回も続いている。
パート7は3/7まで。
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正岡子規の方がキャラが立ってますねぇ。
この展覧会は不折だけど子規特集なわけですね?
つくづく子規さんって、愛されていたのですね。
「やろうぞな!ベースボール!!」って、元気に野球して
いた彼の事を思うと病床の姿が痛々しいです。
あ、そうそう「襲撃されながら色んな書体を練習し続ける人々」が
描かれていた映画はチャン・イーモウの
『HERO』ですね。あれを思い出す辺り、さすが遊行さん。
それにしても「触ってもご利益はありません」には笑い
ました。そういう注意書きには素直に従えそう。
> この展覧会は不折だけど子規特集なわけですね?
いやーそういうわけでもなさそうなんですが、なんせ「坂の上の雲」効果が。
それと書道のほうは「とめはねっ」と「シンゲンジャー」が放映されたおかげで、子供さんにも書道のことを知られるようになりました、とチラシに書かれてました。
> あ、そうそう「襲撃されながら色んな書体を練習し続ける人々」が
> 描かれていた映画はチャン・イーモウの
> 『HERO』ですね。あれを思い出す辺り、さすが遊行さん。
ははは(笑)。あれはよかったですね。わたし、韓流より香港や中国映画の方がすきなんです。特に香港ノワールが最高。
> それにしても「触ってもご利益はありません」には笑い
> ました。そういう注意書きには素直に従えそう。
わたしも一応従いましたが、逆に「タタリがあります」と書かれてたら・・・
お互い(!)気をつけましょう(笑)。