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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

藤本能道 命の残照のなかで

菊池寛実記念 智美術館は現代作家の陶芸作品を展示する。
近代までの物故者の作品ばかり偏愛するわたしにとっては、この美術館は学びの場でもある。
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藤本能道という作家の作品展がほぼ半年間続けられている。
チラシに選ばれた作品には、金彩の虫たちが辰砂のような赤い葉の上を這うような図柄がある。
「命の残照のなかで」 そのタイトルの意味を虫の命のはかなさにたとえているのか、と思っていた。

この美術館は一階部分にレストランがあり、地下への流麗な階段を下りると、そこに静謐な空間が広がる、と言う構造をとっている。
時折レストランでの談笑する人々の声をわずらわしく感じることもあるが、それも会場を進むほどに、意識しなくなる。

階段を下りると、いつもとは違う空間があった。
藤本展のためにアメリカの展示デザイナー・リチャード・モリナロリ氏と言う人が空間演出を担当し、新しい智美術館がそこに生み出されていた。

予備知識なしで作品に対峙する。
他では聞かない釉薬の名前が多い。雪白釉、草白釉、霜白釉、梅白釉・・・すべてが藤本の独創・開発による釉薬だった。
一言で「白」と言っても様々な「白」がある。
確かに雪のような白、霜のような白、白梅の白、ミルクのような白、ガーゼのような白・・・
全て違う白なのだ。
従来から活きる白磁の白を選ばず、独自の色合いを生み出す・・・それ自体が奇跡に近いようなことだと思うが、藤本はその「新しい」白を自在に操っているように、見えた。

花鳥画が多いと思った。
四方皿、六角筥、八角皿、十二角皿・・・丸いもの、いびつなものはみかけなかった。
しかしながらカタチよりなにより、その絵柄に深く惹かれた。

霜白釉釉描色絵金彩花鳥図四角大皿cam397.jpg
何の花なのか赤い大きな花の上に文鳥のような小禽たちがいる。首を傾けているのは蜜を吸うためかもしれない。
そして彼らから少し離れた地に小さい烏がいる。彼らからは花の影に隠れて見えないのかもしれない。もしくは気にされていないのかもしれない。
鳥たちの想いはわからない。わからないが、鳥の声が届くような気がした。
そんな、絵柄がそこにあった。

鳥たちや植物の線はたいへんリアルなものだった。動物を主に描いた絵本画家・薮内正幸の作品を思い出す。
この花鳥画は伝統に則りつつも現代のものだ、と思った。
しかしその一方でウェッジウッド風にも見え、また清朝末期の絵のようにも思えた。
物思う鳥たち、それが「可愛い」だけでない魅力を持っていた。

釉描加彩緑陰宿鴉図四角筥cam399.jpg
展示されている作品全ての中で最も深く惹かれた一枚。
仲良しな小カラスが眠ろうとしている。明日はどこで過ごすのだろうか。
撫でてやりたいほどに、愛しいカラスたちだった。

草白釉釉描色絵金銀彩枯葉舞ふ鵙扁壷  鵙たちが空を見上げている。とても可愛い鵙たち。彼らが空を見上げるのは何のためか。
こんな童話がある。靴屋になったモズがサルの入れ知恵で原材料のかえるの皮を「雲の下の木の根元」に埋める。しかし雲は動く。もうモズはかえるの皮をみつけられない。
「鵙の早贄」という厭な性質でさえも、愛しくなるようなこの鵙たちだった。

1976年、植樹祭のために茨城へご訪問されていた昭和天皇・皇后陛下が菊池家へご宿泊されたそうだ。
陛下をおもてなしするために菊池家は、藤本にそのためのディナーセット110枚を依頼したという。
今回その一夜限りの美麗なディナーセットが展示されていた。
まるでタピストリーを眺めるような心持ちでそれらをみつめた。

虫を描いた作品は晩年に生み出されたものだった。
作家は新たな地平をみつめていたのだ。

予測できない美の衝撃がそこにあった。
展覧会は4/18まで。
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コメント
110枚のディナーセットの逸話
素敵なエピソードですね。
一期一会なディナーセット…見たいです!
藤本能道は昨年初めて、湯河原の人間国宝美術館で見ました。大作揃いで、私もやはり 器<絵 として感動しました。和モノがほとんどで、洋モノは記憶になし…。なのでことさら 110枚のディナーセット あぁ見たい!!
2010/03/30(火) 23:01 | URL | 88 #-[ 編集]
おへんじおくれてごめんなさい
☆88さん こんばんは
ちょっと四月一日になってます。春咲小紅なタイトルでした。

> 一期一会なディナーセット…見たいです!
依頼された作家も一代の栄誉ですね。思えばすごくもったいない・・・

藤本と菊池家との交流も作品に奥行きを与えているように思いました。
コレクターの感動がそのまま展覧会と言う形で表わされた・・・
そんな展覧会でした。
本当に可愛い小鳥たちの絵皿に夢中です♪
2010/04/01(木) 00:22 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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