美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

小村雪岱の世界

清水三年坂美術館に出かけた。
「小村雪岱の世界」展が8/22まで開催されている。
そこでは雪岱の弟子・山本武夫が寄贈した作品などが集まっていた。
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木版画は「お傳地獄」「おせん」などの代表作が展示されていて、この辺りはしばしば展覧会に現れるので、コンニチハな気分で見れるが、問題は肉筆画と挿絵原画である。
初見が随分あった。

矢田挿雲の「忠臣蔵」は別なシーンなら見ているが、これは外伝「義士餘聞」の挿絵なのである。その作品があること自体を知らなかった。
また吉川英治「遊戯菩薩」も初見。(展示のうち「義士」とタイトルが混ざるものがあり、それは直さねばならないだろう)
こちらは絵を見る限り吉川得意のややこしい恋愛関係のもつれもありそうで、総髪の袈裟男が町人たちにポカポカ殴られてたりするのが目をひいた。
雪岱なりの美男というところだろうが、物語の概要を知らぬので、なんとも言えない。

里見弴「闇に開く窓」はその存在を知らなかったので二重にショックだった。
私は雪岱のみならず弴ファンを任じているから、これを知らずに来たことが悔やまれる。
雪岱の挿絵の最初の仕事は弴の「多情佛心」でこちらはコンテを使った作品だから、今日から見た雪岱の絵のパブリックイメージからは遠く離れている。
しかしその四年後の「…窓」は、今に活きる雪岱のモノクロ美で構成されている。
キャラはかなり目が大きく描かれているが。

挿絵では他に下母澤寛「笹川の繁蔵」の第二回目の表紙絵があった。
下母澤寛とも良い仕事をしていて「突っかけ侍」などは傑作だと思う。
どこかで「突っかけ侍」の全ての絵を展示してくれないだろうか。

珍しいところで内田誠「隆に賜へるの書」に風景画があった。版画。
坂を上りきる手前の坂の途中の(多摩蘭坂ではない・・・)洋風の民家や上に広がる楕円を描く大きな建物が、モダンな味わいを見せている。内田誠は明治製菓の宣伝部で「スヰーツ」誌を出し、本人も「水中亭」(=カバ)を名乗った俳人だった。
雪岱は江戸を今に蘇らす名手ではあったが、一方ではこうしたモダンなセンスの持ち主でもあった。
だからこそ資生堂に招聘されたのだが。
古さのない和モダン、それが雪岱の作品の本質ではあるまいか。

和モダンの真髄を見せてくれるのは挿絵ばかりではない。まず装丁にその才が開かれている。
大好きな鏡花を囲む九九九会の仲間で、文人でもある実業家・水上滝太郎の随筆「月光集」は、そのタイトルを裏切らない美麗な装丁を見せていた。
お納戸色というより縹色に近い地に、銀色で彩られた睡蓮がぱちぱちと、そこかしこに咲いている。
うつくしい、銀の睡蓮。それが濃くもなく薄すぎもせぬ青い池に咲き乱れる。
手に取るより、愛でながら眺めるのにふさわしい本だった。

荻原井泉水「観音巡礼」は見返しが曼殊沙華、表紙が緑色の三角の山というもので、西国三十三ヶ所の文字があった。
宋代に範を求めた独特の美しく可憐な文字。
その文字は今でも資生堂で生きている。

舞台装置の原画もあった。
「平重衝」 蓮台が見える。大仏炎上の物語かと思う。
「長崎の絵踏」 港に停泊する洋船の場と夜の二重十字架と。
「道成寺」 これは多分六代目菊五郎のための道成寺だと思われる。
現行のそれとは違うのもあるが、雪岱は六代目のために多くの新作を拵えている。
踊りの天才・六代目菊五郎は自分のための「道成寺」や「藤娘」を演出しているから、まずそのことを思った。

肉筆画はやや彩色の濃いものが出ていた。
チラシの上にある絵などを見ると「昭和の春信」というより清長風にも見える。
そして下の女はどちらかと言うと、本人よりむしろお弟子の山本武夫のそれに近い感じもある。

チラシの背景は意匠図案の槍梅。愛らしい梅だと思う。紫の地もいい。
そしてこちらはタイトルは仮称ながら「柳橋」と呼ばれる肉筆。まことに情感のこもった良い絵である。
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他に古画の模写に精出したひとらしく、仏画に平家納経の剣を持つ女人図などがあった。

いい心持で階下へ行くと、そこには並河靖之の七宝焼が並んでいた。
先般INAXギャラリーでここの所蔵品の多くが展示されたが、あれもまたまことに好い内容だった。

好いものを見て、暑さも忘れて外へ出た。
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