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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

天狗推参!

神奈川県立歴史博物館の「天狗推参!」はめちゃめちゃ面白い展覧会だった。
これが面白すぎて書けそうになくて、困っている。
既に記事を挙げられたmemeさんはイキイキとした内容でテキパキ書かれているが、わたしはとてもああはいかない。
ちょっと迷ったまま、とりあえず書いてみようと思う。
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天狗 と聞くと必ず思い浮かぶのが、鞍馬天狗。
遮那王を鍛えたり、源氏再興の手助けをしたり。
(建勲神社のそばの船岡温泉(銭湯)の天井には天狗と遮那王の稽古の情景が木彫彩色で飾られている)
近代では倒幕の志士を佐ける『鞍馬天狗』実ハ倉田典膳だったり。
(姓は尾呂内、名はナンコウのとんま天狗というのもあった)

「日本一の大天狗」とは頼朝が後白河法皇を罵った言葉だが、この台詞には他に深?いイミがあると看破したのは五味文彦や丸谷才一だった。
謡曲では天狗は美少年を拉っし去る存在でもある。
「花月」などの天狗は埒外な大きさを言葉にするが、少年を連れ去って一体なにをしているかは、秘密である。

怖いばかりの天狗だけでなく、かこさとし「だるまちゃんとてんぐちゃん」という可愛いキャラもいる。
尤も大正時代の一大人気キャラ「正チャン」には「天狗退治」の巻があるが。
・・・というところで「天狗推参!」の感想を少しばかり。

第1章 天狗推参! 中国から天狗がやってきた!

来ていたので嬉しかったのが、国宝の「辟邪絵(毘沙門天)」。毘沙門さんはよく働くが、七福神の中では唯一の武闘派というのも、改めて考えれば興味深いところである。
(彼が七福神に入っているという事実が)
その毘沙門天さんの矢の先には羽根を持つ異形のモノがいる。
修行僧をヨコシマなるものから守るために遣わされたわけである。
この頃は羽根を持って鼻高なのは異類異形のトモガラなのだった。

しかし後世になると天狗には智慧と力とを持つ存在と言うイメージが生まれる。
とはいえ、悪事を行うのも智慧がなくば出来ぬことである。

兜跋毘沙門天像 中国・元時代 大念佛寺
毘沙門でも兜跋と名称がつく毘沙門図。トルファンに現れたからだとか色んな説がある。
随分な剥落で、概観と眼ばかりが見える。目の大きいところは不動もびっくりである。
来歴を知りたいものだ。
大念仏寺は融通念仏宗の本山で、ここは毎夏1日だけ幽霊画を公開したり、巨大な数珠を使う百万遍の数珠繰りなどでも有名である。
そうした由緒のあるお寺だけに、こうした仏画も所蔵していたのか。

先に鞍馬天狗のことを少し書いたが、鞍馬寺には金星から尊天が降臨したという伝説があった。千手観音と毘沙門天と魔王尊がその尊天ということだったか。
実際、鞍馬の毘沙門信仰は深く、中世の説話にも多く登場する。
小栗判官の両親はこの鞍馬へ参篭して毘沙門天に申し子をして、子を得ている。

その鞍馬から銅造の毘沙門像が色々来ていた。
毘沙門天をご本尊にして尊ぶのは他に信貴山がある。
ここにも申し子しにゆく人々が多い。わたしの親なども信貴山にお参りに行ったそうで、だからわたしの実名は信貴山ゆかりの字をいただいている。

金沢文庫(称名寺)からも毘沙門天の図像が来ている。ここのコレクションはなかなか面白いものが多い。ちょっと稚拙な感じのする絵だが、気持ちはよくわかる、と言いたくなる。

鎌倉長谷寺から迦楼羅立像が来ていた。観音三十三応現身立像の一体である。この展覧会にゆく前に長谷寺へ出向いたが、三十三体なのに一人いないなと思ったら、ここへ来ていたのだった。
尤もカルラ(ガルーダ)を天狗の源流の一つと見なしているわけではない。
カラフルで可愛い、ちょっと短躯な像である。

藤原頼長の台記の写本もあった。「愛宕山へは月参り」と歌われる、その愛宕の天狗像に呪詛を掛けたと噂されたのを否定する内容らしい。「怖々」という文字があった。
彼の日記にはいついつダレソレを△△という記述が色々あり、けっこうアケスケなことを書いているので、否定しているのは案外・・・

他にも宇津保物語、大鏡、源平盛衰記などが出ていて、いずれも天狗のことを記している。
また18世紀の平家物語図屏風は金ぴかな中に羽根をつけた怪しいおじさんたちが屋根の上で、ほたえあう(ふざけて騒ぎ戯れあう)姿が描かれている。

大山寺縁起絵巻は、鷲にさらわれて東大寺で別当となった良弁僧正の物語を描いている。
この大山寺は伯耆大山ではなく神奈川県の大山の方。
そして二月堂縁起絵巻に出てくる天狗たちは顔も完全に異形だが、妙に愛嬌がある。
こいつらは行法を盗もうとしているが、僧たちも手を打って彼らと渡り合うのだ。

ここで16世紀の是害坊絵巻(慶応図書館所蔵)を初めて見た。
曼殊院と泉屋博古館が所蔵する是害坊絵巻は共に見ているが、慶応本は初めて。
中国から来た天狗の是害坊が日本の坊さんたちに挑むが呆気なく敗れ、日本の天狗たちに介抱される物語だが、戸板か何かで運ばれ、お風呂で治療してもらうシーンには笑った。
両方よく似ていたが、こちらは全く違う絵柄・構図だった。
それはそれで面白く眺めた。

てんくのたいり(天狗の内裏)もたくさんの異本が出ていたが、義経が関わる物語は江戸時代までは大変に人気があったので、需要も多かったのだろう。

驚いたのは青色の鬼が座している「元三大師像」。絵の説明を読むと、これは魔よけのものらしいが、魔には鬼がいいというのも面白い。
他にも踊る摩多羅神像がある。 万歳のように鼓をもっているが、そばの男は笹を持っている。
笹を持つところに色々と考えるものが含まれているのかもしれない。

南北朝時代の「魔佛一如絵詞」は諷刺画だということで、高僧たちの談話会を見ると、みんなへんなイキモノに変わっているし、寺社建立の現場での働くモノたちには羽根がついている。
ガテン系天狗たち。それに熱狂する信者が一遍上人の小水を取るシーンまである。
カルトもここまで来るとなぁ・・・
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第2章 魔界転生 外法と習合する天狗たち

このタイトルを見て沢田研二と真田広之のキスシーンを思い出した。
エロイムエッサイムと唱えるのは「悪魔くん」と「三つ目がとおる」と「黒井ミサ」のほかに、この映画のジュリーだった。

太平記絵巻(巻二) 17世紀の煌びやかな絵。
「太平記」には北条高時が「天王寺の妖霊星を見ばや」と踊るシーンがあるが、それも天狗と一緒だったという解釈がある。
ここに描かれているのは天狗のほかに鬼や兎のようなものまで混じっている。
戦乱の時代に現われる天狗とは、一体なにものなのだろう。

美内すずえ「ガラスの仮面」の柱である「紅天女」の物語には、世相の乱れを噂しあう天狗たちが現れる。
そのイメージはやはりこの辺りから来ているのかもしれない。

荼吉尼天曼荼羅、晨狐王曼荼羅、愛宕曼荼羅、鞍馬山曼荼羅などがある。
ダキニ天はキツネに似てキツネではない野干に乗って現われる。
現世ご利益のカミサマである。大阪市立美術館にあるこの像は可愛らしい16童子たちに囲まれているので、弁天さんをも思い出させる。馬や牛や魚、兎、豹に虎、象などに乗る童子たちのなかで二人ばかりがどうやら野干に乗っているらしい。

室町時代の太郎坊権現像が出ていた。青黒い顔の天狗像として描かれている。
キツネぽいものに乗っている。
しかし私としては何かしら違和感がある。
ああ思い出した。
此花咲耶姫の弟にあたる八郎坊大権現は美貌だと、山本鈴美香「白蘭青風」に描かれていたのだ。彼は普段は天狗の面で美貌を隠しているという話だった。
そのイメージがあるので、この青天狗ではがっかりしたのだった。

第3章 天狗のかたち 鼻高天狗の登場

ここでは多くの面があった。
法隆寺や奈良博や手向山八幡宮の舞楽面(胡徳楽)、(崑崙八仙)などは古怪な趣が活きている。そして天狗面や獅子頭なども出ていた。
猿田彦像の紙本木版もあった。風貌だけで言えば、彼こそが天狗の元祖のようなものなのだ。
それから能面も色々あった。
絵画だけでなく三次元表現でも天狗が表されている。
暗い中で見ていると、異様な迫力があった。

第4章 江戸時代の天狗 天狗への眼差し

江戸時代は天狗学とでも言うべきものが確立していたようで、実に多くの書物が展示されていた。
江戸の人々の秋葉山信仰もあるし、みんなやっぱり天狗が好きだったのだろう。

江戸時代の学者・平田篤胤は、天狗にさらわれそこで修行したという寅吉少年から、様々な話を聞き取ろうと努力した。
それから杉浦日向子「百物語」には、ある武士が天狗修行をするために家を出るハナシがあった。彼は「宍戸シセン」と名乗るようになる。
これもモトネタがあったろうが、わたしは知らない。

ペリーが来るちょっと前に牛若丸天狗図絵馬が鞍馬寺に掛けられた。
この牛若は僧正天狗の傍らで巻物を熱心に見ている。
「鬼一判官三略巻」を思わせる。

鑓の稽古を描く飯綱古武道絵巻(貞享2年(1685)もあった。
飯綱と言えば、わたしは抜け忍カムイの必殺技「飯綱落とし」を思うのだが。
(そのフィギュアを持っているぞ、わたしは)

浮世絵が現われる。
国芳は魔界の王になる崇徳院を描いている。
有名な「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」のほかにも、雷鳴の中逆毛だって咆哮する院の絵がある。
谷川健一「魔の系譜」に崇徳院を論じた一章があるが、読んでいて怖くて仕方なかった。
実際に京都の建仁寺のそばの御廟の脇を通るときは、昼でもなんとなく怖いのだ。

勝川春章 海を望む山中に鶏と烏天狗の蹴合い  これは可愛らしい絵で(トリはニガテなのだが)トリと大差ない体格の烏天狗が試合するのを金太郎がサルや熊たちと一緒に見守っている。金太郎が大将で熊たちは子分だが、烏天狗たちも仲間なのだろう。
面白いのは金太郎の腹掛けが○に金の字ではなく、春章ゑがく「暫」の団十郎だというところ。ちょっとしたシャレである。

他にも金太郎の浮世絵が集まっているが、 天狗たちも金ちゃんのトモダチまたは子分なのがよくわかる。金太郎自身、都に出るまでは彼もまた異形のモノだったのだ。
だからトモダチは熊や兎や猿や天狗たちなのだ。
そのままなら、それこそ酒天童子とも交友があったかもしれない。
捕まる側から捕まえる側へ転身した、それだけのことだったのかもしれないのだ。

第5章 天狗信仰の広がり 天狗の民俗的世界

会場に入るとすぐに、神社の絵馬が現われた。
その巨大さにびっくりした。
大きいだけではなく、そこに巨大な天狗面がどーんっと張り付いていたからだ。
「これだけでもアトアトが期待できるではないか」
そう思いながら中へ入ったのだが、実際その通りだった。

高尾山薬王院というのは天狗信仰の霊山だということだった。
関西人の私は高尾山を殆ど知らないが、中央線のずっと向こうにあることは知っている。
そこの天狗グッズが色々出ていた。
また、茨城からは「海存上人」の像や立像などがでている。
常陸坊海尊のことなのだろう。
義経を見捨てて生き延びたことを恥じて、各地を放浪した海尊。
それがこの常陸では大杉神とやらになったそうだ。
その姿はやはり天狗のような拵えになっていた。

難船救済図絵馬まであるのは、そのご利益があるからだという。
思えば、義経と共に大物浦を共に渡ろうとしたのだ。

他に天狗の爪とその「天狗爪縁起」があった。真っ黒で固そうな尖ったものである。化石。
天狗のミイラ まであったというからもぉ・・・

ああ、本当に面白く眺めた。予定時間より随分長居した。
書くのも遅れた。展覧会は31日までなのに。
四半期ごとのベスト展にぜひとも加えるつもり。

おまけ:博物館で購入したお土産の天狗煎餅。たいへんおいしうございました。
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コメント
No title
こんばんは。
チラシだけでもう満足するインパクトです。行けなくてもこのチラシほしいなあ。
遊行さんが喜びそうな展覧会だなと勝手に納得しています。
2010/10/28(木) 00:36 | URL | キリル #ZgLpcwNk[ 編集]
ぜひ推参!されてください
☆キリルさん こんにちは
実際この展覧会はもぉホンッッとに面白かったです。
わたしの四半期ベストに入れますよ。
図録もよく出来てましてね、読みごたえありでしたし、
あの歴博のうすぐらい中で見るのがこれまたムード満点で。
いい展覧会でした。
2010/10/28(木) 12:43 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
お煎餅買えばよかったなあ(笑)
ほんと面白かったですよね。私もまだ記事書けていませんが、遊行さんのレポで会場での雰囲気&興奮が蘇ってきました!
関西人には天狗=鞍馬ですけど、機会があればぜひ高尾山にもお出かけを!駅にどーんとでっかい天狗面もあります。ミシュランに載ったせい&紅葉シーズンはメチャクチャ混んでますけど...
2010/10/28(木) 15:11 | URL | noel #-[ 編集]
味は二種類
☆noelさん こんばんは

この展覧会、本当に面白すぎて時間がもぉめちゃめちゃ。
いいデキでしたよね~

> 機会があればぜひ高尾山にもお出かけを!駅にどーんとでっかい天狗面もあります。

あーそうなんや!なんか中央線に乗るとよく山ガールな人を見かけたりしたんですが、それですか。
しかし天狗って結局なんなんかわかんないんですけど、昔の人には人気あったのがよくわかりますね。
因みにわたしのケータイの絵の変換にも天狗が入ってます♪
2010/10/28(木) 23:37 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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