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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

万葉に遊ぶ―上村松篁の描いた万葉世界を中心に―

奈良の松伯美術館で12日まで、松篁さんの万葉美人を中心にした展覧会が開かれている。松篁さんはゆかりの深い井上靖の小説「額田女王」の挿絵を手がけている。
(昭和43?44年頃)
松篁さんは花鳥画の名人だったが、一方でお母さんの松園さんの血筋を髣髴とさせる優雅な美人画も、この万葉世界を背景に描いている。
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チラシは「万葉の春」 桃の花が咲き零れる野に摘み草をする女たちが描かれている。
これは元々は奈良歴史教室の壁画だったが、今では松伯美術館にある。
右側には若き貴人と侍童がいて、万葉集の恋歌そのもののような情景が広がっているのだった。
この絵を見た記者の一人が「お家芸か、かくし芸か」と味のある名言を残しているが、本当にはどちらだろう。
馥郁とした美しさが、ヒトにも花にも鳥にもあふれている。

万葉集の時代では花は桜ではなく梅であるが、桃もまた随分深く愛されていたらしい。
松篁さんの桃の花を描いた作品は多いが、いずれも明るい伸びやかな心持になる名品だと思う。

「額田女王」の話の展開については措くとして、墨の濃淡ばかりでその世界を表現したのは、本当に見事だった。
章ごとに扉絵も拵えていて、その章の中の最大の事件をフルカラーで描いている。
何を見ても、どれを見てもわくわくする美麗な挿絵だった。

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またその絵を描くにあたって、資料に苦労したことなども松篁さんは随筆に残している。
読んでいて思わず声をあげて笑いそうになった「苦労」もある。

扉絵のうち、毛氈に座して白梅を眺める額田女王、有馬皇子の悲しい最期などが静かに描かれている。
挿絵は上が中大兄皇子とのひととき、下はその以前、まだ娘時代の額田女王が大海人皇子をからかうシーン。

物語自体は井上靖らしい展開の流れがあり、感情が含まれている。
それを松篁さんは静かな画面で再構築する。
見ていて本当に飽きない仕事だった。

挿絵は他にも大仏次郎「天皇の世紀」があった。壬生狂言や竹生島などが描かれている。

私は以前から天平時代の女人の装いに深い関心があり、コスプレするなら舞妓さんでも平安美人でもなく、天平美人になりたいとツネヅネ思っている。
ここでは奈良時代にヒトビトが身に着けていた衣裳の再現もあり、カラフルで賑やかなそれらを眺めているうちに、わたしも一緒にその衣裳をまとって、絵の中のヒトになっている気がしてきた。

万葉をキーワードにしたような作品は他の画家にもある。
安田靫彦 紅梅  見事な枝振りと開いた花の咲き零れ具合が、またなんとも言えず優麗。
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堂本印象 木華開耶媛  春の女神が野に遊ぶ。
桜、地にはたんぼぽスミレなどが女神を取り巻くように咲いている。
太子降誕  摩耶夫人と侍女たちのまなざしがいい。

小倉遊亀  天武天皇・持統天皇と並んでの作品。数珠を手にまさぐっている持統天皇。天武は眼光鋭い、やる気に満ちたおじさんだった。

池田遥邨 寧樂  鹿が1頭だけ。ぽつんとこちらをみている。
可愛い淋しさがそこにある。
  
礎石幻想  びっくりした。軽妙洒脱な作品の多い画家が「美人」を描いているのだ。
随分な長身で、まるで首がするすると伸びたような感じもした。

他に常設室には松園さんの「多から舩」や「序の舞」下絵など、淳之さんの大極殿正殿の壁画下絵などがあった。
四神の一、白虎が実に可愛らしくて、首筋をなでてみたくなった。

松篁さんの「万葉絵」は以前から好きな作品が多く、「額田女王」も全編の絵を見たいとよくよく思っていたから、こうしてその機会が来たことを大変嬉しく思っている。
可愛い図録にも挿絵は収められているので、いつでも逢えるのだ。
「平城遷都1300年記念」と銘打たれた展覧会、どれもこれもが名展だった、と思っている。
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