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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

心斎橋 きもの モダン 煌めきの大大阪時代

昨日は「京の小袖」今日は「心斎橋 きもの モダン 煌めきの大大阪時代」。
時代の流れからしても丁度いい。
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「東洋のマンチェスター」と呼ばれていた大阪が、やがて「大大阪」になった頃、心斎橋を中心にモダンな文化が広がっていた。
当時のモダンさをこの展覧会で存分に味わうことができて、本当に嬉しい。
大阪は「大坂」の昔から上にうるさいものも置かず「民都」として活きてきたので、こうした時代が生まれたと言ってもいい。
しかし無念なことにこのモダンな大大坂の時代もじきに終焉を迎えることになった。
戦争である。
軍部が台頭したり独裁政権が興ると、それは文化の死を招くことになる。現在の大阪もそのことを十二分に危惧しなくてはならない。

さて明るい大大阪時代を楽しもう。
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橋爪節也氏・肥田皓三氏を始めとする個人コレクション、クラブコスメチックス、桃谷順天堂、小大丸といった組織コレクション、そして中之島図書館や各ミュージアムからの所蔵品で「大大阪時代」の概要が伝わる構成になっていた。 

マッチラベル、心斎橋マップ、大阪名所絵はがきなどが最初に出迎えてくれるのだ。
昭和初期の明るく楽しい心斎橋。

(その後に拡大されたマップと現在地の該当写真がパネル展示されているが、街というものの宿命をまざまざと見せられた気がする。)

大阪市第七代目市長・關一(せき・はじめ)の功績と言えば、御堂筋を拵えたことが第一に思い浮かぶが、大正末に大阪都市協会を設立し、冊子「大大阪」を発行したというのも、たいへん素敵な仕事だと思う。
文化都市たることを内外に宣伝し、実際その通りこの時代は繁栄を見せていたのだ。
その第一号が展示されている。

商業誌「SAKURA」に当時流行の「心ブラ」スナップが掲載されている。大丸の前を闊歩する、おしゃれで元気そうな二人の婦人。隣接ページには梅原龍三郎のバラの絵がある。

ショップガイドは昭和13年のもので、やはりとてもモダンだった。田村孝之助の表紙絵と挿し絵がついているのも素敵。松屋の着物の宣伝ページもいい。

サンデー毎日の昭和三年7/22号の表紙は当時の人気俳優の写真が丸囲みで出ている。
伏見直江、夏川静江、岡田嘉子、五月信子、六代目菊五郎など。
時代の空気がよくわかる。わたしは時代劇での伏見直江ファンだが、モダンな耳隠しスタイルの彼女もよかった。

心斎橋界隈にあった店舗の宣伝ものを見る。
食堂、時計店、喫茶、薬局などである。
丹平薬局・美粧部チラシなどは今のものと遜色がないどころか、かえってこちらの方が丁寧に仕事をしてくれそうである。
(この丹平の写真部から多くの人材が世に出てもいる。)
森永キャンデーストアチラシには昔ながらの森永エンゼルもいて、楽しい気持ちになる。
今も盛業の三木楽器のチラシもある。

絵を見る。
小出楢重 銀扇 重厚な配色で描かれた若い女の像。小出は島之内の老舗薬店の息子だが、非常にモダンな人で、大阪を出て芦屋の最初期の住人になるや、楽しいモダンライフを送った。そのあたりについてはこれまでもこのブログで色々書いているが、わたしは小出のそうしたところが大好きなのだ。

神戸の小磯良平のモダンな婦人像もある。
ここで髪型について解説があった。
モガは断髪している、というイメージがあるが、そこまでバサバサッとできない婦人は、洋髪風な「耳隠し」スタイルを採った。これなら洋装・和装どちらもOKになる。
小磯の描く婦人も耳隠し型で、当時流行の縦縞でモダンな着物を身につけてソファに身を投げている。

浪花の悪魔派と呼ばれた北野恒富の婦人像が何点か出ている。
「宝恵籠」は東京ステーションギャラリーで「浪花の悪魔派」展があったときの図録表紙を飾っている。
今も夏祭りの始まりを告げる愛染祭りにはこのホエカゴに乗って、きれいどころや、woman of the yearが威勢良く担がれて街を練り歩く。
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いとさんこいさん 姉妹が庭か玄関先かでくつろいでいる。姉(いとさん)は黒地にアザミ柄、妹(こいさん)は白地にアザミ柄の着物。にぃっと笑う顔に妙なリアリティがある。そう感じるのは自分がやはりこの地の人間だからか。

星(夕空) 家の物干し台で涼むのは、昭和の真ん中まで当然のことだったらしい。ワンレン風な髪型の若い女が花火のようなアジサイ柄の浴衣を着て涼んでいる。見上げる先には小さな星。
今回この下絵も出ていて、本絵との違いがわかり面白い。

大阪では婦人が絵を描くことを嫌わなかった。だから画塾も盛んになり、木谷千種門下からはいい画家が出ている。今回は千種の絵はないが、彼女の教え子の三露千鈴の絵が出ている。
母と児 大正末の作で、柔らかな優しい絵である。情愛のにじむ作風で、モダンさはないが、暮らし向きの良さを感じる、おっとりした絵。

島成園は千種一門とは異なり、京都の梶原緋佐子にも通じるような社会の厳しさ・格差の悲しさ・恨み腹立ちといったものをも、芸術に昇華させている。

祭りの装い 大阪の夏祭りはいくつもあるが、そのどれの分かはわからないが、夏ではある。夏祭りの幔幕の前にいる幼い少女たちの姿がある。
殊に「ええ氏」の家の幼い姉妹が美々しく装うて、床几の左端に並んで座り、少し間を空けて中流の家の少女がこれも可愛らしく装うている。
その三人から離れて、そちらをみつめる少女がいる。
こちらは足袋もなく草履ばきに普段着よりは少しマシらしい着物を着ている。
小さくても女の子の心は単純なものではない。
せつなさのこみ上げてくる作品。

高橋成薇 秋立つ チラシ。この絵は裾のあたりで一度断ち切られていたのを繋ぎあわされている。
こういうスタイルを見ると、わたしなどは自分の祖母を思い出す。昭和三年の若い婦人。祖母はその年、ご大典の提灯行列で先頭を切って、淀川大橋を渡ったそうだ。

吉岡美枝 店頭の初夏 緑色のワンピースまたはスーツを着たマネキンを眺める若い女。勤め帰りの風景。今も活きる光景。しかしこれは昭和14年の夏なのだ。もうすぐ締め付けられる時期が近づいてくる・・・

難波春秋 嫁ぐ日 こちらはまだ瓦解前の日らしい。嫁ぐ娘の口から新しいお歯黒がのぞく。母から眉を落とされる様子を尼の装をした祖母が優しく見守る・・・
幸せそうではあるが、なにやら浄瑠璃でも聞こえてきそうな風景。

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クラブコスメチックスは資料室を開いていて、春秋四ヶ月の間、素敵な企画展をたてている。
開室以来欠かさず訪ねているが、いつも楽しい心持ちになる。
今回も双美人の描かれた化粧品ラベルや、実物の展示があった。外でもこうした機会に積極的に資料を出してくれはるコスメチックスは、本当に嬉しい企業だ。

更にそこに明色アストリンゼンのポスターと製品があった。これも大阪のメーカー桃谷順天堂の拵えた化粧品だったのだ。
こちらは昔から「奥様のお化粧品」として今でも元気に販売されているが、そうか、大大阪の時代に生まれた化粧品だったのか。
ここもクラブコスメチックスや東京の資生堂やポーラのように資料室を開いてくれればいいのに。

娯楽では、松竹座のニュースや宝塚歌劇のプログラム、クラブコスメチックスの前身たる中山太陽堂の出版社ブロンズ社が出した雑誌「苦楽」、白井呉服店の案内状などがある。東京のコピーには「今日は帝劇、明日は三越」というのがあるが(逆かもしれないが)、どちらにしろ繁栄していないとそんなことはいえない。

小大丸の所蔵する袱紗などを見る。
ごく小さい頃から祖母につれられて心斎橋の大丸によく行ったが、向かいの小大丸というものが不思議でならなかった。
店構えが小さいから小大丸なのかと思っていたら、そうではなく、全く別な組織だったのだ。
それを知ったのは大人になってから。

小大丸については今東光の「春泥尼抄」に、小大丸で買い物をするシーンがある。呉服を専門にしているから、わたしにはわからなかったのだと、そのときに知ったのだった。

大大阪時代の豪華絢爛な着物を見る。
昨日挙げたばかりの「京の小袖」とは全く別種のおもしろさがある。

綺麗な振り袖が並ぶ中に銘仙も多くある。蘭や紅葉などの柄でも銘仙なのか。

大丸心斎橋全館完成店内ご案内などがある。ヴォーリズの建てた大阪のアールデコの宝。
その大丸関係の資料が色々あり、楽しく眺めた。
懐かしのそごうもある。
少し離れて難波の高島屋の資料もある。
高島屋には史料館があり、そこでこれまで多くの展覧会を見てきた。
ここでも高島屋の仕事をした多くの画家たちのちょっとした作品が並んでいる。
松園さん、神坂雪佳、そして竹内栖鳳の少女像など珍しい挿し絵もある。
三越、白木屋のチラシなどなど・・・

びっくりしたのは初代中村鴈治郎の生人形。これが呉服屋の店頭にマネキンとして飾られていた写真もある。
「ほっかむりの中に日本一の顔」と謳われた鴈治郎。

ほかにも多くの店屋の引き札や江戸時代の絵図、看板、証文、誓文払い・・・そんな面白い資料があった。店舗ガイドもモノクロだが、見るのに夢中になった。
すっかり気分は大大阪時代の心斎橋に遊ぶ客である。

何もかもが楽しい展覧会だった。
ああ、このような黄金時代はもう二度とこないかもしれない。
だからこそいよいよこの展覧会を大事なものとして、楽しんだのだった。

12/4まで。

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