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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

子規の叔父「加藤拓川」が残した絵葉書 明治を生きた外交官の足跡

大阪府立弥生文化博物館は国道26号線沿いの池上曽根遺跡に隣接している。
駅は信太山駅が近く、そこから「茶色い道を進んでください」と案内があって、古く静かな街中を曲がったりまっすぐ歩いたりして、10分弱ゆく。
わたしなどは「信太山」と聞けば昔の浄瑠璃や説経の「信太妻」をまず思い出す。
恋しくば 訪ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉
悲しい物語が胸に蘇る。

さて「茶色い道」をたどって、弥生文化の池上曽根遺跡を右手にした、ステキな建物に入ると、常設室では弥生文化のさまざまな資料が展示されていて、それを見るのも楽しいが、今回の目的は企画展の方なのだった。
子規の叔父「加藤拓川」が残した絵葉書 明治を生きた外交官の足跡
近代日本の展覧会である。
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チラシやサイトの照会文にはこうある。
「正岡子規の叔父として司馬遼太郎原作『坂の上の雲』にも登場するパリの外交官・加藤恒忠〈つねただ〉(号 拓川〈たくせん〉)は司馬氏をして「拓川の生涯は友人を作るためにあった」と言わしめたくらい幅広い交友に生きた人であった。
その証として、数多くの書簡や写真、数千枚の絵葉書がアルバムに残されていた。
後にベルギー公使として、日露戦争前後をロシアやイギリス、フランス、ドイツなど列強諸国に近いブリュッセルに駐在したこともあって、この小説に登場する軍人や外交官、芸術家などの絵葉書も多数含まれている。」


明治の絵葉書ブームは、数多くの傑作を世に残したが、絵葉書好きなわたしもその残光を拾い集めて暮らしている。
なんとしてもこの展覧会には行かねばならなかった。
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前後期に分かれての展示で、クリスマスに訪ねると、愛らしいプレゼントをいただけたのがまた、とても嬉しかった。

拓川はとにかく交流の広い人で、しかも筆まめで几帳面な人だったようで、素晴らしいコレクションがそこにその片鱗を見せていた。

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絵葉書ファイルはとても立派なアルバムで、これは多分外国製のものだろうと思われた。
拓川は秋山兄弟の兄の好古とは生涯に亙って仲良しさんで、共に旧藩主・久松定謨のフランス留学に従っている。
その後フランスやベルギーに赴任するようになり、かの地での暮らしが長いせいか、色々とセンスの良さを感じる遺品があった。

絵葉書は絵だけでなく、名所写真もまた人気だった。
モノクロに手彩色されたものもあるが、セピア色に褪色したことで、いよいよ美しさを増した風景写真が特に眼を惹いた。
これらを見ていると、19世紀末から20世紀初頭の世界の姿が自分の目の前に開けてくるような、錯覚が生まれる。
それは幸せな感覚だった。

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先日ついに終了したドラマ「坂の上の雲」は日露戦争終結までを大きく描いていたが、むろん世界はそこでとどまりはしない。
その翌年にはスペイン皇帝の結婚式があったそうだ。
拓川はその式に列席し、その写真も出ていた。
ここではパレード時に爆弾テロが起こったというから、やはり言われるように「20世紀は戦争の世紀」だったのを実感する。

外交官という職業を越えて、拓川には友人が多くいた。
思想も主義も超えての交友の広さには驚くばかりだった。
ベルギー駐在時の訪問者ノートには片山潜の直筆サインがあったし、「荒城の月」の土井晩翠からの絵葉書もあった。
西園寺公望、住友吉左衛門(二人は実の兄弟である)、犬養毅らとの交友は「なるほど」と思うものの、びっくりしたのは、住所録に「天勝 下谷」の文字があること。
サロメを演じもした奇術師・松旭斎天勝のことではないか。
・・・幅広いなぁ、本当に!

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ドラマの中で陸羯南が子規に優しくするシーンがあるが、実際に羯南は拓川にたのまれて、子規の面倒を最期まで見てあげたそうで、その羯南からの絵葉書がまた印象的なものだった。
赤地に窓枠があり、そこに風景の入ったもの。

風景ばかりではなく、絵にもよいものがあった。
武二のアールヌーヴォー風な「鼓の女」がある。これは人気のあった絵葉書で、ローダー・コレクションでも見ている。
他に黒田清輝との交友も深かったようで、そのあたりも見受けられる。

日本製の絵葉書でもおしゃれなアールヌーヴォー調のものがたくさん見受けられた。
松原と富士を遠景に、羽根のある天女が身体を反らした意匠のものなどが特によかった。
他にアラブ風の女の半身像、キモノの前をはだけた白人の娘など、妙に惹かれるものもある。
瑞西、伊太利、白耳義・・・漢字で書くのがそぐう風景写真の数々。
奇抜なモードに身を包んだ美女たちもよく、猫の擬人化の戯画シリーズも楽しい。

本当に数多くの絵葉書があり、そこから「拓川の生涯は友人を作るためにあった」という司馬遼太郎の言葉が、実感として胸に落ちてくる。

とりあえず前期は12/25で終了したが、後期は1/5~1/29まで。
また出かける予定を立てている。
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コメント
前期終了でしたか!
何と守備範囲の広いというか、
フットワークの軽いことでしょう。
私は地元にいながら、25日までが前期だったのを、
ころりと忘れておりました。

いつもいつも興味深い記事をありがとうございます。
2011/12/29(木) 01:55 | URL | neimu #SiaNZQo6[ 編集]
うらみ葛の葉
 博多座で初めての歌舞伎の時でしょうか 坂田藤十郎が子を抱いたまま 
 口にくわえた筆で書く 恨み葛の葉 なけましたねぇ もう一度見たいです。
 広い交際 素敵な方がいたんですね。正岡子規の母親もずいぶん偉い女性
 だったようですが この方もまた 凄いです。
2011/12/29(木) 19:25 | URL | 小紋 #-[ 編集]
千年の森
☆neimuさん こんばんは
チラシに「12/24、25にご来館の方にはささやかなクリスマスプレゼントを」の一文に眼がピカッッと光って、前期末に出かけました。
後期はまた違うものが出るようなのでそちらも楽しみです。
展示品もよいですが、そこから見えてくる世界のありようや、拓川という人のヒトトナリがとても興味深かったです。
こういう性質の人が外交官として活躍した明治という時代は、やはり凄いと思いました。

後期、ぜひぜひおでかけください♪


2011/12/29(木) 22:47 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
阿倍野から信太山へ
☆小紋さん こんばんは
子供の頃から信太妻の話は近いものでした。
蜷川の演出した、秋元松代の戯曲「元禄港歌」もこの信太妻がベースになっていて、藤間紫の三味線と語りで泣いてしまったものです。
日本の古い物語はやっぱり悲しいものが多いですね。

明治の人間はやっぱり偉いですね。
2011/12/29(木) 22:50 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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