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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

伝説の劇画師 植木金矢

弥生美術館で「伝説の劇画師 植木金矢」展を見た。
「痛快!ぼくたちのチャンバラ時代活劇」という副題がついている。
zen153.jpg

このちらしを一目見て「おお、昔の映画スターの似顔絵が」と気づく人はある程度以上の世代か、またはわたしのように昭和20~30年代の日本映画黄金時代の愛好者かだろう。

右下の「三日月天狗」はどう見ても市川御大こと市川右太衛門演ずる早乙女主水之介の似顔絵であり、左上の「風小僧」は山城新吾主演のそれ。

植木金矢は銀幕のスタァの似顔絵で、彼らの活躍するチャンバラ時代劇の世界を、劇画の世界に持ち込んだ人なのだった。
植木はとにかく連続チャンバラ活劇が大好きな人で、展示室一階をパッと見ただけで、その情熱が伝わってくる。
解説に非常に興味深いことが書かれていた。

「往年のチャンバラ時代活劇ファンの人々は、実際に見た映画以上に、植木の描いた作品を記憶していて、それが映画と混同されている」といった意味の文だった。
当時は五社協定もやかましく、他社のスタァたちが競演することは殆どなかった。
しかし誰もが「誰某と誰某が敵になって、誰某がヒロインになり、誰某が悪い女で」といった妄想を抱いていたのは確かだ。
そのはかない期待は劇場では叶えられないが、植木金矢の世界では、存分に味わえるのだ。
ファンの心に寄り添う作品づくり。
それが植木の作品の世界観なのかもしれない。

子供時代の植木は樺島勝一、伊藤彦造、鈴木御水らに心酔し、やがて志村立美の挿絵「人妻椿」を見てその道へ進もうと決意する。
しかし植木が世に出ようとした頃には丁度カストリ雑誌があふれていて、植木の表紙絵がいくつかの雑誌を飾るようになっていた。
ここに展示されているのは時代劇がメインの「面白講談」や、アメリカ風のHくさいおねえさんの猟奇的な絵など。

そして貸本制作へと移る。
右太衛門、五十鈴、山根寿子らをモデルに、どんどん描きまくるようになる。
どれをみても本当にうまい。リアルなのではなく、フィクションの巧さとでも言うものがある。
千恵蔵、友右衛門も植木の筆で活劇に仲間入りしている。
錦之助と大友柳太朗が並ぶのは「紅孔雀」か。
やがて芳文社とのつながりが生まれ、「風雲鞍馬秘帖」などが生まれる。

夢のようなキャスティングの劇画に当時のファンは狂喜したことだろう。
殆ど二次創作といえるように思う。
ファンの望んだ先まで描く。なんと素敵な作家だろう。

今から見ればところどころで「え~」なことも多いが、とにかくトキメキ要素の多い作品群なのは確かだ。
色彩感覚も少し昔のアメコミに似たような雰囲気もある。
チラシなどに出ている口絵などはともかくとして。

一方植木は「いつか講談社の絵本を手がけたい」と望んでいたがその夢は果たされず、その代わりに旺文社「感激物語」の挿絵を担当することになる。
偉人伝などをベースにした少年少女向けの端正な読み物である。
植木はこの仕事をとても喜んだそうだ。

ところでそこからびっくりな転機がある。
昭和45年、青年誌の描き手になる。
モノクロの美しさがそこに現れて、かなりびっくりした。
短編「くの一無惨」などは構成もよく、とても面白かった。
中篇「暗殺小路」も面白く、これらは手元に欲しいと思った。
劇画の作者としては最上元などの筆名を使っている。

またかつてのスタァ似顔絵能ではいよいよさえて、三船プロの「大忠臣蔵」とタイアップした作品も拵えている。
更に戦災などで失われたかつての映画ポスターも記憶に基づき作成し、人気を得ている。
わたしもそれらを前にして、フィルムセンターで見た「みそのコレクション」の一枚かと思ったほどだった。

さらにさらに!TV時代劇のキャラたちのフィギュアの原画までもこなしている。
中村主水、念仏の鉄、悪代官と来た日にはもぉ「おおおおおっ!!」だった。
また浪曲界とのコラボもある。

そしてなによりいちばんびっくりなのは、今年90才で現役作家ということだった。
去年の新作もある。
他にもスケートの安藤美姫の似顔絵、亡くなった田中好子・スーちゃんへの追悼色紙もあった。

「植木金矢先生、これからもどんどんがんばってください」
わたしは「先生にメッセージを」ノートにそんなことを書いた。
ドキドキする、昭和の匂いがする展覧会だった。
4/1まで。なお2/12、3/17、24には弥生美術館でご本人のギャラリートークがある。

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コメント
ううむ・・・
お世話になっております

昨年でしたか リイド社の「コミック乱」(おそらくご存知ないかと・・・さいとうたかお一派を中心とする劇画月刊?誌です)か その増刊だかでこの方の作品を拝見しました
くノ一ものだったと記憶してますが 工房(プロダクション)制作ではない 割と手の感触の残る絵だったような…
やわらかめの 線であったとも

長生きも芸のうち すごい (わたなべまさこさん 水野英子さんも 新作準備してる由ですが…)

1月後半から2月は 観たいものがスカスカ気味でもありますので 行ってみたいと存じます この記事 有難いです

そちらも寒さ本格かと存じます これからも ご自愛ご健筆を それでは

追伸 
絵柄が嫌でなければ 「デラシネマ」(コミックモーニング連載中)も 悪くありません 
事情に通じている方々は より面白く読めるかと
2012/01/17(火) 15:51 | URL | TADDY K. #1xXJNkSU[ 編集]
知ってますよ♪「コミック乱」
☆TADDY K. さん こんばんは

ふっふっふっ知ってますよ、「コミック乱」。
「賢明なる読者諸君は既にお気づきのことであろうが」と白土三平風な前置きをしておいて、
わたし、時代劇は小説もマンガもドラマもだーい好きです。
最近は読んでないですが、以前は「コミック乱」読んでました。
さいとうプロの「剣客商売」や、お坊さんで闘う人の話とかありましたよね。

そうですか、読まれたんですね、それはよかったです。

> 長生きも芸のうち すごい (わたなべまさこさん 水野英子さんも 新作準備してる由ですが…)

わたしはこれまた幼稚園の頃からわたなべまさこさんが大好きなんですよ。
レディコミの月刊誌ではわたなべさんの旧作を毎号掲載しているのがあって、それもよく読んでます。
「金瓶梅」は途中からどの雑誌に行ったのかがわからなくなったので追いかけられなくなりましたが、出来る限り読み続けたいと思っています。

水野さんも近年は歴史大作が多くて、それがとても楽しみです。
やっぱりこうした方々の作品は本当に面白いです。



> 絵柄が嫌でなければ 「デラシネマ」(コミックモーニング連載中)も 悪くありません 
> 事情に通じている方々は より面白く読めるかと

気づいたときにはもう連載半ばでしたので、これは単行本で完結するのを待とうかと思ってます。
時々めくっては「おー」とか声挙げてますが(笑)。
2012/01/18(水) 00:58 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
おお 四角いコマの隅に丸数字がっつ
お世話になっております 先週末 行って参りました

個人的には 1階の終わりからの2階中盤の展示
白黒の 青年誌時代がよかった 原画 濃淡がきちっとしていて いや当然なのでしょうが

武家社会の片隅で生きることを受容していた青年が
想いをひそかに寄せていたであろう女性の 敵討ちを果たし 人知れず去っていく話 とか
(映画が より存在感のあったころなど 作られたのではと思しき)
「総司残影」でしたか 雪の降る中で交わされる会話 じっくり観ることになりました

あらためて 御礼ということで

梅の絵の話を書いておられましたが 開花もままならぬ様子 お風邪など召しませぬよう
それでは ご自愛ご健筆を

追伸
梅というのは 頭巾には不向きなんですかね さくら頭巾とか 竹虎頭巾てのも いませんな
(まあ 敵役に笑われるかもしれませんが)
2012/02/27(月) 18:59 | URL | TADDY K. #1xXJNkSU[ 編集]
隅の所に味がある~
☆TADDY Kさん こんばんは
わたしも最初の総天然色もよかったんですが、モノクロの劇画にときめきましたよ。
いい話が多かったですね。
暗殺稼業の青年の切ない胸のうちとか・・・
たしかに映画を思わせるようなところもありますね。


> 梅というのは 頭巾には不向きなんですかね さくら頭巾とか 竹虎頭巾てのも いませんな
> (まあ 敵役に笑われるかもしれませんが)

いや、既に頭巾かぶってる時点で「イカ」ですしwww

梅の合う頭巾はお高祖頭巾ですね~~
2012/02/28(火) 01:06 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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