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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

郊外を刻む 版画家たちの代々木グループ/平塚運一と落合の版画家たち

昨日挙げた「渋谷ユートピア1900-1945」の感想には、第八章の「郊外を刻む 版画家たちの代々木グループ」の件をわざとのぞいてある。

丁度同時期開催の新宿歴史博物館「平塚運一と落合の版画家」展がリンクするからだった。
その感想を共に挙げたい。
先に新宿歴博から。
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馬込文士村、池袋モンパルナス、渋谷ユートピア、それから落合周辺の版画家たち。

まず平塚運一の1918年から1983年までの作品を見て歩く。
髪結ひ(妻英野モデル) 「白と黒」の版画。この頃から既に力強さが画面にみなぎり始めている。

池尻風景 生け垣がモコモコした町中、そのモコモコの影しかない風景。どこかシュールな1922年。

1923年にはあちこち出かけたらしく、旅先の風景が克明に(刻明に)描かれている。
関の五本松、松江天神川、大谷寺風景、籠ケ鼻風景 松江、千葉登戸海岸、相州海岸・・・

しかしその年には関東大震災があった。
翌年にはモノクロではなく多色刷りの「東京震災跡風景」という連作が生まれている。
東橋、お茶の水、洲崎遊郭、築地、深川木場、ニコライ堂、被服廠跡納骨堂、両大師、和田倉門。
どこもかしこもガタガタだが、ニコライ堂のドーム屋根が無くなってるのは衝撃だった。
報道写真では見知っていたが、カラフルな版画で見ると、ドキッとする。
また洲崎遊郭は電信柱も立っているが、店の灯りが点っているのがホッとする。ランプでの灯りなのだが。

1927年の木口木版の仕事が並ぶ。
牡丹 花びらの積み重なりあう様が艶かしい。
小鳥と梅 振り向く小鳥が可愛らしい。
机上小禽 ふくよかで愛らしい。

平塚は鳥類が好きなのか、野鳥を題材に選ぶことも少なくないようだった。
閑日小景、啄木鳥、などといった作品は、鳥の愛らしさをそこに刻み付けることに熱意を燃やしたように見える。

會津八一と交友を持った人だけに、旧いものを題材にした作品もある。
しらぎ古瓦天女、ほうおう、といった作品は旧い世の新羅の瓦に刻まれた図柄を写したものだった。

1933年の「葛ケ谷の富士」はその当時の落合の旧名で、自宅から見える富士山を描いたもの。80年前はそこから富士が見えていたのか。・・・ということを思いながら、この新宿歴博から四谷三丁目の消防博物館の10F展望室に上がると、白い富士山がくっきり見えた。

落合点描 江古田にある野方の配水塔が描かれていて、なにやらとてもかっこいい。
江古田といえば、前に誰かの本で「中野から江古田辺りに住むのが理想」というのがあって、それが記憶に残っている。
江古田にはまだ行ってないが、昔の三井文庫があった辺りや中野区歴史民俗資料館の界隈はいい風情があるなと思った。
今なら江古田といえば、「少女ファイト」の舞台か。
戦後には「哲学堂夕月」もある。松の枝越しの月が綺麗だった。

敗戦の年の東京懐古図会から二枚。赤坂離宮、数寄屋橋。前者はうっすらと、後者はくっきりと表現されていた。

再び旅先の作品が現れる。
小泉八雲旧居、甲州猿橋、国府台の月、日光二荒山逆光、般若寺の塔 奈良・・・
このうち猿橋は橋脚下から見上げる構図で、細密描写なのが面白かった。
大胆な線で構成された作品が多い中、これだけが多少趣が違う。
また「伝法院林泉 浅草」は実物のそれよりずっとよさそうである。

平塚は娘の住まうアメリカに移住し、人気を得たそうだ。
その後日本に帰り、102才で天寿を全うしている。
アメリカを描いたものは、ロスの昼月、ジョージタウンの老樹、議会図書館ワシントンDCなどである。

平塚は面倒見の良い人で、料治熊太ともども棟方志功や畦地梅太郎らを育てた。
料治はまた自邸を版画家たちのために開いてサロンを成していたそうだ。
彼らのつきあいの温かさが心地よかった。
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他に今も活躍中の岩崎浩三さんの作品があったが、それらは全て地元に取材したものだった。どこか懐かしいような佇まいを見せていて、ほほえましい気持ちになる。
やっぱり木版画はいいものだ。

最後に吉田博の「神楽坂通り雨後の夜」が出ていた。これは随分前に絵葉書を手に入れたが、現物を見るのは初めてだった。
なんとも艶かしい色合いだった。吉田博の作品はどれを見ても本当に好きだ。

続いて、「渋谷ユートピア」の代々木グループの感想へ移る。


郊外を刻む 版画家たちの代々木グループ

須坂にある平塚運一版画美術館と町田の国際版画美術館と千葉市美術館などから作品が出ている。

平塚の1925~27年に亙る「代々木風景」「幡ヶ谷風景」がある。
90年近い前の代々木、幡ヶ谷がそこにある。
そこにあると言うても、リアルな風景ではない。
平塚独特の太い彫り線で守られた建物や木や空気があるばかりだ。
実景と遠く隔たっている画面だが、確かな強さが画面に活き、それが風景を息づかせている。

同時代の前田政雄の「代々木風景」と共に眺めると、風景が少しずつ広がる。
また、それより少し前の石井鶴三連作の一「東京近郊の部 代々幡 日本風景版画第9集」が、更に補完してくれる。
他にも深沢索一の「代々木風景」があった。

十年ほど後の畦地梅太郎の風景が広がり始める。
昭和13年の「エビス」二枚。ああ、恵比寿とは大きな地なのだな。
なんだか飲めもしないのに、ビールが飲みたくなってきた。

前川千帆 渋谷百軒店 新東京風景 連作の一。他の場はどこで見たか。「昭和館」で見たかもしれない。前川の線はとても可愛い。そして配色も愛らしいので、木製のおもちゃとして3D化してもいいかもしれないと思う。

今度は明治神宮が集まっている。
織田一磨 明治神宮参道 『画集新宿風景』から。明治神宮はやはり厳粛な面持ちがあった。織田の版画は独特な哀歓があると思う。彼の作品群では、宵から明け方までのものがとてもいい。

稲垣知雄 明治神宮鎮座十年祭紀年版画葉書ポスター いかにも名所絵葉書で可愛い。

恩地孝四郎 明治神宮 新東京百景 昭和四年の明治神宮の風景。わたしのような者でも、あの地へ向かうとき、なにやら心を静めて歩くのだ。
そのときの心持を思い出した。

最後に吉田博の軸仕立ての作品があった。
明治神宮の神苑 カラフルで吉田らしい緻密さと情緒のある作品だった。
 
こうして渋谷、新宿と往時の版画家たちの足跡を追った展示を楽しませてもらった。
「渋谷ユートピア」は1/29まで。
「平塚運一と落合の版画家たち」は2/5まで。
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