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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

日本赤十字社所蔵アート展

損保ジャパン美術館で開催中の「日本赤十字社所蔵アート展」は「東日本大震災チャリティー企画」として立てられた。
こうした企画をここで開催する、というのは意義深いことに思える。
副題には「東郷青児、梅原龍三郎からピカソまで 復興の想いをひとつにして」とある。
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最初に「赤十字の誕生とその理念」として、創立者アンリ・デュナンの肖像や彼が戦場で見たものなどをモティーフにした作品などが現れる。

まずこの美術館とゆかりの深い青児の「ナース像」があった。
グレーで統一された、清楚でどこか幻想的な白い顔。
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アンリ・デュナンの伝記というのはあまり知らなくて、ここで解説を受ける。
まことに立派な方で、人類愛にあふれている、と今更ながらに頭を下げる。

増田誠の「デュナン肖像」ははるかな目をした老人・デュナンを描いている。
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さてわが日本での赤十字誕生の解説もここにあり、実物の絵だけでなくパネル展示もあった。実物が見れないのは残念ではあるが、日赤の使命とかそういうことを思うと、見れないからと怒ったりしてはいかんのだ、と自分の中の白い羽根のある奴が囁く。(黒い尻尾の奴はちょっと待機中)

西南の役、関東大震災、博愛社などに関連した作品を見る。
ロシア革命から逃げてきたポーランド人の孤児たちを日本に招待し、日本家庭にホームステイなどの接待と慰撫をしてから、本国へ送る。そんな歴史があったことも、絵で知る。
他にも「赤十字デー」など啓蒙ポスターがある。
面白いのは啓蒙活動に幻燈が使われたり、雑誌の付録が一役買ってた事実。
赤十字双六はなかなか面白かった。

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次には、日赤創立100周年寄贈美術品の展示がある。
「日赤百周年」に作品を寄贈してほしい、と言われた作家たちはそのことを栄誉として受け止めている。
百周年と関わりなくとも、寄贈することに誇りを感じもするだろう。

麻田辨自 鴛鴦 横長の画面で見ることの多い鴛鴦たちだが、麻田は縦長画面に、しかも黒に近い紫を背景に多く使って、そこに鴛鴦たちを遊ばせている。
斜め上からの視線。鴛鴦が黒い水の上で立体化する。鴛鴦たちの肉の実感が押し寄せてくる。固太りした鳥たちの重みが、ここにある。
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東山魁夷 晴れゆく朝霧 実際にこんな情景を見ることがないのに、魁夷の描く朝霧の湿度が感じられるように思う。
息を大きく吸えば、肺にも山の朝の湿気が入ってくるだろう。
そしてこの絵を見ていると、宮沢賢治「春と修羅」の「黒々とエーテルを吸へば」という一節が思い出されてくる。

常盤大空 長安の女 初めて知る画家。二枚組。唐代美人がいる。しかしバタ臭い顔立ちではある。我々のイメージする唐美人とは趣を異にする。しかし風俗は唐代のものばかり。
月琴、笛、騎乗する、大きなタンポポ、スミレなどが咲く、春の長安。

伊藤三喜庵 文楽の女 こちらも知らぬ画家。文楽人形を立たせ、その姿を横から描く。
油彩による文楽人形の表現は、どこかナマナマしさがある。日本画のそれと違い、油彩の文楽人形には不思議な違和感があるからか、それが却って生命力になっているような気がする。

三輪晁勢 葉かげ 色の洪水。そこが熱帯の森の中だと知るまでに、少しの時間がほしい。
カンムリトリがいる。本当の名は知らない。他にもナニカガイル。枠で切り取られた森。絵はその枠から先にも空間を拡げているに違いなかった。

石踊達哉 秋涼 重森三玲の作庭を思わせるような市松文様の地は、薄い金色と薄い鶸色に塗り分けられている。そこに満月から欠け始めた月と、秋草の豊かな様子が描かれている。濃い紫の桔梗と白い萩が共に可憐だった。
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鬼頭鍋三郎 信濃の森(森林杏花) ベタ塗りの森。鬼頭といえばバレリーナの絵ばかりが思い浮かぶが、こうした風景画もわるくない。岡田三郎助・辻永に師事していた、ということを知った。

鈴木信太郎 椅子に乗る人形 鈴木らしい明るい画面で、西洋人形四体が可愛い。

荻須高徳 僧院の回廊 ゴシック建築の回廊で、どこか東京大学を思い出させる空間でもある。

杉本健吉 牡丹 花が大きく見開いている。まるで眼のように。

小磯良平 集い セピア色の空間に清楚な人々がいる。演奏はまだ始まらないが、弦楽器の験し弾きの音はある。着ている衣装の質感が伝わってくる。不思議なごわつきと柔らかさという矛盾もまた掌にやさしい。真ん中に立つ女の左右で背景の色が異なることで、空間の奥行きが限定される。ここがどこかの一室だということを、はっきりとわからせてくれる。

よい話があった。
解説を読んで絵を見て、また解説を読んだ。
とてもよい話だった。

日赤百周年のために新作を拵えようとした梅原だが、体調の悪化と気持ちの沈みで描けなくなった。そこでついに意を決して、ピカソの絵を寄贈することにした。
若き日に友人ピカソと、自作を交換したのである。
その絵はこれまで全く世に知られていないものだった。
一方、その梅原の寄贈を知った日赤の重役は、自宅にある梅原の「パリスの審判」を社に寄贈することを申し出た。

本当によい話だったと思う。

最後に永瀬義郎の版画作品を見ることができたことを書く。
永瀬の作品は見たいと思いながらも、その機会がなかった。
昔、ある小説をよんだが、その表紙は永瀬の作品だった。
わたしはそれにときめいて、永瀬を追ったのだが、世田谷にあったらしき永瀬記念室は、わたしが東京へ行きだす頃には失われていた。
そしてその小説のタイトルも作者も忘れてしまった。

今回、永瀬のファンタジックで愛らしい作品を見ることができて、本当に嬉しかった。
版画集「浪漫」から。zen167-3.jpg


展覧会は2/19まで。
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コメント
永瀬義郎
こんにちは。はじめてコメントします。いつも楽しく拝見しています。今回のブログを拝見して私も損保ジャパンの展覧会にいってきました。とてもすばらしい絵がたくさんあったのにあまり人が入っていなくてもったいなと思いました。ところで永瀬義郎さんの版画すてきですね。初めて聞く名前だったのでインターネットで調べたら池袋駅から西武線石神井公園駅下車して近くに資料館とギャラリーがあるそうです。今度行ってみようと思っています。
2012/02/05(日) 20:00 | URL | 西川眞知子 #-[ 編集]
はじめまして
☆西川眞知子さん こんばんは

ありがとうございます。
この損保の展覧会、本当にいい作品が集まってるのに、宣伝不足なのか寒さゆえか、空いてて残念ですね。
まぁ見たわたしたちは独占状態で堪能できましたが・・・

> ところで永瀬義郎さんの版画すてきですね。初めて聞く名前だったのでインターネットで調べたら池袋駅から西武線石神井公園駅下車して近くに資料館とギャラリーがあるそうです。今度行ってみようと思っています。

え゛っ!まだあったのですか!(永瀬に失礼な!)
わー、てっきりなくなったものだとばかり・・・!何しろわたしの見た資料自体が古かったので「あーあ」と思ってたんですよ!
ぜひぜひお出かけください!わたしは今月は行けそうにないですが、次回あたり出かけます、ご覧になられたらまた感想をぜひ!
いいことを教えてくださりありがとうございました!
2012/02/06(月) 00:02 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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