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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「パリへ渡った『石橋コレクション』1962年、春」を見ながら

ブリヂストン美術館の「パリへ渡った『石橋コレクション』1962年、春」は素敵な展覧会だった。
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もう半世紀前になる1962年の春に、当時のパリ国立近代美術館副館長ベルナール・ドリヴァルの発案により、実現したパリでの石橋コレクション展。
石橋正二郎はそのことを「望外の喜び」と語ったそうだが、実際この素晴らしいコレクションがフランスへ凱旋公演するのは、誉れだったろう。
当時の文化相はアンドレ・マルローだった。
彼の勧めで石橋コレクションも、当時の最新技術の修復を受けたりしたそうだ。
まことに良い話ばかりを聞く。

それから五十年後の今日、東京・京橋のブリヂストン美術館でそのときの陣容を眺める。
これはまことに嬉しいことだ。
半世紀前の人々の喜びを追体験できる、という二次的な楽しみまで味わえるのだから。
いつもどおり機嫌よく眺めて歩いたが、やはり石橋コレクションは素晴らしかった。
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当時の様子を捉えた映像を見る。
レトロな語りの入ったモノクロに近い映像だが、それが却って興味深くもある。
ジュラルミンボックスに梱包される作品群が海を渡る。五次もの旅立ち。
なんとなく遣唐使を思う。

映像の中で、コローの「イタリアの女」が映されていたが、赤色がよく出ていたと思う。
あまり色彩を感じさせない映像だからこそ、印象的なのだ。
石橋コレクションは羽田~オルリー空港を行き来したそうだ。
わたしもパリへ行ったときドゴール空港ではなくオルリーだった。そんなことすらも嬉しく思う。

1962年のパリ、と言えばわたしはすぐにその翌年を舞台にした「ジャッカルの日」を想う。
むろんそれはフォーサイスの原作を映像化したジンネマン監督の映像作品の方である。
濃密な夏、緊迫する時間の流れ。

その数ヶ月前のパリの様子を、わたしは映像と小説から思い起こしている。
ドゴール大統領による第五共和政の中でのアルジェ戦終結、それに反対しドゴール暗殺を目論むOAS。
しかし世論は平穏であることを望んでいる・・・
1962年、春。
パリの人々は日本から来る石橋コレクションを心待ちにしていたに違いない。

展覧会は「東京石橋コレクション所蔵─コローからブラックに至るフランス絵画展」と題されていたそうだが、それを踏まえながら眺めると、いつもとはまた違う感慨がある。
尤も例によってわたしは自分だけの感慨に耽っているのだが。

実際の作品だけでなく、パネル展示もある。どうしてそうなったかは知らない。
しかし再現を目指すための資料としてそこにあるのは、いいことだと思う。
当時のパリでの報道の様子を新聞などで見る。
フランス語は読めないが、好意的な書かれ方をしていることは感じる。

コロー ヴィル・ダブレー この絵を見ると、というよりも「ヴィル・ダブレー」の地名を見たりその地を描いたものを見ると必ず、1962年のフランス映画「シベールの日曜日」を想う。
わたしにとって「ヴィル・ダブレー」とは「シベールの日曜日」の地でしかない。
1835年から40年に掛けての間に描かれたこの絵を前にして、わたしはこの森のどこかに少女シベールが隠れているような気がするのだ。

モネ アルジャントゥイユの洪水 このときのアルジャントゥイユは枯れた色に覆われている。空は多少青さを見せるが雲が日を遮ろうとしている。
なぜ洪水が起こったかは知らない。治水が良くないのか、それも慢性的なものなのか、突発性のものなのかも知らない。

シスレー 森へ行く女たち 森は遠くではない。片側は建物の並びがあり、もう片側には細い並木がある。女たちとあるが、彼女たちは特定されない人々として描かれている。
森へは何をしに行くのだろう。そんなことを思いながら彼女らの行く先を眼で追う。
シスレーはその続きを教えてくれなかった。

ルノワール 座る水浴の女 豊かな肉体はいつものことだが、今日はその前に立ったとき、少しばかり照れてしまった。もう少し右側へ立ったら、見えてしまうものがある。
そんなことを思いながら左側からこの裸婦を眺めた。

セザンヌ サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール ブリヂストン美術館のスターの一枚。先日、同時代の多くの画家がジャポニスムに眼を向けたのとは対照的に、セザンヌ一人がそれに関心を持たなかったと言うのを読んだ。
そのことが結局日本人に多くの「セザニスト」を生み出す要因になったとしたら、ひどく面白いことだと思った。
青い山は確かに日本にはないものだった。

ボナール ヴェルノン付近の風景 明るい色彩が配されている。枠は窓かもしれない。
そこからの眺めだと思えば、自分もここに描かれた庭へ出たいと思う。
ボナールの絵にはそうした魅力がある。
中に行きたくなるような温かみが。

ゴーギャン(帰属) 若い女の顔 これは初見。帰属と言うことは、確実にゴーギャンかどうかは判らないと言うことになる。解説を読む。解けない謎のある絵。
ゴーギャンにしては随分と綺麗な若い女だった。
睫毛が長い。女の服や背後の人形?などの色はくすんでいる。
若い女を描いていても華やかさは薄い。
しかしそれが却ってゴーギャンの作品らしくも思えた。

ピカソ 女の顔 チラシに選ばれている。この絵を見るたびいつも「三次元で見てみたい」と思う。
多分それは女の白い肌が、切り出された大理石の彫像に見えるからだろう。
解説を読む。一つ知ったことがある。
この女の顔は、砂を混ぜて塗ったそうだ。それでいよいよ立体感があるのか。納得した。


パネル展示されていた作品の内、実物を見てみたいと深く思ったものがある。
ルノワール 赤いコルサージュの少女 元の持ち主は酒井億尋という人で、彼はこの絵に毎日挨拶していたそうだ。
そのキモチはとてもよくわかる。
横顔の女はふくよかで、暖かな色に囲まれていて、眺めるだけでほんのりと幸せな心持になる。

パネル展示ではほかにこんな作品があった。

クールベ 海 今では所在不明らしい。この絵の模写は見かけるが、本歌はどこへ消えたのだろう。
パネルなので当然額縁もない。パネルとはいえ迫力のある絵が枠なしで壁に掛けられていると、なんとなく気持ちが悪い。

セザンヌ リンネルの上の果物 パネルでこれだけ胸に響くのだから、実物はどんなによいだろう。しかし実物でなくてもパネルで見れたことが嬉しくもある。


パリの人々が石橋コレクションを喜び、そして日本からそれを送り出した人々も喜び、今また半世紀後の人々も喜んで、いいこと尽くしの展覧会だった。
日を置いてまた訪ねようと思う。
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コメント
No title
こんばんは。
Takさんのところでも思わずコメントを書き込んだ石橋コレクション。
ああ、見てみたかったなあ。

ところで遊行さんのブログを読んで、おおお、と思いました。
そうか、62年は「ジャッカルの日」の舞台が翌年なんだあ。
驚くっていうのとも違う、まさに「おおお!」でした。
ちょいと横道にそれますが、「ジャッカルの日」あの緊迫感に
ドキドキしながら見た映画(テレビでですけどね)
それに比べ、後年ブルース・ウィリス主演の同名映画のリメイクは
悪い冗談みたいでしたわ~。

「シベールの日曜日」も懐かしい。

ああ、なんか楽しいお話ありがとうございまする。
2012/01/30(月) 06:31 | URL | OZ #-[ 編集]
62年はアラビアのロレンスの年でもあります~
☆OZさん こんにちは

> ちょいと横道にそれますが、「ジャッカルの日」あの緊迫感にドキドキしながら見た映画(テレビでですけどね)

いや、まさにそう。だってわたしたちはリアルタイムのロードショーはムリでしょう。
だからTVで見たときは本当に嬉しかったです。
かっこよかったし、シビレたわ~~!
犯人探しのより、こういうのの方がわたしは好きなので、本当にドキドキしました。
ジャッカルを演じたエドワードJフォックスがいかにも若手のイギリス紳士なのが更によかった~

> それに比べ、後年ブルース・ウィリス主演の同名映画のリメイクは悪い冗談みたいでしたわ~。

あれはもうわたしの中では消去。映画を何と心得とるかっ!という感じです。
ハリウッドもアカンな~と思ったのはあの頃からですわ。

> 「シベールの日曜日」も懐かしい。

わたしは三越でリバイバルを見て感動して、本当に心が苦しくなるくらい好きでしたよ~
今でもクリスマスになると「シベールの日曜日」を思うくらい。
本当に好きな映画。
また映画のお話しましょう。
2012/01/30(月) 12:43 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
映画
おはようございます。
遊行さんも映画お好きなんですね、なんだか嬉しいわ。

(トピ違いですが)お言葉に甘えて少しだけ。
後年「ジャッカルの日」と同じくらいのドキドキ感を得たのは
「オデッサ・ファイル」です。原作もいいけど、映画も良くできてました。
久々にそのドキドキを思い出したのは「インタープリター」です。
2012/02/01(水) 18:32 | URL | OZ #-[ 編集]
大好きですよ~
☆0Zさん こんばんは

わたしは大体ポリティカルサスペンスが好きなんですよ。
『オデッサ・ファイル』もドキドキしましたねー。
『ブラジルから来た少年』というのもその意味では怖かった・・・
これは劇場未公開で、ラジオで音楽だけ録音したんです。
そこからVTRでゾワゾワ・・・
やっぱりナチスものは非常に面白いですね。

> 久々にそのドキドキを思い出したのは「インタープリター」です。

あ、これは見てません。しかしちょっと調べると非常にそそられますね。
とりあえず「Jエドガー」は見に行く予定です。
今、30年前の邦画ですが「戒厳令の夜」が見たいです。
政治や思想などが絡む作品は何故あんなにも面白いんでしょうね。
2012/02/01(水) 22:01 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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