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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

安野光雅が描く洛中洛外

京都の高島屋で「安野光雅が描く洛中洛外」展を見た。
副題なのか、安野さんの言葉がそこに書かれてもいる。
「京都をたずね、文化の姿をうつしたい」
やさしい言葉が心を誘う。
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最初に安野さんの描く洛中洛外が現れた。
屏風のような連続性のあるものではなく、丁寧な写生に基づいた一枚ずつの水彩画である。
一枚に一ヶ所を描く風景画であり、お祭りや人の姿を描く風俗画でもある。
心象風景を描いたものもあった。
現在の風景ではなく、過去のそれを思わせるものもある。
この連作は現在も産経新聞で連載中らしい。
殆どの絵には安野さん自身の言葉が添えられてもいる。

嵯峨野 茫漠とした風景だと思った。
嵯峨のはあまりに騒がしくなったため、長く足を向けていない。だからわたしは嵯峨野の実景は知らないも同然だが、ここに描かれている嵯峨野は全く見たことのない地だった。
数百年昔の嵯峨野はこんな風景だったのではないだろうか。
安野さんは写生をする人だが、実景のその奥を視ていたのではないだろうか・・・・・
そんなことを思いながら見た。
安野さんの言葉を読む。どうやら祇王のことを念頭においていたらしい。
仏も昔は凡夫なり 我らもいずれは仏なり いずれも仏性具せる身を 隔つることのみ悲しけり
「平家物語」巻の一か二あたりの「祇王・祇女、仏御前」の哀れ深い物語を安野さんは想っていたのだった。

鞍馬 遠目からでもタッチが違うのがわかる。鉄斎のようだと思ったら、やはり鉄斎に倣った絵で、安野さんの技巧とユーモアに、絵の前でにやりとなった。
絵には弁慶までいるが、鞍馬と弁慶は無縁である。
「鉄斎のにせもの」と安野さんは書かれている。ふふふ、巧い表現を使う。
安野さんはここで明治の画家ふたりの擁護をする。
鉄斎も洋画家で書家の不折もなんでもかんでも以来があれば書いたが、その時代は画家一本で食えることはなかった。だからなんでも書いたのだ、と。
・・・・・・・わたしは不折の「新宿中村屋」「神州一味噌」のロゴも、京都の街中によく見かける鉄斎の手による商家の扁額・看板文字も、楽しく眺めている。
ますますファンになった気がする。

終い弘法 喧騒が描かれている。安野さんは自ら「喧騒好きだ」と述べる。
その気持ちはよくわかる。安野さんの群集図が楽しいのは、ご本人がそれを好きだからこその力なのだ。
安野さんの思い出話がいい。
司馬遼太郎は京都で人と待ち合わせるとき、東寺の御影堂前が習いだった。彼の著作「空海の風景」からの暗示ではないか、というのが安野さんの推理。
わたしはそこで待ち合わせたことはないし、考えてもいなかった。
今度してみようか。
安野さんの推理、司馬さんの様子を思うだけで楽しい。

二年坂 喧騒好きな安野さんならではの、活気ある風景。たまにこの界隈を行くと、実際「あるある、見る見る」と思う風景。観光地と言うことを清水界隈は実感させてくれる。

清水 舞台と桜がなければ、清水ではない。言い切ったが、あながち間違えてもいない。
少なくとも安野さんもそれを強く思われているだろう。
白い桜が綺麗だった。

八坂の塔 スナックや土産物屋などがある。電柱はケーブルが地下埋設化されたので見当たらない。この眺めは安野さんもお好きなのか、他に本の装丁でも見ている。
これとは無関係な話だが、わたしは電柱が好きなのと、保安のことを考えてしまうので、見栄え重視のためとはいえ、あんまり地下埋設するのはよくないと思う。

祇園祭 にぎやかで楽しい。わたしは宵々山あたりが好きなので、本番の日は行ったことがない。安野さんの絵は一人一人を丁寧に描き分けている。そうか、と思った。

比叡山根本中堂 荘厳。「神輿振り」について安野さんが楽しそうに書いている。
安野さんは「繪本 平家物語」を上梓している人である。「平家物語」を愛していなくてはあのすぐれた作品は世に出なかったろう。
その安野さんが大映映画「新平家物語」の「神輿振り」の逸話と市川雷蔵演ずる若き平清盛の清々しい力強さ、かっこよさについてときめくような文章を起こしていた。
わたしもその文を読んで、雷蔵の清盛の堂々たる立ち姿を瞼に思い浮かべている。

銀閣遠望 この構図にはびっくりした。左手に銀閣、右手に銀沙灘と通路。それらを斜め上あたりから望む。ああ、航空写真でも見ない構図。この眺望は考えもしなかった。
何か全く別な建物を見た気がした。

哲学の道 新緑のめざましさ!こちらの眼が見開かれてゆくのを感じる。

大原 緑と薄墨との併用で、いよいよ緑が深くなる。その技法については以前TVで安野さんが説明されていた。
この辺りを安野さんは愛されたか、他にも「三千院付近」同じ題の「大原」などを描いている。いずれも緑が深い。

空也立像 どー見ても「口からメザシ」の空也像をリアルに描いている。セピア色の空也。

平等院鳳凰堂 久しぶりに行きたくなってきた。なにやらソソラレる。
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ここからは奈良の風景画が現れた。
「日本のふるさと奈良」「明日香村」「日本の原風景」などの原画である。

二上山の落陽 真っ赤な夕日。これは確かに日没の太陽、彼岸の頃の夕日。

安野さんの言葉を読む。
「二上山の落陽は二時間後には釜山の落陽になり、更には隋・唐の落陽になる。」
ふとわたしは「死者の書」の藤原南家郎女を想った。
あらとうと なもあみだほとけ
彼岸が近づくにつれ、わたしは「死者の書」の郎女を想わずにはいられなくなるのだった。

安野さんは道で偶った朝鮮人のおばあさんからこんな言葉を聞く。
一人 ダマリの道 ナガイ
二人 話しの道 ミジカイ
安野さんはこの言葉を忘れない、老婆を忘れられない、そしてその心情を想う。

阿騎野 かぎろひ。粟原。奈良坂から大仏殿。甘樫丘から飛鳥。浄瑠璃寺への道から。
この辺りの絵はどこか春めいたのんびりした心持にさせてくれる。畑や山が動かずそこにあるからか。

二月堂 薄い色の土壁がなんとも言えず魅力的。「奈良らしい趣がある」確かに確かに。
わたしも修二会のとき、この崩れかけた土壁を眺めながら登ってゆくと、どうにもならないほどのときめきに揺れている。

吉野山 花矢倉の桜 これは義経の家臣・佐藤忠信由来の地名。そのイワレは義経を守るために一人で矢を射続けたから・・・。水彩の重なりの美しさが眼に残る。

聖林寺の十一面観音立像 スッキリした立ち姿。

竹内街道 親子が歩く後姿を遠望。
安野さんはこの街道から司馬さんへの追慕を書く。
わたしも「街道をゆく」での司馬さんの、この道への愛着を記した話を想う。

岡寺から飛鳥の里 絵を見ながらさまざまな歴史の流れを想う。
そしてその岡寺にある仏像を安野さんは描く。それも本尊は大きすぎて描けないので、銅造菩薩半跏像を選ぶ。

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葛と赤とんぼ。正暦寺への道。円成寺の大日如来。

法隆寺の百済観音 胸元までを描く。スッキリした立ち姿。王后のような美しさ。

大極殿 それだけが白い空間にぽんとある。何かしら不思議な空間になっている。
屋根や柱の色鮮やかさ。何もない空間に存在感のある建物。

五条新町 木柱や木格子の町並み。なんとなく温かい。

高家(タイエ)から甘樫丘。下八釣から。飛鳥から。
自分の知る地であっても安野さんの絵になれば、それだけで詩情豊かな空間になるのを感じる。
また温厚な安野さんが廃仏毀釈について書かれているのを読んで、深く同意したりする。

万葉文化館から。御厨子観音から。膳手町から磐余池の辺り。
大和平野遠望 錆色の夕日がすごい。

大原 今は小原と書いてオオハラと読む。藤原夫人(五百重)の住まいした地

日本の原風景
各地の風景画がある。

青い根子岳は雄大だった。

佐原の水郷にレンガの建物が見える。辰野式らしきもの。この図自体は建物は寄せ集めだが、中心点の奥にあるこの建物は実在。三菱銀行佐原支店旧本館。これはぜひとも見学しなくてはいかん。登録文化財。

室津漁港 室津といえば「乱菊」に「元禄港歌」なのだが、これは現在の漁港風景で構図が面白い。左から展開する構図。これは安野さんの意図的なもの。制約が楽しい。

三島は青に胡粉きらきら、祖谷はオレンジ色の多い山々、松江の矢田の渡し、小豆島、遠野のデンデラ野、足利の旧筑波村・・・

これらを見ていると、日本の原風景とは、奥に山々があり、手前に田畑があり、中に民家がある風景をいうのだとわかる。
日本人の原風景とは多くは山里なのか。

他に風景といえば、唱歌・童謡を描いた「繪本 歌の旅」「野の花と小人」などが面白い。

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「旅の絵本Ⅶ」の原画を見る。
2009年に出た中国の風景。「清明上河図」への憧れから描かれた、安野版清明上河図である。
最初に大きな都市風景の鳥瞰図があり、次々とその1シーン1シーンの拡大図が現れる。
祭りでは大蛇と虎の可愛い作り物が出て、京劇を楽しむ人々もいる。猿回しもいる。
いちばん凄いのは、兵馬俑の発掘シーン。掘り出されたものが並ぶのも凄いが、地中から出るわ出るわ・・・こわいよ~~という感じもある。
そして看板に「清明上河図 模写」とある。
後で本を開きあとがきを読むと、2009年の安野さんはなんとか「清明上河図」が見たいと書かれている。
先般の東博の展覧会で、安野さんはご覧になられたろうか・・・・・。

初公開の「絵のある自伝」が楽しい。
少年倶楽部の人気キャラたちの模写がいい。
タンクタンクロー、のらくろ、タコの八ちゃん、象に乗る冒険ダン吉。
そういえば日経に安野さんは少年倶楽部への追慕を書かれていた。

最後に司馬さんと「街道をゆく」安野さんは、司馬さんの形見分けにと、司馬さんの靴を貰ったそうだ。その靴は安野さんの足にもぴったりフィットして、安野さんの旅のお供になっている。東大阪製の靴、と安野さんは描いている。履き心地抜群の靴。

本当にいい展覧会だった。
安野さんは病気にも勝たれたが、これからもお元気で旅を続け、絵を描き続けていってほしい、と強く想う。

展覧会は3/19まで。
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コメント
No title
安野光雅さん、ご多分にもれず大好きです。
この展覧会はいいですねえ。
4月に帰国するかもしれないのですが、このあと関東へ
まわるなんてことは・・・ないですよね・・・
2012/03/11(日) 20:38 | URL | OZ #-[ 編集]
デパート展のナゾ
☆OZ同志こんにちは

ううむ、そのあたりの情報って案外わかりにくいんですよね。
そういえば安野さんは武蔵小金井の方にお住まいのようで、駅前の店の描写が詳しいのなんの・・・
わたしのオバも武蔵小金井なんですけど、降りるたびに安野さんの姿をついつい探してしまいます・・・
2012/03/12(月) 12:43 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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