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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

桜・さくら・SAKURA 2012

山種美術館の「桜・さくら・SAKURA 2012」を、東京の桜が満開になった日に見た。
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行く先行く先、どこも桜が開いている。
八重洲一丁目に始まり、ホテルに荷を置いてから向った恵比寿駅の界隈でも、ソメイヨシノや枝垂桜が道を飾っていた。
桜の時期に桜柄の着物を着るのは間のわるいことだと看做されている。
しかし桜の時期に桜を描いた絵を見るのは、いよいよ心楽しくなる。
桜への偏愛。
建物の内外で大いに桜を愉しんだ。

最初に土牛の「醍醐」の桜が現れた。
非常に美しい桜である。幹の胸そり具合の堂々たるところへ薄紅の枝垂。
花の一つ一つの形まで描かれながらも、決して個として主張をしない花。
特定の桜を描いた絵では、日本随一のように思う。
春になり、この絵を思い浮かべては「今年こそ醍醐寺に花見に行こう」と思う。
しかし、この絵を目の当たりにすると、もう醍醐へ行こうという気が薄れている。
絵の美しさに満足して終わってしまうのだった。

石田武が2000年に描いた「月宵」「春宵」はどちらも金色の朧月に満開の枝垂桜という、豪奢な取り合わせだった。月の配置が異なるくらいで、どちらもとても似ている。
二つながらに美麗な作品。

この絵を見ると、今度は又造さんの「夜桜」がみたくなる。'86年の名品。この絵に逢うと、又造さんの描いた究極の美人とはこの絵ではないか、と思いもする。
黒の裸婦、白の裸婦、さらに少女たちの美しい姿態も見てはいるが、彼女らに弥増して、この夜桜は美しい。

艶かしいものを続けて見た後に、静謐な山と桜の絵を見る。
魁夷「春静」である。これは杉山と桜の形の対比も面白い。
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つまりタテタテタテに伸びる杉と、ヨコヨコヨコに広がる桜の違いが、色の濃淡を超えて、印象的なのだった。ちなみにわたしの部屋の今月のカレンダーはこの絵なのだった。

御舟の昭和四年の桜の素描を見る。まだ「元気」だった頃の絵。
山崎妙子館長の記された御舟の研究書を思いながら眺めると、味わいがまた深くなってくる・・・・・

土牛の「吉野」は上千本と緑の山とを同時に味わえる空間だった。
吉野の空気がこちらに届いてくるような、そんな作品。

遠目にもはっきりした仏の輪郭があるのは古径の「弥勒」。これは奈良の大野寺の磨崖佛なのだ。今ではもうこんなにもハッキリした線などはないらしいが、紛れもなくこの絵の中では佛はこうして活きておらるるのだった。
巨大な佛像の真下に桜があり、そこを行過ぎる杣人がいる。
長閑な春の昼。いつかわたしもここへ行きたい。

古径では他に「清姫」の最後の一枚「入相桜」が出ていた。全ての登場人物が消えた後の静寂の中、満開の桜がゆっくりと散ってゆく・・・
そして御舟もまた「道成寺入相桜」を写生している。
彼らが道成寺の縁起を思っていた頃、歌舞伎では六代目菊五郎が舞っていただろう。

山元春挙の「裾野の春」は富士山の裾野の桜だった。ロッキー山脈など雄大な風景を描いた春挙らしい、大きな心持になる絵。巨大な自然は動かない。四季折々に表情を変えて見せるが、動くことはない。しかしその裾野には人里がある。人里は栄えもすれば朽ちもする。ヒトと自然とをどちらも一つの画面でみせる、春挙らしい大きな絵。

再び石田武の絵が現れる。2005年の「千鳥が淵」。その頃にはまだ山種美術館は千鳥が淵の桜を臨んでいた。
この画家は2年前に物故されている。
桜の絵ばかりを愛でたが、いつかこの画家の秋の絵を見たいと思う。

皇居を彩った絵の再現というのか、その奉納された絵を基にした作品がここにある。
橋本明治の「朝陽桜」は久しぶりに間近で見たが、いつ見ても本当にいい。
胡粉の盛り上がり、明治らしいくっきりした線、明快な形容。
わけもなくこの絵の前で「うむ」と頷いている。

そこから振り向くと、長大な屏風絵を飾れるコーナーが見えるのだが、そこが元宋の「奥入瀬」に<なっていた>。
元宋と言えば赤をメインにした風景画がまず思い浮かぶが、ここでは新緑の奥入瀬が広がっていた。なんという清々しさだろうか。全くの新緑シーズンではなく、桜の時期の緑。靄と水と風とがそこにある。自分の肺にまでその空気が入り込んでくる。
葉緑素が活きる、そんな大作だった。

旧い絵を見る。静かな優しさのある絵を。
森寛斎の明治初の京洛四季を見る。おっとりした優しい絵。しかしこの頃は奠都があって、京洛が廃都になりかけていた時代なのだ。

狩野常信の「明皇花陣図」は長くほどかれていた。楊貴妃と玄宗皇帝のたわいない享楽に仕える侍女たち。楽しそうに花軍をしているが、「春風駘蕩」という趣はない。

映丘「春光春衣」の王朝美人の優美、雅邦の「児島高徳」の気概、森田曠平の「百萬」の狂気、みな全て愛しくなる。
契月の「桜狩」は山種でみるのは久しぶりだった。数年前に京都のえき美術館で「富士と桜」展でチラシに選ばれていたことを思い出す。気品ある少年と馬の立姿。
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加藤登美子という作家を初めて知った。「桜の森の満開の下」の女を描いている。風俗は江戸時代のように見える。胸をはだけて、どこを見ているとも知れぬ女。シカン文明の仮面を思わせる目をしている。小説からのイメージだというが、各人のイメージのありようの違いが面白くもある。わたしはむしろ近松の女のように思えた。
この女は己の狂気で他者(=山賊)を巻き込む女ではなく、自分の内側を蝕んでゆくように見えた。

小茂田青樹の「春庭」はまたひどく好きな絵である。絵として好きというより「この空間に立ちたい」と思う、そんな好きさである。
散歩して、ふとそこに佇む。そんなことを思う。
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玉堂ののどかな風景を五枚ばかり見た。タイトルはいずれも四文字で構成されている。
湖村春晴、渡頭の春、春風春水、渡所晩晴、古城新月。
そのうちの「春風春水」はワイヤーと滑車を使って渡し舟を行き来させる様子を捉えている。そのシステムは明治三十年ごろに考案されたもので、かつては全国の渡し場で活用されていたようだ。わたしもどこかで見た記憶がある。
玉堂は晩年には香淳皇后の御歌の師であったそうだが、彼の絵にはそうした詩情が確かに息づいている。

大観にものどかな絵がある。わたしなどは大観の作品ではインド美人を描いたものや、物語の人々を描いたもの、四季折々の風景の小品が好ましい。
日本第一、というようなものはニガテである。
だからここにある「春の水」はのほほんとして、筏がのんびり行過ぎてゆくのが、なんとなく楽しく思えるのだった。

作家本人の気概とは別方向なものを好む、と言うことがままある。
印象の作品は特に初期から戦前のものが好ましいし、戦後の抽象になると何がなんだかさっぱりわからず、「また元に戻りなはれ」と声をかけそうになる。
ここにある「桜」は戦前のもので、大正期のややデカダンな味わいも消えて、和やかな世界が広がっている。まだ真昼のことで、桜を照らす篝火もついてはいない。わんこがぽつんと番をするようにそこにいる。
ほっとするような風景がある。

稗田一穂の幻想的な世界観は何に基づいているのだろうか。
「朧春」を最初に見たのは絵葉書だった。'90年代のある日。
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満月が水に沈んでいる。花は月を掬うように枝を伸ばしているが、その手は届かない。
・・・・・そんな風にその絵を見ていた。
今こうして絵の前に立つと、自分の認識が間違っていたことに気づかされる。
月は沈んでなどいない。月影が水面に浮かんでいるに過ぎず、花との距離感もある。
しかし、それはあくまでも今の自分の眼で見た風景に過ぎなかった。
やはり月は水に沈み、花はそこへ枝をさし伸ばしている。
ただ、かつては花の腕は月を掬うように見えたのだが、そうではなく、沈んだ月をより深く沈める手に見えていた。

松篁さんの「日本の花」は扇面図である。これも先の明治の絵と同じ存在である。
最初に山種美術館に来た頃は既に上村家三代の虜だったわたしは、実物を見ることもないままこの絵葉書を購入していた。しばらくして実物を見たときも満足したが、あの小さな愛らしい複製品に、わたしは十分楽しませてもらっている。
絵の前でわたしは松篁さんの花々に小さく挨拶をした。それだけで嬉しくなれた。

滝以外の千住博の絵を見たのは、もしかすると初めてかもしれない。
「夜桜」。黒地にピンクの花が点々と咲く。クレパスのピンクを思わせるような花の色。
不思議にみずみずしい絵だった。

最後の展示室へ向うと、そこに太閤千代枝垂桜があった。アクリル板で永遠に封じ込められていた。
永遠の桜・・・・・

渡辺省亭の雀と、川崎小虎の雀が並んでいる。
省亭の雀は三羽いて、いずれも賢そうな目を大きく瞠っている。口元にも知性と微笑がある。
一方小虎の雀は二羽が二羽ともぐっすり眠っている。とても愛らしい雀たちだった。

今年は雀による桜をついばむ被害がないようだが、今日の大雨で花の散りも激しかったろう。絵の中での桜は長く変わることがない。外の桜が散り果てても、山種の「さくら・桜・SAKURA 2012」は5/20まで咲き続けている。
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コメント
No title
月影でもないよ

月影だったら水面に映る。

横から見ると楕円に見える。

真円にはならない

2012/04/13(金) 00:03 | URL | hoito #5XFnH2Oc[ 編集]
ありがとう
☆hoitoさん こんにちは

詩的なコメント・・・
どこかの森の中で聞くような感じがしました。
2012/04/13(金) 14:16 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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