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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ザ・忠臣蔵 早野勘平編

池田文庫で「ザ・忠臣蔵」として忠臣蔵の浮世絵展が開かれている。

「仮名手本忠臣蔵」は「忠臣蔵」物の中でも特に人気で、実際に舞台にかけると「独参湯」(=ドクジントウ、よく当たる薬)と喩えられ、讃えられる。
この池田文庫でも「仮名手本」の浮世絵は実に800種を超えて所蔵するそうだ。
絵師の東西を問わず、そのうちからピックアップした名品が展示されている。
前後期に分かれての展示で、後期の今は早野勘平編が始まっている。
前期は寺岡平右衛門編。前期を見に行きそこねたのを反省しつつ、後期展示を大いに楽しんだ。

まず登場人物紹介として、描かれたキャラたちが現れる。
更に事件の経緯を辿らせるように、大序から十二段目へ到る道筋が示されている。
この辺りの展示は忠臣蔵が全くのフィクションではなく、大変な大事件から起こった物語だということを改めて認識させてくれると同時に、ドキュメント風なツクリが純粋に娯しい。

敵役の高師直は立派なツラツキでなくてはならない。そうでなくば憎そうにならない。
リストにあるこの顔つきも本当に憎そい。(にくそい、と言い方も古い)
zen487.jpg

若狭之助をあおりつつ、裏で働く加古川本蔵。
そして賄賂を貰って「粋(スイ)よ、粋よ、粋さまよ~」と若狭之助に愛想する師直。
その絵がまた面白い反面、次の場の悲劇を思うと・・・

四段目の「由良之助はまだか」の絵がある。腹を召される寸前までのもの。
描かれた時代の役者はいざ知らず、近年では亡くなった七世梅幸の判官が上品で綺麗だった。絵を見ながら芝居の場面を思い出す。

さていよいよ「勘平編」のメインである。
「道行旅路花婿」の楽しい絵を見てから、五段目へ向かうと、悲劇へ急転直下する若者の姿が見えてくる。

五段目と言えばやはり定九郎だが、ここで非常に興味深い絵を見た。

その前に書くと、定九郎は元は山賊のもっさりした姿で演じていたのを、初代仲蔵がある雨の日に見かけた浪人者の姿に感応して、現在に伝わるスタイルの、黒の着流しで演じた。
人を殺して金を奪い、にんまり笑って「五十両」これだけの台詞で、挙句にダッと射殺される。それだけの出番なのだが、これがないとやっぱり「芝居を見た」気にならない。
だからどの役者もやりたがる、おいしい役である。

さてその男の色気に溢れた定九郎の姿しか見なかったのだが、ここで山賊姿のもっさりした絵も展示されていて、驚いた。
こういうのは初めて見た。

資料で、近年入れ事ナシで演じられた忠臣蔵の写真が出ており、もっさり定九郎がいたが、やっぱり「歌舞伎」では悪くていい男の定九郎が楽しい。
文楽では山賊がいい。
比較する楽しみがあった。

六段目の絵は上方と江戸の様式の演じ方の違いがあるので、またこれも別な趣がある。
納戸色のを着る・普段着でいる、それぞれの考えがあるのでその辺りの違いを見るのも面白い。
猟師として暮らす元・武士の勘平。武士の身分に戻りたいことからの悲劇。
そして全ての事情が明らかになり誤解も解けたとき、死出の旅路につく勘平は初めて武士に戻れた・・・
そういう解釈もある以上、多くの様式があっていいと思う。

勘平編なので本来ならここで終了してもいいのだが、ちゃんと七段目以降の絵も展示されている。
七段目こそが寺岡平右衛門の物語。

浮世絵で人気の構図は、真ん中に由良之助、二階に遊女お軽、床下に九太夫の三人同時に密書を見る、というもの。
息子の力弥から届いた密書を読み始める由良之助だが、今と違い昔は巻物。巻物の最後は下へ下へゆく。
床下で由良之助の動向を監視していた九太夫がメガネをかけてそれを読み出す。
一方二階でお軽はそれを恋文と勘違いして手鏡で見てしまう。
情報モレもいいところで、由良之助の管理に問題があるのだが、そこは眼をつぶり、物語は動く。

現代の役者で言えばやっぱり七段目の由良之助は吉右衛門がベストだと思う。
世を韜晦して生きる、そんな役が異常に巧い。
醒めながら酔い痴れる、その眼がたまらない。
だからわたしは吉右衛門の一條大蔵卿が好きだ。

九段目の主役は加古川本蔵だが、まず絵では少年と少女の愁嘆場がある。
絵を見て芝居に行く人もいれば、芝居を見てから絵を買う人もある。
そんなことを思いながら絵を見るのも楽しい。

現行の仮名手本忠臣蔵の舞台ではまず十段目はかからない。
わたしは写真で八世三津五郎の天川屋を見たが、実際の舞台では見ていない。
しかし講談などではとにかくこの段は人気で、「天野屋利兵衛は男でござる」という台詞は長く人口に膾炙していた。
絵では天川屋の玄関前で儀兵衛の離縁された妻が髪を切られるシーンが多い。
国芳の絵では、背景の壁に落書きがあるのが楽しい。

珍しいものを見た。
義士たち大集合図である。いちいち四十七士をきちんと描きわけている。
浮世絵や映画、TVでは討ち入りに気合が入るが、舞台ではまず出ない。
わたしもTVで忠臣蔵を見るときは、必ずこの討ち入りを楽しみにしているが、舞台では別に見たいとは思わない。
討ち入る絵も多くのものを見ているが、絵師たちの個性がそれぞれ出ていて楽しい。

多くの浮世絵コレクションを持つ美術館で、忠臣蔵ものの展示はそれだけで独立して企画される。
暮れには、ukiyoeTOKYOが忠臣蔵の戯画ばかり集めた展覧会をしていた。
赤穂の歴史資料館は毎年討ち入りの12月には必ず企画展を催す。
昔も今もこうして忠臣蔵が愛され続けているのを感じる。
とはいえ、こうした「人物紹介」から始まる展示にしないと、「全く知らない」という世代もいるのは確かだ。
伝統芸能とその娯楽、この先の流れがどうなるかはわからないのだ。
しかしながら、今こうして楽しむことが出来て、たいへん嬉しい。
展示は6/10まで。


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コメント
泉岳寺
 一寸旅に出て 最後の日は品川泊まりだったので 泉岳寺に行ってきました。
 行きはバスで二つ目 帰りは歩きました。静粛な気持ちになる お詣りです。
 有名でない名前もあります。今回は 一人ひとり お名前を読みながら
 線香をあげました。朱印帳の字は 達筆 この前のお坊さんとはまた違う味の字でした。
2012/06/08(金) 01:26 | URL | 小紋 #-[ 編集]
四十七士
☆小紋さん こんにちは

昔、泉岳寺に降り立った瞬間、お線香の煙に巻かれた記憶があります。
すごかったなあ。
小学校のころから忠臣蔵のファンなんですが、まだ赤穂にいってません。
昨日は両国橋を渡りました。逆行しましたが、気分は四十七士でしたね♪
2012/06/10(日) 07:42 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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