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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

浮世絵師 渓斎英泉

千葉市美術館「浮世絵師 渓斎英泉」の前期に行った。
英泉はほかの浮世絵師に比べて、わたしは知るのが遅かった。
杉浦日向子「百日紅」に出てくる池田善次郎、石川淳「至福千年」の台詞「英泉ゑがくなんざ子供に毒だぜ」、それでわたしも「英泉という絵師がいたのか」と知ったのだ。
作品はよくよく考えれば、風景画を見ていたが、はっきりと認識していなかった。
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英泉の本領は美人画にある、という。
ところが「英泉ゑがくなんざ子供に毒だぜ」の言葉のせいでか、英泉の美人画を本当に見るまでにちょっと時間がかかった。
彼の美人画を見るようになった頃、皆川博子「みだら英泉」が上梓された。
いいタイミングだった。
皆川に導かれるようにして、その「みだら」な英泉の女たちを見てゆくことになったのだ。

1.初期の美人画とその周辺
最初の師匠は菊川英山だが、その影響下にあるから長身美人がたくさん出ていた。
英山は気の毒に全盛期が短かったが、その美人画をみると、むしろ昭和後期の少女マンガのような美人が多いように思った。

英泉の子供絵がある。「子宝五節句」として端午の節句を描いている。子供らがとても可愛い。

文政年間の絵がなかなか面白い。
両国夕涼の図 紅が目立つ。
隠呼 インコ。赤い。これも紅が強い。

横笛吹く若衆 牛若丸の見立てか、色子かは不明。フフフ。美少年を見るのは楽しい。

倣玄宗吹笛の図 玄宗と楊貴妃がいちゃつく姿。牡丹をバックにしているのは少女マンガのようで楽しい。

倣返魂香の図 いろっぽい二人。

肉筆画もあった。
大原女 桜咲いている下で。この頃は実際に見たとは思えないから、円山派の絵などで勉強したのかもしれない。

役者絵と武者絵がある。しかしそれよりもやっぱり、あぶな絵に魅力がある。
仲良しさんなふたりの最初の図を見るだけで、観客を引き込む力がある。
これについては前述の石川淳が丸谷才一に言った言葉を、丸谷が記している。
要約すると、誰のよりも英泉の春画は見るものを欲情させる、それが目的で描かれていると言うようなことだった。
20年ほど前に読んで、それ以来見る日を期待しているが、清く正しく美しく(はぁ?)生きているせいでか、いまだにまともに見る機会がない。
(なくてもいいのだが)

舟中の男女 こういう距離感がたまらなくいい。雪見舟の風情もいい。
IMGP0311.jpg

他にも鏡台前の男女、炬燵の男女、鏡の中の男女、とヴァリエーションは変わっても親密度は変わらない絵が並んでいる。

納涼の男女 これは礫川美術館で絵葉書を手に入れた。
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2.英泉美人の流行
この頃から短躯に、笹紅の下唇からのぞく前歯、手の甲・足の甲もふっくらした、ねとねとするような妖艶で、生臭いほどの女が現れる。

秋葉常夜灯 コウモリ飛び交う時間帯。三人の女がいる。足元のわんこが可愛い。

ここからは連作ものがずらりと並ぶ。
「青楼七軒人」は廓の花魁たちベスト7。それぞれの個性が出ているのが興味深い。
むろん実際のところはわからないのだが、絵で見る限りはみんな違う女たちである。
後れ毛の多い女、唇を前歯でキュッと噛む女、長襦袢の襞裾がいやらしいのもいれば、今からランチにでも行きそうなのもいる。

後に英泉は女郎屋の親父になったが、観察眼は鋭かったろう。
わたしは子どもの頃ビッグコミックで連載していた石森章太郎(当時)の「さんだらぼっち」が大変好きで、少し大人になってから本を揃えて、今も再々読んでいる。
あれは吉原の始末屋の話だった。あの作品が私の遊女観の基本を成している。

このコーナーの女たちを見て回っていると、それこそ「吉原細見」の図像版をみて、冷やかして歩く遊冶郎になったようなココロモチがする。

そしてここの終わりに参考図として、国芳の「日本奇人伝」があった。
国貞・国芳・英泉三人の姿が描かれている。ハゲの国貞、飲む英泉、猫といる国芳。

3.風景画の時代へ
大量に作品がある。
このうち「木曾街道」をどうも無意識のうちに見ていたらしい。
わたしは子どもの頃から家にある広重の「五十三次」を見ているが、そこから興味が湧いて、昔の風景を描いた画集を図書館で見ていた。それがどうもこれらしい。
認識もせず、ただただ見ていただけだが、楽しかったように思う。

江戸名所尽、東都名所のシリーズの中では特に静かな風景のものがよかった。
浅草寺の雪、不忍池のまだ咲かない蓮など。
簡素な線描で描くからこそ、生まれる叙情性。

東都両国橋夕涼図 すごい大混雑の中だが、ちょっと目を凝らせばイケメンが色々いる。

江戸八景も面白い。あちこち見て回ると、たばこと塩の博物館で見たものがちょいちょい出てくるのもいい。

雪中山水図 これは浮世絵の範疇かにはずれて、水墨画の山水画のような風情がある。
面白味にはかけるが、静かな心持になる絵。

4.江戸名所・名物と美人
宣伝画の側面もある。
名所にひっかけて美人の色んな様子を描いている。
また神社仏閣を描いたものを見ていると、自分の定宿近くのもあり、なんとなく嬉しい。

高名な料亭と美人画のシリーズもたくさん出ていた。
こういうのを見ていると、自分の好きな時代小説や芝居の世界がまざまざと蘇ってくる。
それだけで楽しくてならなくなる。

5.肉筆美人画
見立女三の宮図 ねこ~~!
四季美人図・秋 わんこ~~!

他にもあるのだが、どうも猫やわんこばかりに目が行った。

6.摺物の世界
これらは施主がいるから自在な絵ではないのだが、それはそれで面白い。
「多歌羅婦祢 弾初」弁天さん(音曲の神様)と一緒。
「向島名物桜餅と今戸人形」竹皮包みの桜餅。
「名物裂帖と福寿草」富田裂などが描かれている。

7.契情道中双六(ロクは女扁に録のツクリ)
これは描いてもらうことが花魁たちのステータスになったそうだ。
だから何人か他の絵師でも見ている花魁たちがいる。当人か二代目かは知らないが。
五十三次にしているのが面白い。

8.藍摺りの世界
染付を愛するのと同じ心持で眺めた。
ただ、特定の作品がどうのというのが出てこない。
色の綺麗さを楽しんだのだ。

9.活躍の広がり
色々な作品がある。

忠臣蔵を描いている。これらも見ているが、やはりいいものはいい。
絵師それぞれの腕の見せ所だと思う、この忠臣蔵だけは。
五段目の定九郎がひどくかっこいい。

おもちゃ絵もある。こういうのを見ると楽しい。

10.版本

瀬川如皐(2代)と組んだ「鼎臣禄」の挿絵がかっこいい。
洗い髪の女がなにやらかっこよくて、太郎坊を獄中より奪う図がまたドキドキする。
こういうのをじっくりと活字体の本で楽しみたい。
馬琴の八犬伝もある。柳川重信の後をついで描いたのか。

こうして眺めると、幕末の人気絵師だということがよくわかる。
おおざっぱな感想だが、楽しかったキモチだけは伝えたいと思う。
7/8まで。
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