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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

七夕の美術 日本近世・近代の美術工芸にみる

静岡市美術館の「七夕の美術 日本近世・近代の美術工芸にみる」を楽しんだ。
四期に分かれる展示換えがある中、わたしはとりあえず第一期に出かけた。

黒いカーテンに覆われた先が展示会場である。
カーテンの向こうは「星の世界」ということだろうか、と思いつつ足を踏み入れる。

1.織姫と彦星の物語

風流たなばた星合の躰 絵師のわからない浮世絵だが、楽しい。中華風な装いの牽牛と織女の対峙がある。天の川というより滝のような流れがあり、その上流に女が立ち、岩に牛と男がいる。情趣のある構図。
吉徳資料室蔵。ここの浮世絵コレクションも見てみたくなる、そんな一枚。

月岡芳年 月百姿・銀河月 シリーズのうちでもこれは確かに七夕図。ほほえむ女と、手前で黙って女を見つめる男と。男の方がせつなさを強く抱えているように見える。
女のほほえみは解けない謎のようである。

竹久夢二 七夕 すらっとした舞妓が短冊をつけようとする。帯の柄がいかにも大正のそれで、当時の嗜好が取り入れられているのがわかる。
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小村雪岱 七夕 小さな機(はた)を持ってたたずむ女。・・・・・の星が出ている。しっとり静かな夜。

雪岱の原画が表紙に使われた昭和五年の「洒落本集成 第三巻」をみる。機織りの女がさらさらと描かれている。
牛飼い男が向こうに見える。和の情緒が漂う。

橋本花乃 七夕 チラシには左隻が使われている。右ではワカメちゃんカットの昭和初期の少女たちが楽しそうに七夕飾りを拵えている。チョッキンチョッキン切ったり、墨をすったり。そして左の笹へ短冊が飾られてゆく。
かつてはこうして楽しく和の行事を遂行したのだ、みんなで。
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林司馬 七夕 いかにも司馬な二人の舞妓がいる。可愛い。おでこの丸さ、卵形の輪郭、おちょぼ口。そんな二人が笹に飾りつけているところ。
舞妓が節句の行事をする姿というのは、本当に可愛らしく見える。

2.江戸の七夕・京の七夕
しかし最初に大阪の七夕が現れる。

北野恒富 願いの糸 たらいに星を映しながら赤い糸を通す。裁縫の上達を願うての風習。
この絵を見て、わたしはその風習を初めて知った。平成の始め頃の話。
そうめんを食べる風習は活きていたが、裁縫のことは知らず、時の流れを感じた。
しかし絵ではこうしてその風習も生き続ける。
白と黒と赤が画面をきゅっきゅっとやさしく締めている。
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北野恒富 七夕 白衣の天女のような美しいひとが糸を通す。梶の葉は下に大きな形を見せている。下絵のように見えたが、恒富はこれを出品しているそうだ。
ところでこの絵は大阪市美術館蔵だが、大阪市美にはもう一枚、この時期を描いた恒富の星の絵がある。家の物干し台から柄杓星をながめる娘の絵である。
大阪は暑いから、夏の楽しみをなんなとみつけるのである。

小村雪岱 星祭り 金子國義の所蔵品だということにもときめく。こちらも盥に星を映している。白地に桔梗(☆型)とススキ(ノノで表現)柄の浴衣を着る女。星がたくさん降り続けているような柄、とても素敵だった。

鶴澤探山 五節句図 千秋万歳から始まり、とりあわせ、印地うち、蹴鞠、菊酒などが描かれている。特に侍童と共に飲む菊酒に惹かれたが、これはまだ二ヵ月後の話。

岡本常彦 五節句図(短冊) 犬張子が可愛い。蹴鞠に織姫に・・・

鳥居清長 子宝五節遊 手毬・凧揚げ・ひな祭り、金太郎・桃太郎・高砂の幟、そして七夕に菊の時期。機嫌よく遊ぶ子どもらがイキイキと描かれている。
これを見て思い出すのが、自分の小さい頃である。
お習字を習っていたが、七夕の時期だけは短冊に仮名を書き、そして笹に飾った。あとはカルピスを飲んでロールケーキを食べて家へ帰った。
ここにいる子どもらも、七夕飾りのあとにはオヤツをもらったことだろう。
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他に英泉の子どもらの四季遊び図、落合芳幾の妓楼の七夕を描いたものがあった。

柄のハッキリした帷子がある。白麻地七夕文様の帷子。すっきりしていてとてもいい。
背の高い人に似合いそうな帷子だった。
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金銀の儀礼的な蹴鞠と、その挟み板などがある。
蹴鞠の風習をここで色々と学ぶ。
蹴鞠を捧げるのだ、こうした形で。
その様子を描いたものがあった。
・柴田義菫 七夕梶鞠図 その蹴鞠を捧げる様子が描かれている。織姫と彦星への供え物。

・玉英 年中行事図扇面 「枝鞠」を捧げる・・・梶の葉と蹴鞠を結んで「枝鞠」。

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円山応震 七夕文使図 久しぶりにこの図を見て色々と思い出した。
上臈が男衆の差し掛ける傘の下で、しずしずと文をもって歩く。もう一人の男衆は「花扇」を担いで歩く。これは近衛家から宮中へ捧げられるもの。
随分前の展覧会で見て、その風習に感心したのだが、今ここで見るまで忘れていた。

住吉広定 七夕花扇使図 同上。こちらには千種有功の賛がついている。

その花扇の復元品がある。とても立派で大きく華やか。三尺三寸というサイズ。秋の七草を揃えている。

近衛家は花扇、飛鳥井家は蹴鞠。七夕の風習。

歌川広重 名所江戸百景・市中繁栄七夕祭 短冊、紙細工のスイカ、吹流しだけでなく、大福帳やひさごとっくりまでついたにぎやかな笹。ずっと向こうに富士山のシルエット。
風に吹かれる笹の様子がちょっと「武蔵野図」にも見えて面白い。
以前、ある団子屋は四季折々、広重の「江戸百」の一枚を栞にして、菓子箱にさしていた。
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二代目広重 諸国名所百景・東都青山百人町星燈篭 これも年中行事だったものらしい。棒の上のほうに色んな燈篭をつけていて、道行く人は楽しそうに眺めている。
江戸時代の人々の季節を楽しむココロモチは、本当に素晴らしい。

三代目歌川豊国の芝居絵がある。いずれも「妹背山」のお三輪が七夕で鬼灯を割り箸状のものにくくりつける図が出ていた。こういう風習もあったのか。

他にも今の題は「流星」になっている踊りの「夜這い星」の絵が出ていた。赤褌を長く伸ばした夜這い星が牽牛と織女の間でウキウキしている図である。
わたしはこの踊りは今の三津五郎の八十助時代に見ている。彼の曽祖父の七世三津五郎もたいへんよかった、と本で読んでいる。

3.儀礼としての七夕
乞巧奠祭壇 星の座が再現されていた。京都で見たときのナマナマしい感覚はここでは少し薄いが、桃やナスの供え物がとてもいい。
冷泉家の七夕の様子を以前VTRで見たが、伝統を守り抜くその心に惹かれた。
今回はその儀礼の手順を写真パネルで見せている。
琵琶も琴もある。こちらは富士浅間神社所蔵で、琵琶は徳川斉昭ゆかりのもの。
ほかにも家茂所用の中国風なギヤマン七夕飾り文具一式、家達所用のシックな文具一式もある。

住吉広定 相撲人取組図 幕末にも宮中の行事を描く絵師がいて、こうして伝統が伝えられるのは本当に良いことだ。

お相撲も七夕の行事らしい。そのあたりのことは知らないが、面白い。
水野年方の相撲節会図もある。どういう意味合いがあったのだろうか・・・

4.もう一つの七夕 天稚彦(あめわかひこ)の物語

中国伝来の「七夕」の由来は牽牛と織女の物語だが、日本独自の七夕譚がある。
御伽草子にその物語がある。ギリシャ神話のプシュケーとエロスの婚姻譚と形は同じである。
サントリー美術館「天稚彦物語絵巻」、専修大学図書館「七夕のさうし」、安城市歴史博物館「七夕之本地絵巻」の三巻がそれぞれリレー形式で展示され、物語を楽しませてくれる。
また、それぞれの巻が見えない部分はプロジェクターで、わかりやすく上映されている。
こういうシステムは初めてだった。今後もこうした形での展示が広がればいい、と思う。

・ 蛇の文使いがくる。父親は三人の娘らの誰かを蛇にやるしかなくなる。
・ 拒絶する上と中の娘、父の命に替えられぬと嘆きつつも、嫁入りを承諾する末娘。
・ 釣殿での蛇との対面。頭を切るよう促す蛇に恐る恐る刃を当てると、美青年登場。
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・ 仲良く過ごす姫と蛇ならぬ天稚彦。しかし実ハ海竜王でもある天稚彦は天へ帰ることに。
・ 留守を守る姫のもとへ姉たちが訪れ、唐櫃を開けるという禁忌を犯す。烟立ち上る。
・ 別離を知った姫はかつて言われたとおり、いぶせき家を訪ね、そこの夕顔棚から天へ。
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zen558.jpg(参考)


・ 夫と再会するも、鬼の舅に難題を吹っかけられ、夫の助けを受けつつ次々クリアーする。
・ 姫を手助けするアリたちの活躍など。牛飼いもする姫。
zen557.jpg(参考)
・ ようやく鬼の舅にも息子の嫁と認められるが、聞き間違いから二人は年に一度の逢瀬となってしまう。

鬼の舅がコワモテながらもどこか可愛いのは三巻の共通。専大本は詞書の仮名がたいへん繊細で綺麗だった。サントリー本の絵はいちばん巧みだが、安城市の素朴さもいい。
とても楽しく眺めた。

5.エピローグ 天に向って、星に願いを
30年ほど前に作られた新しい太刀があった。七星剣である。昭和の末頃にこうして七つの星を刻んだ刀が生まれたのだった。

「羽衣」と題された絵巻がある。
天女の羽衣伝説は大まかに二種ある。羽衣を隠した男の妻になった天女が、やがて羽衣を見つけて昇天するもの。もう一つは妻とならず天の舞いを見せつつ昇天するもの。
(別系統に惨い話があるが、それは静岡のものではない)
ここでは一種の報恩譚として物語が進む。
羽衣を返したあとで、男のもとに美しい妻が来て、多くの子どもに恵まれ幸せな暮らしが続く。20年後、その幸せも終わる。妻は天女だったのだ。孔雀や龍も来て、妻は天へ帰る。
男も雲に乗る。
絵巻の展示はここまでだったが、このパターンは男のミスから天の川が生まれる、と言う由来譚に続くのかもしれない。

最後に黒いカーテンに二重に覆われたコーナーがあった。
中へ入ると、星座が静かに動いていた。天体運行。ラストにこうした宇宙散歩を見せてもらえるとは思わなかった。

楽しい「七夕の美術」は8/19まで。
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