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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

清方のまなざし 夏の美人

鎌倉はいつ行っても観光客が多いが夏は特に凄いように思う。
しかしそれでも少し道を入ればたちまち閑静な住宅街になるのだから、これはこれで凄い。
むかし立原正秋の小説を読むと、雪ノ下の住宅街の閑静なことについて詳しく書かれていて、中学生だったわたしは立原の文だけで雪ノ下を想像していた。

地名と言うものはなかなか面白いもので、他郷のものにとってはそれが何の意味を示すのか全くわからないことがある。
たとえばわたしは子どもの頃「四条河原町」と聞いてもどこに河原があるのかわからなかった。実際にその地に立っていても、どう河原なのかがわからなかった、というべきか。
また「池之端」もそうだ。不忍池の左側(!)の地名だとわかるまでに、かなりの時間がかかった。不忍池の端にある、という意味での名称を、固有名詞ではなく普通名詞で捉えていたのだった。
この「雪ノ下」も謂れを知らなかったので、「鎌倉は温いと聞いていたが、何故雪ノ下なんだろう、ヤトというのは雪の洞のことなのか」と真剣に悩んでいた。
今はさすがにそんなことはないが、実際その地に立たないと納得しないことが多かった。

さてその雪ノ下に鏑木清方の美術館がある。
何度も出かけているが、いつも小町通の大混雑にもまれてへとへとになる。
ところがそこの角を曲がって少し歩いただけで、かつて立原が描いたような閑静な住宅地になる。
今回も閑静な佇まいの中、先ほどまでの炎熱と大混雑とを忘れて、機嫌よく作品を眺めた。

「清方のまなざし 夏の美人」とタイトルがついている。
清方はその随筆の中で「夏の女は美しくない」と書いていた。
しかし現実の女は見苦しく暑苦しいだろうが、四季美人悉く描く清方にとっては、現実のそれと違い、悩ましくも美しい、あるいは清楚な美しさを夏の女の上にもひらいてゆく。

大正年間の妖艶な美女は多くは雑誌の口絵のためのものだった。
わたしなどは最初に見たのが「刺青の女」「妖魚」「ためさるる日」などの凄艶さの満ち満ちた美女ばかりだったので、今でも清方の描く妖艶な女たちに深く深く惹かれる。
「蚊遣の烟」「盆提灯」「恋の湊」などは皆大正五年の雑誌口絵。
浴衣美人の気だるさがたまらなく魅力的である。
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「はれゆく村雨」の下絵があった。橋を行く、傘をさした女たち。突然の強い雨に彼女らはあわてている。顔は見えぬが、風情だけでもその美しさを感じさせる。
蓮が咲き乱れている。

清方は大正のころ、金沢文庫に別業をいとなみ「遊心庵」と名づけて長く楽しんだ。
そこでの楽しい思い出はしばしば絵にも文にも描かれている。
ここにも幼い娘たちの楽しそうな様子が、さらさらと淡彩で描かれている。
水色の合羽を着た長女清子、紫合羽の次女泰子、そして二人の友達梅子はピンクの合羽を着て、お父さんになにやら話しかけている。
洞窟で雨宿りする図もある。父と幼い姉妹。またあるときはカニつりを楽しむ子どもたち。

「夏の思い出」は絵巻のような長さを持っている。
カフェで冷たいものを飲む女学生、湯上り美人の前の風鈴と簾、タチアオイの前に佇む金髪婦人、へチマ棚の奥、諸肌脱ぎでランプを灯し新聞を読む女、庭でくつろぎ花を見る・・・
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昭和に入って卓上芸術をいよいよ楽しむ頃になると、かつての妖艶さは影を潜めたが、その分涼しさを感じさせる女たちが多く描かれるようになった。
また清方は若年の頃は浴衣図案の仕事もしており、その図案集を出せなかったことを悔いる気持ちを「続こしかたの記」にも書いている。
図案家・清方を踏まえながら「夏の女」を見るのも楽しい。
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「手賀沼」というのは昭和七年の作だが、珍しく男も描かれている。蓮池をボートで行く。シャツ姿の男が櫂を持ち、ワンピースの女が白い花をそっと取る・・・
やはり夏はいい。

紫陽花は夏の始まりを告げる花だが、ひまわりは炎熱を、朝顔・昼顔・夕顔はどちらかというと涼やかなものを感じさせ、蓮はまた格別な佳さを持っている。
清方は紫陽花舎(あじさゐのや)とも号し、深くその花を愛した。また背景に百合を多く描いてもいる。
清方の描く花はいずれも情緒があり、明治の懐かしい匂いがする。
そして「夏の女は美しくない」といいながら、清方の描く「夏」は誰の「夏」よりも、いちばん印象的でもある。それはやはり清方が夏生まれだからこそかとも思うのだ。

「清流」の清らかな美しさも暑さを感じさせないものだった。
蛍が舞う中、そっと清流の岩を踏む女人。蛇籠も水にある。背景の一見南画風な味わいも深い。ああ、いいものを見た。
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8/26まで。
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コメント
涼しさを感じる美人
鎌倉へは行っていないのですが、
平塚市美術館で『上村松園と
鏑木清方』展が先週から始まった
ので、そっちを観てきました。
たしかに夏の女は美しくないわね。
架空の美人は涼しげでいいですねぇ。
あんまり美しすぎて寒いぐらいです。
鎌倉へも涼みに(?)行こうかなぁ。
2012/07/25(水) 08:19 | URL | えび #-[ 編集]
暑苦しい美人でいこー!!(え゛っ)
☆えびさん こんにちは

> 鎌倉へも涼みに(?)行こうかなぁ。

さむ~~あの大混雑の中へ入りに行こうという勇気、さむ~~(笑)

平塚の展覧会、いい企画やな~と思ってました。
行かれてよかったですね~
そう、架空の夏の女はきれい。現実は・・・鏡を見ましょう、わたしたち~~ww

2012/07/25(水) 10:12 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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