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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

お伽草子 この国は物語にあふれている

サントリー美術館の「お伽草子」展は深い魅力に満ち満ちている。
しかしあまりに数も多く、保存の観点からも、展示替えが頻繁に行われるので、関西のわたしにはやや無念なところがある。
とはいえ、一度でも楽しめたのだから、わがままは言えない。
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赤坂時代の'96年「絵巻小宇宙 絵の中の人々」展を見たときの楽しさは、今もこの身に残っている。
わたしの胸の底にはいくつか小さな筐があり、そのうちのひとつが絵巻物のもので、螺鈿を鏤めた蓋を取ると、そこから室町時代の人々やどうぶつたちがあふれ出してくる。
他の筐にはまた別な物が収められ、大きな葛篭にはオバケもいる。
今回の展示はそのかみの筐にいたものたちが元の場に立ち現れて、大いに活躍していた。

第3期に見たものについてあげてゆく。
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序章/第一章 昔むかし 御伽草子の源流へ
御伽草子・渋川版より。モノクロ印刷の読み物である。いずれも慶応義塾図書館蔵。
・猿源氏草紙 駕籠の姫君と橋の上で行き交う鰯売りの図がある。これは身分違いの男の婚姻譚で、サクセスストーリー。この話を基にした新作歌舞伎があった。勘九郎時代の勘三郎と玉三郎とのパネルを見ている。
・蛤の草紙 17、8くらいの女と蛤と漁師のいる小舟。不思議な出会いから物語は進む。

絵巻。
・浦嶋明神縁起絵巻 漁師仲間がいる。黒い鳥は鵜。海鵜があちこちにいる。それが物語に味わいを添える。
北川幸比古「おばけを探検する」に「浦島太郎」ではなく「浦の嶋子」の物語の紹介があった。本をもらったのは小学二年だったが、今も折々再読している。御伽草子への愛が芽生えたのはそこからかもしれない。

・長谷雄草紙 永青文庫の名品を一時に見ることができ、たいへん嬉しい。この絵巻を大正の昔か、小村雪岱は模写している。そのときのことを随筆「日本橋檜物町」に書いているのを懐かしく思う。
長谷雄卿は博打に強く、男が鬼の正体を見せてゆくシーンも面白く、死人のよい部分で出来上がった女に約束を破って触れたことで女が溶け出すのもよかった。

第二章 武士の台頭 酒呑童子を中心に
ここではサントリーと逸翁からそれぞれの酒呑童子の名品が出ている。
少し前に逸翁で「絵巻・大江山酒呑童子・芦引絵の世界」展を見たが、そのときに今回出ている「大江山絵詞」「酒伝童子絵巻」が共に物語の全容を見せてくれた。
いま、再会できてとても嬉しい。

・化物草紙 平安期の三善清行の屋敷に現れる化物たちを描く。大阪市立美術館の田万コレクションから。なかなか可愛いオバケたち。このあたりの話は岡野玲子「陰陽師」にも描かれていて、わたしの頭の中でそのエピソードが再現されてゆく。

・大江山縁起図屏風 池上本門寺所蔵。少しずつ鬼化してゆく経緯が描かれている。なにやら怖さがある。また鬼たちは生け捕られて都へ連れられてゆくが、その後どうなったろうか・・・

・岩竹 西尾市岩瀬文庫蔵。化け蟹の話。蟹も化けるくらいになると食べられない。

第三章 お伽草子と下克上
このタイトルは巧い。
・硯破草紙絵巻 明応四年(1495) 家に仕えるものが父上の大事にする硯を割ったことを知り、若君がかばってやるものの、父君は激怒のあまり若君を追い出す。その衝撃で若君は病に伏し、父上が若君を迎えに行ったときは、若君は既にこの世のヒトではなくなっていた・・・
細見美術館蔵だというが、初見。この物語自体は悲しいが好きである。
優れた絵本画家・赤羽末吉の「春のわかれ」はこの説話を基にしている。

・新蔵人物語絵巻 男装で出仕した娘が帝に愛されて(!)、やがて正体がばれた後もその寵愛を受ける、という話。これは帝の嗜好が気にかかるところだが、とても楽しい。
絵だけでなく、物語がいいから、いよいよ楽しい。
しかしこれもラストには発心譚の様相を呈する。

・ささやき竹物語 僧の悪計が面白い。あの竹の長さ。笑える話である。似た話はヨーロッパにもある。艶笑譚は洋の東西を問わず好まれる。
青池保子「司祭と医者の話」はそれを基にしているが、実は娘のほうもなかなか・・・とても楽しい作品である。

・おようのあま絵巻 これを最初に知ったのは近藤ようこ「おようの尼」で。おおらかな面白い話。絵もほのぼの。
御伽草子を現代のヒトで描くことが出来るのは、近藤ようこ、花輪和一両氏だけだと思う。

・鼠草紙絵巻 可哀想といえば可哀想なのだが。清水寺のご利益は実に広範なもので、こうして鼠の願いをも聞きとどけるが・・・

ブームというものがある。平安時代には長谷寺がブームだった。熊野詣もブーム。四天王寺もなんでもありで流行った。
そして清水寺の時代が来て、定着する。

第四章 御伽草子と<場> すれ違う物語・行きかう主人公

・松姫物語絵巻 絵自体はやや稚拙な感じで可愛いのに、物語はひどい、ひどすぎる。
息子がもらった嫁の身分が気に入らぬからと、誘い出してヒトに殺させる姑。姫の霊によりその事情を知り出家する息子。とんだ因果譚ではないか。
インドに似た物語がある。細かいことは思い出せないが。唐天竺日本と物語は伝播し変容し、地になじむ。

・しぐれ絵巻 永正10年(1513) これが皆さん話題の「二重まぶたのイケメン」の出る絵巻である。物語は読み取れなかったが、ついつい二重まぶたさんを追いかけてしまった。
ふふふ、描いたのが女性だというのも納得。

・小男のさうし この話も近藤ようこ作品で知った。彼女の中世譚は非常に魅力的である。いつまでも繰り返し読み続けているが、読むほどに愛が深まる。

・清水寺参詣曼陀羅 三頭身キャラたちが清水寺のあちらこちらを元気に行き交う。よく見るとにこにこした人が多い。清水に来て願いを託したからか、願いが叶ったからか、みんなにこにこ。
桜が咲く春、とにかく機嫌よくにこにこ。
山の向こうに日月もない。卒塔婆も数本立っている。拝むものもなく、人の行き過ぎるのを見守るだけ。

・雀の小藤太絵巻 これを赤坂の時に見て、たいへん感銘を受けたのだった。雀の父が子を蛇に飲まれたことから発心し、諸国行脚をする。清水の舞台は桜で囲まれているが、春のその美しさを見ることで、せつなさと諦念とが胸の内に押し寄せる。この橋の上に立つ姿がたまらなくいじらしい。彼は百歳まで踊り念仏をして往生するのだが、さすが雀だけに百まで踊り忘れずなのだった。
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第五章 見えない世界を描く 異類・異界への関心
ここへゆく前に注意書きがある。
薄暗く、しかもぼんやりしたカーテンに不思議な形の影が映っている。

・鼠草子絵巻 姫君が残していった道具類を前に泣く鼠の権頭。
一つ一つに泣き、一つ一つを和歌に詠む。
髪の束まであるが、あれは何なんだろう。

・是害房絵巻 泉屋博古館所蔵の是害房。最初に見たのは'92年に姫路でだった。曼殊院本。
けっこう好きな絵巻なので嬉しい。少し前に他本との比較も出来て、違いを楽しめた。
湯治で怪我を癒す。万葉の昔から日本人は湯治で体を治すのだ。
(是害房は外国の天狗ではあるが)
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・付喪神絵巻 歳末の煤払いで捨てられた古道具たちのイキドオリ。彼らに妖術を伝える古文先生が妙に可愛い。仕返しをする古道具たち。それを止めようとする数珠の一連上人は置き去り。しかし仕返しの後には調伏がくる。
結局彼らは一連上人のもとへ向かい、世を捨てる。

そういえば出家と遁世とは違うという言葉があるが、遁世しなければ絵巻に現れる人々・どうぶつたちは救われない。
「世を捨てるのが出家ではなく、世に捨てられたのが出家です」というせりふが今東光「春泥尼抄」にある。
中世の無常観に近いものを、わたしはあの小説の終焉に感じた。

・百鬼夜行絵巻 真珠庵のものやそうでないものなどがあり、どれをみても面白い。
しばしば機会に恵まれて見てきているが、本当に面白い。
わたしはお化け好きなので、この中の経文を読むかのような、猫化けぽい奴に、イラチ風な琵琶とのろそうな琴のコンビが特に好きだ。
別バージョンのはちょっとコワモテが多い。

最後に絵巻に現れそうな調度品が出ているのがいい。
文机、唐櫃、箪笥、手ぬぐいかけ。
こうした工芸品がそこにあるだけで、絵がぐっと身近なものになる。

なんとかもう一度みたいと思いつつも。
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