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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ 前期

横浜美術館「はじまりは国芳 江戸スピリットのゆくえ」の前期に出かけた。
太田浮世絵の「芳年」、鎌倉の清方記念館、それからこのハマ美が、今回に限り三館連携の相互割引をしている。
「はじまりは国芳」と言うタイトルがその状況を示している、と言える。
「国芳」の弟子の「芳年」、その芳年の孫弟子の「清方」、三人の企画展がほぼ同期間に開催されているのはとても有意義だと思う。

国芳の作品からはじまる。
まずは彼が世に出たきっかけの連作・通俗水滸伝豪傑百八人がある。そしてそこから派生した本朝水滸伝豪傑・剛勇八百人が続く。
前期には九紋龍史進が陳達を拉ぐ場、宮本無三四(武蔵)の山鮫退治などがある。いずれもチカラギッシュないい絵。

人気のある、源頼光公館に土蜘蛛妖怪が現れる図、巨大骸骨のいる相馬の古内裏、讃岐院の命を受けた天狗たちが大鮫共々為朝らを助ける図があった。
ここらはやはりなくてはならない三枚続。

弟子たちの絵が現れた。

芳艶 文治三年奥州高館合戦 自衣川白龍昇天 衣川の戦い 
丸顔の弁慶の背後に白龍が飛ぶ。いよいよ最期の時を迎えようとする義経主従。
しかし衣川直前に主人を見捨て逃げた常陸坊海尊の姿も描き込まれている。
どんな意図があったのかを知りたい。

芳鶴 和田合戦の図 出撃しようとする三浦大介だが、その息子が、父の老齢を心配して止めようとところ、頑固爺が激怒して息子をムチうつシーン。
この芳鶴は博打好きで33歳で死んでいる。

芳綱 源平一の谷大合戦図 赤の多い絵。薩摩守忠度が戦うところなぞ初めて見た。

芳盛 人皇七十五代祟徳院の帝保元平治の合戦に諸侯揮集し御味方仕参着の図 
門前に精鋭たちが集結している。
為朝がいる。その家来の八丁礫の喜平次も控えている。気合みなぎる面々。

芳員 川中島勘助血戦の図 上杉謙信により策が見破られ、討ち死にする山本勘助。片目は空目として表現されている。入道姿での討ち死に。

これら弟子たちの作品の所蔵は静岡県立中央図書館だった。かなり面白いし、初見のものばかりで見応えがあった。今度ここの所蔵品展でも見てみたいものだ。

国芳の芝居絵があった。ただし見立てだから本当にこの配役で芝居があったのかどうかはわからない。
見立 二代目関三十郎の野ざらし語助・五代目瀬川菊之丞のけいせい地獄太夫・二代目中村芝翫の一休太郎
野ざらし悟助は一休禅師の弟子という設定で、骸骨柄の着物を着るのが決まりだから、ここでは葉っぱが集まったドクロ柄を着ている。
地獄太夫は法子を持つ。打掛には亡者が三味線を弾き、鬼たちが踊り、さらには牛頭馬頭の獄卒が地獄の釜を足芸で回したりで、それを仏たちが喜んで見物する図柄。
一休太郎と来るから老師ではなく、金袈裟をつけてはいるが百日鬘の若い男。
さすがに国芳だけに全体もよく、細部も楽しい。

芳虎 呉服屋清七 五代目菊五郎 俳名 梅幸 チラシに選ばれている。これは旧小島烏水コレクション。
彼のコレクションがここに入り、こうして楽しませてもらえるのは嬉しい。

ここでも英名二十八衆句が出ていた。
芳幾 春藤治郎左衛門 地蔵の上に血塗れの体が。文を読むと「蒲鉾小屋に夢結ぶ間も・・・身は足萎えの」とある。「天下茶屋聚」の伊織も蒲鉾小屋で動かない足で過ごしていたが、敵に返り討ちに遭っていた。この春藤もそうなのか。わたしはこの芝居は知らないのだ。しかしそそられる絵と文であるのは間違いない。

上方浮世絵らしきものもある。
中井芳瀧 忠臣蔵三の切 早野勘平 嵐璃寛 腰元お軽 市川右団次 璃寛の特徴がよく出ていた。上方の役者の絵をここで見るとは思わなかったので、興味深く思えた。

芳瀧 敵討優曇華亀山の赤堀水右衛門役の三代目嵐吉三郎 明治八年の作なのだが、どう見ても妙な石版画のような。変わった肉筆。グレーと黒が渋い。この芝居は近年見ている。

国芳と浅草奥山の細工見世物の関係は深い。
まず浅草寺に奉納された「一ツ家」の大絵馬があった。
強欲婆さんと優しい娘と稚児に化身した仏と。
これを見た生人形師の松本喜三郎がそれをネタにした生人形をこしらえると、今度は国芳がそのビラをこしらえる、といったような相互補完とでもいうような関係を持った。
いつか、喜三郎の生人形と、国芳のそれに触発された浮世絵とのコラボ展が見たいと常々思っている・・・

芳年 桃太郎豆まき図 シルエットの鬼たちも逃げている。それをまた恵比寿大黒が酒飲みながら楽しく見ている。

芳年 山姥 怪童丸 実にカラフル。聖母子風な絵で、これは今、太田にも出ている。
こちらは小島コレクション。

周延 雪月花 常州築波雪 瀧夜叉姫 雪中、口に松明をくわえた瀧夜叉姫がいる。胸には鏡が掛けられ、手には抜き身を下げている。 たいへんかっこいい。

国芳 金竜山おくやまの景 茶店に八世団十郎が休んでいると、女たちどころかハトまで見惚れる。ハトが妙に可愛いのと、団十郎の浴衣は濃い色で素敵。向こうには「柳川の紙蝶」の看板がある。
実際に団十郎はいずとも、こういうのをファンは望み、それを絵師は絵画化するのだった。

ところで神奈川歴博の常設にも丁度今、芳年の作品がたくさん出ていて、この「はじまりは国芳」、太田の「芳年」にも展示されているものがいくつもあった。

芳年 全盛四季冬 根津花やしき 大松楼 三枚続の左の女がたまらなくいい女で、手に持つヤカンもいい。
これはヨソでも同時に展示中。

国芳・芳年の美人画連作がそれぞれ出ているのもいい。
「山海愛度図会」「風俗三十二相」などなど。

国芳の戯画も出てきた。
猫の当て字「ふぐ」、金魚尽くし「いかだのり」、「ほふづき尽くし 夕立」「かん信」といった動植物戯画。
「夕立」はチケットに使われている。「かん信」は「韓信の股くぐり」を酸漿で描く。

弟子たちの戯画もある。
芳盛 昔ばなし舌きり雀 なんと化け物入り葛籠を爺さんが開けているではないか、婆さんを脅かすためにか。
婆さんは腰を抜かしている。

芳藤 しん板大長屋猫のぬけうら 長屋の様子がリアル。相合い傘に書かれているのは「おみけ」と「ぶち」。イイネー。

幕末の「粋狂連」の読み物などが出ていた。
仮名垣魯文、山々亭有人(=條野採菊、鏑木清方の父)などがそのメンバー。
浮かれた面白さは明治になっても生きていた。

暁斎 吉原遊宴図 明治の吉原の様子。にぎやかながらも、しっとりといい感じ。
いろんな流派を吸収して大成した暁斎だが、国芳門下の頃の工房の様子を描いた絵を見ると、騒々しい中にも楽しそうなムードがあり、暁斎の国芳らへの愛情が感じられる。

五姓田家の人々の絵も並ぶ。
義松 細川護成像 護立の父君か。明治20年。いかにも大名華族らしい鷹揚でおっとりした雰囲気がある肖像画

渡辺幽香 幼児図 赤ん坊に重石をつけているが、この六代目に良く似た赤ん坊は物ともせずに蜻蛉と遊んでいる。前にも見た一枚だが、なんとなく面白い。

明治の大蘇芳年の作品が並ぶ。
保昌と袴垂、ひとつ家、田舎源氏、八百屋お七、袴垂と鬼童丸の術比べ、月百姿、雪月花などなどの名作がずらずらあり、やはり芳年は国芳の弟子の中でも特別凄いなと思い知る。

芳年の弟子で清方の師匠の水野年方の絵が出てくるが、歴史画が多かった。
かれはここにも一枚だけ出ているが、「三十六佳撰」の歴史風俗美人画がいちばんいいのだ。
高山彦九郎、佐藤忠信などなどがある。

清方 寺子屋画帖 これは清方記念館にも時折出るのだが、明治32年だから九代目あたりが演じたのか、ちょっと役者が誰なのかは、私でははっきりとは見当がつきにくい。
それにしても泣ける。
松王丸の女房・千代が倒れながら源蔵にお身代わりの成果を尋ねるシーンまでで巻かれているが、物語の流れを追うには充分である。
名作を若き名手が描くと、やはりいいものに仕上がるのだった。

清方 註文帖 これは泉鏡花の小説を絵にしたもので、どの場を見てもゾクゾクする。
物語を知らないと楽しめないという人もあろうが、絵を見るだけでも、そこから立ち上る不吉な予感に、微かな怯えを覚えるだろう。

清方 遊女 たまらなく妖艶な女。身体の不自然なまでのくねり。大正時代の清方の描く女は異様に妖艶なものが多い。大正デカダンスがやはりここにも波及しているのを感じる。

清方 春の七草 こちらも本当にいい。先の「遊女」同様大正七年の作。何と言う豊饒の年であることか・・・!

後期には「刺青の女」「妖魚」も出るというから、今からゾクゾクしている。

年方門で突出しているのはやはり清方だが、同門にも凄い絵師は少なくない。
鰭崎英朋、池田輝方あたりは現在でも時折いい作品が展示されることがある。
特に鰭崎は弥生美術館にかなりの数が納められているので、多少安心しているが、輝方もその妻・蕉園ともども再評価されて然るべきだと思う。
ここでもほんの少しだが、展示されているが、やや寂しい。

そして清方もまた弟子の多い人だった。
中でも伊東深水、山川秀峰、寺嶋紫明の三人の画業は素晴らしい。

昭和の半ば頃の深水の人気の高さは、現在六十代後半から八十代以上の方の記憶に今も留まり続けている。
展覧会はおろか美術に関心のない人でも、深水は知られていたし、その絵が記憶の中にあるという人も多い。
20年前にまたよく回顧展があったが、少し間を空けてこの近年また展覧会が開催され、新たなファンが生まれてきているのは、本当に嬉しい。

深水 美人図屏風 炬燵・鏡の前 あっさりした美人画である。まだ後の「深水美人」の力強さはない。しかしここにも既に深水らしさが出ていて、華やかな装いが目を惹く。

紫明 美人図 すっきりした美人。バストアップくらいの美人画がやはりいい。背景などなくとも、紫明の美人たちはそれだけで活きている。

柿内青葉 月見草咲く庭 庭に出した籐椅子に座る若い女。黄色い月見草に囲まれてうっとりしている。青葉は百歳まで生きたそうだが、優しい絵を見ることが多い。

大正新版画の名品が続々と現れた。
深水 対鏡 この色合いもいい。
「現代美人集」なども出ている。いずれも妖艶さにあふれている。清楚にしていても、どこか艶かしい。

秀峰 婦女四題 わたしは特に「秋」が好きだ。秀峰だけの回顧展が見たい・・・

小早川清 近代時世粧ノ内 「ほろ酔い」のモガ、ちょっと物憂い「瞳」が好ましい。

川瀬巴水 「東京十二題」から駒形河岸、深川上の橋、春の愛宕山などが出ていた。
20年前に巴水の都市風景版画の絵葉書を手に入れてから、新版画に大きくのめったのを思い出す。

笠松紫浪 綾瀬川を舞台にした働く人々の風景版画があった。これらは千葉市美でも見ている。彼は版画と講談社の絵本の原画で名品が多い。

ポール・ジャクレー だいぶ前にこのハマ美でジャクレー回顧展があり、喜んで出かけた。
それ以来の再会になる作品が出ている。
彼の描くミクロネシアや中国の人々の魅力は深い。不思議な感性を目の当たりにした気がする。

最後に横浜を舞台にした版画がいくつかあり、懐かしい心持になった。
前期は12/5まで、後期は12/7~1/14。
存分に楽しめる展覧会だった。
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