美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

絵解きってなぁに?

昨日で終了してしまったが、龍谷大ミュージアムの「絵解きってなぁに?」展は非常に魅力的な展覧会だった。
龍大ミュージアムは開館してまだ日も浅いというのに、前回の「仏教の来た道」今回の「絵解きってなぁに?」と二つ続けて凄いのを送り出してくれて、わたしなぞはドキドキしすぎて苦しいくらいだった。
このときめきが自分の心臓を貫くだけでなく、多くのヒトにも伝わればいいと思うのだが、展覧会そのものは冒頭にあげたように、既に終了している。
あの素晴らしい空間はもう再現されることはないのだった。
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クリックするとかなり大きく出ます

実際の絵解きに使われた掛け軸のほかに、信仰の対象としての仏像や中山寺の閻魔堂内部の再現、そして絵解きの実演や講演会もあり、非常に充実していた。
また絵解きの実演を見られない人々のために、15分程度に要約したVTRを数本用意して、それを映像コーナーで上映していたのもいい。
そしてこの企画のために生まれたキャラ「比丘尼ちゃん」とその弟子の「こびくにちゃん」、またこびくにちゃんのアタマに乗っかるちび鬼「こおにくん」の三人組が可愛くていい。
この三人組が折々に解説も手がけてくれる。
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なにしろ数が多いので、前後期に分かれて展示替えをした。
わたしは11/3と11/23と出かけたが、どちらもたいへん面白かった。

序章 “絵解きする人々”
まず絵解きする人々が描かれた作品が現れる。

源氏物語絵 東屋1 田中親美模写  徳川美術館の国宝を名手・田中親美が模写したもの。
源氏物語に現れる人々が既に物語絵を愉しんでいる。

三十二番職人歌合 室町時代  サントリー美所蔵。職業として当時は絵解きも説経語りも成立していたのだ。
遊行上人縁起、善恵上人絵といったところにも絵伝などをみる様子が見える。


遊芸人図(右隻) 猿回しから始まる屏風。犬が追うてくるのを追い払う。万歳と才蔵もいるし、獅子舞、大黒舞もいる。そしてこの女三人組がいわゆる熊野比丘尼。幼い少女だけ剃髪し、あとの二人は豊かな髪を肩にふっさり。かなり色っぽい。
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この屏風は東京の大場代官屋敷保存会に所蔵されているそうで、その資料を調べると非常に立派なところだった。いつ公開されるのかは知らないが、いつか行きたいとも思う。

江戸時代の大坂市街図、嵯峨霊佛開帳志などにも熊野比丘尼の姿がある。

ところでわたしが最初に熊野比丘尼を知ったのは高校の頃に読んだ資料からだが、そのヴィジュアルはマンガで読んで初めて知った。
まず杉浦日向子「百日紅」で後の渓斎英泉がついつい熊野比丘尼を買ったエピソード、そして近藤ようこ「安寿と厨子王」の安寿が化けた熊野比丘尼、さらに近年になり、池上遼一版「修羅雪姫」の熊野比丘尼。こちらは明治の世に、売春組織の御殿を立てるために観心図を得ようと暗躍する話。

なお今回、その近藤ようこさんと前期展をご一緒させていただいた。
色々お話を伺い、初めて知ることも多く、とても有意義な時間を過ごさせてもらえた。
おくればせながら、ありがとうございます。

第一章 お釈迦様の“絵解き”
仏伝のレリーフや八相図、涅槃図などが出ている。

ガンダーラから出土した石のレリーフが2点ある。「誕生」と「出城」である。
摩耶夫人と侍女たちの驚く様子、そして門から城を出るシッダルタと馬を真正面から捉える構図。どちらも摩滅しつつ美しい形を残している。

絵因果経 巻第四下 奈良時代のもの。オレンジ色の袈裟が目に残る。弟子になるヒトとの関わり、文には舎利弗と目犍連の名がある。

仏伝図では白象たちが働くのが見えた。ゾウさんは働き者である。聖なる動物の中でも。
涅槃図のうち崇福寺の室町時代のものは右下に虎猫がいた。
東龍寺の南北朝・明徳二年(1392)は仏伝八相図で、真ん中に涅槃図があり周囲にその生涯の事蹟を描く。涅槃図にはこちらも猫がいる。真ん中にいるのが珍しい。

第二章 お経の“絵解き”
法華経、華厳経などから。
どちらもとても物語性の高いお経である。
善財童子の旅、文殊菩薩の指南などなど。

源義経公東下り絵 中尊寺に伝わる室町時代のもの。弁慶は色黒の丸顔の大男に描かれ、義経は小さく色白。偽山伏であることがバレては困る一行。勧進帳の世界。
そして弁慶は厨子から両界曼荼羅を取り出している。解説によると、山伏は両界曼荼羅を常時所持していたらしい。
その両界曼荼羅もある。三井寺のもの。

第三章 「あの世」の“絵解き”
當麻曼荼羅、迎接曼荼羅、二河白道図などがあるが、いずれも高名な寺院や美術館所蔵のものが多い。そういえば来年には「當麻寺」展がある。とても楽しみ。

當麻曼荼羅 鎌倉時代 ジャータカなのか、踊る裸族の姿もある。
當麻曼荼羅 南北朝 金色も残っているが、やや見づらいところもある。

當麻曼荼羅は極楽アイランドのガイドマップだとつくづく思う。
藤原南家郎女が幻視したのは山越え阿弥陀図だったが、中将姫は極楽アイランドを見ている。どちらにしろ尊い喜びを生きながらに視ているのだ。

當麻曼陀羅の巨大な版木があった。2M四方のもので、この隣にそれで摺った曼陀羅も展示されている。かなり繊細な作りで、よく出来ていると思った。
元禄年間のもので、たいへんきれい。

迎接曼陀羅 きれいに色も残っている。金と青と緑と少しの朱と。

地獄極楽図 黒谷さん所蔵の屏風。彼岸と此岸と。そろそろあの世にいこうという人の頭上に丸い赤いものが浮かんでいる。
それは風船のようにふわふわと浮かび、何かを追うている。閻魔王の前でも亡者の真上にふわふわ。
炎に巻かれた地獄では鬼たちが大忙し。その様子を対岸の仏たちがぼーっと見ている。

二河白道図 薬師寺のものは南北朝、香雪美術館は鎌倉のもの。
薬師寺のほうが極楽が大きい。
三尊の鎮座する台座も大きく、仏もその地も金色に輝く。
香雪はむしろ地獄が大きい。極楽は遠く、寝殿づくりの建物が見えもする。
正直なところ地獄極楽を見ると必ず思い出すことがある。
泉鏡花「海神別荘」のラストシーンで、公子が美女に語る台詞「男のいる天国に女はいない、女のいる天国に男はいない」・・・さて。

六道絵 拷問を受ける亡者たちの中には、どう見てもマゾヒスティックな喜びにうち震えているようにしか見えないものもいた。無惨な様相でありながら妙に惹かれる。

絵を見てから振り向くと、いきなり閻魔王や奪衣婆、極卒らがいた。ご丁寧に炎メラメラまで再現されている。
中山寺の閻魔堂の彫像を持ってきたそうだ。中山寺は妊婦を守るので有名なお寺。梅もきれいで三十三カ所の一つでもある。
こういう展示があるのもいい。
そういえば数年前の大阪市立美術館「道教の神々」展でも彫像をうまく配置していて、とても面白かった。

第四章 ありがたい方々の“絵解き”
行基菩薩、弘法大師、聖徳太子、法然上人、親鸞聖人らの一代記などが集まっている。

行基菩薩行状絵伝 鎌倉時代 家原寺所蔵とあるが、その家原寺こそ行基菩薩の実家の後身なのだ。
絵伝は下から上へ向かって物語が進むが、三幅目の最上部にし東大寺が描かれている。
行基菩薩は全国を歩きに歩いて、今も善なる伝説が残る。

それにしても比丘尼ちゃん・こびくにちゃんらが適宜に現れて、可愛く解説しているのがいい。

弘法大師絵伝 鎌倉時代 丁度展示期間を等しくして、東寺の宝物館で「弘法大師行状絵巻」が展示されていた。こちらは絵伝なので、縦型。

石山寺の弘法大師絵伝もある。石山寺は縁起絵巻のいいものもあるが、ほかにもこうした絵伝があったのか。
江戸時代のもので、平明なわかりやすい絵である。
絵の真ん中に四天王寺の西門で日想観をこらす大師がいた。
「蒼海雲ニ連ナリ赤日波ニ映シテ迷悟一如・・・」詞書一つにもときめく。

法然上人行状絵図 巻第四十八 知恩院所蔵の国宝。これは近年に全巻一挙公開を見せてもらった。いいものを見たと思ったが、こうして再会すると、あのときの嬉しい気持ちが蘇る。

結局のところ、物語絵というものはそうした力をもっているのかもしれない。
絵をまた見たい・その物語を味わいたい、という欲望。

一光三尊仏絵伝 文化10年(1813)ころの作で、さすがに絵の色も線も崩れはしない。
信貴山や善光寺などもある。物語を追いながら絵を見るのが楽しい。

聖徳太子絵伝 数年前、かなりの数の絵伝を見た。あれ以来か。三点ばかり見たが、いずれも平安朝の風俗。

二歳の像と16歳の孝養像があった。二歳像は可愛い坊主頭である。
すると、比丘尼ちゃんの独り言があった。
「キリッとして・・・うちのこびくにとは大違いなのじゃ」
こびくにちゃんはこびくにちゃんで、「うちの師匠も見習ってほしい」とかどこかでつぶやいていたし。
・・・いいなあ~こういう師匠と弟子ww

ところでここは龍谷大だから浄土真宗になるのか、わたしは別な宗派の人なので知らなかったが、堅田の源兵衛の殉教という話がある。蓮如に関わる物語だということで、その説明がたいへんよかった。
台詞を現代語に替えているのだが、絵解きされている気分になった。
可哀想な物語だが、門の外に佇むわたしにはちょっと理解しにくいのだ。
だから絵解きされると、否応なく心に落ちてゆくだろう。

滋賀の興教寺に伝わる肉付の面があった。
小さい頃から愛読する「おばけを探検する」に紹介されていた伝承。宗教の宣伝とかそういうのは措いといて、話として面白い。

シアターで熊野観心十界曼陀羅の絵解きを上演ということで、観賞する。
すると形は比丘尼ちゃんとこびくにちゃんなのだが、どう見てもオッチャンとおねえさんのコンビの比丘尼ちゃん・こびくにちゃんが絵解きをするではないか。
なかなか面白かった。
また、お坊さんによる十王図の絵解きもあった。
この2本が繰り返し上映されていたが、我が愛する忠太の伝道院では、実際の絵解きが行われた日もあるのだった。

わたしが本当に絵解きを見たのは、もう20年も前に善光寺そばの刈萱道心ゆかりのお寺でのこと。わかりきっている話なのに、住職の奥さんの絵解きが余りに巧く、聞いていてわたしは涙が止められなくなった。
そしてその数年後にも絵解きを見に行ったが、相客が臨月の女の人とそのお母さんで、こんな様子の人があんな悲しい物語を見聞きしてええのか、と他人事ながら心配した。

第五章 寺と神社の“絵解き”
善光寺、長谷寺、清水、道成寺などなど。

温泉寺縁起絵 室町時代 有馬温泉の縁起絵らしいが、地獄めぐりの体裁をとっている。
上がりはあれか、極楽温泉なのか。
かなり痛んでいるので、実際に使われていたようだ。

長谷寺縁起 奈良の長谷寺所蔵 室町時代 これも近年展覧会で見ている。
鎌倉の長谷寺でも模本を見たような気がする。
神仏自ら働くのが面白かった。風神雷神を始めとしてよく働いている。

清水寺参詣曼荼羅 月初まで東京のサントリー美術館で御伽草子が展示されていたが、そこにも清水参詣曼荼羅があり、平安から室町頃の清水の重要性と言うものが伝わってきた。この参詣曼荼羅も多くの人々が描かれ、ところどころにフシギが隠されてもいる。

道成寺縁起 これも何度か見ているが、非常に興味深い。清姫が炎を吐きながら安珍を追うところはチケットにも選ばれている。安珍は鐘の中から黒焦げの骸骨で現れる・・・
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江戸時代の「鐘巻由来図」は最初から絵解き用に拵えられたものらしく、絵もやや作りすぎの感があるが、これはこれで面白い。あざといくらいの造りだが、面白さは強い。

時光寺本尊縁起絵 阿弥陀さんバラバラ事件。海から続々と引き上げられる阿弥陀像の体のあちこち。手首だけが見当たらなかったとか。
これを見ていて思い出すのはギリシャの映画「ユリシーズの瞳」か。テオ・アンゲロプロス監督はよく古代ギリシャの神像が海から引き上げられるシーンを唐突に挿入していた。

第六章 旅する“絵解き”
色んな寺社の参詣曼荼羅図がたくさん出ていた。
それを見ていると、遊山のガイドブックのそれと変わりはないことに気づかされる。
道理でいつ見ても楽しい心持になるのだった。

八坂塔法観寺参詣曼荼羅図 真ん中に塔が立ち、周囲に建仁寺や鳥部野の風葬地帯(白い墓が立っていた)、清水、八坂神社などが描かれている。五条橋、四条橋もある。
1人だけ巨大な僧侶がいるなと思ったら、浄蔵だった。みんなが彼を拝んでいた。
その法力で傾いた塔をまっすぐにしたらしい・・・

成相寺、義峰寺、長命寺・・・いずれも見れば見るほど面白い。
長命寺参詣曼荼羅は白洲正子の展覧会でも見ているが、素朴な面白味がある。

熊野那智参詣曼荼羅図 ああ、海岸には補陀落渡海の船がある。松田修の本で、この渡海行を知り、非常に怖がったわたしだが、それは強烈な魅力を放っていて、わたしを引き寄せてしまう。いつもいつもゾワゾワしながら那智熊野参詣図を見ている。
当然ながら烏や滝には不動明王の従者コンガラ・セイタカ童子が行者を佐ける姿もある。
見れば見るほど深く惹きつけられる・・・

熊野観心十界曼荼羅 クリックしてください。かなり大きく出ます。
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実物を最初に見たのはこれとは別の六道珍皇寺所蔵分。今回も出ている。
画像の曼荼羅が映像の絵解きにも出ていたのか。チラシにも選ばれている。
上部には「老いの坂」があり、その下には地獄模様。女である、と言うだけで何故こんな苦しみを受けねばならないのか。
そういえば少し前の「鬼灯の冷徹」で女人救済の話がちらっと出ていたのを思い出す。

立山曼荼羅 白い雷鳥が飛んでいる。立山らしさを実感する。山には雪も残る。
鬼たちに苦しめられる人々。松がやたらと多い。

慶應二年の立山曼荼羅は色が鮮やか過ぎて、今出来のようにも見えた。なんだかポップな感じもある。

飯縄権現像 飯綱権現かと思うのだが。「縄」なのか。狐に似た野干に乗り、飛来する権現。下方には天狗たちがいる。桃山時代。
大和和紀「イシュタルの娘」には飯綱権現が登場していたが、あれも舞台は安土桃山から江戸初期なのだった。

ほかに熊野比丘尼のしてはいけないことなどを書いた書状などがある。
まだちびっこの比丘尼ちゃん・こびくにちゃんたちには無縁な、ちょっとオトナな戒めである。

終章 今を生きる“絵解き”
能面がいくつも出ていた。いずれも彦根城博物館から。
また国芳「京鹿子娘道成寺」もある。
最後にこうしたところを出すのもいい。

たいへん面白い展覧会だった。またいつか比丘尼ちゃん・こびくにちゃん・こおにくんたちの旅が終わり、「絵解きってなぁに?2」が開催される日を待っている。

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