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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

伊藤小坡の世界

名古屋の古川美術館へ「伊藤小坡の世界」展を見に行った。
小坡は上村松園と同世代の京都画壇の女流画家だが、彼女は伊勢の猿田彦神社の宮司の娘として生まれ、京に上り画業を達成した。
古川美術館は中部地方有数の近代日本画コレクションを主軸とする美術館である。
そこでこうした美人画を見るのは楽しい。
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小坡は歴史画の谷口香嶠に弟子入り後、伊藤鷺城と結婚し、日常生活の中の女性の美を追求した。大正六年には皇后陛下の前で揮毫もし、そのときの記念写真を前によそで見た。
やがて昭和3年には竹内栖鳳門下になり、その後も長く活躍した。

☆歴史・古典へのまなざし
最初の師匠が歴史画の人と言うことから古典に材をとるようになった。

納涼図 明治後期~大正初期 小舟に遊ぶ唐美人。小さい花々が咲く。

秋好中宮図 手に紅葉一つ持つ。女郎花、菊、桔梗といった秋草が彼女の周囲に咲く。
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草紙洗小町 この小町はなかなかアクティブで、耳盥に草紙を突っ込んでジャブジャブ洗っている。潔白の証明のためというより、怒っているのを感じる。手の荒さに気持ちが表れている。

五節舞 頭に紅梅をかざし舞う少女。優美な様子。絵の上部には色紙がついている。
これは京指物資料館の所蔵。こういうところもあるのかと知る。

春野辺図 昭和30年に伊勢の小学校の子どもらのために制作。平安朝の子どもらが、菜の花を摘む図。少年も少女も愛らしい。ぼうぼう眉も床しく、足元のスミレも可愛い。
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☆等身大のまなざし
小坡は主婦と画家とを両立させた。ただし年によっては出せない時期もあったが、大方はがんばっていた。旦那の鷺城が彼女の画業の手伝いをした、というのもいい話だ。

はじらい 大きな画面に、茶の稽古中の娘さんとご年配の婦人とがいる。娘さんは身を曲げながら、にしゃあと笑っている。照れ笑い。頬が染まっている。含羞。着物は源氏香文様。隣の老女は親切に娘さんにさぁさぁと勧めてくれている。
何事もそうだが、やはりこうした席には親切な老婦人の存在は欠かせない。とてもリアルな実感がある。

制作の前(下絵) 顔もやや古い。櫛笄を写したもの・蝶を写したものなど手帖を眺め、構図を練る図。

つづきもの(下絵) 本画もいいが下絵を見ると色々気づくことも多い。カレンダーの違いなどなど。

洗濯の女 大正半ば過ぎの、いかにもな顔立ち。ちぐさ柄の着物の女が素足で立つ。それだけでも清々しい美しさがある。
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☆小坡 家庭へのまなざし
ここにあるのは全て個人蔵で、おそらくは小坡の子孫の方がお持ちのものだろうと思われる。袱紗(小坡は帛紗と表記した)、鏡カバー、扇子に色紙。ひして節句ごとの健やかな絵など。

春日逍遥之図 被衣(かつぎ)美人が傘を持つ侍女と共に春日野を逍遥(お散歩)する。松も青々と茂り、めでたい景色。娘さんへ。

万歳楽 鳥兜のきりっとした男性の舞手。赤い袖が綺麗。上に色紙を散らす。お孫さんへ。

端午之節句図 こいのぼりの下、春駒のおもちゃに跨り兜をかぶる男児。その手には菖蒲。

義家武装之図 胴丸に不動図。リアル。これは旦那の鷺城が描いたのか。鷺城は京の歴史文化保存会会長だった。吉川観方の勉強会にもこの夫婦は参加していたそうだ。

扇子には五節舞の少女たち、鏡カバーには御所人形が亀を抱っこのめでたい図。
色紙にはその白肉さんたちが鯛車を曳いたり、洋ナシ、熟れたバナナ、うちわ持つ娘、室町風俗の夫人の横顔なとなどが描かれている。
袱紗には高砂、松竹梅などの吉祥図。

☆小坡周辺
師匠の作品(前期)、彼女の図案(後期)など。
ふたたび「京指物資料館」所蔵品が出ている。
平安堂伯図案集「柘榴」「撫子」、家具の図案などなど。

鷺城ともども手がけた「歴史写真」表紙絵もある。
紅葉の賀、白馬節会、小野篁、都の花、曲水宴、太田道灌、楠公などなど。
「年輪」「平安」といった雑誌の挿絵などもある。後者は京都府警の刊行雑誌。
うちわ美人、花の下、武士たちなどなど。
「義手重盛を趁う(お・う)」といった難しいものもある。

☆小坡芸術の華 美人画
栖鳳門下となり、松園さんと同門になったことで小坡も描く方向が変わったそうだ。
同時代の批評家の一文を読むと、男向けの美人を描いてはいないというような意味のことが書かれていた。
別にそれでいいと思う。彼らだけが愉しむわけではないのだ。
むしろそうした官能性を排除したことで、健全な描き手として長く活躍できたのだろう。
可愛らしく清い美人画をみる。

花吹雪 明治後期。リアルな時代感覚がある。海老茶袴の女学生が花吹雪に着物を抑える。髪には桜が飾られている。明治の女学生。

夏之朝 「朝顔につるべ取られて」図。確かに色っぽさのない美人。にんまり笑うのがいい。
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涼み舟 柳の下で紗か絽かを着たぽっちゃりした女がいる。

ふたつのひな祭り図がある。構図も似ている。違うのは衣裳の色など。青と赤。
見比べるのも面白い。昭和のは寝殿造りのハウスつき。いずれも楽しそう。
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美人図 つぼおり装束の美人。市女笠を手に持ち微笑む。被衣美人。

虫売り これは人気のある絵でしばしば見かける。虫売りの女とお客たち。夏のささやかな喜び。

松の内 砧青磁のような色地に海松貝の柄の入った着物。羽子板を持つ娘の簪も可愛い。

浴後美人 簾に風鈴。手ぬぐい美人。ほっとする時間。

紅葉狩 鼈甲の櫛を差す。享保の頃か、カモメヅトという髪型。

春寒 こたつによる女。膝掛けをしながら謡本を見る。
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舞妓 ふっくらした可愛い舞妓。赤地に紅白梅の柄。

元禄頃美人教示之図 右隻に元禄花魁美人。丸に雪月花、春秋などの文字が入った着物を着ている。足付きの文箪笥にもたれながら、手には源氏物語を持ち、左隻のかむろを見ている。
左隻のかむろと白オウムはねえさんをみている。
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山内一豊の妻 大正末の「キング」誌の口絵になった一枚。今から思えばこの話も・・・

昭和六年に十二ヶ月色紙をこしらえているが、これは野間記念館で見たかもしれない。この連作は講談社の社内報の表紙絵でもあった。

いいものをいろいろ見てから、今度は為三郎記念館で「高北幸矢インスタレーション 落花の夢」をみた。
雨が激しい日に行ったので庭園散策はできなかったが、見事な和風建築と、そこに繰り広げられた木彫の椿の群に魅せられた。
またいつか見たいと思う。

さすがに古川美術館はいいものを見せてくれる。
12/16まで。
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