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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

白川義員写真展「永遠の日本」

2013年、年初に当たり白川義員写真展「永遠の日本」をまず見に行った。
阪神百貨店での特別展示である。
白川義員は地球の自然を捉える写真家である。
今回の「永遠の日本」は「地球再発見による人間性回復へ」という連作の最終作だという。
白川は言う。
「日本の自然は、どこまでも鮮烈で、荘厳で永遠なのだ」
この言葉を事実として我々に提示するために、日本各地の壮麗な絶景をここに終結させていた。

五年前、この阪神で白川は「世界百名瀑」展を開催したが、実際わたしが白川の写真を見るのもそれ以来のことだった。
今回は四部構成で作品が並んでいる。
名山・名瀑、湖沼・森林・渓谷、高原・湿原、海浜・島嶼として、130点のパネルが壁面を飾っていた。

白川義員の写真といえば、自分の認識する自然風景の配色から大きく踏み出した色彩を見せてくれるひとだが、今回はどうだろうか。
極端なことを言えば自然風景の色彩といえば、朝焼けの赤、新緑の緑、紅葉の赤・黄色・橙、雪の白、昼の青、という大くくりができる。
それをベースにして、さらにそこから一歩も二歩も進んだ先の風景を見せてくれるだろうが、それでもあまりにかけ離れたことはないだろう・・・
と、そんな軽い気持ちで会場に入った途端、大きな衝撃が訪れた。

剣岳がそこにあった。
朝焼けする剣岳である。陽のあたる斜面はあくまでも赤いが、その陰になる稜線とその一帯が、赤紫色に染め抜かれていた。
赤と赤紫の色に二分された表面の向こうに山の線が刻まれている。
崇高、という言葉が思い浮かぶ。永遠の一瞬というものが唐突に理解される。
ふと、この山をどうしても登らねばならない男と、強力(ごうりき)の男とが語り合うシーンが、自分の胸のうちで開始される。
そんな架空の対話が少しばかり続き、二人はこの剣岳に向う。
わたしは自分の妄想の声を聞き、眼前の剣岳の朝焼け写真を見て、目の表面が潤いだすのを感じていた。

また黎明の剣岳も真っ青な空間に閉じ込められていて、こちらの肺まで青に染まりそうだった。雪に覆われた剣岳もあるが、やはりあの朝焼けの剣岳の崇高さが、長く胸に残っている。

桜島がある。写真家と言うものは一枚の写真を撮るためにその数十倍の時間を費やす。
一瞬のシャッタータイミングのために膨大な時間を費やし、それでも自然に蹴られることがある。
桜島早朝噴火 nec045.jpg
もこもこした噴煙と白い月。この配置での風景など、多くの人は誰も捉えられないのだ。
唐揚げのようなモコモコ噴煙に引き寄せられて、「永遠の一瞬」を実感する。

そしてまたも大きく噴火する桜島がある。噴火の光線は美しい。
nec044.jpg
精錬所のそれを思い出したが、精錬所の鉄の誕生こそ、実は噴火を母とするものなのだ。
手元で楽しむ花火の火、それもこんな光線を見せてくれる。魅力的な光の線条。

北海道の銀河・流星の滝がある。懐かしい。わたしは19のとき、大学の募集旅行で見に行った。とても楽しいツアーだったが、この滝を見ているとき、別なハナシで友人と盛り上がりすぎ、滝の記憶が飛んでしまったのだ。しかしそれでも懐かしい、と感じる。
実景を覚えていないのに、それでもこの美しい風景を懐かしく感じるこの心こそが「永遠の日本」、それを支える一部なのかもしれない。

華厳の滝の美しい写真がある。白川のメモも面白い。藤村操の自殺で一気に有名になったのは知っているが、その時代のことしか知らず、何故「華厳の滝」かをここで教わる。

前回の「世界百名瀑」展では世界中の滝に関する専門家が集まって(ヒラリー卿も含む)協議したそうだが、そこで白川は山形県にある滝を教えられて驚愕したそうだ。
ここにある写真も素晴らしかった。
日本にはまだまだ知られぬ風景が多く生きている。

かいらぎの滝 五年ぶりの再会。懐かしい。正直ちょっと怖くもある。

天人峡 こういう形を自然は作り出すのだから、人智など高が知れている。
それにしてもなぜこの岩肌が薄紫なのか。わたしはそのことにも打たれている。
nec045-1.jpg

知床連山の連作をみる。面白いことに見学するオジサンたちの大半が口々に疑問をのべる。
つまりこの配色になるのがわからん、ということである。
わたしなんぞはシロートもシロートだからホウホウと感心するばかりだが、ここにいるオジさんたちの大半はカメラ担ぐヒトビトらしいので、そんな「?」が横行しているのだった。
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知床連山赤変 ああ、やはりここでも影は赤紫色になる。

流氷と知床連山 青と白だけの世界。緯度の関係で白夜に近いのでは、と錯覚させられる。
むかし「キタキツネ物語」という感動的な映画があった。一匹の若い雄のキタキツネが流氷に乗って北海道にたどりつき、雌と出会い子を育て、子を失い、生き残った子に後を託し、ついには再び流氷に乗って元の地へ戻ってゆく物語である。
わたしは流氷を見るたびに必ずあのキタキツネを思い出す。そして胸が熱くなるのだった。
nec042.jpg

日本の美は秋に尽きる。
春の美しさ、夏の楽しさ、冬の厳かさも捨て難いが、風景としてはやはり秋が最上だと思う。白川義員の切り取る日本の自然も新緑の頃と秋とが多いように思った。

白神山脈と岩木山 実景を知らないわたしはこうした風景があることにも感銘を受ける。
nec041.jpg

志賀高原蓮池 色の氾濫。そうとしか言えない。映画カメラマン・クリストファー・ドイルの映像を思い出した。あれは美麗な造形だが、このシャシンは白川の加工したものなのか・それとも自然の摂理が生み出した情景なのか。
わたしには全く判断できない。しかしこの色の氾濫としか言いようのない景色にはただただ驚くばかりだった。蓮池と言うのが実際にはすの咲く池のことを言うのか知名なのかすらわからないが、池の表面には蓮の残り(敗荷)というより、ジュンサイのような植物がフツフツと現れているのが興味深かった。

雄大な釧路湿原、この朝の景色はまるで須田国太郎の絵のようにも見える。
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ノトロ湖サンゴ草 赤い草は珊瑚のようにみえる。
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蒜山高原 青紫の遠山と陽を受けるススキと。ぞわぞわした。
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太陽柱を捉えた写真もあり、また撮りにくいとこぼす仙石原もあった。
いずれも一枚一枚真摯な作品である。

熊野灘橋杭岩暁天 もう、ただただ唖然と眺めるだけだった。
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岳岱原生林 凄まじい緑だった。原始の新緑。あまりに凄まじすぎて、人の入る余地などない。しかしここにはフェアリーが住んでいそうな気は、した。

鳥取砂丘の写真を見ていると話しかけてくる人がいたので相槌を打ったが、それにしてもやはり素晴らしすぎる。だから感銘を見知らぬ人にも伝えたくなるのだ。

最後に新舞子夜明けをみる。nec045-2.jpg
こんな風景があるのも日本なのだ。

深い感銘を受けて、会場を出ると、常にスーツ姿の白川義員が今回も礼儀正しくサインを毛筆で行っていた。「永遠の日本」。この姿勢にもそれが感じられた。
見事な風景を見ることから始めた2013年の展覧会の幕開けになった。
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コメント
おもわず
 手を合わせたくなるような 崇高な 神がかったけしきの一瞬を
 とらえる方ですね。 雑誌の写真では 見たことありますが・・・
 かいらぎの滝 どこにあるのでしょうか。
2013/01/06(日) 06:37 | URL | 小紋 #-[ 編集]
まったくそのとおりです
☆小紋さん こんにちは
実際みていると涙がにじんできました。
すごい写真でした。

>  かいらぎの滝 どこにあるのでしょうか。

山形県です。岩肌がそのようにも見えました。
日本に生まれてよかったなぁと強く思う展覧会でしたよ。
2013/01/07(月) 09:38 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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