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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

濱野彰親展

弥生美術館の濱野彰親展は、現役の挿絵画家の回顧展であった。
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濱野は現在も達者に津本陽の作品に対し、シャープな挿絵をつけている。
つけている、と便宜上表現したが、文と絵とは同等の存在だとわたしは思っている。
作家と挿絵画家とのコンビはその昔「飯と汁」と表現されたように、離れ難い存在である。添えば添うほどに二者だけでなく読者にとっても、決して消えてもらっては困る存在なのである。
早い話がパッと見したとき眼に入るのは文章ではなく絵である。
その絵は一瞬で読者の気を引かねばならない。心を惹きつけ、抱き寄せ、そして本文へと誘う。そこから本当に読み物が始まる、とわたしは思う。
そういう意味で言えば、わたしは挿絵で抽象表現のものは全く関心を持てない。なんのためにあるのかさえわからない。
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現在、現役として活躍中の挿絵の大家を少しばかり挙げる。
中一弥、蓬田よしひろ、そしてこの濱野である。
名は思い浮かばずとも、作品の話をすればすぐに思い浮かんでくる絵、それが彼らの絵である。
池波正太郎没後20年を経た今になっても、やはり秋山小兵衛は中の描いた小兵衛でないといけないし、幕末から明治へ時代を移しても、「かわせみ」の連中は蓬田の描いた人々がちょっとばかりハイカラになって出てくるだろう。
同じことは佐藤さとるの童話にも言える。何があろうとやっぱりコロボックルたちは村上勉の絵でないと、信じられない。

濱野は世に出た最初、漫画家仲間とつきあいがあった。
加藤芳郎、富永一郎など。
カストリ雑誌でデビューしたらしく、その頃の作品があった。ダンテ「神曲」などである。
やがて田代光のところに出入りするようになり、小松崎茂、御正伸らとつきあうようになった。
御正は既にこの弥生美術館で回顧展があったが、いつか田代光も見てみたいものだ・・・
関係ないが、田代光の姪御さんに当たる水彩画家・田代智子さんとツイッターでお話したとき、田代の厳しさなどを聴いた。しかし挿絵仲間の評判は決して悪くない。田代の仕事に対する姿勢をこのエピソードから感じさせられる。

やがて挿し絵界の大御所・岩田専太郎に雑誌で紹介されるようになる。
そして濱野の本格的な仕事は昭和30年から始まる。

火野葦平「花の座」「魔女宣言」「青空の街」などがある。三好徹は「帰らざる夜」がある。
いずれもシャープな描線で都会的な魅力がある。

猫とのトラとミーと一緒の写真がある。かわいい猫たち。
濱野は自費で「B5の絵」という画集を刊行している。
その記念パーティには実に多くの人が集まっている。
絵自体は冤罪、ホームレスなど社会派的な題材が多い。
モノクロで描かれた、描きたいものだけを描いた画集。

時代が進んでついに週刊マンガブームの時代が来た。
今もある週刊TIMESがこの業界での嚆矢として刊行された。やなせたかしの「花火の女」が表紙絵として出ている。時代の空気を感じる。

濱野と川上宗薫のコンビの仕事が多い。
吉行淳之介との仕事もある。どちらもアダルト系。ペン画のシャープで色っぽい絵。

「別冊現代」の表紙絵もある。中間小説ブーム。純文学と大衆小説の間。この分野はわたしも好きだった。
ペン画もいいが、フルカラーもとてもいい。職人としての濱野の力を感じる。

結城昌治、梶山季之、佐藤愛子、菊村到、源氏ケイ太・・・錚々たる作家との仕事が続く。
昭和30~40年代の文士の時代である。
寄せ書きを集めた屏風もすごい。こちらも名前を見るだけで「おうおう」と声を上げてしまう人々ばかりである。
田辺聖子、津村節子、平岩弓枝らとも組んでいる。

梶山の遺作「罪の夜想曲」の挿し絵を見て、この小説が読みたいと思った。女巌窟王という世界観も面白そうである。
そして松本清張「黒革の手帳」の挿し絵がある。勢いがあるが抑制された筆致がいい。
「迷走地図」「数の風景」などなどこちらもシャープな作品である。

清張とのコンビ作品が多い分、いろんなエピソードがある。
飛行機で出張する予定なのに清張が遅刻して飛行機が飛んでしまった。
やっと到着した清張を待っていたのは濱野と編集者だけである。
照れ隠しに清張が言う。「飛行機は待ってくれなかったかね」
それに対し濱野は優しく答える。
「作家を待つのは編集者と挿絵画家だけですよ」wwwww!!

光瀬龍、富島健夫、藤堂志津子、和久峻三、夏樹静子、ねじめ正一、花村萬月、深田祐介らとの仕事もある。
おお、深田「神鷲商人」もか。知ってる作品が出ると嬉しい。

'88年から徳間書店が刊行し始めた大仏次郎の文庫の表紙はすべて濱野の仕事となった。
自分の持ってる本もチェックしなくては♪
森村誠一、多岐川峻、黒岩重吾らの仕事も多い。

そして山崎豊子「大地の子」の挿絵が多く出ていた。
わたしはこの物語の重さに耐えられず避けてきたが、やはり挿絵を見、要約された物語を見るうちに、読むべきだという気持ちになってきた。
絵の力が、こんなわたしのようなものをも動かすのである。

山崎とは「二つの祖国」でも組んでいた。近年は津本陽との仕事が多い。そして逢坂剛の「ハゲタカ」シリーズも濱野だった。

大人向けの小説以外の仕事もある。教科書に「コースチャ坊やを救え」という読み物があるが、その挿絵が濱野だった。そしてわたしはそのコースチャ坊やの事件が20年前だったことに仰天した。
えーーっあの子が北海道に搬送されてきたときのこと覚えてるよーーーっもぉ20年も経ってるんかーーーっ

ほかの仕事では、何十年も前から唐招堤寺のうちわ撒きのうちわを奉納していたり、アクリル画で可愛い猫の絵もある。

濱野はまだまだ現役画家である。
今後もどんどんいい仕事を続けてほしいと思う。
いい企画だった。 
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