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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

須田国太郎展 没後50年に顧みる

須田国太郎の回顧展が昨年から開かれている。
わたしはようやく今の京都市美術館で見ることができた。

巡回先のチラシを色々手に入れた。ちょっと挙げてみる。
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こうして眺めると、赤目の犬と塔と鵜とで占められている。
わたしは「鵜」で須田に奔った。それまではどうもニガテだったが、「鵜」の良さに震えてから、須田が非常に好きになった。
ただしこれは油彩の話で、彼の「能狂言スケッチ」は2002年に見て以来、どうにもならないほど好きでいる。

始まりの葉山で見る機会があったが行き損ね、京都で待った。
待ったが、正直なところ今回の展示はどうもあまりパッとしない。
その作品がよくないのではなく、作品の展示の方法がよくなかったのが原因だと思う。

須田は京都帝国大学で美学を学んだあと、スペインに行った。
スペインに行ったことで、あの重厚な作風が生み出される土壌が培われた。
そのことを思うと、須田が道を間違えなくてよかったと思う。

須田の油彩は一言で言うならやはり「重厚」である。
重苦しい色彩の配し方が記憶に残るひとである。
それを見るにはある程度の明度を上げなくてはならないと思う。
だが、全く無念なことに、初期から中期の作品の大半は、二重の防護ガラスの向こうにあり、偏光グラスを掛けでもしない限り、まともに見えなかった。

絵を入れた額縁にまずガラスがある。そしてそれを壁面展示するとき、その壁面全体を覆うようなガラスケースがあった。それが非常にまずかった。悪条件の中でも名品は生きているはずだが、映りこみすぎて、余分なものが絵の中に存在してしまう。
眼は描かれた絵とそこに移りこんだ不要なものとの区分けをしない。意識的にその部分を捨てると、絵そのものまでが削られる。
今回は本当に困った。

近年展示ガラスや照明の技術力がそれこそ目覚しいほどにアップした。
東博、出光、サントリー、汐留といった東京のミュージアムでの進化した展示スタイルに慣れてしまったことが、わたしの場合アダになったのかもしれない。
公立美術館にそこまで求めるのは、このご時勢に惨いかもしれない。
しかしこれだけ見えないと、やはり考え込んでしまうのだ。

また、須田の晩年に近い時代以降の作品は個別のガラスケース越しに見るからか、ストレスは殆どない。そしてこの美術館が開館した当初から使われているレトロな床面設置のガラスケース越しで見るスケッチ類も、見ることに何の不自由さもなく、昔のガラス特有の歪みがそこにあっても、ちっとも気にならないのである。

わたしか行った日は土曜日の午後で多くのお客さんがおられた。ご年配の人も若い人も多く、にぎわっていた。そして鑑賞するのにアクションがなかなか激しかった。
つまり「見ようとして」動くのである。
この動きを含めての「体験的鑑賞」だというなら仕方ないが、おそらくはこれは意図の外のこと、もしくはやむなくの想定内のことかもしれないが、それにしてもやっぱり見えない。

わたしはもうすっかり諦めた。
大型ガラスは私自身と須田作品を二重写しにしてくれるが、わたしは須田だけの作品が見たいので、かなしくそこを離れ、個別展示へと移った。

'05年秋に須田国太郎展が京都国立近代美術館と東京国立近代美術館とで開催された。
そのときの感想はこちら
このときに色々と見ているのを思い出しながら、絵を見る。

須田は動物好きな人だという話で、実際に猛禽類を始め様々な生き物を描いている。
たゆまぬ観察が眼を肥やし、描き続けることが技術を向上させる。
須田の能狂言スケッチは闊達な動きを捉えているが(「動かぬゆえに能と言う」という言葉もあるが、須田のスケッチは演者の動きを鋭く捉える)、動物スケッチは静かな様子を捉えている。
本画にそのまま移行することの可能なスケッチだと思う。
能狂言スケッチはそれ自体で完結し、油彩になったものとスケッチとの間には断裂がある。決して連続していない。
動物と能狂言と。この違いが非常に面白い。

今回わたしの愛する「鵜」も「歩む鷲」も出ていない。同時期に向かいの京近美に「鵜」が出ているのを確認している。「歩む鷲」も疲れたか、東近美で羽を休めている。

鳥で出てきたのはフラミンゴの群れと、向かい合って黙って枝に止まる二羽の鳥たちである。種族は知らないが、どうも別な属の鳥たちらしい。
わたしはこの向かい合う鳥たちに惹かれた。

スケッチがある。レトロなガラスケースの中にあり、見下ろす形で眺める。
本画と違い、のほほんとした空気がある。
まだこの本画もそんなに緊迫感に満ちてはいないが、基本的に須田の作品は強い緊張を強いられる気がする。
わたしはようやくここで息をつく。

各地の須田展のチラシを細かに見ると、色々な違いがあって面白い。中でも気に入ったフレーズを抜書きする。
葉山では「困難な時代にあって、須田国太郎の強靭な精神にあふれたその芸術に接することで新たな生きる力を得ることを願っています。」
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左上から右上へ向けて、筆石村、窪八幡、自画像、ハッカ、グレコ・イベリアの首、雪の比叡山。

茨城は「暗く濃密な陰が、あたかもその奥底から見えない光を放っているかのような作品の魅力を『陰影、燦燦』と表現してみました」
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上左から右へむけて、自画像、黄豹、バラとアザミ、犬、真名鶴、走鳥、窪八幡。

また石川では「商戦直後四ヶ月ほど須田は加賀に滞在し、片山津や大聖寺、那谷寺などの近隣を描き、小松で講演や講習会を行い、また金沢へは愛好した能の観賞に出かけるなどしています」
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左上から、須田の写真、アーヴィラ、発掘、椿、犬、鵜、真名鶴、窪八幡。

鳥取は「京都にアトリエを構えながらも、須田はしばしば山陰地方にも写生に訪れ、田後や隠岐などの風景を描くと共に鳥取大学で集中講義を担当し、郷土に所縁のある多くの作品を残しています」
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上から、水田、法観寺卒婆、真名鶴、漁村田後、断崖と漁夫たち、海亀。

京都は、かなり難しいことを書いているので割愛するが、短いながらも立派な須田論になっている。
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チラシ裏はここだけ単一色であるが、上から発掘、神域にて、犬、走鳥、戸外静物。

須田は晩年は寝たまま絵を描く状況になるが、あちこちを旅していたのがわかる。
そして出かけた先で自身の芸術を深めるだけでなく、若いヒトビトの心に種を蒔き歩いた。

最後の巡回先の島根のチラシは残念ながらまたせ手に入れていない。
しかし5ヶ所それぞれの意図するところなどが見えて、興味深く思った。

今回の京都展で気に入った(元から好きなものも含めて)作品を集める。
黄豹 暁闇の中に金色のボディを輝かせて身を起こす豹。
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対話・鴨とはげこう スケッチからしてどこかユーモラスだったが、本画もいい。濃密な闇が薄れた分、ちょっと軽妙な風情が出ている。
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海亀 前回の須田展で見たときもこの絵を見て「ガメラや~」と喜んだが、やっぱり今回もジェット噴射するガメラにしか見えなかった。かわいいガメラの絵。
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最後にほんの少しだけ「能狂言スケッチ」があったが、ほぼスルーされていたと言ってもいい。しかし本当に須田の作品を回顧するのなら、この能狂言スケッチの一群は置き去りに出来ないものなのだということを、せめて文章だけででも知らしめるべきだった。
武智鉄二らが戦中に開催していた断弦会などの場で、須田は熱心にスケッチし続けていたのである。時代背景を思えば、須田の精神力の強靭さと芸術への執心、古典芸能への偏愛の深さは、驚くほかはない。

今回は一つ一つの作品について自分の感想を書く、と言うことはあえて避けたが、やはり須田の良さに痺れたのは確かだった。
気軽に眺めることが出来たのは、学生時代の手作り同人誌「竹馬の友」表紙絵を見たときだけだった。
京都では2/3まで。次は最後の巡回地。島根へ向うらしい。

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コメント
ガラス棚
須田国太郎を検索してこちらのサイトに
辿り着いた者です。

気合の入った感想を拝読させて頂きました。
須田を大事に思っているご様子が
伝わってきます。

京都市美術館の展示がぱっとしないとは、
実はわたしも似た感想をもちました。
ご指摘のガラス棚?がネックだったと
おもいます。
あのガラス棚は備え付けなのでしょう、
撤去できなかったものかと残念に
おもいました、


2013/02/21(木) 00:47 | URL | 後藤純一 #gfAHeF2.[ 編集]
はじめまして
☆後藤純一さん こんばんは

須田の作品がこうしたことで魅力が損なわれたのは惜しいことでした。
いい展覧会だけにもったいない。

しかし京都市美術館としてはやはりあれが精一杯だったのかと思うと、
却って可哀想にもなりますね・・・
ううむ、そこが苦しいところです。
2013/02/21(木) 17:56 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
須田国太郎写真展
須田国太郎が滞欧期に写した写真が
展示されています。
銀座・白銅てい画廊で、12月6日までの
開催です。ブリジストン美術館の裏です。

須田がカメラを欧州に持参し多くの写真を
撮ったことは日記から知られているのですが、
公開されるのは初めてです。
2014/11/21(金) 21:01 | URL | 後藤 純一 #-[ 編集]
ありがとうございます
☆後藤さん こんばんは

全く知りませんでした。
教えていただき感謝いたします。
さっそくツイッターで告知しました。
12/1に行こうと思います。

サイトを観ましたらかなり素敵な写真が多くて、須田の眼と手の確かさを実感しました。
2014/11/21(金) 22:08 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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